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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第7章 灰の世界編

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第110話 灰人回収と融合

新キャラクターが1000人くらい出てきます。

 不死鳥フェニックスタモさんに乗って、空の旅を続けること4日。


 この世界を螺旋状に進み、出会った虚獣と言う虚獣をタモさんに食わせ続けた。

 タモさんもパーティ扱いなので、その経験値は俺達にも分配され、気付いたときには500レベルを突破していた。

 レベルを重要視している訳ではないが、ここまで上がるとむしろ楽しくなってくる。


 と言う訳で(何が?)、本日の定時報告である。


《ご主人様が……いない間に……聖剣を20本……打ちました……》

《そうか、ミミ、ご苦労様》

《ミミさん、報告は正確にしないと駄目だと思うよ》


 聖剣作成の報告を受けてミミを労うと、カスタール冒険者組で鍛冶師をしているノットが待ったをかけた。

 2人はドワーフの鍛冶師と言う共通項があり、鍛冶場で鉢合わせることも多いらしい。年齢、鍛冶の経験やスキルレベルの都合から、ミミの方が先輩的な扱いと言う話だ。


《今の報告は何か間違っていたのか?》

《いや、間違っていたって訳じゃないんですけど……》


 ノットが歯切れ悪く言う。


《申し訳……ありません……。正しくは……、聖剣20本と……魔剣1本を……打ちました……》

《……魔剣、打ったのか?》


 <聖魔鍛冶>を持つミミは、聖剣も魔剣も打てる。

 しかし、その両者を分けるのは鍛冶をしている時の精神状態なのである。

 負の感情に支配されて打った場合、聖剣にならずに魔剣になるのだ。


《ご主人様が……いなくなって……、不安で……不安で……気づいたら……魔剣になって……いました……》

《あー、あの時か……》


 あのタイミングで聖剣を打っていたなら、魔剣になるのもやむを得ないかもしれない。

 詳しくは知らないが、俺がいなくなった当初、結構な騒ぎになったらしいからな。


《横で鍛冶をしていて、急に禍々しい気配が溢れてきたから、何事かと思いましたよ》

《何とか……、聖剣に……打ち直そうと……したんですけど……。黙っていて……本当に……申し訳……ございません……》

《まあ、鍛冶師としては失敗作の報告をしたくないだろう。気持ちは分かるから、謝らなくてもいいぞ》


 確かに失敗しましたと報告をするのは勇気がいるだろうし、そもそも、失敗した物の報告は別に義務でも何でもない。

 一応、それなりに貴重な素材を使用しているのだが、基本的に素材とかの管理はメイドがしているから、俺に話さなければいけない内容でもない。


《いえ、失敗って言い切れるものでもないんですよね……》

《どういうことだ?》

《見て頂くのが1番だと思いますよ》

《今……<無限収納インベントリ>に……入れました……》

《ふむ》


 俺は<無限収納インベントリ>の中を確認する。


 ワオ!


聖魔剣・カオスオーダー

分類:片手剣

レア度:伝説級レジェンダリー

備考:所有者制限、勇者強化、魔族強化、魔族特効、聖職者特効、瘴気除去、瘴気発生、武器召喚


 何と言うか、聖剣と魔剣の力が合わさって最強に見える。

 中二病患者が泣いて喜びそうな剣が出来たな。


《なるほど、確かに簡単に『失敗』と切って捨てるには悩むものが出来たな》

《そうなんですよね。どちらかと言うと、新しい可能性を切り開いたという感じがします》

《でも……望まれた……モノじゃないから……失敗です……》


 ミミとしては頑なに失敗扱いのようだ。


《ミミ、まだ<聖魔鍛冶>には不明な点も多い。望まれたモノじゃないから失敗、と切って捨てずに、試行錯誤をして欲しい。基本的に俺は致命的ではない失敗で怒ることはないし、試行錯誤のための失敗ならばむしろ推奨する》

