第112話 第6の異能と帰還
83話ぶりの新異能です(29話で<
自分で数えてびっくりだよ!
「ち、ちくしょう。こんな事なら、もっと早くに真の力を発揮しておくんだった……」
「今更悔やんでも遅いだろう……」
「……(コクコク)」
既に『真の力』とやらの輝きは完全に消え去り、残ったのは存在感をほとんど失った
シューベルトの存在感が減ったので、灰人の震えもいつの間にか収まっていた。
「まだだ!まだ俺は終わってねぇ!来い!虚獣共!俺を守りやがれ!」
シューベルトはまだ諦めるつもりはないようで、大声で虚獣達を呼んだ。
この辺りにいる虚獣は全滅させたけど、遠く離れた場所にいる虚獣を呼べるのかな?
A:シューベルトが生成した虚獣でしたら、どれだけ距離が離れていても呼ぶことが出来ます。これは、[虚獣生成]の特性によるものではなく、[神威]の特性によるものです。
特性はスキルとは違うはずなのに、なんか便利な効果を持っているんだな。
スキルじゃないから<
「もうじき、ここに数えきれない程の虚獣がやってくる。流石にお前達でも相手にし切れねえハズだ!これでお前達もお終いだ!ハハハハハハハハハ!」
勝利を確信したかのように高笑いをするシューベルト。
しかし、近場の虚獣を全滅させているから、ここに来るまでに時間がかかるようだ。
「なあ、虚獣達はまだ来ないのか?」
「待て待て!ちょっと待て!もうしばらくしたら来るから!」
……5分後。
「確かに虚獣が来たな。でも、残念ながら、数え切れるぞ?」
「な、何でこんだけしか来ねえんだ……」
そこにやって来たのは、
数え切れないどころか、片手の指で数えられるレベルである。
距離があるから、やってくるまでに時間がかかるのかと思いきや、本当にこれ以上は虚獣達が近づいて来ていない。これで打ち止めである。何で?
A:虚獣を呼ぶことは出来ますが、その指示に従って来るかどうかの判断は虚獣に委ねられています。大半の虚獣はシューベルトの危機を無視することを選びました。
つまり、自身が生み出した虚獣達に見捨てられたって事か?
シューベルト人徳がなさ過ぎて笑えるんですけど……。シューベルトも虚獣もマジポンコツ。
なお、その虚獣達はやって来るなりマリアの手によって瞬殺されました。
「お前、虚獣達に見捨てられたんだな」
「はあ!?な、何言ってやがる!そ、そんな訳ねぇじゃねえか!」
「でも、虚獣達が来ないぞ?呼んだのに、来ないんだろ?」
「ば、馬鹿な……」
愕然とするシューベルトだが、その顔には諦めの色も浮かんでいる。
本人も薄々気づいているのだろう。
ポンコツ天使が自滅によるエネルギー不足で行動不能に陥り、最後の頼みである虚獣の召喚にも失敗し、いよいよもって打てる手が無くなってきたようなので、もう1度この世界の事について聞いてみようか。弱っている今なら、口の滑りも良くなっている事だろう。
「さて、さっきは答えてもらえなかったが、気が変わったりはしていないか?この世界の事を俺に説明するつもりはないか?」
「ふざけんな!何度聞かれても、お前ら相手に教えてやるようなことはねえ!」
思っていたよりも強情である。
「ふむ、そうなると残念だが無理矢理にでも聞き出すしかなくなるな」
「はあ!?俺が拷問で口を割るとでも思っていやがるのか!舐めんじゃねえよ!やれるもんなら、やってみやがれ!」
「わかった。なら、そうさせてもらう」
-ドゴッ!!!-
俺はシューベルトに向けて最後の腹パンを決めた。
『無理矢理聞き出す』と言うのは拷問のように分かり易いものではない。
「グハッ!き、聞き出すんじゃ、なかったのか……!?」
「聞き出すさ。吸収した後にな」
俺は腹パンによって残りのエネルギーを消し飛ばされ、光の粒子となって死にゆくシューベルトを<
そして、<
そう、『無理矢理聞き出す』方法とは、1度殺して、吸収して、人格を再構築して、強制的に情報を吐かせるという、非人道的な所業だったのである(天使に人権はない)。
「素直に答えてくれたら、
《残念》
灰人のタモさんアーマーを解除しながら、タモさんが残念そうに呟く。
タモさんに
