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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第7章 灰の世界編

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第105話 異能者と美食家

会話ネタバレ回です。


本編初登場キャラと仁の関係性を知って欲しいための処置です(外伝には登場しています)。

仁とは過去に接点がありますが、何の説明も無しに話題が出てくるので、唐突な印象を受けるかもしれません。

 どうやら、俺は何者かに強制転移させられてしまったようだ。


「ゲボッ!」


 後ろを振り返ると、俺を転移させたと思わしき女子が、『英霊刀・未完』に腹を貫かれ、血を吐いていた。

 身長180cm近い長身で、同じ高校の学生服を着ている。まあ、間違いなく勇者だろう。


名前:野尻のじり朱里あかり

LV79

性別:女

年齢:18

種族:人間(異世界人)

スキル:<剣術LV4><身体強化LV5><跳躍LV3>

祝福ギフト:<浮き上がる軌跡ポップステップ・ジャンプ+15>

称号:転移者、異界の勇者


浮き上がる軌跡ポップステップ・ジャンプ

使用者が過去に足を付けた(踏んだ・通った)場所へと転移出来る。手を触れていれば同時に2人まで転移することが出来る。転移できるのは使用者の現在位置から160(10+150)km以内の地点となる。


 なるほど、この祝福ギフトを使って俺の背後へと転移して、俺に触れてもう1度転移したと言う訳か。

 距離が基準と言う事ならば、マップの条件である隣接エリアを越えて転移することも出来るだろう。そして、俺の虚を突くことも出来る。

 しかし、理屈は理解したがいくつか不明な点もある。例えば、どうやって俺の位置を知ることが出来たのかというモノだ。……よく考えれば、レーザーの時も同じことが言えるよな。

 それらしきスキルは虐めっ子たちも持っていなかったし……。

 ……いや、全く心当たりがないわけでもないんだけどな。


《仁様!ご無事ですか!?一体何があったのですか!?》


 完全に狼狽したマリアからの念話である。

 そして、今の俺にとっては、それどころではない事態が同時に発生した。


《俺は無事だ。……しばらく念話はしてくるな。俺の指示の通り、王族の回収や後始末を進めろ。それと……》


 マリアにいくつかの指示をして念話を切る。

 最後には完全に泣いてしまっていたが、俺の指示は守ってくれるはずだ。


 マリア達の方は心配することはない。

 それよりも俺は目の前の脅威をどうにかする方を優先すべきだろう。


「久しぶりですね、進堂。会いたかったですよ」

「織原……」


 俺の目の前にいるのは織原秋人。俺が最も警戒する存在の1人だ。

 織原はゆっくりと俺に近づいてくる。その目には殺意も悪意も無い。しかし、俺の警戒心は警鐘を鳴らし続けている。

 織原の見た目は、一言で言えば平凡そのものだ。

 顔は同年代男子をまとめて平均化した様に、何処にでもいるありふれた容姿だ。身長も大体高校生の平均身長付近だろう。服装は女子生徒と同じく、学生服だ。一張羅とでも言いたいのだろう。