《いいの……ですか……?》

《もちろんだ。ただ、試すための素材については、メイド達との交渉が必要だがな》

《分かり……ました……。色々と試して……みます……》


 単純な聖剣の量産だけではなく、<聖魔鍛冶>と言うスキルの開拓も、俺がミミに望んでいる役割の1つなのである。


《ちなみにノットの方はどうだ?鍛冶、上手く行っているのか?》

《ボチボチですね。最初は自分よりスキルレベルの高いミミさんが入って来たから、お払い箱になるかと思ってましたよ》


 言われてみれば、ミミはドワーフで、鍛冶師で、スキルレベルも高く、鍛冶に関するユニークスキルも持っているという、ノットの完全上位互換のような存在である。

 個人戦闘能力も決して低いわけではないようだしな。


《そんな勿体ないことをする訳ないだろ。確か、ノットの武器もアドバンス商会で売りに出されているって聞いたぞ》

《まあ、売りに出しているのは基本的に習作ですけどね。でも、そこそこの売り上げにはなっているって聞きましたよ》

《ノット君は……普通に……センスがある……》

《あ、ども》


 俺のモットーは適材適所だ。異能もそう言っている。

 より優れている者がいたところで、それより下の者を切り捨てる理由にはならない。


 そもそも、ミミの役割はさっきも言った通り<聖魔鍛冶>の比重が大きいので、普通の鍛冶に関してはまだノットが中心になってもらわなければならない。


《聖剣は強力だが、大っぴらに出来るようなものでもない。配下に支給する武器はノットの管轄になるだろう。仲間達の命が懸かる武器だ。今後もよろしく頼む》

《はい!任せてください!》

《………………》


 念話なのに、ミミが褒められたノットを羨ましそうにしているのが伝わる。


《ミミ、強力な力を持った聖剣は俺達の切り札にもなり得る。<聖魔鍛冶>を使えるのはミミだけだ。試行錯誤を繰り返し、素晴らしい武器を作ってくれることを期待しているぞ》

《はい!!!》


 あれ?ミミさん、3点リーダーはどこ行ったの?



 さて、本日も2匹の虚獣を倒した。

 1匹は溶岩のような虚獣、もう1匹は映画に出てくるような怪獣の虚獣だ。


 この世界を螺旋状に進み、すでに何周か繰り返しているのでわかるのだが、この世界には後10匹程の虚獣が中心に向かっていると予測できる。破壊の跡がまだ10本残っているからな。


 しかし、未だにこの世界の住民に出会わない。

 これも予測ではあるのだが、虚獣から大きく距離を取っているのではないだろうか。

 つまり、多くの住民はこの世界の中心部付近にいると考えられる。


 10本の破壊跡がどこまで伸びているのかはわからないが、俺達がこの世界の住民と出会えるとしたら、その破壊跡がなくなった後と言う事になるのだろう。


A:マスター、この世界の住民を発見しました。


 おい。


 人が一通り考察を終えたところで現れるんじゃない。

 まるで、俺の予想が大外れした様に見えるじゃないか。いや、実際外した訳だけど……。


 見つけた以上は無視する訳にもいかないし、マップで確認してみる。

 そこには数10人の住民と思われる存在が表示されていた。

 その内の1人の詳細情報を見てみる。


個体名:なし

種族名:灰人

所属:なし

階位:

・体力:H

・攻撃:H

・防御:H

・俊敏:H

・技術:H

特性:

[共鳴][希薄]


 弱!?

 戦闘能力がまるで見当たらないぞ。

 とりあえず、同じ要領で他の住民も見てみたが、全員が同じステータス表示だった。


 この『灰人』と言うのが、この世界の住民を示す単語なのだろう。

 気になるのは全員がもれなく名無しであることくらいだろうか。

 そして、この数10人は現在……1匹の虚獣に追われていた。


個体名:モーツァルト

種族名:陸王獣ベヒーモス

所属:虚獣

階位:

・体力:SS

・攻撃:A

・防御:S

・俊敏:H

・技術:C

特性:

[堅牢][鈍足]


 えーと、遠目でもわかるくらいの巨体で(横幅だけで数10m規模)、一言で言えばゾウとかサイとかそんな感じの生き物ですね。動きは遅いんだけど、デカいだけあってそれなりの迫力だ。

 逃げ惑う灰人の方も見えてきたが、……何だ、アレ?

