漆黒の英雄譚   作:焼きプリンにキャラメル水

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蝙蝠と呼ばれる男

『漆黒』がエ・ランテルから王都へ向かってから数日後………

 

 

 

 二人は今、王都リ・エスティーゼにいた。エ・ランテルから数日かけて使者から案内を受けてモモンとナーベはレエブン候の屋敷に着く。そこには大きな屋敷があった。

 

(エ・ランテルでアダマンタイト級冒険者就任のパーティを開催してくれた時にパナソレイ都市長の屋敷に招かれたこともある。その時は大きな屋敷があるのだと感動したものだ。これだけ大きいということは報酬もそれ相応、だが……勿論危険度もそれ相応だろうが)

 

 危険度が高いということはそれだけ慎重に動く必要も出て来る。それが意味する所は長期間に渡り活動することになる可能性が高い。そうなるかもしれない可能性は十二分にあると予感し、モモンとナーベは顔を合わせて互いに頷いた。

 

 

「シズに留守番を任せて良かったな」

 

「えぇ。彼女ならハムスケとも上手くやれるでしょうし。安心です」

 

「今頃ハムスケはどうしているだろうか?」

 

「…おや、シズの心配はしないのですね?」

 

「あぁ。彼女なら大丈夫だろう。ハムスケよりも強い……それにいざとなったらハムスケもいる。余程の実力者が相手でなければ彼女が後れを取る心配は無いだろう」

 

「えぇ。その通りですね」

 

 そう言って二人は屋敷内を歩く。今二人は使者の後を歩き、屋敷の中にある庭園を歩いていた。庭園を見ると何やら綺麗な花が咲いていた。それを手入れする者もいる。

 

そうこうしている内にモモンたちは屋敷のドアの前に立っていた。どうやら時間の感覚を少し忘れたいた様だ。綺麗な花に少し見とれていて時間を忘れていた……もしかするとあの花を手入れしておく理由はそういった理由などかもしれないとモモンは思った。

 

 

 

 

「こちらで我が主がお待ちです」

 

そう言うと使者たちがドアを開ける。

 

 開けたドアの先に円形の空間が広がる。天井には高級そうな巨大なシャンデリアがその存在を現す。壁には四枚もの絵画が飾られていてどれも違う画家が描いたであろうものであった。中央に置かれたテーブルの上には花瓶が飾られている。そのテーブルの奥の方に一人の長身な男が立っているのが見えた。

 

「『漆黒』のお二方をお連れしました。レエブン候」

 

「ご苦労。君たちは休憩室で休んでくれ」

 

「感謝します。それではモモン様、ナーベ様、私たちはここで失礼します」

 

そう言って案内係の男たちは休むために部屋へと向かっていった。

 

 

 

「初めまして」

 

出迎えてくれたのは一人の男であった。長身痩躯で金髪をオールバックにし、切れ長の碧眼。唇が薄い。健康的とは言い難い白い肌をしている。その容姿から『蛇』の様なイメージが思い浮かぶ。王国の中で最上級に位置する『六大貴族』の筆頭と呼ばれるだけあって、その恰好は非常に凝ったであろう装飾がある服を着ている。モモンはパナソレイ都市長からフルネームや特徴は聞いていたのですぐに彼だと分かった。

 

 

 

「『漆黒』のモモン殿、ナーベ殿。私がエリアス=ブラント=デイル=レエブンです」

 

「いえ。こちらこそ。初めまして。レエブン候……とお呼びすればよろしいですか?」

 

「えぇ。お好きな様にお呼び下さい。モモン殿」

 

そう言って二人は握手をする。

 

「それではレエブン候と呼ばせて頂きます」

 

「親しみを込めてエリアスでもよろしいですよ?」

 

「……御冗談を」

 

 

 

モモンとレエブン候がそんなやり取りをしているとドアをコンコンとノックする音が聞こえる。

 

「構わない。入ってくれ」

 

「失礼します」

 

 そう言って部屋に入ったのは一人のメイドだった。そのメイドがカートを押してモモンたちが座るテーブルの横に並べた。メイドが紅茶をポットからカップにモモン、ナーべ、レエブン候の順番に入れていく。

