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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第7章 灰の世界編

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第111話 大天使と境界の門

章ボスの登場です。もうすぐこの章も終わります。

明らかに織原の方が脅威度が高い……。

 空王獣バハムートの寝込みを襲ってから2日。

 不死鳥フェニックスタモさんに乗って世界の中心に向かっている。

 空王獣バハムートタモさんに乗った方が速いのだが、背中に乗ると噴出孔が近くて煩いのである。いくら速かろうと、煩い中で空の旅をするつもりはない。


 この2日間は虚獣も灰人も出てこなかったが、本日ついに次なる虚獣を発見した。

 織原の発言から考えるに、ここから先は今まで以上に虚獣が密集しているのだろう。

 経験値、経験値。


 ああ、余談だけど発見した虚獣は単眼巨人サイクロプスでした。個体名が違うだけで、見た目は完全に前に戦った奴と同じだったよ。

 モンスターのグラフィックが完全に使い回しだよ。色違いにすらしてないよ。



「うん、思っていた以上に数が多い」


 世界の中心付近で虚獣を発見してから2時間後、あまりの虚獣の多さに思わず呟いた。


「織原が密集しているって言っていたから、本当に密集しているとは思っていたけど……。まさか休む暇がないとまでは思わなかったな」

「虚獣と戦っている時に、次の虚獣が向かってきますからね」

「……(こくり)」


 マリアの言うように虚獣と戦闘を行うと、それに気が付いた虚獣が向かってきて、休む暇のない連戦になってしまっているのだ。

 いくら虚獣が大した事のない強さで、俺とマリアで楽々倒せるとは言え、これは少々面倒くさい。なお、灰人はタモさんが守っているので安心である。


 今は周囲の虚獣をあらかた殲滅し終わり、戦闘音に気付ける範囲には虚獣がいない状態である。なお、最初の1匹との戦闘から2時間ぶっ続けであった。

 織原の奴が密度だ何だ言っていたけど、今の時点で密度は十分に濃いと思うのだが……。


「新しい虚獣が出てくる訳でもないし、単眼巨人サイクロプス神狼フェンリルもタモさんに食わせたので、もういちいち虚獣と戦う理由が無くなった。つまり、後は殲滅だけすればいいと言う事だ」

「殲滅ですね。承知いたしました」

「……(?)」


 と言う訳で、俺とマリアは不死鳥フェニックスタモさんに乗ったまま、空中から地上に向けて<飛剣術>を放つだけの簡単なお仕事に従事することになった。

 時々、不死鳥フェニックス空王獣バハムートもやってくるが、それが一体どれだけの意味を持つというかはお察しである。


「ここまで虚獣の数が多いと、流石に経験値もヤバいな」

「今、レベル1000を突破いたしました」


 レベルが上がることによって、次のレベルまでの必要経験値は上昇する。

 しかし、圧倒的な数の虚獣はそんなの関係ないとばかりに、俺達のレベルをガンガン上げてくれるのだった。

 完全にボーナスステージです。ありがとうございます。


「ふむ、織原のレベルを見て予想はしていたが、本当にこの世界のレベルキャップは1000以上だったようだな。この調子でどこまでレベルを上げられるのか見物だな」


 織原のレベルは1700以上だったから、1000で打ち止めと言う事はないと思っていたが、織原のことだから、何か裏技を使ってレベル1000を超えている可能性もあったのだ。


「少し虚獣を残しておいて、他の配下のレベリングに使うのもありかもしれないな」

「……(ふるふる)」


 灰人が全力で首を横に振っている。

 灰人的には虚獣は全滅させておいて欲しいようだ。


「私としては仁様のレベルが上がる分には何の不満もありません。向こうの世界でここまで上げるのは多分不可能ですし、レベルが上がった分だけ仁様が安全になりますからね」

「虚獣1匹でレベル200、3匹で350くらいになれる経験値が手に入るだろ。普通、敵1匹倒して経験値稼いでレベル上げるよりも、ステータス強奪した方が効率良いけれど、最初の10匹分くらいなら、その条件が逆転するんじゃないか……?」