しかし、シューベルトがこちらの質問に答えてくれなかったので、俺自ら吸収するしか手が無くなってしまったのだ(長時間の説得と言う選択肢は最初からない)。
折角全ての虚獣をタモさんに<吸収>させたのだから、その親玉であるシューベルトもタモさんに<吸収>させる方が収まりがよかったというのに……。
そもそも、俺がシューベルトを吸収するメリットは情報以外にはないのである。
まず、俺が吸収した場合、シューベルトのスキルが手に入り、俺が使えるようになる……が、シューベルトはスキルを持っていないので無意味だ。
「特徴」は取得できないので、虚獣を生み出すことも出来ないだろう。
タモさんが<吸収>していた場合は、俺とは異なり<擬態>するだけなので、特徴までしっかりと再現出来る。
もちろん、<
故に虚獣を生み出すことは誰にも出来なくなってしまったのだ。本当に残念である。
>新たな異能が解放されました。
<
所持しているスキル、異能、アイテムの効果を強化、拡張することが出来る。この能力は同時に10つまで使用でき、強化、拡張を解除することで他の対象を強化出来るようになる。
はい。何故かは知らないけれど、新しい異能に目覚めましたよ。
……新しい異能が開眼するのは随分と久しぶりな気がするけど、このタイミングで開眼したと言う事は、きっと俺の困り事を解決してくれるような異能なのだろう。
どれどれ……。
大分漠然とした異能なのだが、これは随分ととんでもないシロモノな気がする。
スキル、異能、アイテムを強化、拡張するらしいが、一体どの程度強化出来るのだろう?
「マリア、新しい異能が開眼したから、ちょっと試してみる」
「わかりました。お気を付けください」
「……(?)」
マリアも慣れたもので、俺の唐突な行動に驚きもしない。
一方の灰人はコテンと首を傾げている。
とりあえず、<縮地法>を対象に<
<縮地法>のスキルレベルは10なので、一瞬で14mの距離を移動することが出来る。
強化した<縮地法>により、まずは20mの距離を移動できるか試してみる。……成功。
次に30mの距離を移動してみる。……成功。
40、50、60、70、80、90、100m。……全部成功。まだ、イケる気がする……。
「これは……ヤバいかもしれないな」
「仁様、一体何をなされたのですか?<縮地法>を使っていたように見えましたが……。いえ、ですがあそこまでの距離を<縮地法>で移動することは出来ないはずです」
マリアも<縮地法>を使っているからこそ、今の光景の異常さに気付いたのだろう。
「どうやら既存のスキルや異能、アイテムを強化出来る異能のようだ。試しに<縮地法>に使ってみたら御覧の通りと言う訳だ。多分、10倍くらいの距離は行けるだろうな」
「それは……また凄まじい効果を持った異能ですね。流石仁様です」
「もう少し検証してみようか。この異能はちょっと本気でヤバい気がする」
と言う訳で、シューベルトの疑似人格化は後回しです。
いやいや、それどころじゃないって……。
「次は何に使ってみるかな。……本当はテンプレに従って<火魔法>、『ファイアボール』を強化したいんだけど、この世界じゃ魔法が使えないからな」
A:<
<
俺は<
そのまま<無詠唱>で『ファイアボール』を発動する。当然、誰もいない方に向けてだ。
「『ファイアボール』!」
魔法を宣言した瞬間、俺の目の前には10mを越える火の塊が現れた。
消した。
「コレ、ヤバい。何がヤバいって出しただけで分かる威力もだけど、消費
『強力な魔法程消費MPが大きい』という、至極当然のルールまで完全に無視している。
異能がルールを無視するのは今に始まったことではないが、この<
「仁様、その異能を使ってレベル10の魔法を使用したら、それだけで1国を滅ぼせるのではないでしょうか?首都と言わず領土ごと……」
「多分、それほど難しくはないだろうな……」
「……(ブルブルガクガクブルブルガクガク)」
どう考えても、明らかな過剰戦力である。
ほら、灰人もメッチャ怯えている。大丈夫だよー。怖くないよー。
灰人をあやす様に撫でると、何とか震えが収まってきたようだ。
俺に怯えていたはずなのに、俺があやして治るってどうなっているんだろうね?
