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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第8章 配下編

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第115話 Sランク剣士とエステアの推薦

仁は決闘を受けるのか?

作者が週を跨がせているのがヒントです。

 不快なイベントは無視して、面白そうなイベントには首を突っ込むのが俺のスタンスだ。

 決闘イベントはどちらにもなり得る。……コレ、どっちのイベントだろう?


 俺が反応に困っていると、クーガは指を2本立てて話を続けた。


「理由は2つある。1つは純粋にアンタと力比べをしたいってモンだ。クロード達の師匠と言うのなら、それ相応の実力があるんだろ?冒険者ランクは低いみたいだが、偶にCランクで止めている強者もいるみたいだし、それ程おかしい事でもないからな」


 確か、『Cランク止め』とかいう言葉もあるからな。

 Bランク以上の冒険者に発生する義務を疎んじた者がやるらしい。俺のことだな。


「今まで知らなかった強者だ。相手をしたくなるのは当然のことだろ?」

「いや、その気持ちはわからんな」

「それは残念だな」


 それ程残念そうには見えない様子でクーガが言う。

 理由があれば話は別だが、基本的に俺は無意味に戦いを挑む程の戦闘狂ではない。

 少なくとも、『相手が強そうだから』と言うのは俺が戦う理由にはならない。

 ただ、『面白そうだから』は理由になるのが、俺の厄介なところではあるけどね。


「次に2つ目の理由だ。アンタを倒して、ルセアさんに良いところを見せたいんだよ」

「ちょっと言っている意味が分からないのだが?」


 何故か急にルセアの話題が出てきたぞ。

 ルセアは今は冒険者としての活動をしていないが、一時期クロード達と行動を共にしていたこともあるから、その辺りの関係かな?


「最初に確認なんだが、アンタがルセアさんの『主』なんだろ?ルセアさんと話をすると高確率で出てくるヤツだ」


 ルセア、外でもあまり変わらないのかよ……。

 とは言え、屋敷の外で俺とルセアが行動することはほぼないから、クーガがどうしてそう言う結論に至ったのかが気になるな。


「何で俺がルセアの主だと思ったんだ?」

「クロード達の話から、ルセアさんの『主』はクロード達の師匠と同一人物じゃないかと予想を立てた。確証はなかったが、その反応を見る限り間違ってはいないんだろ?」


 多分、クロードがうっかり口を滑らせたのだろう。

 クロードの方を見るとがっくりと項垂れて、生きることを諦めたかのような目をしていた。仲間達がそんなクロードを慰めている。……いや、別に酷い事をするつもりはないよ。


 さて、クーガにはどう答えようかな……。


 別に言質を取られた訳でもないので、ルセアの『主』じゃないって言い張ってもいいんだけど、態々嘘をつくほどの事でもないのも事実だ。

 実はクロード達との表向きの関係があるように、ルセアとも表向きの関係が存在する。

 俺とルセアの本当の関係は『主人と奴隷』なのだが、『雇用主とメイド』というのが表向きの立場と言う事になる。概ね間違いでもないし、これを使うのが1番だろう。


「ああ、俺がルセアの主だ。ルセアをメイドとして雇っている雇用主だな」

「やはりそうか。『主』の詳しい話はしてくれないから、どんな意味なのかも分からなかったが、思っていた通り雇用主だったか。流石に奴隷ってことはないと思っていたが……」


 残念!本当は奴隷でした!


「まず1つ言っておくと、俺はルセアさんに惚れている。既に何度か告白もしているが、『主に全てを捧げている』と言って取り付く島もなく全敗中だ」


 どうやら、クーガはルセアに惚れているようだ。

 まあ、ルセアは美人だから惚れる奴がいても不思議ではないか。


「クロード達の師匠の噂には、『すでに死んでいる』ってモノもあったから、少し不安はあったんだよ。相手が故人だったら流石にどうしようもないからな。だが、その『主』が生きている人間ならば話は別だ。まだ俺にも十分にチャンスはある」


