誤嚥性肺炎の予防に効果のある薬剤などはありますか?Next
嚥下反射や咳反射が鈍ると誤嚥を起こしやすくなりますが、嚥下と咳の反射を司っている神経伝達物質はドパミンとサブスタンスPです。したがって、ドパミンやサブスタンスPを増やす、あるいは分解を抑制する成分は、嚥下と咳の反射を改善させ、誤嚥予防つまりは誤嚥性肺炎の予防につながると言われています。
いくつかの薬剤とその用法・用量を紹介します。
ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬
降圧薬であるACE阻害薬には、サブスタンスPの分解を阻害する作用もあり、咳の誘発は副作用でもありますが、高齢者の誤嚥性肺炎を防止し、QOLに好影響と言われることもあります。
例)イミダプリル塩酸塩 5mg 1錠分1
ペリンドプリルエルブミン 4mg 1錠分1
シロスタゾール
血管拡張作用も持つ抗血小板薬シロスタゾールは、細胞内シグナル伝達系を活性化し、チロシン水酸化酵素の合成を誘導することにより、ドパミン合成を維持します。さらにサブスタンスPの産生が維持され、誤嚥予防効果も発揮します。
例)シロスタゾール 50mg 2錠分2
漢方薬
一部の漢方薬によい影響があるという報告があります。
半夏厚朴湯が誤嚥性肺炎の予防に有効であるという報告があります。
例)半夏厚朴湯 2.5g 3包分3
また、嚥下障害に有用であるといわれる他の漢方薬もあります。胃の内容物の逆流が誤嚥の原因になっているときに、有効とされる漢方薬です。
例)六君子湯 2.5g 3包分3
モサプリドクエン酸塩
消化管の動きを活発化し、胃の内容物の逆流による誤嚥を抑えます。とくに胃瘻を使用している方に有用と考えられます。
例)モサプリドクエン酸塩(モサプリドクエン酸塩錠「EE]など)5mg 3錠分3
アマンタジン
大脳基底核でのドパミン遊離を促進します。とくに脳血管障害を有する高齢者で肺炎の発症を抑える効果があるとされています。
例)アマンタジン50mg 3錠分3
このようなものもあります。
カプサイシン
トウガラシなどに含まれるカプサイシンは、咽頭や下気道に分布する無髄の知覚神経であるC線維末端を刺激し、神経末端に貯蔵されていたサブスタンスPなどを含むタキキニンを遊離させ、咳を誘発します。
例)カプサイシン入りフィルム状食品
葉酸
緑黄色野菜などに含まれる葉酸は、消化吸収能が低下した高齢者では欠乏しやすいとされています。葉酸は、ドパミンなどの神経伝達物質の合成に重要な役割を果たすことから、嚥下・咳反射の改善にも良いとされています。
- ※これらは一例で、実際には患者さんの年齢や状態等により薬の投与量や使用方法は異なります。
- ※実際の臨床では、くすりのみでは嚥下障害の解決にならないこともあります。
【参考文献】
Ebihara T, et al. Capsaicin troche for swallowing dysfunction in older people. J Am Geriatr Soc 2005 ; 53 : 824-8.
薬の副作用として嚥下障害が起こることを、「薬剤性嚥下障害」といいます。
薬剤性嚥下障害には、次のような症状と、その原因となる薬などが報告されています。
Stoshus B, Allescher H-D. Dysphagia 1993; 8: 154-9.
- 平滑筋や骨格筋の機能障害
抗コリン薬、三環系抗うつ薬、テオフィリン、カルシウム拮抗薬、アルコール - 下食道括約筋(食道-胃部分)の圧低下
プロゲステロン、グルカゴン、ドパミン、テオフィリン、カルシウム拮抗薬、アルコール、アトロピン、ブチルスコポラミン - 口腔咽頭および食道の嚥下機能低下
中枢神経系の鎮静作用を有する薬剤 - 咽頭の筋肉麻痺
痙性斜頸や顔面神経麻痺時のボツリヌス毒素の局所投与 - 麻痺による嚥下障害
経管チューブ挿入、内視鏡検査、歯科治療に用いられる局所麻酔 - 口腔乾燥症から嚥下障害
抗ヒスタミン薬、降圧薬、抗不整脈薬 - 筋弛緩作用のある薬剤
筋弛緩薬
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