第106話 個の力と群の力
まさかのサプライズ更新!
織原への反応も、無双物に中途半端に主人公を脅かす相手がいるのがモニョるのも理解しています。
だからこそ、織原との戦闘は1週経たずに更新して、すっきりしてもらうべきだと思いました。
織原相手だからの特例です。良くも悪くも特別なキャラなのです。
進堂仁と織原秋人の戦いは、『剣と魔法のファンタジーRPG』で行われるような、分かり易いターン制のバトルとは大きく異なっていた。
それは、例えるならば『インフレが進み切った後のバトル漫画』とでも言うべきだろう。
「っ!」
お互いに漏れ聞こえるのは打撃音と短い呼吸音くらいのものである。
今現在、進堂と織原は1秒間に数10発の攻防を繰り広げている。
それは進堂と織原がステータスを最大まで上げた場合の戦いの次元である。
この次元の戦いには、スキルや魔法と言った小細工は存在しない。いや、存在できない。
それは何故か。簡単に言えば遅いからだ。
通常、スキルを発動する場合には、そのスキルを発動すると意識する必要がある。
常時発動しているようなスキルはもちろん別だが、『技』のようなスキルは必ずその発動を意識することになる。
「ふっ!」
対する魔法はもっと遅い。
大抵の場合、魔法の発動には詠唱が必要になるからだ。
例え、<無詠唱>スキルで詠唱を省略したとしても、『<無詠唱>で魔法を使う』と念じる必要がある。結果的にスキルの発動以上に魔法の発動が早くなることはありえない。
尤も、そもそもこの空間では魔法が使えないのだから、魔法の欠点について論じる必要は薄いのだが……。
それはさておき、ここまで言えばもうわかるだろう。
1秒間に10発以上の攻防がある戦いにおいて、この『意識する』と言う時間がどれほどのロスになるのか。
正直、そんなことをしている間に10発以上殴られてしまうので、とてもではないがスキルや魔法などは使用できないのだ。
例えば、進堂の愛用している<縮地法>と言うスキルがある。
このスキルを使用すると、10m近い距離を一瞬で詰めることが出来る。しかし、欠点として瞬間的に風景が変わることで、その認識のために時間を取られてしまうのである。
見ている物の連続性と言うのは、人間の認識の中で結構重要な部分を占めているのだ。
このレベルの戦いでは、その一瞬が致命的な隙となってしまう。
「ちっ!」
同じような理屈で進堂も織原も武器を使っていない。
武器を使うと言う事は、自分の身体以上のリーチを得る代わりに小回りを失う。
この次元の戦いになると、小回りの利きがちょっとしたリーチよりも大きな価値を持つのだ。攻撃が、次の挙動が0.1秒遅れるだけで相手の攻撃を喰らうことになる。
最大限にスペックを活かせる自分の身体以外の武器はむしろ邪魔になってしまう。
「ぐっ!」
今、進堂が織原の蹴りを防ぎきれずに吹き飛んだ。
-ドン!-
その結果、進堂は背後のビルに激突して、ビルを完全に破砕した。
次の瞬間にはビルへと向かっていた織原と体勢を立て直した進堂が再接近して殴り合いを再開していた。
進堂にはビルへと衝突したダメージなどない。
そもそも、『蹴りを防ぎきれずに』と言ったが、より正確に言うのならば、進堂は蹴りを防ぎきれないと思ったから自ら後ろに跳んだのである。
それにより、蹴りの威力を軽減すると同時に、柔らかいビルと言う名のクッションで更にダメージを減らしたのである。
そして、短い時間とは言え距離を開けたことで、<HP自動回復>スキルによって、蹴りで減らしたダメージの大半を回復しきることに成功していた。
尤も、織原にもその時間は平等に与えられており、今まで進堂が蓄積したダメージも回復してしまっていたのだが……。
「ふふっ!」
お互いに有効打がない膠着状態が続いているため、HPもそれほど減少していない。
例え減少したとしても、今現在の2人の回復能力を考えると1秒もあれば相当量のHPが回復してしまい、余計に膠着状態が続いてしまうのだ。
故に決着が付かず、お互いに相当の長期戦を覚悟しているのである。
故に距離を取らず、近距離戦でHPを減らそうとしているのである。
「ふぅっ!」
戦いの最中、織原の放った突きが進堂に受け流され、近くのビルに掠る。
それだけでビルは大きく抉れ、そのまま倒壊してしまった。
あまりに簡単に倒壊したビルだが、決してビルが脆いわけではない。
厳密に言えば放置されて久しいようで、ボロボロになったビルが頑丈な訳はないが、それでも形がしっかりと残っており、簡単に倒壊するようなものではない。