 クーガはビシッと俺を指差して宣言する。


「アンタと決闘し、勝利することで俺の強さをルセアさんに見せる!全てを捧げた『主』よりも俺の方が強い事をルセアさんに見てもらうんだ!」


 その目からは強い決意が見て取れる。


《在り得ない仮定ですが、この男が仁様に勝ったとしても、仁様を傷つけた相手にルセアさんが好意を抱く訳が無いと思うのですけれど……》


 しかし、マリアの念話コメントがクーガの決意が無駄だと教えてくれた。



 相当に空回っている感はあるが、クーガの話は理解した。

 不快な理由がある訳でもないし、この決闘は受けてもいいかもしれないな。


《マリア、この決闘は条件次第で受けようと思う》

《よろしいのですか?Sランク冒険者は貴族に準ずる扱いです。仁様のお嫌いな『貴族に関係するトラブル』に該当するのではありませんか?》


 なるほど。言われてみれば貴族関係のトラブルと取れないことも無いのか。

 しかし、権力を笠に着て無理矢理決闘を申し込む、と言った乱暴な方法を使って来た訳じゃないし、高慢な貴族に対するような嫌悪感はない。


《単に貴族が嫌いなんじゃなくて、貴族特有の高慢さが気に食わないだけだ。その高慢さが無いのであれば、俺としては普通に受けてもいいと思っている》

《わかりました。問題ないとは思いますが、お気を付け下さい》


 マリアもクーガのステータスを確認し、俺の相手ではないと判断したのだろう。


 さて、次に確認すべきは、お互いの掛け金ベットだろう。

 これが決まらなければ、決闘を受けることなどできないからな。


「決闘をするのは100歩譲って良いとして、その決闘には何を賭けるつもりなんだ?」

「賭け金か……。俺は強い奴と戦うのが目的だし、勝てばルセアさんに良い所を見せられるから欲しいものはないんだが、それだとアンタが一方的に損することになるな」


 うーむ、と考え込むように唸るクーガ。


「単純に『金』って言いたい所だけど、冒険者資格を凍結するレベルで依頼を受けてないってことは、相当に困窮しているか、依頼を受ける必要がないくらいに裕福かのどちらかで、……多分後者だよな?」

「ああ、特に困ってないな」


 依頼は受けていないが、入手した物をアドバンス商会に流すことで俺個人の資産も増えているのだ。最近では、『ノームの洞窟』で掘りだした宝石類で懐が潤っている。

 まあ、極端な話をすればアドバンス商会自体が俺の資産みたいなものなのだけど、自身で経営もしていない商会の稼ぎを自分の稼ぎと言うのは、些か情けないモノがあるからな。


「あ、クーガさん。仁様は魔法の道具マジックアイテムの収集を趣味にしています。この間手に入れたっていうアレなら多分問題ないと思いますよ」

「ほう……」


 そこで、様子を見ていたクロードが助け舟を出す。

 それほど熱心に行っている訳ではないが、魔法の道具マジックアイテム収集が趣味と言うのは事実だ。何と言うか、遊び心を感じる物が多いんだよな。


 俺が興味を示したことで、クーガもそれが有効だとは気づいたようだが、すぐに苦虫を噛み潰したような顔をした。


「ア、アレかよ……。確かにアレなら掛け金には十分だろうけど、折角手に入れたのに……」


 どうやら、件の魔法の道具マジックアイテムはクーガにとっても掛け金にするには惜しいレベルのシロモノらしい。

 ちょいと失敬。


真実のベル

備考:嘘を検知すると音が鳴る。


魔法の道具マジックアイテムが掛け金となると、今度はこちらの賭け金が不足するな。代わりと言うのもアレだが、ルセアが参加するパーティへ参加権も追加しよう」

「よし乗った!俺が賭けるのはこの魔法の道具マジックアイテムだ。このベルの前で嘘をつくと音が鳴る」

「クーガさん……」


 魔法の道具マジックアイテムが中々に面白かったので、軽く掛け金を上げてみたら、上手いくらいに釣れてくれました。

 この魔法の道具マジックアイテムの効果はスキルで代用が出来るから、必須と言う訳ではないんだけどね。


「じゃあ、早速決闘を始めようか」

「待て!ルセアさんを呼ばなけりゃ意味が……」

「主様、お待たせいたしました」

「はぁ!?」


 クーガが待ったを掛けようとしたところで、ルセアが冒険者ギルドへと入って来た。

 ルセアを呼ぶ必要が出た時点で、呼んでいたに決まっているだろ?



