延長を含め決勝の死闘は11分を超えていた。田代は「どこかでヤマをつくろうと思っていた。あそこがチャンスだと思った」。クラリス・アグベニェヌの消耗を見て取り大内刈りで勝負を懸けたが、次の瞬間、払い巻き込みで畳に倒れたのは田代の方だった。
結果は変わらなくても、成果はあった。この日は徹底的に相手の引き手を殺し、攻めを封じた。試合全体のペースを握ったのは田代だった。「すごく大きな差はないが ぼうぜんと天井を見上げる田代を、アグベニェヌは「アリガトウゴザイマシタ」と抱き寄せた。勝者も敗者も泣いていた。
2018年、バクー(アゼルバイジャン)での世界選手権決勝も同じ結末だった。激しい攻防の末、延長で田代はアグベニェヌに払い巻き込みで敗れた。「アグベニェヌに勝ちたい」。この1年の田代は、それだけを追い求めてきた。、どこかで技に入るのをちゅうちょしていたのか。追い詰めている感触はある。追いつきそうで追いつけない」。
リオデジャネイロ五輪でも準決勝で金メダルの夢を阻まれている。田代にとって世界一への巨大な壁だ。「アグベニェヌ選手の存在が、私を大きくしてくれる。必ず日本武道館に戻ってきて、次は必ず勝ちます」。東京五輪へと続くライバル物語。最高の結末へ導いてみせる。