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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第7章 灰の世界編

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第113話 彩人と帰還パーティ

「急に色が付いたけど、お前の身に何が起こったんだ?」


 灰人の彩人化には驚いたが、喋れるようになったのならば色々と聞いてみるべきだろう。


「わかんない。急に意識がはっきりして、喋れるようになったの」


 首を傾げながら幼げな口調で話す彩人。

 首を傾げる様は灰人時代から変わっていないようだ。


「会話が出来るようになったなら、色々と聞いてみたい事がある。構わないか?」

「うん。また、座っていいの?」

「ああ、構わないぞ」


 俺が許可すると、彩人は再び俺の膝の上に座り直した。

 俺の脚にぷにぷにしたお尻が乗っかる。灰人だった時よりも柔らかい気がする。


「じゃあ、最初の質問だ。お前のいた世界には何が起こったんだ?」

「ごめんなの。昔の事はぼんやりとしか思い出せないの」


 どうやら、灰人はあまり記憶力が良く無いようだ。

 いや、記憶をとどめておく能力が低いと言った方が正しいだろうか。


「じゃあ、一番古い記憶って何だ?」

「あなたにデカいのから助けてもらった事なの。それより前はぼんやりになっちゃうの」

「本当につい最近だな……」


 これは、何を聞いてもまともな情報は得られない気がする。

 シューベルトに引き続き、灰人からも情報を得られないのか……。

 まあ、聞けることだけでも聞いておくとしよう。


「俺達に付いてくるとき、沢山の灰人が合体したのは何だ?」

「何となく出来そうだからやってみたら出来ちゃったの」

「アバウトな生態だな……。それで、1024人分の意識っていうのはどうなっているんだ?」

「皆、私の中にいるの。私が1番あなたとお話ししたかったから、出ていたの」


 どうやら、他の1023人分の意識は消えたわけではなく、彩人の中に残っているらしい。

 今現在表に出ているのは、陸王獣ベヒーモスから助けた個体で、俺への感謝の念が強いため、代表として表に出ているそうだ。


「皆も感謝してるの。あの世界から出してくれたから」

「昔の事は覚えていないんじゃないのか?」

「なんとなくは覚えてるの。あの世界がもう駄目なことは……」


 悲しそうに彩人が言う。

 詳しくは覚えていないが、旅愁の念が無い訳ではなさそうだ。


「そう言えば、俺の配下になると聞いたときに喜んだのは何故だ?」


 少し空気が重くなったので、話題を変えてみる。

 俺の配下、子分になると聞いて灰人が喜んだのは疑問だったのだ。


「虚獣から助けてくれて、嬉しくて、子分でもいいから繋がりが欲しかったの。一緒に居たかったの。それに、凄く眩しくて、安心したの」

「眩しい?」

「うん。眩しくて強いの」


 イマイチ言っている意味が分からないので詳しく聞いてみると、どうやら灰人にはエネルギーを光として見ることが出来るそうだ。

 俺を見た時、その圧倒的なまでのエネルギー量に驚き、虚獣から助けてもらい、子分としてその庇護下に入れることを心から喜んだとのことだ。

 ついでに言うと、そのエネルギーを光として見る能力で日々の食事を賄っているようだ。

 俺の庇護下に入り、俺の近くで俺から漏れ出るエネルギーを摂る。灰人にとってはこの上ない贅沢だとさ。だから、あんなに簡単に新しい灰人が仲間に加わったのか。


A:マスター、灰人に何故色が付いたのかがわかりました。


 そんなことを考えていると、アルタから報告が入った。

 丁度いいな。詳しく聞こうじゃないか。


A:今の話にも関わるのですが、マスターのエネルギーを直接摂取したのが原因のようです。具体的には、マスターから流れ出た汗が溶け込んだお湯を飲んだからです。


 ……はい?

 アルタは何を言っているのだろうか?