「この異能、真面目に扱いを考えないと危険かもしれない。下手な事をすると何が起こるかわからないぞ。使用の際にはアルタへの確認と検証が必須だな」
「はい。そう言う意味では、この場所は丁度いい気もしますね。誰にも迷惑をかけずに色々と試すことが出来ますから」
「確かに、それは言えているな。ここは、丁度いい異能の実験場になるだろう」
巻き込む相手がおらず、虚獣と言う格好の的もいる世界だ。
織原じゃないが、この世界は色々と都合がいいな。
そう言えば、アルタ。<
A:異能は元々スキルよりも高次の存在なので、<
例えばどんな効果がある?
A:異能に使用した場合の効果ですが、例えば<
今回の異能は俺が
これで、俺は
もちろん、それが出来たからどうしたという話なのだが……。
とりあえず、アルタの勧めるままに異能5つに<
異能が開眼したので後回しにしたが、シューベルトの疑似人格の再構築も完了している。
そろそろ、シューベルトから情報を引き出すとするかな。
A:では、シューベルトを起動いたします。
シューベルト:ん?なんだ、ここはどこだ?おい、一体どうなってやがる!?動けねえ!?いや、そもそも身体がねえ……?俺は一体……。
A:煩いので、一旦停止いたしました。
確かに煩かったから仕方ないね。
A:停止状態で基礎情報を強制インストール。声量を制限事項として設定。禁止ワードを設定。違反時にはレベル10の激痛を適用。再起動いたします。
S:ふざけんな!何で俺が人間なんかに使われなきゃならねえんだよ!このクソ……がががががっががっががががが……。
A:マスターにとって有害と判断したので、強制停止いたしました。調整が終わるまで表には出さないことにいたします。
やっぱり、アルタは疑似人格に対しては辛辣で容赦がない。
表に出ないと言う事は、シューベルトからこの世界の情報を得ることも出来ないと言う事か。
元々、シューベルトを吸収したのは、それが目当てだったのだから、本末転倒と言える。
しかし、今の状態ではまともに話も聞けないだろうから、結果的には同じと言う訳か……。
A:問題ありません。疑似人格として再構築したとき、シューベルトの記憶情報は全て履歴閲覧を完了しています。どうやら、必要最低限の情報を与えられた状態で配置されていたようで、大した情報は持っていませんでした。
アルタが有能過ぎて、シューベルトの疑似人格の役割が消えた。
そうか、アルタは疑似人格の記憶閲覧まで出来るようになったのか。
そして、碌な情報を持っていないシューベルトに失望する。やっぱり、ポンコツか……。
A:マスターの前に出しても問題がないレベルまで調教いたしますので、シューベルトの顕現はしばらくお待ちください。
大天使の調教っていうのも、中々に凄まじい字面だよな。
まあ、あのままじゃ相手をするのも疲れるし、アルタに任せてもいいか?
A:はい、お任せください。
シューベルトの件をアルタに丸投げして、何とか入手できた情報について尋ねる。
1番気になるのは、『境界の門』の接続先だな。一応、シューベルトは門番のような立場だったみたいだし、向こうの世界のどこに繋がっているのか、知っているんじゃないか?
A:知りません。
この世界がなぜ女神に見捨てられたのか。元々どんな世界だったのかはわかるか?
A:知りません。
この世界には虚獣と灰人しかいないのか。そもそも灰人っていうのは一体何なんだ?