 灰人もマリアも虚獣を残すのには反対のようだが、気にせずに皮算用を始める。


 通常、1回のレベルアップで上昇するステータスは、毎回それほど大きくは変わらない。

 <生殺与奪ギブアンドテイク>がある以上、ある程度高いレベルの敵を倒して、そのステータスを奪った方が結果的に強くなれる。

 だが、虚獣の経験値は一気に何レベルも上昇するほどだ。その上昇値を計算に入れると、1回の戦闘で得られる合計ステータスは虚獣戦の方が大きくなる可能性は高い。

 しかし、ここでパワーレベリングをすると、ステータスが手に入らずにレベルだけが上がることになる。逆に、向こうの世界で戦えば、経験値とステータスの両方が手に入る。そして、この世界でレベリングをすると、向こうの世界では今後レベルが上がりにくくなる。


 結論、利点もあれば欠点もある。


「仁様、計算をするのは構わないのですが、ここでは魔法や一部スキルが使えませんから、配下が狩場にするのは厳しいのではないでしょうか?」

「ああ、そう言った問題もあったか」


 言われてみればここでは魔法や特定のスキルが封じられる。

 俺の配下には魔法を中心に戦う者も多いし、そうでなくても虚獣は中々の強敵だ。……多分、……恐らく。

 大きい負担をかけてまでレベルアップにこだわる意味は薄いだろう。


 結論、リスクの方が上回ったので却下。


「よし、レベリングは気にせずに虚獣を全滅させよう」

「……(コクコク)」



 しばらく虚獣の様子を見ていて分かったのだが、確かに少しずつだが虚獣の密度が上がってきている。

 なお、ずっと<飛剣術>を使い続けるのも飽きるので、時々は休憩して不死鳥フェニックスタモさんに虚獣退治を任せたりもしている。


「このまま行くと、世界の中心に着くころには虚獣でギチギチになりそうだな。1回<飛剣術>使うだけで何匹倒せるようになるか楽しみだ」

「確か、現在の最高は1回の<飛剣術>で虚獣3匹討伐でしたよね」

「ああ、目標は10匹撃破だな」


 単純作業の連続は飽きるので、現在では<飛剣術>を1回使う事で何匹の虚獣を同時撃破できるかと言うチャレンジをしているのだ。これがなかなか難しく、射線上に入れても上手く当てないと討伐までには至らないのだ。