 俺は女子生徒に刺さっていた『英霊刀・未完』を引き抜き、バックステップで織原から距離を取る。

 しかし、織原は俺の方には向かって来ず、倒れた女子生徒の前で膝を折った。


「織原……様……。私……上手く出来たでしょうか……?」

「ええ、十分な結果です。野尻さんのおかげで、僕は進堂と再会を果たすことが出来ました。本当に感謝しています。ありがとうございました」


 穏やかな笑みを浮かべて女子生徒を労う織原。

 女子生徒はそれを聞いて満足そうに微笑む。


「では……、約束通り……に私を……」

「はい、わかっています。お疲れさまでした」

「ああ……。感謝します……。これで織原様と一つに……」


 女子生徒がそこまで言った瞬間、織原の影が広がって女子生徒を飲み込んだ。


「ご馳走様でした」


 織原は手を合わせて食後の挨拶をした。

 影は元の形へと戻り、その場所には女子生徒がいた痕跡の1つも残っていなかった。

 女子生徒から流れ落ちた血の1滴も残っていないのは、スープを1滴も残さない主義の織原らしいと思ってしまった。


「その女子生徒は仲間じゃないのか?」

「仲間ですよ。でも、あのままではどのみち命は助かりませんでした。だから、せめて僕の手で止めを刺してあげたんです。それが、彼女の望みでもありましたからね」


 女子生徒の口ぶりからして、そうなるように仕向けたのは織原で間違いないのだろう。

 しかし、織原は何でもない事のように言う。

 相変わらず、理解できない思考の持ち主だな。


「では、僕の口からはこう言わせてもらいましょう」


 そこで織原は一度区切りを入れる。


「僕の仲間に致命傷を与えた進堂を許しません!僕と戦ってもらいます!」


 大きな声でそう宣言した後、コホンと息を整えて織原は続ける。


「これが今回の僕の動機です。さあ、進堂。久しぶりに楽しい殺し合いを始めましょう」

「やっぱり、そうなるのか……」


 俺は諦観をにじませて深いため息をつく。


「当然じゃないですか。まさか、進堂はこの状況で僕が動かないとでも思ったんですか?」

「そんなことは一欠片も思ってなかったさ。ただ、来ないと良いなとは思っていたけどな」


 織原が不思議そうな顔をして尋ねてきたので、俺も正直な気持ちを吐露した。

 来ると思っていても、嫌な事が来ないと良いなと思うのは自然な心理だろう。


「はぁ……。こうなったら止まらないし、戦うしかないんだろうな」

「よくわかっていますね。さすが僕の幼馴染」


 全く嬉しくない評価だな。おい。


「……戦う前にいくつか聞きたい事があるんだが、聞いても構わないか?」

「勿論です。気になって戦いに集中できないなんて事になったら、興覚めもいい所ですからね。聞けることは今のうちに何でも聞いてください」


 織原に限って言えば、この状況で嘘をつくことはないだろう。

 ついでに言えば、話している最中の不意打ちの可能性も限りなく低い。何故ならば、織原の動機が『復讐』ではなく『仲間の敵討ち』と言う事になっているからである。

 『仲間の敵討ち』で嘘をついたり、不意打ちをしたりすれば、敵討ちの正当性が疑われることになる。つまり、動機ストーリーと行動が合わなくなってしまうのだ。

 織原は動機ストーリーに則った行動をすることを信条に掲げているので、戦いが始まるまでは安全だと言えるはずだ。


「じゃあ、まず最初の質問だ。ここはどこだ?地球、と言うか元の世界じゃないよな?」


 俺達の周囲にある風景を一言で表すならば、『荒廃したオフィス街』である。

 元の世界のオフィス街のように高層ビルが立ち並び、道路や車もある。

 ただし、ビルや道路、車の全てがボロボロになっていた。


 そして、もっと大きな、元の世界とは似ても似つかないところがある。

 それはだ。俺達の周囲には灰色以外のモノが全く見当たらないのだ。

 まるで、灰色以外の色が全て奪われてしまったかのような空間なのである。

 ちなみに俺達に色は残ったままである。凄い場違い感。


「はい。ここは元の世界でも、僕たちが転移させられた異世界でもありません。強いていうのなら、第3の世界とでも言いましょうかね。ああ、世界としての体裁が崩壊しているから、『女神に見捨てられた世界』と言うのが一番正しいでしょうか」

「この世界は女神が関与しているのか?」


 異世界を女神が創ったというのなら、他に同じような異世界があっても不思議ではない。

 しかし、『見捨てられた』か……。


していた・・・・と言うのが正しいですね。既に女神の興味はこの世界にはありません。逆に言えば、この世界でいくら暴れても、2つの世界のどちらにも迷惑はかけないんですよ。だからこそ、僕は進堂との戦いの場にここを選びました」

「なるほど。世界に気を使ったと言う訳か……」


 俺達が本気で戦い合えば、周囲が無事で済む保証はないだろう。

 俺がそう言うと、織原は少し不快そうに眉をひそめた。


「何を勘違いしているんですか?そんな訳ないでしょう。僕が気を使ったのは進堂にですよ。どちらの世界で戦う事になっても、進堂は周囲を破壊しすぎないように気を使うでしょう?本気で進堂と戦うためには、舞台にも気を使わなければならないのですよ」


 確かに街中で全力で戦えとか言われても、簡単にはいかないだろうな。

 まあ、今いるのはエルディアだから、そこまで抵抗もないんだけど……。


「嬉しくない理解のされ方だな……。まあ、こちらも言ってみただけだ。お前が世界に気を使う程、殊勝な存在じゃないってことはわかっていたさ……。それにしても異世界か。道理でさっきから色々と使えない訳だ」