A:知りません。
思っていた以上に重要な情報が出てこない。マジであの大天使ポンコツなんだけど……。
……いや、ある意味ではそれが正しいのかもしれない。下手に門番に詳しい情報を与えると、余計な情報漏洩のリスクが上がるからな。
門番には最低限の情報だけ与えるというのは、確かに理にかなっている。
余談だが、これでシューベルトを疑似人格化したメリットは無くなったと言う訳だ。
虚獣の生成と言う役割は残るが、タモさんが<吸収>しても同じことが出来る。
シューベルトの疑似人格にしか出来ないことが存在しない。しかも疑似人格は調教待ち。
これはちょっと、失敗したかな……。
さて、シューベルトとの戦いで得られたモノの確認が一通り終わったので、そろそろ向こうの世界に戻る準備を始めようと思う。
まず、最初にやらなければいけないことは、残る虚獣達の殲滅だろう。
そして、
故に既に存在している虚獣は邪魔でしかない。つまり、殺していい訳だ。
俺達は『境界の門』の前に『ポータル』を設置し、分担して虚獣達を倒していくことにした。この世界の中同士ならば、『ポータル』は有効になるようだ。
そして、俺が『ポータル』を強化したことで<
「『飛剣連斬』!<縮地法>!『飛剣連斬』!<縮地法>!『飛剣連斬』!<縮地法>!『飛剣連斬』!<縮地法>!」
俺は強化された<縮地法>で破壊されたビル街を縦横無尽に駆け巡り、<飛剣術>の連射で虚獣達を殲滅していった。
なお、<飛剣術>には<
マリアも概ね俺と同じような戦術で虚獣狩りをしている。
タモさんは
タモさんの攻撃が1番派手だ。まあ、俺が派手な攻撃をすると、被害がヤバい事になるから、それも仕方がないことだろう。
なお、灰人は『境界の門』の前でお留守番だ。
念のため、アルタの端末であるベガと一緒である。
マップの拡大により、索敵範囲が増加したため、今まで以上に効率的な殲滅がなされた結果、たった2時間で残りの虚獣が全滅することになった。
もちろん、経験値もウハウハである。
良かった。織原にレベルで負けていたのが、何か嫌だったんだよな……。
虚獣の殲滅が終わり、この世界でやり残したことがない事を確認した俺達は、『境界の門』の前に集合している。
『境界の門』がどこに通じているかは不明だが、流石に転移先に罠があるようなことはないだろう。イベント的に盛り上がらない罠を織原が仕掛けるとは思えないからな。
それでも、注意を促すくらいはしておいた方が良いだろう。
「大丈夫だとは思うが、『境界の門』を超える時は注意を怠るなよ」
「勿論です。あの時のような醜態は二度と晒しません。絶対に……」
マリアが目に強い意志を宿して宣言する。
醜態っていうのは多分、織原の策略によって俺を目の前で転移させられた時の事だよな。
俺はまったく気にしていないんだけど、マリアはかなり気にしているみたいだな。
「マリア、過ぎたことをあまり気に病まないように」
「はい……。お気遣いありがとうございます」
うむ、俺が励ましても逆効果にしかならないかもしれん……。
実際問題、織原のアレをどうやったら止められていたかと問われると、……無理じゃね?どう考えても回避不可能じゃね?避ける暇すらなかったくらいだし……。
あんな手を考える織原が規格外なだけで、マリアに不手際は一切なかったよな。
「アレを避けるには、予知能力でもなければ無理だっただろうからな」
「予知能力……、その手がありましたか」
「いや、冗談だったんだけど……」
「仁様、私、きっと予知能力を身に着けて見せます!」
「お、おう……」
どうやら、マリアの変なスイッチを押してしまったようだ。
そもそも、この世界に<予知>のスキルは存在するのだろうか?割かしメジャーなスキルだから、ある可能性は低くないと思うけど……。
A:はい、予知に関するスキルは複数あります。そのどれもがユニーク級のスキルです。
やっぱり、あるみたいだな。
そして、マリアならば本当に予知系統のスキルであろうと覚えかねないのが恐ろしい。
マリアの今後の育成方針はともかく、そろそろ本当に『境界の門』を越えよう。
俺は『境界の門』の金属製の扉を開く。開いた先には光が渦巻いており、先を見通すことは出来なくなっていた。