 ちなみにマリアはそのチャレンジには参加せず、俺の取りこぼしを黙々と討伐している。

 世話をかけるね。


「さて、今日はこれくらいにしておくか。討伐が中心になったせいか、思ったよりも距離が進まなかったな。まあ、1日2日ズレるくらいは仕方ないか。連絡もしているし……」

「はい。その旨も明日の定時連絡で報告いたしましょう」


 思ったよりも進まなかったことを残念に思いながら、その日の移動は終了した。

 なお、虚獣の活動圏内で寝るのは嫌だったので、最初の虚獣発見箇所よりも中心部から離れた位置で寝ることにした。


 ……結論から言えば、この考え方は正解だった。

 何故なら、先にも述べた虚獣の活動圏内に倒したはずの虚獣達が復活していたのである。

 名前も変わっているので、同一個体と言う訳ではないようだが……。


「倒された虚獣が補充されたのか?それとも中心の虚獣が広がって来ただけで総数は変わっていないのか?」


A:密度を考えると、補充されたのだと思われます。


「……となると、『回りながら倒して進む』という考え方は早急に捨てた方が良さそうだな」

「はい、寝ずに進めば可能ではありますけど……」

「現実的じゃないな」


 予想ではあるが、討伐スピードの方が補充スピードよりは速いと思う。

 ただし、俺達には睡眠時間と言う待ち時間が発生する。流石に、それだけの時間があれば虚獣の補充も終わってしまうのだろう。

 寝ずに戦うとか、寝てる間はタモさんに任せるという手もあるけど、態々そこまでするくらいなら、補充する元を断つのが大切だろう。

 ……補充されるのなら、無限レベルアップとかも出来るよな、とか考えてないよ。ホントだよ。


「恐らく、世界の中心付近に虚獣を補充している何かがあるはずだ。まずはそこに向けて真っ直ぐ進んでみよう」

「はい。直線で進めば1日掛からずに到着すると思われます」


 今までずっと螺旋を描きながら進んでいるので、世界の中心がどこにあるのかは概ね予想できている。当たりをつけて真っ直ぐ進んでも問題はないだろう。

 距離を概算してみたが、一直線に進めば今日中に世界の中心にたどり着けそうだ。


「と言う訳で、Go!不死鳥フェニックスタモさん!虚獣の群れを突き進め!」


 俺達は不死鳥フェニックスタモさんに乗り、<飛剣術>を連発しながら真っ直ぐに世界の中心へと向かうのだった。



 さて、<飛剣術>祭りも早数時間、もうじき世界の中心へとたどり着けそうだ。

 現在、レベルは大体1200くらいまで上がった。流石にレベルの上りも遅くなってきたな。


「もうじき世界の中心だな。お約束としては1番強い虚獣がいるんだろうな」

「仁様の仰る通りだと思います。出来ればわた……」

「ああ、当然俺が戦うぞ」


 マリアのセリフを遮って言う。

 多分、マリアが戦うと言いたかったんだろうけど、流石にそれは許容できない。


「……はい。そうですよね、仁様はそう言うお方ですよね。言ってみただけです……」

「悪いな」

「いえ、予想は出来ていましたから、ただ、何かあったら迷わずに加勢いたします」

「まあ、それは仕方ないか……」


 この世界に転移したとき、マリアには大分心配をかけたみたいだからな。

 これ以上マリアの心労を増やすのは、……ちょっとくらいは控えてやらないとな。


「……(ビクビク)」


 そして、先程から灰人が何かに怯えているようだ。

 そして、灰人が俺の服を掴む手の力も強くなっている(赤ん坊の握力が、幼児の握力になったくらいの差)。

 今まで、虚獣が相手でも怯えたような姿を見せていなかった灰人が、ここまで怯えているのは何でかね?


 その答えは、それから間もなく明らかになった。


「これは……凄まじい気配ですね」

「ああ、始祖神竜や鬼神ですら比較にならないな」


 世界の中心が更に近づいた所で、俺達も灰人が何に怯えていたのかを知った。

 それは、簡単に言えば『存在感』だ。今言った通り、始祖神竜や鬼神と言った高レベルの魔物をはるかに超える存在感、気配。それが世界の中心から放たれ続けているようだ。

 この世界においては俺達よりも灰人の方が気配には敏感のようだ。それ故に俺達よりも早くその存在感に気付き、早くから怯えることになってしまったのだろう。


「この先に何がいるんだろうな。今から楽しみだよ」

「仁様、楽しむのは構いませんが、くれぐれもお気を付けください」

「ああ、わかっている。油断はしないつもりだ」


 何がいるのかはわからないが、結構な強敵であることは間違いがないだろう。

 存在感イコール強さではないモノの、大まかな戦力の予想には使えるはずだ。

 その点で考えると、始祖神竜や鬼神以上の相手と言う事になる。魔法や一部スキルが封じられた状態なので、流石に油断できる相手ではない。



 そして、さらに進むこと1時間、ついに世界の中心と思われるエリアに到達した。

 そこには、今まで以上に密集した虚獣達と、その主が待ち構えていたのであった。


「アレが虚獣達の親玉か」

「存在感から考えて、間違いないかと思われます」


 現在はマップが制限されて確認できる範囲が狭いので、相手が宙に浮かんでいたらマップの確認と視認にそれほど差がなくなるのだ。

 俺達の視線の先には宙に浮かんだ光り輝く天使の姿があった。


個体名:シューベルト

種族名:大天使アークエンジェル

所属:神の眷属

階位:

・体力:SSS

・攻撃:SSS

・防御:SSS

・俊敏:SSS

・技術:SSS

特性:

[神威][虚獣生成]