 クーガが何かを聞きたそうにしていたが、無視して俺達はギルドの訓練場へと向かう。


 到着した訓練場は王都のギルドだけあって、設備がかなり整っているようだ。

 俺達は訓練場の両端に分かれてそれぞれ準備を始める。


「予想はしていたが、観客ギャラリーが多いな」

「Aランク冒険者の師匠とSランク冒険者の戦いですからね。注目されるのも無理はないですよ。それよりもすいません。色々と余計な事を言ったみたいで……」


 俺に付いてきたクロードが申し訳なさそうな顔をする。

 先程、冒険者ギルドの入り口付近にいた者は、そのほぼ全員が修練場についてきている。


「気にするな。お前達を拾った当時とは状況も変わってきている。今はあの時ほど関係を秘密にする必要もなくなっているからな」


 あの当時はエルディアや勇者関連(特に織原)で、余計なゴタゴタに巻き込まれるのが鬱陶しかったから正体を隠す方向で動いていた。

 今は邪魔なエルディアが消え去り、勇者も問題なく蹴散らせる力を手に入れた。無駄に目立ちたいとは思わないけど、どうしても正体を隠さなければいけないと言うほどではない。


「そう言ってもらえると助かります……」

「良かったわね、クロード。仁様が許してくれて」

「うん」


 ホッとしているクロードを、ココを始めとする仲間達が気遣う。

 ……俺、そんなに怖い存在だと思われているのか?


