国際捕鯨委員会(IWC)を脱退した日本は、この夏商業捕鯨を再開したが、肝心の消費は伸び悩む。鯨食は日本古来の「食文化」には違いない。だがこれで、持続可能になった、と言えるのか。
商業捕鯨再開初日に捕獲されたミンククジラの肉が、北海道・函館市水産物地方卸売市場で競りに掛かった七月四日。たまたま市内に滞在中だった。
その晩、宿泊した旅館の夕食に、見慣れないものが出た。
「これ何ですか」と配膳のスタッフに尋ねると、「オバケ(尾羽毛)です。クジラのしっぽの部分を薄くスライスしてゆでたもの」という答え。
「今回、揚がったやつですか」と聞くと、「いいえ、道南では、お正月とかにクジラを食べる習慣があるんです」。江戸時代、松前藩が統治した時代から受け継がれてきた「食文化」なのだという。
日本人は有史以前からクジラの肉を食べていた。しかし、それらは沿岸で捕れたもの。十九世紀末、捕鯨砲で銛(もり)を撃ち込む、効率のよいノルウェー式砲殺法が導入されると、近海の資源が減少し、北太平洋へと漁場が広がった。日本の捕鯨船団が南極海に進出したのは、一九三四年のことだった。
しかし、そのころの遠洋捕鯨の目的は、食用ではなく、主に鯨油の採取。貴重な輸出品だった。
太平洋戦争で途絶えた遠洋捕鯨を復活させたのは、連合国軍総司令部(GHQ)、すなわちマッカーサーだった。深刻な食料難に対処するため、タンパク源として目を付けた。食用としてのクジラが脚光を浴びたのは、実は戦後のことだったのだ。
IWCを脱退してまで商業捕鯨を再開してはみたものの、六〇年代には年間二十万トンに上った鯨肉消費も、今では数千トン程度。肝心の消費は伸び悩む。牛肉や豚肉などが手軽に買える今となっては、ある意味当然のことではないか。
一方、古式の沿岸捕鯨が栄えた三陸や安房(千葉)、紀州や西海(長崎)などにも、鯨食は「食文化」として根付いている。
イルカ類やツチクジラなど近海の小型鯨類は、もともとIWCの規制対象外だった。IWCを脱退したことにより、そちらへの風当たりも強まることになるだろう。
IWC脱退は、日本の食文化にとって、果たしてよいことだったのか。鯨食文化を守るためには、国際秩序への早期復帰を図るべきではないのだろうか。
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