 こちらの天使は、エステアの迷宮にいたようなマネキンではなく、女性の姿をしていた。

 大天使アークエンジェルはビル街に開いた直径5km程のクレーターの中心に浮かんでおり、長い金髪で白い法衣を着て、4対8枚の鳥のような白い羽を携えていた。


 何となく、最近契約した大精霊のレインに特徴が似ているんですけど……。

 まあ、レインの髪は金ではなくて白金プラチナだし、翼も鳥の羽じゃなくて光る楕円形のようなものだから、違うと言えば違うのだけれど。

 ただ、人間離れした美貌と、全体的な雰囲気が似ているのは間違いがない。


 ちなみに、目の色は今のところ分からない。

 何故なら、大天使アークエンジェルのシューベルトは現在目を閉じているからである。


 シューベルトとは直接の関係はないが、例のクレーターの中心部、丁度シューベルトの真下には、『境界の門』と言う扉が設置してある。

 まさしく、異世界へ繋がる門はこれ以外には考えられないだろう。


 しかも、シューベルトの特性には[虚獣生成]と言うのがある。

 アレが虚獣を産んでいる原因と言うのならば、シューベルトを倒すことで虚獣が増えることもなくなると言う事だろう。

 1つのイベントで全ての問題が解決するというのは、中々に気持ちいいものである。


「しかし、ここまで不死鳥フェニックスタモさんが接近したのに、何の反応もしないのは何故だ?よっ!」


 見ようと思えばこちらの姿を見れる距離なのに、未だにシューベルトは身じろぎ1つしない。なお、セリフの最後の『よっ!』は近づいてきた空王獣バハムートを首チョンパしたときの掛け声である。


「まあ、動く気がないのなら丁度いい。今の内にこの辺りの虚獣を殲滅しておこうか」

「はい、了解いたしました」

「……(ブルブルガクガク)」


 灰人、メッチャ震えている。


 俺とマリアが周囲の虚獣を蹴散らして回っていると、シューベルトが急にモゾモゾ動き出した。ついにシューベルトとの決戦か……と思ったのだが、どうやら虚獣を補充するだけのようだ。

 シューベルトの正面に光の粒子が集まり、1分もしない内に1匹の虚獣が現れていた。あの粒子は虚獣が死んだ時に出てくる奴だな。


 とりあえず、シューベルトを無視して周囲の虚獣を倒しまくる。

 虚獣の密度が高いせいで、補充するよりも倒す方が早いからだ。そして、ついに<飛剣術>1発で12匹の虚獣を同時に討伐することに成功した。やったね!



 その後、少々時間がかかったが、周囲の虚獣を軒並み倒して、残るはシューベルト、補充されたばかりの虚獣が残るだけとなった。


「全く攻撃してこないな。門番的な役割だと思ったのだが……。もしかして、門を通ろうとしない限り、襲って来ないとか?」


 門番ならば本人が攻撃されるか、門を通ろうとしない限り襲って来ない可能性もある。

 ゲームとかだとそのパターンが多い。


「その可能性はありますね。仁様、如何なさいますか?」

「別に大天使アークエンジェルを倒すことが目的と言う訳でもないから、試しに『境界の門』に向かってみようか」

「……(ブルブルコクコク)」


 灰人が震えながら全力で頷いている。

 虚獣の全滅は賛成のようだが、シューベルトは放置したいようだ。


「わかりました。私もご一緒してもよろしいですか?」

「ああ、織原が使ったはずだから、1回しか使えないと言う事はないだろう。でも、1回使うとしばらく使えなくなる、くらいはあるかもしれないから、可能な限り一緒に向かった方が良いだろうな」


 アルタに確認を取ったのだが、『境界の門』やシューベルトについては、ほとんど情報を取得できないらしい。

 なので、ぶっつけ本番で色々と確認していくしかない。そして、出来るだけ最悪の事態を想定して行動しよう。


 俺達は不死鳥フェニックスタモさんから降りて進んだ。戦闘能力の低い灰人はタモさんが全身に纏わりついて、タモさんアーマーモードになっている。確実に、この方が強い。


 クレーターを突き進み、『境界の門』まで後100mと言ったところで、急にシューベルトが美しくも怪しく光る金色の瞳を見開いた。

 やはり、『境界の門』に近づくと排除してくる仕様か。


「わ、わあああああ!!!???何で!?何であんな所に人間がいんだよ!?『境界の門』を抜けられちまう!虚獣は!?何で全く残ってねえんだ!?ヤバい!寝過ごした!!!」