 俺の汗を飲むと灰人が彩人になる?それは一体何の冗談だ。


A:事実です。灰人はエネルギー節約のためにあのような姿をしていました。エネルギーが十分にあれば、灰人は本来の姿に近づくことが出来ます。それが、現在のような色のついた姿です。


 つまり、灰人は元々彩人で、灰色になっているのは省エネモードだったと言う事か。

 本当に謎生態である。……いや、この世界の生物も謎生態が多いから、今更か。


A:はい。もっと言えば、現在の姿もまだ完全な姿ではない様です。お湯に溶け出た汗ではなく、直接汗を舐めるなりすれば、本来の姿に戻るでしょう。


 その汗、俺のじゃないと駄目なのか?


A:はい。灰人の不足したエネルギーを補うには、マスター程のエネルギーを持った存在でなければ足りません。配下の中では、さくらでも現在の姿までは戻すことが出来ます。


 さくらが話題に出てきたと言う事は、多分、そのエネルギーと言うのは異能とも関係があるのだろう。単純計算で異能が7つ(開眼しているのは6つ)ある俺の方が持っているエネルギーが大きいのかもしれない。

 つまり、灰人を超彩人にするには、俺の汗を舐めさせる必要があるみたいだ。


「どうやら、お前がその姿になったのは、俺の汗が含まれるお湯を飲んだかららしい。俺の汗を直接舐めれば、もう少し本来の姿に近づけるようだぞ」

「……舐めても、いいの?」


 彩人は本来の姿と聞いたときにピクリと反応し、俺の首筋をじっと見つめて言う。

 理屈までは分かっていないようだが、興味津々なのが見て取れる。


「本来の姿と言うのも気になるし、とりあえず1回だけなら許そう」

「わかったの」


 俺が許可を出すと、彩人は迷わずに俺の首筋に浮かんだ汗を舐め始めた。

 小さい舌でペロペロと舐められる。くすぐったい。


「んっ……」


 彩人の舌が止まり、プルプルと震え出す。

 どうやら、エネルギーが無事に溜まったようだな。


「んあっ!」


 声を上げて彩人が仰け反った。

 次の瞬間には、彩人の姿は幼女ではなく、大人の女性の姿へと変貌していた。


「はあ……はあ……これが、私の本来の姿?何となく、記憶にあるような……」


 彩人(大人バージョン)が立ち上がって自分の身体をジロジロと見渡す。

 灰色の髪を含め、身体的特徴は幼女バージョンから変わらないが、そのプロポーションは大きく変わっている。

 身長は俺と同じくらい、出るトコはでて、引っ込むところは引っ込んでいる。

 どうやら、羞恥心は持っていない様だ。俺の目の前で全裸で立ち上がっているのに、気にする様子すらないからな。


「あっ……」


 彩人(大人バージョン)が小さく声を上げると、ポシュンと幼女バージョンまで縮んだ。

 変身時間はかなり短いご様子。


「また、舐めてもいいの?」

「今日のところはお預けだな。もう十分に温まったし……」

「そう……。いずれまた、舐めさせてほしいの」

「気が向いたらな」


 風呂場で幼女に首筋を舐められて、大人になった幼女と風呂に浸かる。

 単純に事実だけを並べてみると、色々とヤバい気がする。


 風呂から上がる前に、ふと思い出したことを聞いてみる。


「そう言えば、お前達に名前ってあるのか?」


 灰人は種族名だし、彩人は俺が勝手にそう呼んでいるだけだ。

 コミュニケーションが取れないのなら名前を付ける必要もなかったが、普通に話が出来るのならば名前があった方が便利だろう。


「名前はないの。ずっと昔、あったような気もするけど、覚えていないからないのと同じなの。出来れば付けて欲しいの」

「ふむ、名前を付けるのには慣れているから、任せてもらおうか」


 『名前を付け慣れている≠名前を付けるのが得意』


 はい、ドン!