 ここから見える灰人は全員が全員5歳児くらいの身長しかない。そして、全身が灰色で半透明なのだ。パッと見は幽霊の様にも見える。足はあるけど……。

 そんな灰人達がゆっくりとだが確実に迫りくる陸王獣ベヒーモスから逃げている。

 貧弱なステータスが示すように、灰人の動きは決して速くはない。


 その時、1人の灰人が転び、陸王獣ベヒーモスに踏まれそうになる。


「とりあえず、ピンチっぽいから助けてくる。<結界術>で足場を頼む」

「はい、お気を付けて」


 折角見つけた原住民を、目の前で虚獣に殺される訳にもいかないだろう。

 さっと助けて、恩に着せて情報をいただくとしよう。


 マリアが作り出した結界を足場にして不死鳥フェニックスタモさんから飛び出す。


「よっと!」


 踏みつぶされる直前で転んでいた灰人の横に立ち、陸王獣ベヒーモスの脚を支える。

 うん、結構重いね。まあ、織原のパンチに比べれば軽い軽い。


「よっこらしょっと!」

「DOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!!???」


 そのまま思い切り持ち上げてみると、陸王獣ベヒーモスは低い唸り声をあげながらすっ転んだ。

 大丈夫、陸王獣ベヒーモスが倒れた方向に灰人がいないことは確認済みだ。


「えーっと、言葉が通じるかはわからんが、大丈夫か?」

「……(コクリ)」


 俺が声をかけると、転んでいた灰人は無言だが小さく頷いた。

 無事、言葉は通じるようだ。


 しかし、改めて見るとこの灰人と言う存在はよくわからんな。

 先ほども説明したが、灰人達は灰色の半透明で後ろが透けて見える。

 そして、服を一切着ていない全裸なのだ。しかし、俺の目には男か女かもわからない。

 何故なら、彼ら、彼女らには何も付いていないからだ。男を示すモノも女を示すモノも付いていない。まさしく全身がツルツルなのである。

 ああ、一応髪の毛が肩くらいまで伸びているが、それだけで女判定は出来ない。

 そもそも、ステータスにすら男女の表記がないからな。判断のしようがない。


「DOOOOOOOOOOON!!!DOOOOOOOOOOON!!!」


 おっと、陸王獣ベヒーモスの事を忘れるところだった。

 ……ん?何か、起き上がってこないぞ?

