HTLV-1について(その2) | TOYOUKE Clinic のブログ

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豊受クリニック(内科・小児科)院長の髙野です。
平成27年1月より世田谷区玉川台で開業しております。
平成24年5月から池尻大橋駅近くの池尻クリニックで
診療しておりましたがビルの売却に伴い移転しました。


テーマ:
皆さんやしきたかじんはお嫌いですか?私は、かなり好きでした。
そもそも東京では御存知無い方が多かったことにビックリです。
九州では、休日の昼などに大阪のローカル番組を放送して
たりするので、彼には結構なじみがありました。

HTLV-1についての2話目です。...

このウイルスが、やしきたかじんや、ばってん荒川バリの
ローカルスターであることは、下記の分布図を見てもらえば
分かると思います。




 

世界に目を向けると、アジアではパプア・ニューギニアを
中心としたオセアニア地域のメラネシア人の間に見られる
のに対し、大陸(中国)や朝鮮半島にはキャリアが
ほぼ皆無であり、昔から高キャリア率を維持している
対馬の対岸に位置する(その距離50km足らずの)釜山
ですらゼロだったそうです。


あとは中南米の先住民の間や中央アフリカに於いて
キャリアの分布が見られます。
地理的特徴は、このHTLV-1がどのようなウイルスか
を考える上でのハイライトとも言えるのですが
それはひとまず置いておき、ウイルスの感染経路
について説明します。

HTLV-1の主要な感染経路が母子感染で
そのうち母乳を介する感染が最も関与して
いるのは間違いないため
「ATLを予防する唯一の方法は母乳を飲むのを制限
することだ」と一般的には説明されます。

九州では妊娠した女性に行う検査の中に
スクリーニングとして含まれており、ウイルスのキャリア
だと判明した場合には、なるべく母乳を与えない方向に
誘導が行われます。

研究によって差はあるのですが、母乳を飲ませても
3ヵ月までの短期授乳に留めた場合は、最初から
ミルクだけを飲ませた場合よりもキャリア化率が
低いという結果が出ている研究もあります。
(母乳を飲んでいないのにキャリア化する場合は
在胎時あるいは分娩時に既に感染していたと考え
られる)
しかし5-6ヵ月以上の長期間に渡って母乳を飲んで
いると、キャリア化率が明らかに上昇するため
いったん飲み始めた母乳を止められない場合を懸念し
て最初から人工栄養にした方が良いようなニュアンス
の説明が行われ、母乳を初っ端から諦める母が多いの
が現状です。

母がキャリアであった場合に生後5-6ヵ月を超えて
母乳哺育を行うと、子への感染率は20%前後になり
ますが、以降さらに長期間に渡って母乳を続けても
感染率はあまり変わらないと考えられています。

そして前回述べたように、母乳を介してキャリアと
なった場合は40歳を過ぎてから年率0.1%程度の
割合でATLを発症します。発症率には男女差が
ありますが、平均すると生涯発症率は5%程度です。
(40歳から50年生きるとして
 0.1% × 50年 = 5% という割合)

特に制限なく母乳を飲ませた場合と
完全人工栄養にした場合を比較してみると…

生涯ATL発症率は(男女平均で)=約5%
特に制限せず母乳を飲ませた場合には
感染率=20%前後
つまり、母乳で育てた子供が
将来ATLになる可能性は約1%
(0.05×0.2 = 0.01)

母乳を全く飲まなかった場合でも感染の
可能性はゼロにはならない(約3%)ので
将来ATLになる可能性は約0.15%
(0.05×0.03 = 0.0015)

逆に言うと母がキャリアであった場合に
HTLV-1を気にせず母乳を飲んでも
その赤ちゃんのうちの約99%は
ATLにはならない、ということです。

ATLは発症してしまうと短期間で命を落とす
不治の病である以上は、それを99.85%にする
母子感染対策が必要なのでしょう。

しかし、40年以上も先に百分の一の確率で
起こるかどうかの問題のために、母乳の恩恵から
母と子を遠ざけるのは、妥当なことなのでしょうか?

…続く(^_^)
数字が一杯出てきましたが、伝わりましたかね?

たかじんさんは、TVの中にいる人のうちでは一番
と言っていいくらいに若い頃の私の既成概念を
ぶっ壊してくれた人です。
あの頃から東京に住んでいたら、今の自分は
ないのかもしれません。
破天荒で自由な人生を歩んで来た彼も
現代医学の標準治療には呑み込まれてしまった
のかもしれません。
心より御冥福をお祈り致します。