 

「エ・ランテルから王都までは遠かったでしょう。喉も乾いたでしょう。お二人にお好みに合うかどうかは分かりませんが紅茶を用意させて頂きました。どうぞご賞味下さい」

 

「これはどうも、お気遣い感謝致します」

 

「……頂きます」

 

モモンとナーベはそう言って紅茶を飲んだ。

 

「美味しかったです」

 

「…………まぁ」

 

飲んだ二人は味の感想を告げた。

 

 

 

 

「お二人の喉も潤ったところで依頼の話をしましょう」

 

そう言うとレエブン候から先程からの笑みが消える。どうやらここから先が依頼の話の様だ。

 

「お二方に頼みたい依頼は……。ですが、その前にお訪ねしたいことがあります」

 

「何でしょうか?」

 

「『八本指』をご存知ですか?」

 

 

 

 

"八本指"

 

 組織の名前の由来は六大神の一柱である土神の従属神"盗みの神"であり、その者が八本指であることからその名を名乗っているとのこと。王国内の裏社会を牛耳る巨大組織。八つの部門の犯罪組織があり、それらが一つに結び付いたことで王国内でも確固たる地位を築き上げた犯罪組織だ。あまりに巨大過ぎるゆえに全貌は謎に包まれてしまっている……というのがパナソレイ都市長から聞いた話だ。

 

 

 

 

「えぇ。何でも王国の裏を牛耳る巨大組織だとか……」

 

「えぇ。その通りです。『八本指』がどういった活動をしているかはご存知ですか?」

 

「パナソレイ都市長からは……『暗殺』、『密輸』、『窃盗』、『麻薬取引』、『警備』、『金融』、『賭博』……それから……ラナー王女が禁止したはずの『奴隷売買』の合計八つだと聞いてます」

 

 

 

「えぇ。そうです。ラナー王女が奴隷売買を禁止する法を提案し、禁じられた今でも『奴隷売買』を行う者も少なくはありません。少なくとも八本指の者やその息のかかった者たちは今までと変わらず『奴隷売買』を行っています」

 

「何故ですか?法律で禁止されているのでしょう?それなのに何故?」

 

「……恥ずかしながら王国の上層部にも八本指の息のかかった者たちはいます。その者たちは八本指と手を結び、互いの利益を守ることを条件に取引して、八本指を助けるものさえいます」

 

「その者たちは罰されないのでしょうか?」

 

「……非常に困難ですね。何せ……彼らの中には王国の上層部と呼べるものすらいるのですから」

 

 

 

 

モモンとナーベは察した。六大貴族のレエブン候がいう『上層部』というのは王族、レエブン候を除く『六大貴族』なのだろう。

 

(王国の腐敗はそこまでのものなのか……)

 

「呆れたでしょう?ですがこれくらいのことなら今までとは変わりませんでした……」

 

「…………」

 

モモンは思わず黙ってしまった。王国の腐敗について聞かされてどのような反応をするべきか分からなくなったからだ。エ・ランテルでは決して聞くことの出来なかった内容だ。だからこそ思う。何故そんな話をしたのかを。

 

「では何故私たちに依頼を?」

 

「その疑問はごもっともです。本来ならばあなた方に依頼する予定はありませんでした。実は……八本指の動きが活発化しているので今回あなた方に依頼させて頂きました」

 

「動きが活発したのに心当たりは?」ナーベが尋ねる。

 

「……私の信頼できる者が得た情報では、つい最近『八本指』のトップが変わったのではないかという噂が『八本指』内部であったらしいのです」

 

「そのトップが?」

 

「えぇ。今、八本指を動かしているのでしょう。ただ……」

 

「ただ?」

 

「不自然な程、その者を知る者はいません。まるで最初からいないのか……あるいは記憶に残らない様にでもしているのか……」

 

「……記憶ですか」(想像してた以上に危険な案件だな……)

 