『境界の門』は意外と大きく、俺達が3人横になっても十分に余裕がある。
「じゃあ、手を繋いで一緒に『境界の門』を通ろう」
「はい」
《了解……》
「……(コクリ)」
俺を中心に右にマリア、左に
なお、ベガは<
「行くぞ!」
マリアと灰人(withタモさん)の手を引き、共に『境界の門』へと飛び込んでいく。
『境界の門』に入ると、次の瞬間には視界が切り替わっていた。
どうやら屋内にいるようで、明かりがないので真っ暗である。
「『ライトボール』」
マリアが<光魔法>を使い、光源を確保してくれた。
<
「どうやら、無事に戻れたみたいですね」
「ああ、それはいいんだが、結局ここはどこなんだ?」
「……(?)」
A:国で言えば、『エルガント神国』のようです。
エルガント神国?神国って辺りが気に入らないな。
……とりあえず、俺の個人的な趣向は後回しにして、聞くことを聞こう。
「エルガント神国?一体、どんな国なんだ?」
A:エルディア王国の北、セラの故郷であるサノキア王国を越えた先にある宗教大国です。国教は女神教です。エルディアで戦争に反対した勇者達が滞在している国でもあります。
間接的ではあるものの、意外と縁のある国だった。
戦争に参加しなかった勇者がいると言う事は、今後の対魔族の中枢になるのだろう。
国教は気に食わないが、一応は様子を見ておいた方が良いかもしれないな。
国レベルでどこか、と言うのは分かったのだが、もう少し詳しい情報が欲しい。
A:ここはエルガント神国の最北端の街、だった場所です。何代か前の魔王によって滅ぼされた当時の神都、首都でした。それ以降、縁起が悪いと言う事で復興もなされず、ずっと放置されている土地になります。現在の神都に行くにはかなり南下しないといけません。なお、ここはかつての大聖堂の跡地、教皇しか入れなかった地下の隠し部屋です。
なるほど、道理でマップを見ても周囲に誰もいない訳だ。
そして、折角廃墟みたいな世界から戻って来たのに、また廃墟と言う皮肉である。
俺は廃墟マニアではない。
俺はふと思い出して背後を見る。
俺達が使った『境界の門』と同じデザインの扉がこちらにもある。扉を開いてみれば、向こうで見たのと同じように光が渦巻いており、再び向こうの世界に行けるようだ。
「1度使うとしばらくは使えない、とかいう事もなさそうだな」
「はい。これでいつでも向こうの世界に行けます」
「……(ふるふる)」
灰人は向こうの世界には戻りたくない様で、全力で首を横に振っている。
余談だが、灰人はこの世界に来ても灰色のままだった。
もしかしたら、灰人に色が付くかもしれないと考えていたので、少しだけ残念である。
しかし、色が付いたら灰人とは言えない気もするな。灰人のアイデンティティ崩壊の危機である。なんて呼ぶべきだ?カラー人?いや、語呂を考えると
「ここが何処かもわかったし、そろそろ屋敷に戻るとしようか」
「はい。皆も仁様のお帰りを心待ちにしているはずです」
と言う訳で、俺達は『ポータル』を発動してカスタールの屋敷に戻ることにした。
俺達がカスタールの屋敷に戻ると、50人のメイド達が横一列に並んでいた。
「仁様、お帰りなさいませ」×50+α
メイド達は一斉にお辞儀をして唱和する。
それとは別に、さくらやミオ、ドーラ、セラのメインパーティ組や、カスタール冒険者組、エステア探索者組、各地の従魔、更には王族までと、俺の配下もかなり集まっていた。
「ああ、ただいま」
俺がそう返すと、皆がわあっと声を上げて俺の元に集まって来た。
「仁君、お帰りなさい……。無事に帰って来られて何よりです……」
「おかえりー。念話では話をしていたけれど、やっぱモノホンが1番よね」
《わーい、ごしゅじんさまが帰ってきたー!》
「お疲れ様ですわ。随分と色々あったみたいですわね」
「ああ、細かい話はまた後でしようか。また、色々と面白い事になっているからな」
さくら達メインパーティ組が俺の帰還を喜んでくれる。土産話はまた後でにしよう。
次にメイド達の方を見て、先頭にいたルセアに話しかける。
「俺が戦っている時、ルセア達が配下に指示をしてステータスを集めてくれたそうだな。随分と助かったよ、ご苦労様」
