第114話 ピクニックと師匠
第8章開始です。
主なテーマは配下との交流です。章全体が「あの人は今」に近いモノになります。
だから、7章では配下に関わる話が少なめでした。
灰色の世界から帰還して3日が過ぎた。
この3日間は新たに開眼した<
ドーラと戯れたり、マリアと戦闘訓練したり、さくらと談笑したり、ミオの料理にちょっかい出したり、セラとお菓子を摘まんだりと充実した日々を過ごしていた。
エルディアとの戦争が一段落すると同時に織原とのガチバトルが始まり、何とか勝利したら今度は見知らぬ世界の探索だ。
流石にここまで濃いイベントが終わった後、すぐに次の観光と言う気分にはなれない。
折角屋敷があるのだから、たまにはのんびり過ごすのも有りだろう。
「今回ののんびりモードはどのくらい続きそうなの?」
「多分、少なくとも後1週間くらいはのんびりするだろうな」
《ごしゅじんさまとのんびりー》
ミオに問われたので、自身の経験から今回ののんびりモードの長さを推測する。
俺は時々、特に忙しなく動いた後などに強く『のんびり』を求めることがある。
まあ、のんびりと言いつつ、全くイベントが無い訳ではないのだが……。今回は地元を中心に過ごすつもりだから、そこまでアクティブに動き回ることもなさそうだな。
「……織原の相手は疲れるんだよな。ただひたすら精神的に……。だからしばらくは休む」
「ご主人様にそこまで言わせるとは、その織原と言う方はとんでもない人ですわね」
「ええ、それに仁様のお話では、HPが0になってもしばらく話を続け、最後には自爆したとか……。どう考えても、普通の人間ではありません」
セラとマリアが話しているように、俺は仲間達に織原との戦いについて説明をした。
俺の異能を吸収し、俺の異能を出し抜き、異能と
実際に俺が確認したステータスを書き写してみせたら、皆の顔が引きつっていたからな。
「まあ、1度倒したことだし、しばらくは現れないと思うぞ。1度倒したキャラが間を置かずに再登場なんて、そんなつまらない真似をする奴じゃないからな」
「また、2人だけに通じる謎の理屈ですね……」
「俺だって、織原の考えを肯定している訳じゃないからな」
さくらが苦笑するのも無理はないだろうけどさ。
一応、織原の基本的な思考パターンを説明したのだが、ミオ以外は全く理解できなかった。
そのミオですら、『言いたい事は分かるけど、それをリアルでやるとか頭がおかしい』と評するくらいだ。
「今度は、今度こそ不意打ちなんて絶対に許しません」
「おお、マリアちゃんが燃えているわね。まあ、ご主人様の異能も<
ミオの質問には首を横に振って答える。
確かに、この3日で<
「織原だって俺の成長は考慮に入れるだろうから、そう甘くはないと思うぞ。少なくとも、俺は織原が相手の時は、楽が出来るとは全く考えていないからな」
「何よそれ……。マジでご主人様の最大級の評価じゃない……」
俺が成長すると言う事は、織原も同程度は成長すると考えてまず間違いがない。
織原相手に苦戦をしないと考えること自体がそもそもの間違いなのだ。
そして、味方になる場合は無駄に弱体化しているのだろう(ゲーム脳)。
「さて、織原の話はこれくらいにしておこう。アイツの話をすると、気が滅入るだけで何の生産性もない。予測しても対策をしても来るときは来るから、考えるだけ時間の無駄だ」
「ホント何者なのよ……」
織原の話を止め、俺達は山歩きを続ける。
今現在、俺達はCランクの冒険者(仮)として、久しぶりに討伐依頼を受けている。
のんびりとは一体……。
何で今更冒険者活動?と思うかもしれないが、これにはちょっとした理由がある。
そもそも、冒険者の資格は、1度取ったら永続的に使えるものではなく、定期的に依頼を受けなければ凍結されてしまうのだ。
怪我等の理由があり、
そして、この度俺の冒険者資格は凍結処分になってしまったのだ。まあ、灰色の世界に閉じ込められていた間にその期間を越えちゃったんだよね……。
延長も
もちろん、配下や能力が充実した今となっては、冒険者資格なんてモノは有っても無くてもそれ程大きな影響はない。
しかし、それでも折角とった資格をそんな情けない理由で凍結されるのも気に食わない。
よって、俺は冒険者資格凍結を解除するため、Cランクの依頼を受けることにしたのだ。
なお、凍結解除のためには本人の『適正ランクの討伐依頼』を受けなければいけない。
今まで、冒険者資格の延長をする際には、簡単な採取系の依頼(持っている物を出すだけ)でお茶を濁していたのだが、今回その手は使えないと言う事だ。まあ、ランク相応の実力があるかの確認だから、当然と言えば当然だよな。
「態々歩いて山を登らなくてもいいのではありません?