単純に進堂と織原の攻撃力が桁違いなだけである。
その証拠と言う訳ではないが、2人が戦っている周辺のビル群の大半が2人の手によって倒壊させられ、道路には車が通れなくなるサイズの大きなクレーターが無数に開いている。
時間が経過するにつれ、2人の戦いが激化していくにつれ、徐々にその破壊痕は広がりを見せている。
「くっ!」
しかし、戦っている2人としては、極力周囲の建物を破壊しないようにしているつもりなのだ。
周囲をズタボロにしておいて何を今更、と思うかもしれないが、基本的に物を破壊すると言う事はその分のエネルギーを使う事と同義である。
2人の戦いは長期化することが目に見えているのに、態々『物を壊す』と言う事に体力を使うなど、馬鹿のすることでしかないだろう。
故に、無意味に物を壊すと言う事はしない(理由があれば別)。今現在、周囲が受けている圧倒的な被害は、2人にとっては戦いの中で生じる最小限の被害なのである。
「「はぁ!」」
そして今、2人の拳が正面からぶつかり合い、その衝撃で周囲のビルがいくつも 吹き飛んだ。
これでも、最小限の被害なのである。
2人が戦いを始めてから3時間が経過した。
その間、2人は休む暇なく攻防を繰り返し続け、本当に少しずつではあるがお互いのHPを削り続けていた。
ここまでの形勢は進堂がやや不利と言ったところだろうか。
2人の技術はほぼ互角と言っていいだろう。そして、この次元の戦いになると、その『ほぼ』の小さな差が勝負を分けることもある。
加えて、織原の方がステータスが高いと言う事もある。このステータス差も決して大きなものではないのだが、技術と同じくその小さな差が勝負を分けることになる。
そして、技術とステータスのわずかな差を合計すると、進堂がやや不利と言う結末に落ち着くのである。
「はっ!」
この次元の戦いにおける『やや不利』と言うのは、はっきり言えば負けに等しい。
お互いの実力が明白になった状態で、徐々に現れてきた差なのだ。常に全力で戦った上で現れた差なのだ。これをひっくり返すのは基本的に不可能と言ってもいい。
このような差をひっくり返すには、奇策や相手の油断くらいしか手はない。しかし、このレベルの戦いでは奇策は意味をなさないし(遅い)、織原には一寸の油断もない。
そもそも、織原は自分の事を進堂よりも上だとは考えていない。織原の方が
それ故にこの差は返しようがないのだ。
進堂もそれを分かった上で戦っている。このままでは、時間はかかるが必ず負けてしまうと言う事を……。
しかし、それでも手を休めることはない。足を休めることはない。目を休めることはない。頭を休めることはない。そんなことをすれば、その瞬間に敗北してしまうだろう。
進堂は逃げるのが嫌いだ。もちろん、負けるのも嫌いだが、勝負に絶対はない。負けてしまう事もあるだろう。しかし、諦めて、逃げて負けるような事だけは絶対にしたくはない。
負けるのなら、正面から負けるべきだと思っている。
ただ、これだけは言っておかなければならないだろう。
進堂は、負けるつもりなんて全くないのである。
「ぐっ!」
そうは言っても、進堂の側に徐々に被弾が多くなってきたのも事実だ。
有効打とは言えないが、痛みを感じる頻度は序盤よりも明らかに増えてきている。
「ふふっ!」
織原はこの戦いの最中、時々今のように笑い声を漏らすことがある。
これは、自分が有利だから笑っているのではない。単純に進堂との戦いを楽しんでいるからこその笑みなのである。
例えば、織原の方が形勢不利だったとしても、同じように笑みを浮かべていただろう。
「ちっ!」
対する進堂の方には笑みはない。
進堂は織原との戦いに『楽しさ』を感じてはいないので当然である。
進堂にしては珍しく、何か焦るような表情をしている。
長期戦において被弾が増えているのだから焦るのも無理はない。しかし、だからと言って進堂の攻撃が雑になるようなことはない。
進堂は少しだけ防御への比重を増やし、攻撃の勢いを落とすことで被弾を減らすことにした。もちろん、時間稼ぎ以上の意味はない。
それから更に2時間が経過した。
「ふふっ!」
「はあっ!」
進堂は織原が笑みを浮かべながら放つ蹴りを受け止め、代わりに織原の顔面へと突きを放つ。当然のごとく避けられるが、ほんの少しだが掠ったようで織原の頬に赤い線が走る。
すぐに回復する程度の負傷だが、明確なダメージの蓄積になっている。