>「アヤ」と名付ける

>「グレイ」と名付ける

>「サイト」と名付ける

>「ゆかり」と名付ける


「よし、お前の名前はアヤ。いろどりと言う意味だ」

「うん、わかったの!私の名前はアヤ。覚えたの!」


 嬉しそうに言う灰人、改め彩人、改めアヤ。

 後、選択肢は全く選択肢になっていなかったな。1つでも当たりがあって良かったよ。


「じゃあ、この調子で後1023人分、お願いするの!」

「それは無理だ」


 会ったこともない1023人に名前を付けるとか、一体どんな拷問だと聞きたい。



 風呂から上がった俺は外で待機していたメイドにアヤを任せる。


 メイドは持っていたバスタオルでアヤを拭いていく。

 本人が気にしていないとはいえ、俺が身体を拭くと言う訳にもいかないからな。

 なお、メイドは急に色が付いたアヤを見ても、何1つ動じることはなかった。

 メイド達は基本的に俺の身の回りで起こる異常事態を全て受け入れているようだ。


 ついでに、子供用の服を着させる。流石に裸でウロウロさせる訳にもいかない。

 基本、アヤは人間の子ども扱いしていくのが無難だろう。


「お腹、空いたの……」


 頭から被るだけの子供服を着たアヤが、俺の元に駆け寄って来て呟く。

 そのお腹からはぐーっと言う音が聞こえている。


「今まで、こんなこと無かったの……」

「どうやら、元の姿は食事が必要みたいだな。灰色のままなら食事も不要だろうけど……」

「それは嫌なの」


 アヤは明確な意思を持って首を横に振った。

 もう、灰人に戻りたくはないようだ。

 そもそも、アヤは灰人モードに戻ることはあるのか?


A:あります。マスターの体液を長時間摂取しなければ、エネルギー不足で灰人の状態に戻ります。


 俺の体液って……、正しいんだろうけど、何か引っかかる言い方だよな。

 普通に汗が無難だろう。……そもそも無難な体液が存在しないことは置いておく。


「これからパーティみたいだし、そこに行けば食べ物があるはずだ」

「早く行くの!」


 アヤが早く行こうと急かしてくる。

 アヤは会場の場所を知らないので、先に行くことが出来ないからな。

 まあ、先に行ったところで、俺が来ない内から料理を食えるとも思えないが……。


 アヤを引き連れてホールへと向かう。


 カスタールの屋敷には、結構大きめのホールがある。

 このホールも屋敷でパーティをする時にはよく使われるのだが、今回のパーティ会場は屋敷のホールではない。


 どこのホールかと言えば、エステア迷宮の50層台に設置されたホールである。

 ダンジョンマスターが自由に使える50層台に、超巨大な多目的ホールを建設したのだ。

 配下が大勢集まる場合はカスタールの屋敷にあるホールですら足りず、それ以上の収容人数を持つホールが必要になったので、少し前に建設メイド達が3日で作った。

 ダンジョンマスターの権限を使えば、ホールの1つや2つ簡単に作り出すことが出来るのだけど、建築メイドが是非にと言うので任せました。


 俺は『ポータル』によって迷宮の51層へと転移をする。


 余談だが、51層は居住区画となっており、迷宮保護者キーパーの家や孤児院が設置されている。このホールも居住区に隣接して建設された。

 そして、52層は巨大な農耕地帯となっており、我々の食料自給の大半を担っている。

 現在、各地で入手した食料の大半を栽培することに成功しており、ここだけで世界中の食材が集まるのだ。ちょっと、力入れすぎじゃない?