 お、よく見ると瓦礫に上手い具合に引っかかって、起き上がれなくなっているな。

 よし……。



 ……と言う訳で、倒れている陸王獣ベヒーモスに数発パンチをかまして、動かなくなったところでタモさんに<吸収>させました。

 いやー、手強い相手だったぜ。どっちが勝ってもおかしくない名勝負だった。


 冗談はさておき、俺達が陸王獣ベヒーモスを倒すと、逃げ惑っていた灰人達が俺の元に集まって来た。

 ああ、正確に言おう。俺に群がって来た。

 足元には数人の灰人が抱き着いて来ているし、抱き着いてない灰人も俺の近くから離れようとしない。


「仁様、邪魔でしたら引き剥がすか……排除いたしますが?」


 マリアの容赦のない一言に、灰人達がビクッと震える。

 しかし、俺の元を離れようとはしない。


「必要ない。悪意は感じないし、どちらかと言うと、懐かれている?みたいな感じだからな」

「わかりました」


 感覚としては子供や猫が懐いて来ているようなものだ。

 マップ上の表示も青(味方)である。若干、マーカーの色が薄いのは気になるけど……。


「ただ、言葉が通じても、話が通じないのは如何ともしがたいな。お前達、何で名前がないんだ?何で半透明なんだ?この世界はどうなっているんだ?」

「……(キョトン)」


 俺の質問に対して、灰人達は首を傾げるだけだ。

 喋れないのか、意味が分かっていないのかは不明だが、難しい応答は出来ないとみて間違いがないだろう。


「やっぱりダメか……。こうなると扱いにも困ってくるんだよな。折角見つけたのはいいけど、意志疎通が出来ないとどうしようもないな」

「喋れないのでしょうか。一応、簡単な言葉は通じているみたいなのですが……」


 異世界の原住民だから、言葉が通じない可能性はあった。しかし、言葉は通じるのに話が出来ないというのは想定外である。


「もし、この世界から逃げたいのなら、連れて行くことも検討していたんだが……」

「……(ピクン!)」


 俺の言葉を聞いた灰人達全員が俺の顔を見てくる。

 もしかして、この世界から逃げたいと思っているのか?よく見れば、灰人達の顔は何かを期待しているようにも見える。


「だけど、俺達の乗っている不死鳥フェニックスタモさんには、この人数は乗り切らないから、どのみち連れて行くことは出来ないか」

「……(ショボン)」


 灰人達は肩を落として落ち込んでいる。

 やはり、この世界から逃げたいようだ。


 さて、どうしたものかと考えていると、2人の灰人が目についた。

 その灰人達は頷き合うと、両手の手のひらを合わせ始めた。すると、瞬く間に2人は合体して、1人の灰人になってしまった。

 はっきり言ってビックリである。何、今の……。


個体名:なし

種族名:灰人×2

所属:なし

階位:

・体力:H

・攻撃:H

・防御:H

・俊敏:H

・技術:H

特性:

[共鳴][希薄]


 ステータスを確認すると、種族名が『灰人×2』と変化していた。

 アレか。ゲームとかで同じ種類のアイテムとかを表示する際に、『×10』とかで簡易的に表現される奴か。と言うか、灰人ってアイテム扱いだったのか?


A:いいえ。


 だよね。俺もちょっと考えてみただけだよ。

 よく見ると、ほんの少しだけなんだが、合体した灰人の半透明が濃くなっているような気がする。周囲の灰人達と見比べて、気のせいかどうかギリギリと言ったレベルではあるが。


 考えられるのは特性の[共鳴]だろうか。

 しかし、どう考えても謎生態である。


 その反応を見ていた他の灰人達は、同じように手を合わせて合体を始めた。

 気付いたときには周囲の灰人全てが合体し、たった1人の灰人が残っていた。


 もう1度ステータスを確認すると、種族が『灰人×32』に変わっていた。

 そして、目で見てはっきりとわかるレベルで、半透明だった身体が濃くなっていた。


「もしかして、1人になったから連れて行って欲しいってことか?」

「……(コクリ)」


 やはりこの合体は俺に付いてくるためだったようだ。

 折角やる気になっているところ申し訳ないのだが、連れて行くことになるのなら配下にしておきたい。もしかしたら、意思疎通も出来るようになるかもしれないし……。


 <奴隷術>は<魔物調教>と同じようにこの世界では使用不可だから、単純に<契約の絆エンゲージリンク>によって配下にする必要がある。


「付いてきたいのならば1つ条件がある。それは俺の配下、子分になることだ」

「……(キラキラ)」


 俺が『奴隷になって俺のために働け(意訳)』と言ったのに、何故か灰人はキラキラした目で俺のことを見ている。

 何で、こんなに嬉しそうにしているんだ?


「えーと……、良いのか?」

「……(コクリ)」


 躊躇なく頷く灰人×32。

 気持ちではあるが、合体する前よりも動きがスムーズになった気がする。


「じゃあ、手を……指を出して俺の配下になることを認めろ」

「……(コクリ)」


 再び頷いた灰人が手を出してきたので、指切りをして無事に配下へと加える。

 32人分まとめての契約になったようだ。


《さて、意思疎通は出来るのか?》

《……?》


 試しに念話で確認を取ってみたのだが、やはり意思疎通は出来そうにない。

 ぶっちゃけ、あまり期待していなかったからそれ程落胆はない。


「とりあえず、これで連れて行くのに問題は無くなったな」

「……(キラキラ)」


 灰人が目をキラキラさせてとてつもなく嬉しそうにしている。

 最近配下に加えた精霊のレインもそうだが、喋らないのに感情表現が豊かな奴が多いな。


 タモさんに不死鳥フェニックスモードになってもらい、マリアが乗って俺も乗る。

 灰人達は俺が飛び乗るときに小脇に抱えて乗った。


「このままだと落っことすな……」

「……(ショボン)」


 灰人達は握力や腕力がほとんどなく、何かに掴まるということが出来ないようだ。

 俺の背中に掴まらせようと思ったのだが、どうやら無理みたいだな。


 仕方がないので、抱っこするような形で括り付ける。完全に赤ん坊扱いである。

 しかし、俺が抱っこするとメッチャ喜ぶな。

 俺、子供に好かれるタイプだったっけ?