「ブルーちゃんもむくれていたわよね。『何で私に乗ってくれないのよー!』って」
依頼を受ける話をしたら、ブルーが頬を膨らませて抗議していたことを思い出す。
「んー、最近、楽をすることばっかりだったから、たまには初心に帰って足を使って依頼をこなそうとか、殊勝なことを考えてみた訳だよ。もっと簡単に言えば気まぐれだ」
「仁君、最後に本音が出ましたね……」
まあ、仮にも冒険者資格凍結を解除するのに、
そう言う点では
今回、俺達が受けた依頼は『ガラン山脈に巣食うゴブリン・ジェネラルが率いる群れの討伐』である。発行元はカスタール女王国の王都クインダムの冒険者ギルドだ。
本来、ガラン山脈には強い魔物が多く、国境線が曖昧だったので両国ともに基本不干渉となっていたが、先日とある理由により明確な線引きが決まり、その全てがカスタールの領土となったので、ガラン山脈への立ち入りを含む依頼が正式に解禁となったのだった。
もちろん、この『とある理由』とは『カスタール・エルディア戦争』の事である。
ここで、先日行われたカスタール女王国とエルディア王国の戦争について少し話そう。
この戦争により、敗北したエルディアは、国としては消滅して、カスタールの属領となることが決まった。名前はしばらくはそのままエルディア領とするようだ。
政務の引き渡しもあるので、以前の王族を全員排する訳には行かなかったのだが、国王も魔族に殺されており、成人した王族はクリスティア王女しかいなかった。
仕方がないので、クリスティア王女を領主補佐に据えることになったが、いずれはお役御免とするつもりだ。
なお、クリスティア王女も未成年の王族達も全員奴隷化しているので、カスタールへ反旗を翻される心配はない。
加えて、現エルディア貴族達の大半は処刑されることになった。
それもやむを得ない事だろう。カスタール女王国のトップとしてエルディア領に赴いたサクヤに対し、悪意満々で近づいてくるような輩など不要だからな。
俺も聞いた話なのだが、サクヤが到着したその日の内に貴族の処刑を決めるくらいには酷いものだったそうだ。
しかし、この処刑で思いのほか多くの貴族が死に、このままでは国政に悪影響が出る。
サクヤとしても、エルディア領が荒れるとカスタールも少なからず荒れるので好ましくない。ああ、それでも処刑を止めない程度には貴族達は酷いものだったそうだ。
しかし、カスタールもエルディア領に回せるほどの貴族はそう集められない。それに、属国になったとはいえ、敗戦国に好んで行きたがるような貴族もあまりいない。
悩んだサクヤが最後にたどり着いた結論、それは
そう、今現在、エルディア領の政治は俺の配下のメイド達が回しているのである。
何故そうなったし……。
A:マスターがエルディア王国の生殺与奪権を欲しいと仰ったからです。サクヤからの提案を渡りに船と受け入れ、エルディア領の内政を担うことになりました。
と言う事らしい。
メイド達はエルディアに対して愛着も無ければ義理もない。
俺の敵だったと言う事もあり、努めて無情に執務をこなしているらしい。
俺の守るべき土地ではなく、牧場のように見ていると言っていた。国民は家畜だそうだ。
俺の敵に対するメイド達の反応が凄い。
なお、戦勝国の権限で国教の廃止だけは強制しておいた。一応、世界最大の宗教らしいから教会とかは放置だが、今までのように大きな顔は出来ない。どうせ腐敗しているんだけどな。
これは完全な余談なのだが、メイド達が内政に関わることになった時、ある程度の立場が必要と言う事になった。そこで、担当のメイド達にはそれぞれ貴族位が与えられた。
本来、そんな簡単に貴族になったりするものではないのだが、幸いと言うか何と言うか、貴族位に大量の空席があったので、何とかなったのだ。何とかなっちゃったのだ。
こうして、世にも珍しいメイド貴族が誕生した。
なお、俺の配下のメイドは大半が奴隷です。奴隷メイド貴族とか、もう訳わからねえな。
さて、依頼の話に戻ろう。
今回の依頼はガラン山脈の麓付近に現れたゴブリン・ジェネラルの討伐である。
ガラン山脈は中腹以降になると途端に魔物が強くなるのだが、麓付近はそこまででもない。それでも、ゴブリン・ジェネラルが率いる群れとなるとCランク相当の難易度となる。
今回、たまたま冒険者が群れを発見し、逃げ帰ることに成功したので明らかになったが、運が悪いとこの群れは近隣の村にまで足を延ばしていたかもしれない。