 余談終わり。


 51層に付いた後、アヤを『召喚サモン』で呼び出す。

 まだ、アヤには魔法の説明をしていないからな。


「ここどこなの?『境界の門』を越えたような感覚があったの」

「やっぱりわかるか。でも、その辺の説明はまた今度だな」

「わかったの。あなたが凄い事だけは分かったの」


 アヤの質問への回答を後回しにしたのに、妙なところで納得されてしまった。

 それから少し歩き、俺達はホールへと到着した。



 ホールの入り口に入ると、メイド達が俺達を待っており、案内されるままにパーティ会場へと向かった。


「うわぁ!人が一杯なの!」

「この人数が集まると流石に壮観だな」


 パーティ会場には1000名以上の配下達が集まっており、アヤがとても驚く。

 堅苦しい雰囲気が好きではない俺に合わせたのか、メイド服(正装)を着たメイドたち以外はフォーマル、と言うか普段着だった。


「あっ、ご主人様。やっと主役の登場ね」

「仁様、お待ちしておりました」


 入り口で待っていたミオとマリアが俺達に気付いて近づいてくる。

 マリアはパーティ準備のため、風呂に入らず『清浄クリーン』で済ませたらしい。


「かなりの人数が来ているんだな」

「そりゃ、ご主人様の帰還だからね。豪勢にもなるわよ。何でも、要職に付いている配下以外は抽選で参加者を決めたらしいわよ」

「そこまでなのか……」


 パーティ会場には1000名を超える配下がいるとは言え、これでも配下全体から考えると一部でしかない。

 今、配下の人数を数えた所、5000名を超えていたからな。そして、その8割以上が信者と言うのが驚きである。

 パーティ会場の収容人数的にはまだ余裕があるが、立食パーティ形式なので、これ以上人数が増えたら多少狭く感じるかもしれないという、絶妙な調整である。


「ご主人様、パーティとか開かないでしょ?ご主人様と一緒のパーティに参加する機会があれば、そりゃ競争率もヤバい事になるわよ」

「私も仁様の案内役を抽選で当てました。抽選に外れた同僚から、500万ゴールドでかかりを譲って欲しいと言われました」


 ミオの話を聞き、俺達を案内していたメイドがそう言った。

 俺の案内は500万ゴールド以上の価値がある事と、このメイドは500万ゴールドを引き合いに出されても、案内係と言う役割を譲らなかった事が明らかになった。


「あ、仁君が来たんですね……」

《ごしゅじんさまだー!》

「ご主人様、待っていましたわ!」


 俺達が話していると、さくら、ドーラ、セラの3人も集まって来た。

 他の参加者たちは不自然なほど俺に絡んでこない。


A:参加条件の中にマスターに話しかける事を禁止するものがあります。ただ、マスターから話しかけられた場合は答えて構わないそうです。故に大半の参加者は、マスターに話しかけられることを心待ちにしています。


 ……流石に、この人数相手に話しかけて回るのは無理ですよ?