見ての通り、現在の形勢は『進堂がやや有利』である。
進堂の被弾は明らかに減り、織原の方の被弾が徐々に増えてきた。
進堂はこの次元の戦いではありえないことに、劣勢からの逆転を成し遂げたのである。
戦闘開始4時間を超えた辺りから、徐々に進堂の被弾が減っていき、織原の被弾が増えてきたのだ。
「ふふっ!」
自分が不利になって来たというのに、織原は当然のように笑っている。
先ほど、織原が有利だった時よりも大きく傷ついている。
しかし、織原は進堂とは異なり、防御に能力を振るような事はしていない。
今の織原が防御に力を割けば、その分以上に進堂が回復していく。アレはあくまでも時間稼ぎであり、基本的に意味のない事なのだ。
そして、織原の不利は時間が経てば経つほど大きくなってきた。
進堂が不利だった時は、お互いのHPが一定量ずつ減っていき、その減り方が進堂の方が大きい、というだけだった。
対して現状はHPの減り方が一定量ではなく、徐々に大きく減るようになってきたのだ。
この現象を一言で表すのなら、進堂が戦闘中に強くなっている、もしくは織原が戦闘中に弱くなっている、のどちらかしかありえない。
進堂が織原のステータスを奪ったのだろうか?
いや、違う。現在、進堂の<
不可能ではないだろうが、その様なリスクを冒して得られるのが、本当にわずかなステータスでは割に合わないだろう。加えて言えば、織原は進堂の異能を宿しているせいか、異能の効きが酷く悪い。さらに時間がかかるだろう。
では、どうやって進堂は戦闘中に強くなったというのだろうか。
それを説明するには少し時間を遡る必要がある。
進堂がマリアとの念話を終えた後、マリアは大急ぎでカスタールの屋敷へと転移をした。
「ルセアさん、仁様の危機です。大至急『
「な!?はい!わかりました。『サモン』!」
マリアは屋敷に入ると、総メイド長をしているルセアの元へ向かい、短く指示を出した。
ルセアは報告された内容に驚愕するものの、一瞬で意識を切り替えてすぐさま『
「マリアさん、一体何があったのですか?」
「仁様が敵と思われる存在に強制的に転移させられました。転移先では魔法が使えず、異能も一部機能が制限されてしまうようです。そこに、仁様に匹敵するステータスの敵がいます」
「な、何と言う事ですか!?主様は無事なのですか!?」
ルセアだけでなく、その場にいたメイド全員が驚愕をした。
彼女達にとって進堂は絶対者だ。その進堂に匹敵する存在がいると言われても、にわかには信じられない。
「今のところは無事です。護衛しきれなかったのは私の落ち度です。叱責は後で如何様にも受けますが、今は報告を優先させてください」
「……わかりました」
マリアは進堂の護衛だ。
目の前で進堂の転移を許したなど、ありえないレベルの失態だ。
マリアとしては、進堂さえ無事に戻ってきたのなら、償いとして死ぬ覚悟すらある。しかし、今はとにかく進堂のために行動するのが先決だ。
「異能が十全に使えていれば話は別なのでしょうが、敵の策略により、単純なステータスによる殴り合いを強制されるそうです。仁様曰く、『勝てるか勝てないかわからない、ギリギリの戦いになる。経験上、多分ギリギリ勝てる……と思う』そうです」
「……それで、私達は何をすればよいのですか?」
ルセアがもどかしそうに本題を切り出した。
進堂の現状が心配なのは間違いがないが、それよりも大切なのは自分達が何をするか、進堂のために何が出来るかである。マリアが『
「とにかく、ステータスを集めます」
「では、私達のステータスを主様に譲渡すればよいのですね?」
進堂の異能<
そのステータスを集めれば良いというのなら、ルセアは自身のステータス、その全てを捧げても構わないと思っている。
そして、その思いはこの場にいる他の
「残念ですがそうではありません。今、仁様の異能は機能不全を起こしており、私達に与えたステータスを回収することが出来なくなっているのです」
実際のところ、配下に与えたステータスさえ回収できれば、進堂が織原に負けることはまずない。織原が進堂との戦いで最も気にしていたのはその点である。
だからこそ、織原は異世界転移と言う裏技を使ってでも進堂の異能を封じることを選んだのだ。
「では、どうするのですか?何か策があるのでしょう?」
「はい。簡単に言えば、とにかく魔物を倒します。魔物を倒すことによって得たステータスを仁様にお送りするのです」
「? 主様へのステータスの返還は出来ないのですよね?」