「はい、勿体ないお言葉です。主様、ご無事の帰還、心よりお待ちしておりました」
ルセアをはじめとするメイド達が深々とお辞儀をした。
織原との戦いでは、メイド達が配下に指示をして、効率よくステータスを集めてくれていたそうだ。あの時はアルタのサポートも無かったから、かなり大変だっただろう。
A:申し訳ございません。
いや、アルタの行動を責めるつもりはないからな。
さっきも言ったが、織原の方が規格外なのだから。
それから、カスタール冒険者組、エステア探索者組、従魔と順番に声をかけていく。他にも所属はないが俺の配下に加わっている者達にも声をかける。
彼らも織原との戦いでは、ステータスを集めるために頑張ってくれたみたいだから、しっかりと労わないとな。
一通り挨拶をした後で、一旦解散と言う事になり、俺は久しぶりに風呂に入ることにした。
俺が風呂から出た後は、盛大なパーティを開く予定だそうだ。
向こうの世界でもミオの料理を食べていたが、やはり色のない世界でマリアと2人で食べるのは物寂しいからな。なお、タモさんの主食は虚獣(違う)で、灰人は何も食べない。
「ふいー……」
久しぶりに風呂にゆっくり浸かり、あまりの気持ちよさに思わず声が出てしまった。
流石に何日も濡れタオルで拭くだけで済ませるのは厳しいものがあるよな。
一応言っておくと、<
「どうだ?気持ちいいか?」
「……(コクコク)」
どうでもいい話だが、灰人も俺と一緒の風呂に入っている。
見た目的には子供だし、性別も無いようだからとりあえず男湯に入れてみたのだ。
灰人は身長が低く、座るとお湯が顔の高さまで来てしまうので、俺の膝の上に乗せている。
灰人を連れてきたことに後悔はない。しかし、今後の扱いについては悩むところがある。
何せ、碌にコミュニケーションが取れないのだ。
一応、話は通じているみたいだが、灰人が自身の意思を伝える方法がジェスチャーしかない。それも、「はい」か「いいえ」くらいの本当に簡単なものに限られる。
「お前、これからやりたい事とかあるか?」
「……(コテン)」
灰人は首を傾げるだけだ。
「別に迷惑かける訳でもないから、何もしなくても構わないと言えば構わないが……」
「……(コテン)」
灰人は生きていくのにほとんどエネルギーを消費しない。
物を食べる必要もないので、俺達の食事に興味を示すこともなかった。
小さくて邪魔にはならないし、食費もかからなければ、排泄もしない。灰人には出来ることも無ければ迷惑になることも無い、という微妙な立ち位置なのである。
「……(コテン)」
「あっ!」
-ドボン!-
灰人が首を傾げた拍子に、俺の膝の上から転げ落ちてしまったのだ。
完全に体勢を崩しており、ゴボゴボと溺れかけているので、さっと持ち上げて救出する。
「はう!」
大きく息を吐いたのは、救出された灰人だった。いや、現在は彩人になっているのか……。
そう、溺れて、助けたと思ったら、いつの間にか灰人は彩人となっていたのだ。
つまり、簡単に言うと灰人に色が付きました。
「あれ?」
再び首を傾げる彩人だが、今回はセリフ付きである。
灰人、改め彩人の身長や全体的な容姿は変わっていないのだが、肌に色が付き、目は黒くなった。髪だけは灰色のままだけど、髪型はセミロングになっていた。
そして、全体的に生気が増した気がする。
なお、持ち上げた時に気付いたのだが、女の子になっていました。
A:マスター、ステータスをご確認ください。
ん?どれどれ……。
名前:なし
LV1
性別:女
年齢:0
種族:灰人(異世界人) ×1024
スキル:
特性:[共鳴][希薄]
称号:転移者
驚くべきことに、彩人のステータス表記までが変わっていた。
より正確に言うのなら、こちらの世界の仕様に適合したとでも言うべきだろうか。特性の項目は残っているし、人数表記もあるみたいだが、概ねこの世界の仕様である。
ホント、何が起こったんだろうね?
この章は後1話あります。
その次の章では旅を一旦お休みして、アレコレやります。
この章で話を進めたので、また話が進まない章です。その次はまた話が進む章です。