A:期待はしているけれど、まず無理だろうという諦めもあるようです。


 ………………。


「ご主人様。ご主人様の挨拶がないと、わたくし達は料理を食べられませんわ。申し訳ありませんが、挨拶の方をお願いいたしますわ」

《ドーラもおなかペコペコー!》


 我らが腹ペコ2人組が俺のことを促す。

 俺には開会の挨拶の仕事がある。凝った挨拶はしなくていいから、乾杯の挨拶だけはお願いします、とルセアに頼まれているのだ。


「夕食としては少し遅めですからね……。仁君、お願いいたします……」

「そーね。多少は大丈夫だけど、あまり放置すると冷めちゃう料理もあるから」

「そりゃ、一大事だな。早く挨拶をしよう」


 ミオが聞き捨てならない事を言ったので、急いでホール備え付けの壇上へと向かう。

 会場にいる全員の視線が集中したところで、近くにいたメイドから飲み物の入ったグラスを受け取る。


「乾杯!」


 乾杯の挨拶と言われたので、グラスを掲げて本当に「乾杯」とだけ言った。

 早くしないと料理が冷めるかもしれないのに、長々とスピーチなんてする訳が無い。


「乾杯!」×約1000


 参加者全員がグラスを掲げ、一斉に唱和する。

 参加者達も俺の性格は聞き及んでいるのか、特に動揺することも無かった。


 パーティが始まり俺も食事を開始する。

 パーティのお約束のようにマリアが料理を持ってくるので、しばらくはそれを食べることに専念した。マリアも慣れたのか、俺が欲しい物を欲しい量持ってきてくれるのだ。


 そして、ある程度腹が膨れて来たら、俺は他の参加者に挨拶をして回ることにした。

 前は配下と話す機会も多かったのだが、最近では配下の数、分母が多すぎてほとんど話が出来ていない状況だ。

 折角の機会なので、今まで話をしなかった者を中心に話を聞いていく。もちろん、全員と話が出来る訳ではないが……。

 おい、話をするのは良いが、拝むのは止めろ。



 配下との雑談が丁度途切れた時、ふと目に付いた2人の元へ足を進める。

 その2人とは、成瀬美幸なるせ みゆき成瀬恵なるせ めぐみの母娘だ。

 別名、元キャリエリウスと元クラウンリーゼである。


「2人も来ていたんだな。どうだ?この世界には慣れたか?」

「あら、仁さん。こんばんわ」

「仁さん、こんばんわ」

「ああ、こんばんわ」


 俺に気付いた2人は軽く会釈をしてくる。

 その仕草は完全に日本人のそれである。見た目が紫肌なので違和感が凄い。

 なお、2人は魔族として活動していたときに着ていたようなぶっ飛んだ服装ではなく、こちらの世界で一般的な服装をしている。


「慣れたかどうかと問われたら、とてもじゃないけど慣れたとは言えないよ。文化は違うし、こんな見た目だし。ホント最悪……」


 自分の肌の色を見て恵が自虐的に呟く。


「でも、アドバンス商会の方達には良くしてもらっていますよ。私達がこんな見た目でも他の人と変わらずに接してくれますし。恵も夜ベッドで泣く回数が減ってきましたから」

「ちょ!?お母さん見てたの!?と言うか見てても黙っててよ!」

「あらあら。でも、本当のことでしょ?恵も感謝してるわよね?」

「ま、まあ。感謝しているのは本当よ。友達も出来たし……」