「はい。でも、どうやら私達のステータスを仁様にお送りするのと、倒した敵のステータスが仁様の元へと向かうのは別の機能の様なのです。そして、後者は無効になっていません」
現在、異能の不具合のせいで、仁との間で<
しかし、その不具合は酷く限定的で、<
そして、共有した<
つまり、今あるステータスは進堂に送れないが、今から入手したステータスなら送れると言う事だ。ならば当然……。
「つまり、主様の配下を総動員して、大規模な魔物狩りを行えばよいと言う事ですね?」
「そうです。ただ、一点修正をするのなら、『総動員』はしないようにとのことです」
「どういうことですか?」
ルセアとしては、戦える者は全員武器を取って魔物狩りに出るべきだと思っている。
むしろ、戦えない者でも戦場に出て、少しでも補佐をするべきだとすら考えている。
「どうやら、アルタが仁様の転移した場所に対応するので手一杯になっているようなのです。故に私達のサポートが出来ません。配下のネットワーク管理をする『
『
総メイド長であるルセアを頂点としたピラミッド型の構造で、1人の管理職が複数人の部下を持ち、その部下が更に複数人の部下を持つという会社のような階層構造になっている。
そして、その最下層に位置するのが冒険者等の現場で働く者達だ。現場で働く者の現状を把握し、その補助をするのが
補足すると、階層構造と言ったが、あくまでも適性によるものであり、厳密には上下関係ではなく、サポートセンターのようなイメージが近い。
例えば、戦闘中に冒険者メイドが危機に陥ったら、
そして、現在はアルタが活動できないので、アルタの補助なし、
「ですが、主様の事を考えれば……」
「これは仁様の命令です。『俺は必ず勝って帰る。それまで配下の管理を怠るな。その上で、可能な限りのステータスを送ってくれ』、だそうです。無理に総動員せず、余計な被害を出さないようにすることを仁様はお望みです。後、あまり時間がないのです。問答はこのくらいにして、
「はっ! ……そうですね。今は時間がないのでした。皆さん!ネットワーク経由で今の情報を共有してください!」
ルセアの指示に
《マリアちゃん!ご主人様に何があったの!?》
《マップには見当たらないですし、念話は通じない。アルタも反応しない。一体どういうことですの?》
《ごしゅじんさまー!どこー!?》
《マリアちゃんも別の場所に転移していますから、何か知っていると思ったんです……》
《さくら様も一緒なのですか?》
《はい……。私の方は終わりました……。全てが終わったので追いかけてきたら、仁君がいないという異常事態でしたので……》
《さくら様が無事で何よりです。……仁様は敵に転移させられました。それで……》
再び進堂に起こった出来事のあらましを説明するマリア。
《ご主人様の隙をつくなんて凄いわね……。ご主人様が警戒していた知り合いかしら?》
《仁様はそう仰っていました。私の目の前で事を起こされるなんて……。死でも贖えない程の失態です》
《絶対、ご主人様はそんなことを望まないと思いますわよ?》
《それでも、自分が許せないのです》
もちろん、進堂はマリアの行いを失態だとは思っていない。
むしろ、織原の罠に巻き込まなくて良かったとすら思っている。
今現在行われている、進堂と織原の戦いの次元においては、配下最強と名高いマリア(対立候補セラ)ですら足手まといになってしまうからだ。
本当の意味でマリアが仁の護衛となる日は遠い。
《ドーラもごしゅじんさまのところに行きたーい!》
《魔法が使えなければ、仁君の元に行くのは難しそうですね……》
《ええ、仁様は『ポータル』も使えないと言っていました。マップ上も断絶しているから、どうすればいいのかがわかりません》
本当ならばすぐにでも進堂の元に向かいたいマリアが悔しそうに言う。
《でも、手がないって訳でもないはずでしょ?だって、その罠を張った方が待ち伏せできたんだから……。それよりも今はステータス集めの方が急務でしょ?》
《そうですわね。ご主人様がその戦いに勝たなければ、帰る方法があったところで意味がありませんわ。少なくとも、救援には間に合わないでしょうから》
進堂の居場所がわからないので、救援の行きようがない。
それよりは、進堂が生き残る確率を少しでも上げるために、ステータスを回収した方が有効だろう。
なお、誰にも言っていないが、マリアには進堂の元へと向かう心当たりがあったりする。
進堂が念話を切っている以上、今現在は無意味な手段ではあるが……。