 新たに灰人×32を配下に加えて、空の旅は再開された。

 今まで同様に螺旋状にこの世界の中心へ向かい、道中発見した虚獣を殲滅する。


 ただ、今までとは一点変わった点がある。


「……(クイクイ)」

「またか……。意外と多いんだな」


 俺達は(正確には不死鳥フェニックスタモさんが)灰人の指し示す方向に向けて飛ぶ。


「そしてこれも恒例行事なんだな」

「そのようですね」


 俺達が降り立った先にいたのは、大量の灰人達である。

 どうやら、灰人達にはお互いの位置がわかるという能力があるらしい。多分、[共鳴]の効果だろうな。他に候補がない。


 そして、俺の存在に気が付いた灰人達は、何故か俺の元に集まってくるのだ。

 マリアの方には1人たりとも近づかない。


 灰人達は一通り俺に群がった後は、俺の配下の灰人同様に合体を繰り返し、最後の1人になると、俺の配下となった灰人とも合体をする。

 驚くべきことに、その時点で新しい灰人達も俺の配下となるようだ。謎生態である。


「コイツも、大分色が付いてきたな……」

「……(コクリ)」


 灰人の吸収を繰り返して3日、今では灰人×32は灰人×256まで増えるに至っていた。

 そして、その半透明な身体はかなり濃くなり、すでに半透明とは言えないレベルになった。


 灰人達と過ごしていて、いくつか分かったことがある。

 まず、灰人達はものを食べない。俺達が食事しているのを見ても一切興味を示さなかった。

 では、どのようにして栄養を補給しているのか?


 そもそも、栄養補給によってエネルギーを生成しているのではなかったのだ。

 簡単に言えば、俺にくっつく行為。アレこそが灰人達のエネルギー補給方法だったのだ。


 だからと言って、<HP吸収>や<MP吸収>のように対象から無理矢理奪うようなものではない。

 俺が生きているだけであふれ出る生命力、自然に放出されるその絞りカスのようなエネルギーを吸収していたのである。かなりエコである。


 そして、その対象は生物だけに限られず、灰人達は建築物がもつわずかなエネルギーを糧に生きてきたのである。当然、足りている訳ではない。

 食べ物のない世界でどうやって生きていたのか疑問だったのだが、ようやく理解できた。


 灰人達が俺に懐いてきたのは、俺の持つ圧倒的なエネルギーが目当てだったようだ。

 どうも、マリアに比べて俺の内包するエネルギーは桁違いに大きいらしい。……異能を持っているからか?