 今現在、俺は異能やスキルのいくつもの能力が使用不全に陥っている。

 その最たるものはアルタだろう。別にアルタが消え去った訳じゃないのはわかる。しかし、俺との通信に時間を割く余裕がないのもわかっている。

 どうやら、世界の仕様が異なるらしく、この『女神に見捨てられた世界』に対応するために全力を出しているようなのだ。


 先ほど、マリアとの念話が出来たように、元の世界との接続も完全には切れてはいない。

 <無限収納インベントリ>も使えるし、スキルやステータスの欄だってそのままだ。

 しかし、マップは使えなくなっている。そして、魔法を含めた一部スキルも使用できなくなっているのである。

 なので、『ポータル』でこの場から離れると言う事すらできないのが現状だ。

 故に、誰かを呼ぶということも出来ない。完全に織原とのタイマンを強制されているのだ。


 ……ちっ、使い魔エルを呼ぶことすらできないか。


「当然ですよ。ここは世界のルールが違うんですから。余計な介入や、無粋な魔法なんて僕達の戦いには不要です。そう考えると、ここは本当に丁度いい世界ですよね」


 織原は満足そうな笑みを浮かべる。

 確かに、ここまで織原と戦うのに丁度いい世界と言うのもそうはないだろう。

 しかし、そうなると気になることが出てくる。


「この世界には生き物はいないのか?」

「いますよ。ただし、この周辺にはいません。数100kmくらい移動すれば多分見つかると思いますよ。彼らと接触しても、得るものはあまりないと思いますけどね……」

「また気になることを……。まあ、そっちはいいや」

「聞かなくていいんですか?答えますよ?」


 織原が不思議そうに尋ねてくる。

 さっき織原が言った通り、質問されれば答える気はあるようだ。でも……。


「お前を倒した後で自分で確かめた方が面白いだろ?」

「ふふっ。進堂らしいですね。何でも知ることが出来るのに、あえて自ら条件や情報を制限して楽しむというところが……」


 何度も言うが、全く嬉しくない理解のされ方である。


「お前だって縛りプレイをするのは嫌いじゃないだろうに……」

「まあ、僕の場合は進堂に合わせるのが趣味と言うだけですから、若干意味合いが違うんですけどね」

「それで、そのステータスってことか……」


 織原が現れた時、当然ステータスの確認をした。

 そこに表示されたのは、俺の予想通り、想像もできないモノであった。


名前:織原おりはら秋人あきひと

LV1792

性別:不明

年齢:不明

種族:不明(異世界種)

スキル:%笈ァ@I

祝福ギフト:<美食の饗宴グルメフェスティバル

呪印カース:<人喰の狂宴カニバルカーニバル

異能:<テイク><ウィンドウ

称号:超?者、転?者、異?の?者


美食の饗宴グルメフェスティバル

物を食べることにより、そのステータス、スキルを吸収する。非生物を食べることで、その性質を取得することが出来る。生物を食べた場合は本体の一部であっても、ステータス・スキルを取得できる。


人喰の狂宴カニバルカーニバル

物を食べることにより、そのステータス、スキルを吸収する。自身の肉を食わせることで、対象に自身のステータス、スキルを譲渡できる(1日1回)。自身の影を使用して対象を取り込むことが出来る。


テイク

倒した相手のステータス、スキルを吸収する。


ウィンドウ

鑑定、マップ、ステータス閲覧ができる。



 LVが異常に高いのも、『不明』の項目が多いのも、スキル欄が文字化けしていることも、祝福ギフトの他に呪印カースを持っていることも置いておこう。

 それくらいは予想の範囲内だ。1番の問題は……。


「何でお前が異能を持っているんだよ……」


 織原の持つ異能は<テイク>、と<ウィンドウ>の2つだ。

 その2つは名称から考えても、明らかに<生殺与奪ギブアンドテイク>と<千里眼システムウィンドウ>と関係があるだろう。


「決まっているじゃありませんか。進堂の異能を吸収したんですよ」

「やっぱり……。でも、いつだ?この世界に来てから。エルディア王城で離れてからは、織原との間に接点はなかったはずだぞ?」


 マップを見るとき、必ず織原がいないことだけは確認していた。

 アルタにも織原が見つかったら最優先で知らせるように指示をしていた。


「進堂が覚えているかどうかは知りませんが、エルディア王都北部の村に泊まりましたよね?その部屋で進堂の毛髪を発見しました。ご馳走様でした」

「何それ気持ち悪い」


 織原の言い方から察するに、俺の髪の毛を食ったと言う事だろう。

 有体に言って、心の底から気持ち悪い。


「進堂は辛辣ですね。僕の努力を認めてくださいよ。流石に進堂の力を取り込むのは苦労したんですよ。見ての通り、ほとんど再現できませんでした。たったこれだけの能力を再現するのに、血反吐を吐くような思いをしたんですから」