《では、皆さんにも他の冒険者同様に担当個所を振ってもらうので、魔物討伐の方をよろしくお願いします》
《ええ、勿論ですわ》
《はい……。任せてください……》
《ドーラもやるよー!》
《オッケーよ》
こうして、メインパーティもステータス回収作戦へ参加することになった。
《そう言えば、ミオちゃん。エルディア王国の方はどうなりましたか?私も色々と放って来たんですけど》
『召喚の間』を出たところで仁が転移したので、王族の回収が中断されていたのだ。
マリアの優先順位的に、進堂とは比較対象にもならないので、今まで完全に忘れていた。
《なんかタモさんが王族を回収していたわよ。傷の深そうなのから優先的に……》
《さすがはタモさんです。動転していた自分が恥ずかしいです》
《まあ、マリアちゃんはそうなるわよね……》
タモさんは進堂が転移させられた時から、進堂の意向を推測して動いていた。
動転していたマリアとは違うのである。そのことに少しマリアは恥ずかしくなる。
《それ以外はやって来た竜騎士達に任せているわ。魔族の件も知っているから、色々とスムーズに行ってるわね》
《竜騎士の方達に任せられるのなら、そちらは保留しましょう》
進堂程の優先度はないが、進堂以外の全てを無視しても、進堂が帰ってきた時に面倒な事になる。
ある程度は考えておかなければならないだろう。そして、他者に任せられることは、どんどん他者に任せるのだ。
《では、皆さんは『竜の森』でドラゴンを倒していただけないでしょうか?少ししたので、また『竜の森』にドラゴンが集まって来ていますから……》
『
仁達が1度全滅させたものの、再びドラゴン達が集まり始めているのだ。長い年月のうちに『竜の森』自体がドラゴンを
しかし、ステータスが欲しい今となっては、むしろ望むところである。
戦力的にメインパーティをぶつけるのが1番安定するだろう。
《ドーラもっとやるよー!》
ドラゴン嫌いのドーラがやる気を見せる。
他のメンバー達もドラゴン狩りには慣れているので(5万も倒せば慣れる)、気負っている様子は見られない。
すぐさま転移して、ドラゴン狩りを始めた。
その後は、メインパーティ以外の各冒険者に担当する狩場を振り分ける作業が始まった。
基本的な方針は、人気のない魔物の生息地帯に配下を振り分けるというモノだ。
あまり時間がないため、冒険者ギルドで依頼を受けてから討伐する訳にもいかない。
しかし、魔物の中には依頼による討伐対象もおり、バッティングすると面倒な事になる。
加えて言えば、冒険者の常識の一種として、一か所の狩場を壊滅させるような真似は良くないとされている。
ある程度安定した生態系が成立しているものを人間の都合で崩すので、何が起こるかわからないというのが主な理由だ。下手をすると
なお、進堂は普通にこの常識を無視して、狩場の魔物を全滅させることがある。
まず、そもそも進堂はこの常識を知らない。進堂が冒険者活動をしていたのは、生活基盤が安定するまでの比較的短い期間だけで、それ以降は冒険者資格を残すために採集や調合の仕事を定期的に受けるくらいだ。
そして、進堂が冒険者について確認をしたのは、アルタの能力が発現していなかった頃なので、色々と情報に漏れがあるのである。
故に、今は真っ当の冒険者活動をしているクロード達、カスタール冒険者組奴隷の方が冒険者の常識に詳しかったりするのだ。
話を戻そう。
極力面倒事は避けたいマリアやルセア達は、人里離れた辺境の狩場をターゲットにした。
本来はそんな辺境にある狩場に行くのは大変なのだが、マリア達には『ポータル』がある。
そして、各地の配下達は極力『ポータル』によって行ける個所を増やそうとしている。
故にこのような事態になった時、候補として挙げられる『辺境の狩場』が大量にあるのだ。
《クロードさん達は4人ずつの2パーティに分かれ、カスタール北部の『ジュズの森』と南部の『クラジア洞窟』に向かってください。<光魔法>を使えるクロードさん達が『クラジア洞窟』の担当でお願いします》
《シンシアさん達は迷宮の32層を担当してください。現在のステータスでしたら、その階層が1番効率よくステータスを回収できるはずです》
《ティラミスさんはガシャス王国の『マンイーターの森』。メープルさんはリガント公国、『グレン火山』周辺。ショコラさんは地元の『エンデ山』をそれぞれ担当してください。相性がいいので、お一人ずつの担当で問題ありません》