では、俺達が何故この依頼を選んだかと言う話をしようか。
いや、やっぱり見てもらった方が早いな。
ゴブリン・ジェネラル(異常種)
LV50
<身体強化LV5><剣術LV5><統率LV5><鼓舞LV5>
備考:ゴブリンの指揮個体。
……と言う訳で、ゴブリン・ジェネラルの異常種だったんだよね。
レアスキルこそないものの、そのレベルとステータスは通常種を遥かに上回っている。
このゴブリン・ジェネラル、普通のCランク冒険者が挑んだら100%死ぬぞ。
依頼を見ている中でアルタの話を聞いたら、希少種が何食わぬ顔でCランク依頼に紛れ込んでいると聞いたので、是非にと思って選んだのだ。
依頼のランクを大幅に超える相手との戦いは、冒険者モノのテンプレだからな。もの凄く今更感が溢れるけど……。
後は不用意に冒険者がこの依頼を受けて、返り討ちに遭うのを防ぐという高尚な目的も……2%くらいはある。
「今更だけど、皆は態々ついてこなくても良かったんだぞ?どうせ瞬殺だし、皆は冒険者資格を凍結されている訳でもないんだから……」
「それこそ、今更です。私が仁様の傍から離れる訳がありません」
《ごしゅじんさまが行くならドーラも行くー!》
まあ、マリアとドーラはそうだろうけど、他の皆は何故ついて来ているのだろう?
「
「そうねー。私達も冒険者業は開店休業中だったし、偶にはまともに仕事しないとね」
「手持ちの素材を引き渡すだけで冒険者を名乗るのも少し心苦しかったです……」
「そうですわね。その素材もアドバンス商会経由で入手したモノですし」
「私は……、一応自分で入手した物を渡しています……。罪悪感が……」
本当に資格を継続するためだけに依頼を受けるというのもあまり良くはないだろう。
さくらは気にしすぎな気もするけど……。
この依頼も、ピクニックのついでだと思えば、そう悪いモノでもないだろう。
A:Cランク相当の魔物が出る山脈にピクニックに来る一般人はいません。
そりゃそうだ。
しばらく歩き、ゴブリン・ジェネラルの群れに近づいてきた。
ゴブリン・ジェネラルをリーダーとした50匹程度の小さな集団だ。
「それでご主人様、どうやって殲滅する?倒し方なんて、それこそ山のようにあるわよね?」
「そうだな。折角だし、<
俺は<
ご存知、この世界に来て最初に入手した武器である。
今では使用に耐えうるような武器ではないが、<
ゴブリン剣士の剣
分類:片手剣
レア度:
コレが、
ゴブリン剣士の剣(+99)
分類:片手剣
レア度:
備考:ノックバック効果、武器破壊、自動修復
こうなる。
<
武器に使用した場合、1~2段階レア度が上がるようだ。『ゴブリン剣士の剣』は
ゴブリン産の武器でゴブリン・ジェネラルの異常種を打ち倒すのも一興だろう。
「じゃあ、行ってくる」
「仁様、行ってらっしゃいませ」
「行ってらー!」
《てらー!》
仲間達に見送られ、俺は1人ゴブリンの群れへと突っ込んだ。
1分15秒でゴブリンの群れは殲滅しました。あそこでゴブリン達が逃げ出さなきゃ、後5秒は短く出来たな。残念。
目的を達したので『ゴブリン剣士の剣』に使用した<
「で、アイテムに<
異能が与える影響が大きすぎるのか、アイテムに<
武器に使うのは今回が初めてだったが、思っていた以上に強力だ。しかし、薬などの消耗品に使うのならともかく、壊れる前提で武器に使うのはあまり好きではない。
今回は試験的な意味があったから使う気になっただけだ。後、昔ゴブリンを狩っていた名残で『ゴブリン剣士の剣』が大量にあるし……。
折角ここまで来たので、マップ検索で見つけた花畑でゆったりとした昼食を楽しむ。
気分は完全にピクニックである。
「ピクニックの定番!サンドイッチとおにぎりと唐揚げと卵焼きよ。もちろん、他にも色々あるわよ」
「美味しそうですわ!」
《わーい!》
レジャーシートの上でバスケットに入った料理を並べながらミオが自信満々に言う。
確かに定番と言えば定番だよな。やはりミオはテンプレを分かっている。ただ、強いて言うなら、バスケットを<
《ミオー、これなにー?》
「ドーラちゃん、それはタコさんウインナーよ。これもお弁当の定番ね」
《タモさんういんなー?》
「惜しい!」
ドーラの目には定番のタコさんウインナーがどう見えているのだろうか?