師匠であるミータッチから聞いた話では記憶を操る魔法は存在する。確かその魔法の位階は第10位階だったはずだ。それは即ち、モモンたちの敵対する相手がそれ相応の実力者である可能性が高い。

 

 

(この依頼………何か起きるな。ホニョペニョコ級か、あるいはそれ以上の何かが……。私の予想通りならば……)

 

「ちなみにその噂を語った者は今どうしていますか?」

 

「……行方不明です」

 

(やはりな。その噂を流したえあろう人物は恐らく既に……)

 

 

 

 

「ただ気になる点が一つ……」

 

「一体なんでしょうか?」

 

「えぇ。噂を語った者の話では『八本指』は半分近くの構成員を使い『あるもの』を探していたとのことです」

 

「あるもの?」

 

「えぇ。何でも『悪魔の像』と呼ばれるものらしいですが…‥ご存知ですか?」

 

「聞いたことも無いです……が、何やら危険そうなものですね」

 

 

 

 

モモンは今回の依頼の危険度を最上位に位置するものだと認識を改めた。

 

(『悪魔の像』か……知らないな。そんなアイテムの話は師匠の口からも聞いたことがない。警戒すべきだろうな。『未知』ほど怖いものはないだろうからな……)

 

モモンはナーベの横顔を見る。どうやら考え事をしているらしくこちらの視線には気付いていない。

 

(………この依頼、慎重に動くべきだな)

 

 

 

 

「モモン殿?」

 

「あぁ……すみません。話を続けて下さい」

 

「…分かりました。話を変えますが……『八本指』の中に警部部門がいて、『六腕』と呼呼ばれる幹部がいることは?」

 

「話だけは……」

 

「そうですか。エ・ランテルで使者にお伝えした依頼内容は嘘です」

 

「「…………」」

 

モモンもナーベも口を閉ざす。何となく察していたからだ。

 

 

 

 

「……実は、お二人に本当に依頼したいのは二つです。一つはこの『六腕』を壊滅して頂きたいのです。盾となる奴らを壊滅させないことには『八本指』壊滅は不可能ですから。もう一つは『八本指』のトップについての情報ですね。こちらは噂の真偽、出来ればトップの正体を掴んで頂きたいのです」

 

 

「成程。……分かりました」

 

「感謝致します……でしたら注意事項が一つ」

 

そう言ってレエブン候は一枚の羊皮紙をテーブルの上に置いた。

 

「?」

 

「『六腕』のメンバーの詳細についてです。といっても一年前に得た情報なのですが……」

 

 

そこに書かれた内容は……

 

 

 

 

--------------------------

 

"六腕"に関する記述

 

 

『闘鬼』ゼロ

警備部門の長。六腕最強の男。

王国最強の修行僧(モンク)

アダマンタイト級かそれ以上の実力者。

八本指のナンバー2。

 

 

『幻魔』サキュロント

六腕最弱の存在であると構成員の間で噂あり。

二つ名の通りであれば幻術を使用する可能性が高い。

油断は禁物である。

 

 

『不死王』デイバーノック

死霊術師?正体はアンデッド?

詳細不明。

 

 

『踊る三日月刀(シミター)』エドストレーム

女。踊り子の様な恰好をしている。

その名の通り三日月刀を武器とする。

 

 

『空間斬』ぺシュリアン

詳細不明。全身を黒い鎧で身に纏う戦士

使用武器は剣。

二つ名の由来が武技の可能性も考慮すべきだろう。

 

 

『千殺』マルムヴィスト

細長い剣を武器に持つ。

詳細不明。

 

 

 

 

--------------------------

 

 

 

 

(この中で気になるのは三人だ。『不死王』デイバーノック、『空間斬』ペシュリアン、そして『闘鬼』ゼロ)

 

 

『不死王』……

 

モモンの脳裏にふとよぎったのはアインズ・ウール・ゴウンのことであった。そんな風に呼ばれるに相応しい者がいるとしたら彼こそが最適……いや、彼の為だけの呼称だろう。

 

(もし、アインズ殿と同じ強さを持つ種族の者ならば撤退も視野に入れるべきだな……だがアインズ殿程の実力者が流石に複数人いるとは思いたくはないが……)