 つまり、俺の配下になることを望んだのは、ご飯の心配をしなくていいから、と言うのが1番大きな理由だったのではないだろうか。



 さらに4日が経ち、ついに灰人達は灰人×1024に到達した。

 正確に言うのならば、昨日見つけた灰人までの累計であり、それ以降灰人は現れていない。

 どうやら、灰人達は世界の中心には近づき過ぎないらしい。織原も世界の中心には何かがあるようなことを話していたから、多分それ関係だと思う。


 そして、いよいよ世界の中心が近づいてきたようだ。

 周回の間隔から考えて、後5日もあればこの世界の中心へと到達できるだろう。

 加えて言うのならば、虚獣も残すところ後1匹にまで数を減らすことが出来た。

 とは言え、これはあくまでも外側から中心に向かっていた虚獣の話だ。

 織原曰く、中心部には魔物(多分虚獣)が密集しているという話なので、まだまだ全滅させたとは言えないだろうが……。


《……と言う訳で、後5日くらいで帰れそうだ》


 メインパーティの皆に定時報告で帰還の予定を伝える。


《ごしゅじんさまかえってくるのー?やったー!》

《仁君が無事で何よりです……》

《ただ、思っていたよりも時間がかかりましたわね》

《この世界も結構広かったからな。後は虚獣を倒して経験値稼ぎをしていたのもある》


 結局、本日の時点で、俺達のレベルは700台まで上昇することになった。

 流石に後半はレベルも大分上がりにくくなってきたが、それでも破格の経験値だった。

 向こうの世界でここまで上げようとしたら、一体どれだけの魔物を倒さなければならないのだろうか。


《うんうん、かなり美味しい敵だったわよね。それはそれとして、ミオちゃんとしては、ご主人様がどこに帰ってくるのかが気になるわ》

《ああ、それは俺も若干気にしている》

《どういうことですか……?》


 俺とミオのやり取りの意味が分からなかったさくらが聞いてくる。


《この世界とそっちの世界が繋がっているとして、何処に繋がっているのかが問題だ。まあ、魔法が使えれば『ポータル』で帰ればいいだけなんだけどな》

《繋がった先が水の中とかじゃないと良いわよね》

《なるほど……、そう言う危険もあったんですね……》


 織原が何もコメントしていなかったから、初見殺しのような罠はないと思うが、気を付けておくに越したことはないだろう。


《それだけじゃない。今までマップで気付かなかったと言う事は、今まで行ったことのない場所に繋がっているのは間違いない。つまり観光のチャンスだ!》

《ご主人様、マジでブレないわね……》

《それでこそ、ご主人様と言う気もしてきますわ》


 知らない場所に行って、観光しないとかありえないだろう。

 もちろん、不快になることが明らかな場合は除きます。


《まあ、観光するにしても、一旦は皆の元に戻るのが先だけどな。マリアと2人だけで観光するのも味気ないし……。俺が行くなら、皆も来るだろ?》

《ドーラも行くー!》

《そりゃ、ミオちゃんも行くわよ》

《当然ですわ》

《はい……、付いて行きます……》


 俺が聞くと満場一致で『付いてくる』という回答が返ってきたので、次なる観光先の候補が1つ追加されることになった。

 なお、現在の観光先候補リストは『真紅帝国』、『エルフの里』、『異世界からの転移先』の3つである。加えて言うと、『真紅帝国』は塩漬け案件である。


《まあ、まずは帰ることを優先させてもらうけどな。その後の事はその時になったらみんなで話し合おう》

《はい》×4



 次の日、さらに進んだ俺達はとうとう最後の虚獣を発見することになった。


個体名:バッハ

種族名:空王獣バハムート

所属:虚獣

階位:

・体力:S

・攻撃:SS

・防御:A

・俊敏:S

・技術:B

特性:

[放射][高燃費]


「なるほど、こうやって飛ぶのも有りなのか……」


 この空王獣バハムートと言う虚獣は、一言で言えばドラゴンである。

 二足歩行で、全体から見れば小さい腕があり、巨大な尻尾と蝙蝠タイプの大きな翼を持っている典型的なドラゴンである。


 さて、ここでもう1度おさらいしよう。

 この世界では<飛行>スキルは使用できず、巨大な生物は物理法則が枷となり、翼があったところで飛行することは出来ない。

 不死鳥フェニックスも自重を軽くすることでかろうじて飛んでいたからな。

 しかし、翼があって空王獣バハムートなんて名乗っているドラゴンが空を飛べないというのはありえない。じゃあ、どうするのか?


 実はこの空王獣バハムート、背中にある噴出口から火を噴きだすことが出来るのだ。

 生物としてはどうかと思うのだが、その噴出口から勢いよく火を噴きだすことで、さながらロケットのように空を飛ぶことが出来るのだ。


 もちろん、その炎は攻撃にも使用される。

 口からブレスとして炎を吐き出せる。ああ、一応言っておくと火が出るのは口か噴出口かの二者択一だ。同時には出てこない。

 口から火を吐く時は噴出孔の火を止め、翼を広げて滑空状態になってから吐くのである。


 ……と言うのを空王獣バハムートタモさんが<擬態>した後に検証して分かったのだ。


 まあ、その、あれだ。

 この虚獣、見つけた時に昼寝をしていたんだよ。

 どうやら、特徴にある[高燃費]のせいか、しばらく活動したら、同じくらいの時間休まなければいけないみたいなんだよな。

 たまたま、出会った時には休憩中だったみたいで、ついつい『虚獣が!休憩なんか!してんじゃねぇ!!!』とブチ切れて、速攻でタモさんに食わせてしまったのである。


 本当、この虚獣って生物は最後まで締まらないポンコツだなぁ……。


モーツァルト:なんか理由があったはずだが、執筆から時間が経って忘れた。

バッハ:単なる名前の響き


高燃費、低燃費の表現が難しいです。

燃費が高い=燃料消費量が高い(つまり効率が悪い)、だと理解しています。間違っていたらゴメンナサイ。

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