 慌てる恵と穏やかに受け流す美幸の様子を見て、少しだけ安堵する。


 この2人はエルディア城で配下にしたのは良いものの、その後すぐに織原の奇襲を受けたせいでほとんどフォローが出来なかったからな。

 不安になることも多いだろうが、こちらの世界で居場所を作れたようで何よりである。


 現在、2人はアドバンス商会で売っているポーション類を作ったり、新しい料理の研究に手を貸しているそうだ。

 シングルマザーの母娘と言う事もあり、2人とも料理を含めて家事は一通りこなせる。

 ステータスを見れば、<料理>のスキルが開花していた。元の世界で経験があれば、こちらの世界でもスキルを習得しやすいからな。

 流石に魔族時代に料理なんてしてないだろうから、今までは持っていなかったけどな。


「1つ聞きたいんだが、もし人間の姿に戻れるんだったら、戻りたいと思うか?」


 俺はかねてより聞こうと思っていた質問を2人に投げつける。


「それは、戻りたいに決まってるわよ。でも、流石に種族はどうにもならないでしょ?」

「でも仁さんが言うということは、何か手があるんじゃないかしら?皆さんから聞いた仁さんのお話は、どれも荒唐無稽な事実ばかりですから」


 意外と勘が鋭い美幸が、少し期待した目で尋ねてくる。


「美幸、正解だ。実は向こうの世界にいる間にかなり現実的な方法が見つかったんだよ」

「それホント!?」

「ああ。こんな事で嘘はつかないさ」


 その現実的な方法とはもちろん、<拡大解釈マクロコスモス>による強化の事である。

 <多重存在アバター>による精神保護を強化すれば、さくらの魔法(創ってもらう予定)による肉体の変化時に精神を守り切れるかもしれない。


A:100%問題ありません。


 アルタもこう言っているし、きっと大丈夫だろう。


「やった!お母さん、これで私達人間に戻れるよ!」

「あら、諦めていたのに、思いがけない幸運ですね」


 母娘は手を取り合って喜んでいる。本当にこの母娘は仲が良いな。

 しばらく喜んでいた恵が、「あっ」と口に出して俺の方を見る。


「そうだ!仁さん、それミラさんにも使える?人間から別の種族になったのは同じだし」

「あらあら、そうですね。私達と似たような経験をしたと言う事で、随分と親身になって、助言とかもしてくれましたから。その方法で彼女も人間に戻れると良いですね」


 人間から別の種族に変わったという共通点があるせいか、ミラと母娘の間には交友関係が生まれていたようだ。


「ああ、多分使えるだろうな」


A:使えます。


 2人と同じ要領で精神を保護すれば、ミラであろうとも人間に戻すことが出来るはずだ。

 なお、魔族から人間に戻すよりは、吸血鬼から人間に戻す方が楽らしい。魔族は人間系統、吸血鬼は魔物系統のはずなのに、不思議な話だ。


 俺の勝手な予測ではあるのだが、<拡大解釈マクロコスモス>が顕現した理由の1つはミラの件があるのではないかと思っている。

 この世界に来て、俺は様々なことが出来るようになった。しかし、そんな中でも思うようにいかないことは多々ある。ミラの件や、シューベルトの件がそれにあたるだろう。


 世の中上手く行かない。そんなのは普通、当たり前の事なのだが、普通ではないことに俺には異能がある。その異能が俺の『不足』を補おうとしたら?