A:おおよそですが、尊敬6割、畏怖4割と言ったところです。


 何その情報……。

 まあ、最初に奴隷にした時に複合スキルの<恐怖>まで使って威圧して、徹底的に上下関係を叩きこんだから、畏怖が残り続けるのも無理はないんだよな。


 俺は訓練用の武器、片手剣を手に訓練場の中心まで向かう。

 訓練用の武器は、使い心地は普通の武器のままに、相手にダメージを与えないという特性を持った魔法の道具マジックアイテムだ。

 Sランクの冒険者が保険も無しにガチの決闘をしたら洒落にならないからな。


「準備は出来たか?アンタ、その武器使うの初めてなんだろ?」

「ああ。問題ない」


 軽く振ってみたが、特に問題はなかった。

 今は『英霊刀・未完』一本を使っているが、最初の頃はゴブ剣を使っていたくらいだし、片手剣が使えないと言う訳でもない。


「それでは、両者準備はいいですか?」


 審判、と言うか立会人はクロードが行うことになった。

 一応、俺寄りの関係者と言う事になるのだが、下らない贔屓なんてしないだろうと言う事でクーガも納得している。実際、そんなことをしたら俺が許さない訳だが……。


「ああ」

「問題ないぜ」


 お互いに向き合って武器を構える。

 クーガの武器はかなり巨大な大剣だ。それを軽々と扱っている。


「それでは、始め!」

「はあ!!!」


 クロードが開始を宣言した瞬間、クーガは地を蹴り、大剣を横薙ぎに斬りかかって来た。

 剣速、軌道、威力、そのどれもが長年の修練を感じさせる洗練された斬撃だった。


 俺は向かって来る大剣に向け、クーガと対になる軌道で剣を振るう。

 互いの剣が俺達の正面でぶつかり合い、甲高い音を響かせる。


-ガキン!-


「うわ!?」


 剣同士がぶつかった衝撃にに耐え切れず、クーガの大剣が吹き飛んだ。

 俺はクーガの大剣の行く末を見ることなく、2撃目をクーガの腹部に当てていた。


「勝負あり、だな」

「勝負あり!勝者、仁様!」


 クロードの宣言で試合が終了する。

 随分とあっさり終わらせてしまったが、一応これには理由がある。


「はー、まさか、この俺が単純な力比べで負けるとは思わなかったぜ。いや、剣筋を見れば少なくとも俺と同等以上の実力なのもわかるんだが……」


 クーガは修練場に座り込み、素直に負けを認める。


 ある程度目立つのは良いとして、手の内をあまり見せまくるつもりはない。

 そこで、余計なスキルを使わず、腕力と剣の実力だけで勝ちに行くことを決めたのだ。


「アンタの斬撃もかなり良いモノだったよ」


 余計な小細工を考えず、純粋に斬撃に特化した戦い方と言うのは見ていて気持ちが良い。

 クーガの斬撃を見た時、初撃に全力を込めていることが直感的に判った。

 なら、その1撃に対抗してやらないといけないと思い、初撃決着(正確には有効打は2撃目だが)に注力したのである。


「そう言ってもらえると助かるぜ。……流石はクロード達の師匠だな。クロード達とは戦い方が随分と違うみたいだが」

「まあ、他にも手札はあるからな」

「そりゃそうか。ちっ、俺じゃあアンタの全力は引き出せなかったって訳か」


 悔しそうに言うが、その目に負の感情は宿っていない。

 ……こういう、真っ当な相手との戦いならば俺も嫌じゃないんだけどね。あんまり多くないのが残念である。


「おいおい。Sランクのクーガが負けたぞ」

「嘘だろ?いくらSランクに成りたてだと言っても、実力自体は本物だぞ!」

「それに『一刀両断』の2つ名を持つクーガを逆に初撃で沈めるんだ。並大抵の実力で出来ることじゃねえよ」

「じゃあ、相手の冒険者はSランク以上の実力があるってことか」


 それはそうと、周囲の観客ギャラリーが騒がしくなってきたな。

 後、クーガの2つ名って『一刀両断』なんだね。らしいと言えばらしいな。


「あまり騒がれるのも嫌だから、俺はそろそろ帰らせてもらう」

「もっと話を聞きたいところだが……、仕方がないか。ほら、これが約束のモンだ」


 そう言って、クーガは俺に掛け金である魔法の道具マジックアイテムを投げ渡す。


「悪いな」

「気にすんな。乗ったのは俺だ。……はぁ、ルセアさんへの道は遠いな」


 自嘲気味に笑うクーガをその場に残し、俺は訓練場を後にした。

 なお、無駄に絡まれるのを回避するため、クロード達に肉の盾になってもらったことを補足しておく。それすらすり抜けたものには、<恐怖>の餌食になってもらった。

 おいおい、大の大人が公衆の面前で漏らすなよ。



 その日の夜、クロード達からの報告があった。


「Sランクに必要な推薦を得るため、エステア王国に活動の場を移そうと思います」

「カスタールからは比較的近いですし、仁様との縁も深い国ですからね」

「あの国は冒険者が少ないから、推薦を得るのも難しくないと考えたわ」


 クロードの報告にハイエルフのユリアと犬獣人のココが補足を入れた。

 この3人は冒険者組の中でもリーダーシップが高く、代表して報告してくることが多い。


「確かにエステアでは慢性的に冒険者が不足しているから、クロード達がSランクの推薦を得るために活動するには丁度いいだろうな」


 余談だが、俺達がエステアに初めて行った時よりは冒険者の数は増えている。

 勿論、メイドである。エステアは俺が実質的に管理している土地なので、影響の大きなトラブルには俺の配下のメイド達に対処させている。

 冒険者が無償で活動をしていると思われるのも困るので、アドバンス商会が依頼者になっている。本来、アドバンス商会が対処しなければいけないトラブルではないが、こちらは慈善活動の一環と言う事になる。