 

 

 

『空間斬』……

 

モモンの頭に思い浮かんだのは『次元断切』のことだ。あの武技を……『十戒』を授かった者以外で使用できるのはまずあり得ないだろう。だが世の中には生まれ持った異能(タレント)というものがある。もしタレントによりその武技だけが使用できる……といったことも可能かもしれない。もうであるならば不意打ちで倒すことや撤退も視野に入れねばならないな。

 

 

「モモンさん…」

 

「あぁ」

 

恐らくナーベもモモンと同じ考えに至ったのであろう。二人が一番気になったのは『不死王』や『空間斬』よりも強いとされる『闘鬼』ゼロだ。そしてゼロでもナンバー2であるという事実。つまり八本指のトップはそれと同格かそれ以上の実力を持つ人物なのだろう。

 

 

 

 

「かなりの強敵の可能性があるな……」

 

「えぇ。ホニョペニョコと同格…」

 

あるいはそれ以上か…だがここではそんな言葉は言えなかった。エ・ランテルの最高位冒険者としてこの依頼を任された以上はパナソレイ都市長やアインザック冒険者組合長たちの顔を潰すことにもなるだろう。そしてそれはエ・ランテルの街で生きるモモンとしては許されることではない。だがそれゆえに思う。

 

(やられた……油断した。これが『貴族』という奴か……)

 

随分と回りくどいことをするものだとモモンは思う。

 

 

(一応、彼の使者からエ・ランテルで『八本指』の話を聞いた際に察しはしたが……エ・ランテルで話を聞いた以上は依頼を受けざるを得ない。だが……)

 

(少しだけ……嫌な気持ちになるな)

 

 


 

 

 

 

「ナーベ、行こうか」

 

「えぇ」

 

そう言って二人はレエブン候の屋敷を出た。出る際にレエブン候から地図を手渡される。地図には幾つか×印を付けられている。レエブン候からは八本指のアジトの可能性のある場所だと告げられた。

 

二人は×印の付けられており、一番地下であろう場所へ向かう。屋根から屋根を飛び移っていく。その間に二人は会話をしておく。

 

「『不死王』……についてどう思う?」

 

「恐らくアインズ殿と同じ種族の者でしょう」

 

「やはり、そう思うか?」

 

「えぇ。犯罪組織などであれば死霊術師よりも、アンデッドという種族の可能性が高いかと」

 

 それはモモンも考えたことだ。一般的にアンデッドは生者を憎む者とされている。それに比べて死霊術師は多少の嫌悪は持たれるも扱いはいいものだ。かの『十三英雄』の一人・リグリットが死霊術を行使したからか、死霊術に良いイメージを持つものも少なからずいる。それゆえ王国の犯罪組織の幹部にいる程の者ならば、その状況でしか生きていけなかった者の方が可能性が高い。表立ってアンデッドが歩いているのを見られた際(勿論アインズ・ウール・ゴウンは例外)は嫌悪どころか憎悪される者は多い。これらの可能性を考慮した結果、種族がアンデッドであるという結論に至った。

 

 

 

 

「『空間斬』と呼ばれる剣士ペシュリアン。そんな奴を従わせるモンクの『闘鬼』ゼロ」

 

「空間斬……もしや『次元断切』のことか?だとすればその強さは最低でもホニョペニョコ級だと考えてもいいだろう。いやそれ以上だと考えておくべきだな」

 

「……そうですね。そうなると『闘鬼』ゼロの強さはホニョペニョコ以上になりますね」

 

「だが……『闘鬼』ゼロがナンバー2ということは…‥」

 

「えぇ。トップである人物はかなり危険な存在ですね。恐らく第10位階魔法を行使できる可能性が高いでしょう」

 

「もし、『闘鬼』ゼロと出くわしたらすぐにレエブン候の元へ撤退しろ。私が時間を稼ぐ」

 

「……分かりました」

 

「頼んだぞ。ナーベ」

 

これは今までで一番危険度の高い依頼だと、二人は思った。

 

 

 

 

 


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