 はい。大天使アークエンジェルの神秘性がどこかに吹っ飛んで行きました。

 ついでにシューベルトも俺達の方に飛んできました。


 飛んできたシューベルトは『境界の門』の前に音もなく着地し、俺達をビシッと指差した。もう片方の手は腰に当てている。


「オイ、侵入者共、ここから先には一歩たりとも進ませねえぞ。とっとと帰りやがれ!」

「ガラの悪い天使だな……」


 整った顔、綺麗な澄んだ声でガラの悪いセリフで凄まれるとか、中々できる経験ではない。

 もちろん、したい経験でもない。


「……(ブルブルガクガクブルブルガクガク)」


 そして、灰人の震えが最高潮に達している。


「チッ、じゃあ望み通りにしてやンよ!コホン、……人の子よ。ここは汝等が犯してはならぬ聖域です。即刻立ち去りなさい。さもなければ、私が天罰を与えます」

「おお、それっぽい」


 今度は手を胸の前で組み、祈りを捧げるようなポーズでそんな事を言うシューベルトである。確かにこれならば天使っぽい。


「つーか、お前外から来た人間だよな?この世界には今は灰人しかいないはずだし……。どうやってこの世界に来やがった?さすがに『境界の門』を通ったら俺が気付くぞ?」

「織原って勇者に転移系の祝福ギフトで連れてこられた」


 素に戻ったシューベルトの質問に答える。

 シューベルトがどれほどの知識を持っているのかわからないので、とりあえず余計な補足を入れずに端的に答えた。


「織原……ああ、この間『境界の門』を越えてきた勇者か。アイツ、そんなモンを持ってやがったのか、メンドくせえ。……この世界に入り放題とかマジ勘弁しろよ」

「俺達はその『境界の門』を使ってはいけないのか?織原の奴は使ったんだよな?」


 不快そうに顔を歪ませるシューベルトに、今度はこちらから質問をする。


「ん?ああ、お前、勇者じゃねえだろ?ここを通っていいのは勇者だけだ。勇者がいないと思って昼寝してたら、いきなり『境界の門』への接近者だろ?マジで焦ったぜ!ん?何だ?よく見たらお前も勇者なのか?微妙に反応が変だが……」