 アドバンス商会は慈善活動で評価が上がり、メイド冒険者は依頼の達成で評価が上がる。冒険者ギルドは仲介マージンで儲ける。そして、地域の住民は安全が守られる。

 これぞ完璧なWin-Winの関係と言うものである。別名、マッチポンプ。


「エステアにはいくつかコネがあるから、不自由することはないはずだぞ。首都には屋敷もあるから、そこに滞在するか?」

「是非!」×8


 クロード達の熱烈な希望により、首都への滞在も俺の屋敷と言う事になった。一応、別途拠点を作るまでと言う事になっているが……。


 ちなみにコネとは王族カトレアとか女騎士エリンシアの事である。

 大抵の場合、国のトップに近いコネを持っていて不自由することはない。ただ、余計な面倒に巻き込まれる可能性が上がることも補足しておく。


「とりあえず、エステアの関係者を一通り呼んでおくか」


 俺は念話によりエステアで活動している者達を呼び出した。


「お呼びですか?モグモグ……」


 1番最初にカトレアが食堂からやって来た。お前、カスタールの屋敷にいたのかよ。

 何でも、遅めの夕食をとっていたそうだ。ほぼ毎食ここに来ているよな。コイツ。


「来たのです!」

「「お邪魔します」」

《失礼いたします》


 少し遅れてシンシア、カレン、ソウラ、ケイトのエステア冒険者組も転移してきた。

 その他、アドバンス商会エステア王国支店の関係者も数名やって来た。こちらはルセアに呼び出しを任せている。


「これで、エステアの関係者は一通り呼んだかな?」


 エステアで活動している者、と言う意味では音楽家フィーユ吸血鬼ミラが所属している音楽隊もいるのだが、この集まりに呼ぶ理由もないだろう。

 一応、真紅帝国皇女ルージュ達も迷宮で活動しているけど……どうでもいいか。


「この度、クロード達がSランクになるためにエステア王国に活動の場を移すそうだ。皆にはその手助けとなってもらいたい」

「それで、シンシア達は何をすればいいのです?」

「確か、シンシア達も冒険者の資格を持っていたよな?」

《はい、全員持っています。採取依頼で資格を維持する程度ですが……》


 俺の問いに対し、ケイトが申し訳なさそうに言うが、俺も同じなので何も言えない。

 と言うか、つい最近資格の維持に失敗して凍結されましたが……。


「シンシア達にはクロード達のクランに入ってもらおうと考えている」

「わかったのです」

「「はい」」

《承知いたしました》

「ええと、それはどのような意味があるのですか?」


 4人は躊躇なく頷いたが、クロード達冒険者組には意味が理解できなかったようだ。


「シンシア達は最近、迷宮の40層を突破したんだ。それと同時に到達階層をエステア王国内で公開して、今最も有名な探索者になっている」

「なのです!」


 俺が織原によって異世界に飛ばされた時、ステータスを確保するために迷宮で相当量の戦闘を繰り返したそうだ。

 その結果、俺への献上分以外、本人達に還元されるステータスも相当な量になった。

 ステータスに余裕が出来たので、少し迷宮攻略を速め、ついには40層のボス、死神グリムリーパーを倒すに至ったのだ。シンシアは勇者だから光属性の攻撃が得意で、危なげなく倒したらしい。


 そして、40層到達という偉業を世間に公表したことにより、シンシア達は一躍エステア王国最大級の有名人となっている。

 何でも、王家に呼ばれて王直々にお褒めの言葉を賜ったとか。その王様の娘、シンシア横で握り飯食ってるけど……。


 どうでもいいことだが、シンシア達4人はメイド服で探索者活動をしている。ついた渾名が『戦闘侍女バトルメイド』である。


「ご主人様とお揃いなのです!」


 そう言ってシンシアが翻したのは真っ黒なマント。ご存知不死者の翼ノスフェラトゥである。死神グリムリーパーの初回討伐特典で、俺もお世話になっている。

 死神グリムリーパーを最初に倒したのは俺で、その俺がダンジョンマスターになってしまったから、初回討伐特典は復活させた方が良いと判断したのだ。

 まあ、それを入手したのが俺の配下シンシアなので、こちらもマッチポンプっぽさが消えないんだけどな。

 後、メイド服に黒いマント似合わねえな。シンシアは気にしていないみたいだけど……。


「そんなシンシア達がクロード達のクランに入れば、宣伝効果としてはこれ以上ないものになるだろう。クロード達もシンシア達も既に有名人だ。折角の知名度、上手く使った方が良いだろう?多分、Sランクへの近道になると思う」


 有名になると言う事は面倒が増えると言う事でもある。

 しかし、Sランクになると言うのならば有効だろう。


「有名になることによって発生するトラブルは、カトレアやアドバンス商会にフォローを頼みたいと思っている。後は直接指名依頼をするというのも手かな。王家や大商会と懇意にしているというのを見せれば、Sランクの推薦も取りやすくなるだろ?」