ちなみに、タモさんは今俺達に近づいて来る魔物を倒して回っています。
「仲の良い人達とピクニックに来るなんて、生まれて初めてです……」
さくらがポツリと呟いたので、思わずそちらに目を向ける。
しかし、トラウマ発動かと思われたさくらの目には、暗い感情は見えていなかった。
「大丈夫ですよ……。だって、今後はいつでも皆と来ることが出来ますから……」
「そうだな。何だったら、さくらがピクニックをプロデュースしてもいいんだぞ」
「それもいいかもしれませんね……」
どうやら、さくらのトラウマは快方に向かっているようだ。
完全に治った訳ではないだろうし、完全に治るのかもわからないが、今までよりも暗い顔が減ってくれるのなら、それは良い事に間違いないはずだ。
「さくら様がプロデュースするのなら、名前から考えてもお花見以外にないわよね!」
「さくら様のお名前に何か関係があるんですの?」
「え?あー、こっちには桜が無いのね。無念……」
ミオが意気揚々と駄洒落を披露するも、セラの質問によって撃沈される。
「一応言っておくとね、桜っていうのは向こうの世界で花見の定番の木なのよ」
「ああ、さくら様の名前はその木が由来なのですわね」
ミオの補足にセラが納得したような顔をする。
「はい……。桜の木のように身近な人達を笑顔に出来る人間になって欲しいと願って、私に名付けてくれたそうです……。ちょっと、名前負けですね……」
「そんなことはありません。さくら様がいたからこそ、『リバイブ』の魔法で私の欠損は治りました。仁様の配下の中では、仁様に次いでさくら様にも多大な感謝をしているのですよ。さくら様は十分に皆を笑顔に出来ていると思います」
さくらが自嘲気味に言うと、マリアがそれを否定する。
「そうですわね。『エナジーボール』の魔法のおかげで
「そう言ってもらえると、少し気が楽になります……。お花見もしたいですね……」
そう言って薄く微笑むさくら。
うん、やっぱり可愛い子は笑っている方が良いよね。
余談だけど、イズモ和国には桜に似た木が存在するとアルタが教えてくれた。
さくらも望んでいるし、全力で花見を企画しようと思う。
ピクニック(IN高レベル魔物の住処)も終わったので、カスタール王都へと帰還する。
『初志貫徹』、『家に帰るまでが遠足』と言う言葉を胸に、帰りの道のりも『ポータル』などは使わずに馬車を使用している。昼に帰れば夕方には王都へ着くだろう。
一応言っておくと、今回の御者はマリアであって、『魔物と獣の専門家』ことアーシャではない。……いや、だってCランクの依頼を受けている冒険者が、Aランク冒険者を御者にするとか意味が分からないだろ?