 シューベルトはそこでマリアの方に目をやった。

 ああ、そうか。一応マリアも『勇者』の称号を持っているから通れるのか。


「では、私が、勇者がいるのですから、私達は通っても構いませんね?」

「イヤ、通っていいのは勇者だけだ。他の奴らは通さねえ」


 首を横に振るって拒絶するシューベルトだが、その拍子に胸が揺れる。


「勇者以外も通ること自体は出来るのですか?」

「ああ、その通りだ。だからこそ、この俺が門番みてーな事をやる羽目になったんだよ。マジでメンドくせえ!さっさと完全消滅しろよ、このクソ世界!」


 マリアの質問に答えた後、急に不機嫌になったシューベルトが吐き捨てる。


「ところで、アンタはこの世界についてどれくらい知っているんだ?俺達、この世界の事はあまり詳しくは知らなくてな」

「ああん?何で俺がそんなことを説明してやらなきゃなんねえんだよ!馬鹿か!」


 イラッ☆


「……仁様を愚弄するのなら、私が相手になりますよ」

「おい、マリア。そいつは俺が倒すと言っただろう」

「ハッ!この俺を倒す?おもしれえ冗談じゃねえか!ここらにいた虚獣を倒して調子乗ってんのかも知れねえが、俺は虚獣とは比べ物にならねえくらいには強えぞ?」


 シューベルトは俺達を馬鹿にするように顔を歪める。


「それは丁度良かった。この世界の虚獣はポンコツしかいなくて飽きてきたところだったんだよ。虚獣より強い親玉なら、少しは手応えがあると期待してもいいんだよな?」

「言いやがったな。そこまで言っちまったからには、大人しく逃がすわけには行かねぇぞ?」

「奇遇だな。俺も逃げるのは嫌いなんだ。ほら、来いよ。お前なんか、俺1人で十分だ」


 手招きをしながら挑発すると、シューベルトの顔から表情が消えた。


「死ね」

「お前が死ね」


 次の瞬間、シューベルトは高速で俺の背後に回り込み、手刀でその首を狙ってくる。

 しかし、シューベルトの手刀が届くよりも先に、振り向いた俺の腹パンがシューベルトの腹を貫く。


「グフッ!」


 シューベルトの腹からは血が流れず、虚獣と同じような光の粒子が溢れ出ていた。


「グハッ……、な、ん、だと……、俺が腹パン1つで……、ここまでの、ダメージを……」

「ふむ、一応殺す気で殴ったのに死ななかったか。結構頑丈なのかな?」


 いつまでも腹を貫いている訳にもいかないので、シューベルトの腹から腕を引っこ抜く。


「グッ!クソ!」


 そう吐き捨てるとシューベルトは大きく距離を取り、腹に手を当てる。

 すると、手から光の粒子が溢れて腹へと流れ込んでいく。一通り流れ終わると、腹から溢れていた光の粒子も収まった。

 ん?何かシューベルトの存在感が弱くなった気がするな。


A:シューベルトや虚獣は精霊に似たエネルギー生命体のようです。攻撃により失ったエネルギーを他の箇所から補充したため、全体のエネルギー量が少なくなりました。エネルギー量は存在感と同義であり、エネルギーの総量が減ったので、比例して存在感も低下いたしました。


 どうやら、攻撃が効かなかった訳ではないみたいだな。

 なら、後はエネルギーが無くなるまで殴り続ければいいと言う訳だ。


A:はい。エネルギー量をHPと考えて構わないと思います。


 向こうの世界とは若干意味が違うが、この世界にもHPに相当する物はあると言う事か。

 そう考えると大分分かり易いな。……ええと、シューベルトを一発殴ったら、大体存在感が2/3くらいになったと思う。つまり、後2発殴れば死ぬ。


「い、今のは油断しただけだ!俺は本当は遠距離攻撃型なんだ!今度こそ死にやがれ!」


 そう言って掌をこちらに向けるシューベルト。

 そこから光の粒子がレーザーのように迸る。……最近、この手のレーザー系の攻撃をしてくる敵が多い気がする。内2人は勇者、内1人は天使。なるほど、女神関係者か。

 もしかして女神、持ちネタが少ないのか?


「ふん!」


 俺は向かってくる超極太レーザーを裏拳で殴り横に弾く。


-ドゴオオオオオオオオオオオン!!!!!-


 弾かれたレーザーは地面に深い溝を残しながら飛んで行く。見えなくなるまで目で追ったが、まだ飛び続けているようだ。

 うん、今までの勇者のレーザー攻撃とは格が違うね。


「は?」

「ふん!」


 呆けた顔をするシューベルトに接近し、再び腹パンを喰らわせる。


「グフオッ!」


 先程よりも少し強めに殴ると、シューベルトは大きく吹き飛び、痛みでゴロゴロと転げ回った。

 その拍子に法衣が捲れて白いパンツが露わになるが、この状況では喜びようもない。


 先程同様に腹に手を当てて回復するシューベルト。

 しばらくすると、シューベルトがヨロヨロと起き上がって来た。


「ク、クソがぁ……!お前、この俺を本気で怒らせちまったな。この手だけは使いたくなかったんだが仕方がねえ!恨むなら、俺を本気にさせちまった自分自身を恨むんだな!」

「うわぁ……」


 見事な程に噛ませ犬的なセリフを吐くシューベルトにビックリである。


「はああああああああ!!!」


 シューベルトが叫ぶと、その身体からは光が迸り、周囲には暴風が吹き荒れた。


 もしかして、変身するのかな?