「そこまで、考えていらっしゃったのですか……」


 クロードが驚いたような表情を見せる。

 カトレアやアドバンス商会の関係者を呼んだのはこれが理由だ。


「わかりました。クロード君達、それに仁様のためと言うのなら、協力は惜しみませんよ」

「ええ、アドバンス商会も全力でバックアップいたします」


 カトレア、アドバンス商会の代表達も頷く。


「仁様、どうして急に僕達への援助をしてくださるのですか?今まで、どちらかと言うと仁様は直接的な手助けをしない方針だと思っていたのですが……」


 確かに、今まで俺がクロード達の冒険者活動に手を貸すことはほとんどなかった。

 それは、クロード達が積み上げたモノに横槍を入れるのが嫌だったからだ。決して、放任主義な訳ではない。ない。


 そもそもの話をすると、異能の恩恵を得られることが1番の手助けとも言える。


「クロード達はAランク冒険者になり、Sランク冒険者への推薦を2つも取っている。3つ目を取るのも時間の問題だろ?だったら、話を早く進めることに何の問題も無いはずだ。何もしていない者にただ与えるのではなく、早いか遅いかの違いだけだからな」


 十分な実力と実績を持つ者に対し、少しだけ話が早く済むように取り計らうだけだ。

 援助と言えるようなものでもない。その気になればクロード達が直接頼んだとしても、全員快く頷いただろうからな。


「……わかりました。仁様の期待に応えられるよう、全力を尽くしたいと思います」

「あまり気負いすぎるなよ。努力をしろとは言っても、無理をしろとは言わないからな」


 ふと思い出したことがあったのでクロードに尋ねる。


「そう言えば、エステアまでの移動はどうするつもりだ?」

「もちろん、馬車のつもりですけど……」

「時間がかかり過ぎるな。……よし、竜人種ドラゴニュートに乗せて行こう」

「ええ!?」


 カスタール、エステア間は比較的近いとはいえ、それでも2週間近く掛かってしまう。

 俺のように旅自体が目的と言うのならともかく、そうでない者にとって移動に2週間かけると言うのは大きな負担だ。

 『ポータル』を使えば一瞬だが、それだとアリバイが無くなってしまう。

 故に竜人種ドラゴニュート運輸の出番である。謎の仮面騎士ジーンの出番である。


 流石に国境を越えて竜人種ドラゴニュートを飛ばす訳にも行かないが、少なくともエステアとの国境、かつて俺が通った国境までは運んでやるつもりだ。

 そこからなら、リーリアの街も近いし、その気になれば相転移石でショートカットも出来る。……と言う事にしてアリバイを作り、『ポータル』を使用してもいい。


 しかし、俺の提案にクロードは首を横に振った。


「そこまで仁様に甘えるわけには行きませんよ。僕達も馬車の旅には慣れていますし、お気遣いいただかなくても大丈夫ですよ?」

「うーむ、そうは言っても明らかに時間の無駄だしな……。そうだ、移動用の足として、劣風竜ワイバーンをプレゼントしよう」


 カスタールの騎士団に贈った劣風竜ワイバーン達は、エルディアとの戦争後も重宝されているそうだ。

 劣風竜ワイバーン自体の戦闘能力は高く(設定して)ないのだが、移動能力が高いから非常時の戦力として各地に派遣されることが多いようだ。加えて、相手によっては空中から一方的に攻撃できるのも強みだ。