《月夜さん、常夜さんは迷宮のボスの担当をお願いいたします。常夜さんの<空間操作>があれば、かなり容易に対応できるはずです》
戦闘能力を持つ配下のほとんどがこの作戦に参加している。
逆に戦闘能力のない配下達は、戦っている配下の抜けた穴を埋めるようにアドバンス商会の業務(縮小中)を行っている。
半端な戦闘経験しかない者では、余計な管理の手間が増えるだけなので、いっそ戦わせずに通常の業務をしてもらうことにしたのだ。
進堂の配下には意外と非戦闘要員も多いので、配下の半数以上が作戦に参加していても、縮小した業務を回すくらいなら何とかなるのだ。
担当を振り分け、配下達が魔物討伐を始めたので、どんどんとステータスが集まっていく。
進堂と念話が出来ないので、どれだけのステータスが必要になるかはわからない。ならば制限をかけず、可能な限り進堂へと送り続けるしかない。
ルセアはカスタールの屋敷で陣頭指揮を執っているが、マリアは他の冒険者のように魔物狩りへと向かって行った。
本当はルセアも進堂のために魔物を狩りたかったが、配下の管理をアルタの次に行っているルセアに陣頭指揮を任せるのが1番と言う結論になってしまったので仕方がない。
《こちらクロード。『クラジア洞窟』の魔物を全滅させました》
《お疲れ様です。次は東部の『ゲイン廃墓地』の担当をお願いします》
《……墓地ですか。頑張ります……》
集団の魔物を相手することに慣れているクロード達が最初の狩場を全滅させ、次の担当個所へと向かう。
クロード達を皮切りに、他の配下達も続々と全滅報告をしてきたので、再び
通常、一か所の狩場の魔物を倒し続ける、もしくは全滅させると、ボーナスのようにレアな魔物が現れる。
しかし、今回に限って言えばボーナス魔物は無視されている。
元々、人里離れた辺境なので、後で倒そうと思えば倒すのも容易と言う理由もある。
今は少しでも多くの魔物を倒して、少しでも多くのステータスを進堂に送るのが先決だ。
辺境故に見ている者がおらず、周囲の目を気にせずに全力を出した進堂の配下達が次々と魔物達を屠っていく。
(仁様、どうかご無事で……)
マリアだけではない。
戦闘に参加している者、ルセアや
こうして、配下達の祈りと共に少しずつ積み上げられたステータスは、進堂と織原の差を徐々に埋めていき、ついには逆転するに至ったのである。
元々、大きな差がなかった2人のステータスにおいて、今なお増え続ける進堂のステータスは大きな影響を持つ。
どんどんと織原の被弾は増えていき、ついに……。
「ぐぶっ!」
この戦いで初めてのクリーンヒットが織原の腹に叩き込まれたのだ。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
当然、クリーンヒットにより生まれた隙を見逃すような進堂ではない。
織原がほんの一瞬動きを止めた瞬間に、何10発もの拳を叩きこんだ。
「っぐううううう!!!」
そして、1度形勢が固まってしまえば、ひっくり返すどころの話ではなくなる。
織原が体勢を立て直す暇もない程に連続で攻撃を仕掛ける。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
織原はもう何もできない。
繰り返し放たれる拳により、体勢を立て直す時間は与えられない。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
今までとは比べ物にならないくらい速いペースで織原のHPが減っていく。
正直なところ、お互いにこの状態を作り出すためにHPの削り合いをしていたと言っても過言ではない。このままHPの削り合いだけが続いた場合、最低でも3日は戦い続ける必要があった。
ステータスが拮抗した状態では、本当に戦闘に時間がかかるのである。
しかし今、その均衡は崩された。後はただひたすら連続攻撃を叩き込むだけだ。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
長い連続攻撃の後……。
「おらぁ!!!」
進堂渾身の1撃が織原の顔にぶち当たる。
そして、ついに織原のHPが0という値を刻むに至ったのである。
剣と魔法のファンタジー?ああ、アイツは死んだよ。良い奴だったな。
感想欄の考察が怖い。かなり近いのとか、普通にあるんだけど……。
あ、次の日曜も普通に更新しますよ。
あと、本章は最終章ではありませんので。まだ、魔王とか女神とか色々いるでしょ?真紅帝……これは別にいいか。