何事もなく王都へと到着した俺達は、王都の冒険者ギルドへと報告に向かった。
正確には、俺とマリアだけであるが……。
ギルドの受付嬢に依頼の完遂を報告し、ゴブリン・ジェネラルの魔石を見せつつ異様に強かったことを説明する。異常種と言う言葉は広まっていないが、極々稀に通常よりも強い魔物の個体が現れることは知られているので、恐らくそうだろうという話に落ち着いた。
後、残念ながら異常種を倒しても報酬額に色は付かなかった。
冒険者資格の凍結解除のために受ける依頼は、ペナルティ的な側面が強い。故に報酬額の低い塩漬け依頼を回されることも多く、そんなサービスはないそうだ。
一応、受ける依頼を選ぶ権利はあるが、どれも苦労の割には報酬額が少ないものばかりだ。
そんな依頼で異常種と出くわして、報酬は増えないと……。
俺はお金に困っていないからいいけれど、普通の冒険者だったらかなり凹むよな。
「では、報酬をお持ちします」
「ああ、よろしく頼む」
依頼に関する一通り話が終わり、受付嬢が報酬を取りに行こうとしたとき、冒険者ギルドの入り口の方が急に騒がしくなった。
―ガタン!―
「あ、クロード君!帰って来たんだ♡」
受付嬢が急に椅子から立ち上がり、俺達のことを放って入り口の方に走り出し始めた。
今までは営業用の真面目な顔をしていたのに、急に熱に浮かされたような表情になって職務放棄をぶっ込んで来たのにはビックリである。
そうか、入り口が騒がしくなったのはクロード達のパーティが入ってきたからだったのか。
俺と違って精力的に冒険者活動をしているクロード達は、今ではAランク冒険者に名を連ねている実力派冒険者だ。
まあ、俺が『Sランク冒険者になれ』と言ったから、精力的になるのも当然なのだが……。
カスタールを中心に活動をしているが、お隣のアト諸国連合にも行き、かなり派手な活躍をしている。その上、真面目で実力もあるので結構な人気者である。
俺とマリアがいることには気付いておらず、周囲の冒険者や受付嬢たちと話をしている。
その内、クロードの周囲にいた大柄な1人の冒険者が大きな声を出す。
「流石クロードだな!もうSランク到達間近じゃねえかよ!」
「クーガさん!まだ2つの国から認可を貰っただけです!気が早過ぎますよ!」
クロードが止めようとするが、その冒険者は止まらない。
「それでも、俺がSランクになって1月ちょいだぞ!早いにも程があるだろ!」
そう言えば、クロード達はもう少しでSランク冒険者になれそうだと言っていたな。
ついでに、クロード達と話をしている冒険者はSランク冒険者のようだ。
残念ながら、特に目立つユニークスキルなどは持っていなかった。ユニークスキルも持たずにSランクに到達したと言う事は、相応の実力者なのだろう。
気が向いたので調べたことがあるのだが、Sランク冒険者になるためには、大きく2つの条件を満たす必要がある。
1つ目は、3か国の冒険者ギルドからSランク冒険者に相応しいという推薦を貰う事だ。
1つの冒険者ギルドの推薦だけでは客観的な判断が不足するので、最低3か国の主要都市でその実力を認められることで、Sランク冒険者になる試験を受ける資格を得られるのだ。
2つ目は、実技の試験だ。とは言え、他のランクの試験のようにSランク相当の試験をSランク冒険者を試験官にして受けさせる、と言う訳にもいかない。
何故なら、Sランク相当の依頼など滅多に出て来ないからだ。
そして、Sランク冒険者には気紛れな者が多く、丁度いいタイミングで捕まることはまずないと言う、情けない理由もある。
故にSランクの実技試験のテーマはこうなる。
『Sランク依頼の達成に相当する
アバウトである。それはもう限りなくアバウトである。
簡単に言えば、『依頼でなくてもいいから、何かすごい事をしてきてね』と言う事だ。
アバウトすぎて冒険者ギルドの運営に疑問を持たざるを得ないだろう。
クロード達は先日、アト諸国連合の1国、ガシャス王国の冒険者ギルドからSランクになる推薦を貰えたようだ。カスタールの冒険者ギルドは言うまでもなく推薦を貰えている。
故に後1国の推薦を受けることが出来れば、Sランク冒険者の実技試験を受けられるようになる。そうなれば後は適当な強敵を倒せばいいだけの簡単な試験だ。
Sランク冒険者がクロードの肩を叩きながら聞く。
「で?どこの国に行くんだ?アト諸国連合は連合国の中から1か国しか推薦を受けられないし、どっか別の国に足を伸ばさなきゃならないだろ?」
「はい、エステア王国に行こうかと考えています。迷宮にも興味がありますし、あの国は探索者に比重が偏り、冒険者がかなり少ないですから、僕たちでも役に立てると思います」