 サクヤが女王である以上、トチ狂って侵略のために使うようなことも無いだろうからな。


 そして、サクヤにあげたのだから配下にあげても問題はないだろう。


「Sランクともなれば、今まで以上に行動範囲が広がるだろうからな。便利な足はあって困る物じゃないだろう。1人につき1匹ずつプレゼントしても問題はないな」


 クロード達はパーティを組んでいるが、単独ソロの活動を全くしていない訳ではない。

 よって劣風竜ワイバーンも1人1匹は必須だろうな。


「それは……確かにあれば便利だとは思いますけど……」

「俺から贈る、と言う訳にもいかないから、ジーン名義で贈ろうと思う。俺とジーンに交友があると言う事にして、その伝手で劣風竜ワイバーンを贈れば問題ないだろう」

「あ、もう贈るのは確定しているんですね」

「ああ、決まっている」


 実を言えば、1つだけ懸念点と言うか、気になることはある。


 本日、クロード達の師匠が俺と言う事を公表した。

 その上で俺とジーンに交友があると言う事にすると、俺とジーンが同一人物とバレる可能性も上がる。偽名が仕事をしているとは言えないからな。

 もちろん、バレたところで、大した問題が起きる訳でもないだろうが……。だって、この国カスタールの上層部にとって、俺とジーンの事は公然の秘密だもの。


 詳しい事を知らない小物は相手にならないし、詳しい事を知っている者は口を噤む。

 ね?問題が起こる余地がないだろう?


「まあ、Sランクへのランクアップの前祝いみたいなものだと思ってくれ。気が早いかもしれないが、今のお前達ならSランクになるだけの実力があることは俺が保証してやる」


 セバスチャンとクーガ、Sランク冒険者を2人倒し、魔族ロマリエの騒動で数多くのSランク冒険者を見てきた俺が太鼓判を押してやる。

 はっきり言って、今のクロード達に勝てるSランク冒険者は1割もいないだろう。


「仁様がそこまで仰ってくれるのでしたら、ありがたく頂戴させていただきます。必ずや仁様の期待に応え、Sランク冒険者になってみせます」

「ああ、期待しているぞ。クロード、ノット、アデル、ココ、ロロ、シシリー、イリス、ユリア」

「はい!」×8


 クロード達8人は大きな声で返事をして、拠点クランハウスへと帰って行った。



「シンシアも劣風竜ワイバーンが欲しいのです」


 クロード達が出て行った後、残っていたシンシアが呟く。


「シンシアちゃん、遠慮がないね」

「シンシアちゃん、躊躇がないね」

《迷宮で活動をしている私達に、劣風竜ワイバーンが必要とも思えませんが……》


 迷宮にテイムした魔物を連れて行くこと自体は出来るが、相転移石が余分に必要になるので、あまり魔物使いテイマーの迷宮進出は聞かない。

 そもそも、飛行系の魔物は行動が制限されてまともに戦えないし……。ああ、40層台では魔物も飛行するから、出番はあるんだけどね。遠いよ。


「言われてみればそうだったのです。残念なのです……」

「仁様、エステア王国にも劣風竜ワイバーンを配備していただくことは出来ないでしょうか?サクヤちゃんから話を聞いて、羨ましいと思っていたのですけど」


 しょんぼりと肩を落とすシンシアを無視して、同じく残っていたカトレアが言う。

 サクヤの奴、隣国の王族相手に自国の軍事力を吹聴していたのかよ。


A:カトレアも結構国家機密を漏らしています。


 それでいいのか大国の王族……。


「駄目と言う事はないけれど、大義名分が無さすぎるな。あくまでもジーンはカスタールの騎士だし、流石に隣国に劣風竜ワイバーンを贈る言い訳はひねり出せないだろう」

「そうですね……。確かにすぐにはちょっと思いつかないです」

「良い言い訳が思いついたら教えてくれ。その内容によって贈る劣風竜ワイバーンの数も変わってくるから、そのつもりでな?」

「!? が、頑張ります!」


 100点満点で、得られた点数1点につき1匹の劣風竜ワイバーンを贈るとしよう。

 50点以下だと却下になります。


「シンシア達は迷宮の50層をクリアしたら、お祝いで劣風竜ワイバーンとか色々あげるから、ぜひ頑張ってくれたまえ」

「頑張るのです!」

「「頑張ります!」」

《この命に代えても》

「ケイトちゃん、重いのです!」


 1人だけ毛色の違う回答をしたケイトに対して、シンシアが突っ込みを入れる。

 命に代えられるの、普通に迷惑です。


仁は真っ当に頑張っている人が好きです。

自身はとても真っ当とは言えない性質をしているのですが……。


次回までに灰人関係の短編を1本投稿します。多分。

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