 イズモ和国の殺人鬼の時は、あまりにも隙だらけ過ぎて攻撃しない理由が見つけられなかった。それ故、我慢できずに変身途中で攻撃してしまったのだ。

 しかし、今回は攻撃できない理由がある。


「うわー、かぜがつよすぎてちかづくことができないー」


 うむ、完璧な理由だ。

 完璧……だよな?



 しばらくその場で棒立ちしていると、光と暴風が徐々に治まって来た。


「待たせたな」

「ホントだよ。しかも変身してないのかよ。がっかりだよ」


 優に5分は待たされた挙句、シューベルトの奴は変身をしていなかった。


 シューベルトは現在、その身に強い光を帯びている。恐らく、さっきまで迸っていた光や、その前に撃ったレーザーと同質のモノだろう。

 アレだ。今までは放出するだけだった力を、身に纏うことによってパワーアップするとか、そう言った類のものだと思う。正直、変身を期待していたのでがっかりだ。

 いや、コレはコレで好きなんだけど、期待していたモノじゃなかったからね……。


「うるせえよ! ……この状態になると体内のエネルギーが凄まじい勢いで減っていくからな。だが、その代わりに通常時とは比較にもならない程のパワーを得ることが出来る。これでお前は死んだも同然だ」

「なるほど、確かに今まで以上の力を感じるな。でも、これは……」

「今更、命乞いをしてももう遅いぜ。お前らが死ぬのはもう確定しているんだからな」


 自信満々に言うシューベルトだが、良いのだろうか?


「いや、そうじゃなくてな……」

「さっきは防がれちまったが、今度はそう簡単にはいかねえぞ!喰らえ!」


 俺の言葉を遮り、再びレーザーを放ってくるシューベルト。

 シューベルトが自信を持っていうだけはあり、放たれたレーザーの太さは先程とは比較にならない程に太く、その威力も相応になっているのだろう。

 しかし、よりにもよってレーザー攻撃かよ。


「ふん!!」


 先程よりも強く殴った。レーザーは何処かに飛んで行った。


「ば、馬鹿な……!この俺の攻撃が届かないだと!?そんなはずはない!この状態の俺は最強のはずだ!」

「いや、だからな……」

「グッ!?何だ?急に力が入らなく……」


 驚愕するシューベルトに俺が声をかけようとすると、それよりも早くシューベルトが膝をついた。

 その身に纏っていた光もその勢いをかなり弱めている。


「お前……一体、何をしやがった?」


 俺が何かしたと勘違いをしたシューベルトは、俺のことを不安に揺れる眼差しで見つめる。


「いや、何もしてないって……。さっきから言いたかったんだが、その状態ってエネルギーを大量消費するんだよな?」

「ああ、そうだ」

「2回殴られて、エネルギーを大分消費したところでその状態になり、意味もなく話を続けて無駄に消費したり、効かなかった放出系の技を再度使って無駄に消費したりして、お前のエネルギーって後どんだけ残ってんの?」

「あっ……」


 そう、俺がさっきから気にしていたのは、シューベルトのエネルギー残量である。


 俺に殴られたことで、エネルギー残量が少なくなったというのに、そこから更にエネルギーを消費するモードに自ら入ったのである。それだけならまだしも、その状態で無駄話をして、放出系攻撃でさらに自ら残量を減らしにかかった。

 せめて、上がったパワーを使って接近戦を仕掛け、出来るだけ少ない消費を心がける、くらいの事はして欲しかったものである。もちろん、それが通ったかどうかは別問題だが……。


「そっか、お前が虚獣の主って時点で気付くべきだったな。虚獣がポンコツなのは、お前がポンコツだったからなんだな!」

「ポ、ポンコツって言うな!!!」


 まごうこと無きポンコツ天使である。


シューベルト作曲「魔王」

大天使は何処に行った。


暑さで筆が進まず、ストックがガリガリ減ってきました。

ストックが無くなるのが先か、夏が終わるのが先か……。クーラー?何それ美味しいの?

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