「やーん、クロード君がいなくなるの寂しーい」
話を聞いていた受付嬢(俺達の担当)が猫なで声を上げる。おい、職務を全うしろよ。
「すいません。でも、僕達のホームはここだから、いつかはまたここに戻ってきます。その時にはSランクになっているかもしれませんね」
「「きゃー!」」
クロードが爽やかな笑みを浮かべて返すのを聞いた受付嬢たちが黄色い声を上げた。
噂によると受付嬢とのラブロマンスと言うのは、冒険者にとって夢の1つらしい。そんな
俺?俺は恋愛がらみのテンプレは無視することに決めているからどうでもいいかな。
「それはそうと、今回の依頼の完了報告をしたいんですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ちょっと待っててね。今すぐ書類を持ってくるから」
そう言って、
いくら何でも、それはダメだろう。
「おい、俺達の報酬が先だろう」
流石にこれ以上待つつもりもないので、受付嬢に声をかける。
すると、受付嬢は急に不機嫌な顔になり、俺の方を睨み付けてきた。
クロードも俺に気付いたようで、軽く会釈をしてくる。
「何言ってるのよ!ギルド期待の冒険者であるクロード君が優先に決まってるじゃない!貴方のように資格を凍結させるような冒険者は後回しよ!後回し!」
「ちょっ!?」
受付嬢の失礼な言い回しに顔を青くしたのはクロードである。
マリアは『月光神剣・ルナライト』、つまり短剣を透明な状態にして手に持っている。
流石に俺の許可なく切り掛かったりはしないようだが……。
俺?俺はクロードが怯えて、マリアがキレたせいで、怒るタイミングを逃しちゃったよ。
「ぼ、僕は仕事を途中で放り出すような人は嫌いです!」
「うぐっ!?」
俺の機嫌を損ねないように、クロードが受付嬢に有効な一撃を加える。
呻き声を上げ、ピシリと受付嬢が固まる。
「僕はただの冒険者です。仁様を押しのけてまで特別扱いなんてして欲しくありません。そんな事をされても迷惑なだけです!」
「ぐふっ!?」
受付嬢に追撃が決まり、ギギギギと油の切れたロボットみたいな動きをしてこちらに向き直る。
「今……、報酬を……お持ちします……」
幽鬼のようになり、生気を失った受付嬢が報酬を取りに行った。
クロードが自分でケリを付けたから、俺からの罰はなしにしておいてやろう。
「おい、アンタがジンか?」
受付嬢が報酬を持ってくるのを待っていると、クロードと話していたSランク冒険者、クーガとか言ったか、が俺に話しかけてきた。
「ああ、そうだ」
「俺の名前はクーガ。アンタに1つ聞きたい事がある。……アンタ、クロード達とどんな関係なんだ?さっき、クロードがジン様、とか言っていたぞ。クロードが敬称で呼ぶなんて、一体何モンなんだ?」
クロードの奴、変なところで口を滑らせたな。
一応、俺とクロード達の関係には表向きのモノを用意しているから、それを使うとするか。
「俺はクロード達の師匠だ。冒険者活動はほどほどにして、Cランクで止めているけどな」
「やっぱり、アンタが噂の師匠か……」
え?噂になっているの?マジで?
A:はい。クロード達も師匠がいることは隠していませんが、
噂が流れるのは納得できたが、流れている噂が許容できねえよ。
特に最後の!俺はスカイフィッシュか!
「えっ……?」
丁度、報酬を持って戻って来た受付嬢がその話を聞いて、持っていた報酬の袋を落とした。
受付嬢は冷や汗をダラダラと流し、滅茶苦茶気まずそうな顔をしている。
堂々と悪し様に言った相手が、自分の好きな相手の師匠で、そんな姿を好きな人に見られたと考えたら、そんな反応をするのも当然かもしれないな。
「俺達の報酬を落とさないでくれよ」
「あ、はっ、はい!も、申し訳ありませんでした!さっきの事も!」
受付嬢は涙目になって落とした袋を拾い、俺に手渡し、深々と頭を下げて謝罪をしてきた。
まあ、謝るしか出来ることはないよな。
「話、続けてもいいか?」
クーガにはまだ話したい事があるようだ。
見た感じ、単純な好奇心だけで聞いてきたとは思えなかったので、そんな気はしていた。
「ああ、何か用があるのか?」
「話が早いな。じゃあ、言わせてもらうぜ」
そこまで言ってクーガは息を大きく吸い込んだ。
「俺はアンタに決闘を申し込む!」
冒険者ギルドでの決闘イベントはテンプレだけどさ……。超・今・更!
それに、冒険者資格の凍結解除とか言う、微妙に情けない理由で冒険者ギルドを訪れた時にこんなイベントが発生しなくても良くない?
仁は色々とタイミングの良いのですが、何故かテンプレだけは微妙に逸れていきます。