 既存の異能やスキル、アイテムを強化するという方向に話が進むのは、それ程不自然な事ではないだろう。

 出来るだけ幅広く、万能になるように願いをかなえるのなら、<拡大解釈マクロコスモス>と言う異能は正しくうってつけだ。


 そんな異能が、切っ掛けの1つであるミラに使えない訳が無いだろう。


「あらあら、それは良かったですね。これで私達もミラさんも人間に戻れますね」

「うん、良かったよ。……それで、いつ戻してくれるの?」

「戻すだけならいつでも戻せるぞ。ただ、多少は負担があるだろうから、体調は万全な方が望ましいな」


 その気になれば、今この場で戻すことも出来なくはない。

 しかし、パーティ会場でそんなことをするのもどうかと思うし、身体と精神にかかる負荷は0には出来なだろうから、体調を整えてからの方が良いだろう。


「あらあら。でしたら、ミラさんが戻って来てから、一緒に元に戻してもらえますか?」

「あ、そっか。ミラさん、今は音楽隊の仕事でエステアを回っているんだっけ」

「そうなのか?そう言えば、定時連絡でもほとんど話に出てこなかったな」


 灰色の世界にいる間、定期的に連絡を取っていたのだが、その中でミラたちの話はほとんど出てこなかった。

 丁度その頃、エステアで音楽隊に依頼があり、巡業の準備や練習に力を入れていたそうだ。

 更に、空いた時間にはこの母娘と話をしていたので、俺との接点が減っていたと言う訳だ。


「わかった。ミラが戻ってきたら、3人まとめて人間に戻してやろう」

「うん、戻るならミラさんも一緒がいい!それでお願いします!」

「よろしくお願いしますね」


 後でこの事をミラにも伝えないといけないな。


A:お任せください。


 アルタがやってくれるそうです。



 パーティは思っていたより短い時間で終了することになった。

 何でも、俺が帰って来たばかりで疲れているかもしれないのに、長時間パーティに参加させるわけには行かないというのが理由らしい。

 体力的には全然余裕があるのだが、ずっと灰色の世界で行動をしていたから、多少は精神的な疲れがあるかもしれないので、心遣いを受け取って早めに休むことにした。


「ますたーがこの部屋で寝るのも久しぶりじゃな」

「そうね。ここしばらく、ずっとエルと2人で寝てたものね」


 俺が部屋に戻ると、既に天空竜ブルー始祖神竜エルの2人も戻っていた。

 俺がいないのに態々俺の部屋で2人で寝るなんて、よっぽど仲良しなんだな。


A:単にマスターがいないのが寂しかったようです。2人だけでもマスターの部屋で寝たかったようです。時々、同じ理由でドーラも部屋に来て寝ていました。


《ごしゅじんさまとねるの久しぶりー!》


 本日、ドーラは俺の抱き枕として部屋に来ている。


「お邪魔するの」


 後、アヤも俺と同室を希望したので連れてきている。

 何でも、俺の近くにいることで漏れ出るエネルギーを吸収できるから、あまり遠くに行く訳には行かないそうだ(長時間離れると灰人に戻ってしまう)。

 本当は俺の抱き枕になりたかったそうだが、幼女を抱き枕にする趣味はないのでお断りさせてもらった。ドーラはあくまでも竜形態だから抱き枕になっているのである。


 なお、アヤは寝るときは全裸派だった。


「お前服着ろよ」

「イヤなの。寝るときだけは許して欲しいの」


 どうやら、灰人としての生活習慣のせいか、服を着ることに慣れていないようだ。

 向こうの世界にも服はあったようなので、単純に忘れていると言った方が正しいか……。

 外で生活するときは仕方なく服を着るが、寝るときくらいは脱いでいたいそうだ。

 全裸の幼女を抱き枕とか、絶対に出来る訳ねぇよ(作者注:第36.5話参照)。


「妾は寝るときも裸じゃぞ?」

「ああ、そう言えば、エルのそれは服じゃなくて肌なのよね。私は服を着るのも随分と慣れたわよ。後、この状況で余計な事を言わない方が良いと思うわよ……」


 横からエルとブルーが口を出してくる。

 エルは局部に鱗が付いているだけなので、パッと見は水着とか下着だが、本質的には全裸なのである。寝るときも当然全裸と言う事になる。

 対するブルーは青色のパジャマを着ている。元々全裸生活のくせに、意外とあっさりと人間文化に順応している。

 よく考えたら、この部屋の(生態的な意味での)全裸率がかなり高いな。


「ほら、あの子も全裸なの!」

「ほら、エルのせいで話が拗れたじゃない」

「う、スマンのじゃ」


 アヤがエルを指さして言ったので、エルが申し訳なさそうに謝る。


「あの子は良くてアヤはダメなの?」

「いや、エルの鱗は……局部が隠れているから服みたいなものだ」

「よくわからない理屈なの!?」


 局部が隠れていればオーケーです。

 謎の光とか、湯気でも可。


「……じゃあ、服を着る代わりに抱き枕にしてほしいの」

「それはまた別の話だ」

「なら裸で寝るの」


 強情な奴め。


「服を着たら抱き枕になれるなら、私も立候補するわよ」

「当然、妾も立候補するぞ。服は着慣れぬが……」

《だきまくらのざはゆずらないよー!》

「抱き枕は諦めるの……」


 その後、多少の会話をした後、ドーラ竜形態を抱き枕にして床に就く。

 アヤが全裸なのはもう諦めた。


「眩しくて、寝れないの……」


 明かりを消してすぐにアヤが呟いた。


 アヤ、と言うか灰人はエネルギーを光として見ることが出来る。

 俺のエネルギーが強く、眩しいと言っていたアヤが、俺と同室で眠れる訳はなかった。

 離れすぎても困るので、最終的にアヤは俺の部屋に衝立ついたてを置き、その向こうで寝ることになった。……何この状況。

いつも通り1週お休みして次の章に入ります。

登場人物紹介は普通に出しますけど、丁度いい短編用のネタが無いので短編なしになるかもです。

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