 俺の記憶が確かなら最初の村に泊まった時には、<生殺与奪ギブアンドテイク>がLV2になっていた。

 <生殺与奪ギブアンドテイク>のLV2効果は殺した相手のスキルとステータスを奪うというモノで、織原の持つ異能の効果と一致している。


 代わりと言う訳ではないだろうが、織原の異能は通常状態でステータス・スキルを奪う効果は持っていないようだ。

 つまり、織原の持つ異能は、俺の異能の下位互換に当たる。名前も一部抜粋みたいだし、ある意味納得ではあるのだが……。


「もう1つ聞きたいんだが、その祝福ギフト呪印カースと異能の効果って……」

「勿論、相乗効果があります。簡単に言えば、僕は食い殺した相手の3倍のスキルとステータスを得ることが出来ます。進堂に置いて行かれないために、僕も頑張ったんですよ」

「マジか……」


 織原の祝福ギフトである<美食の饗宴グルメフェスティバル>。呪印カースである<人喰の狂宴カニバルカーニバル>。そして、異能である<テイク>の3つには、それぞれスキル・ステータスの吸収効果があった。

 織原は何でもない事のように言ったが、その3つに相乗効果があるとなると、単純計算で俺の3倍のステータスを得られるようになる。


「進堂が配下を揃えて能力強奪のネットワークを作るのなら、僕は一回当たりの質を高めるというアプローチをとるべきでしょう。似ているけど、根底が違う能力の運用。ライバルに相応しいやり方だと思いませんか?」

「言いたい事はわからないでもないが……。でも、カラクリはそれだけじゃないんだろ?それだけだと、全力の俺と大差ないステータスになる訳が無いからな」


 驚くべきことに、織原のステータスは全力の俺に匹敵する。……いや、匹敵どころか織原の方が俺よりも若干高いくらいだ。

 配下に与えているステータスを回収すれば、総合的なステータスで上回ることは出来るだろう。しかし、異世界に転移した影響で配下のステータスを俺に移すことが出来なくなっている。故に今の俺に織原のステータスを上回ることは出来ない。


 そして、織原がここまで強くなっているのは、3倍強化だけでは説明しきれない。

 どう考えても、織原が俺のステータス強化を上回るほど魔物を倒しているようには思えないからだ。


「ええ、勿論です。<人喰の狂宴カニバルカーニバル>には自身の血肉を与えることで対象を強化する効果があります。そこら辺の魔物に僕の血肉を与えてから倒せばあら不思議。与えた能力の倍以上のステータスを得ることが出来ます。ちょっとズルいですけど、これを繰り返せば簡単にステータスが上がっていきます。日に1度と言う制限と与えられる能力の限界があるのが難点ですけどね」

「バグ技っぽいな……」


 魔物に能力を与えて、倒すことで与えた能力の倍のステータスを回収する。

 それを繰り返して簡単にステータスを上げる。たとえ効率が良かったとしても、こんな頭のいかれた強化方法、織原くらいしか使えないよ。

 しかし、これで織原の馬鹿気たステータスの謎が解けた訳だ。


 あまり言いたくないことなのだが、これだけの事を俺と戦うためだけに準備していたという織原に対し、戦慄を隠し切れない。

 いや、知ってはいたけど、本当にここまでやるんだよな。コイツ……。


 そろそろ織原に聞いておかなければならないこともなくなってきたな。

 織原に関することはアルタですら把握できないだろうから、本人から直接話を聞けて良かったよ。


「進堂の表情から察するに、そろそろ聞きたい事は無くなってきましたか?」

「当たり前のように表情を読むなよ……」

「進堂の事はよく見ていますからね。些細な変化も見逃しませんよ」


 クスクス笑いながら織原が言うが、野郎に、それもこんな危険なストーカーに言われても全く嬉しくないセリフである。

 いや、女性ならストーカーでもいいと言う訳ではないが……。



 織原はコホンと一回息を整えて話を続けた。


「さて、進堂に聞きたい事が無くても、僕の方に喋りたい事がいくつかあるので、聞いてもらってもいいですか?」

「手短にしろよ」

「はい。わかりました」


 織原の話なんか聞きたくはないという気持ちもある。

 しかし、織原が改めて喋りたいと言う事は、俺にとって無視できる内容ではないのだろう。

 少なくとも、この状況で本当の意味での雑談をするような奴ではない。


「ではまず1つ目です。進堂は気にも留めなかったようですが、僕の持っている呪印カースについてです。そもそも、何で祝福ギフトを持っている僕が呪印カースを持っているんでしょうか?」

「まあ、織原だし……」


 織原ならばそれくらい持っていても不思議ではないだろう。


「それに関しては否定のしようもないんですけどね。ただ、結果はともかく過程や理由はあるんですよ。と言っても、大したことではありません。この世界に来た時に余っていた祝福ギフトを改変しただけですから」

「余っていた……。まさか、俺とさくらの祝福ギフトか?」

「正解です。進堂とC組の木ノ下さん……でしたっけ?2人はこの世界に来た時、異能を持っていたせいで祝福ギフトを得ることは出来ませんでした。でも、祝福ギフトを渡されなかったわけではないんですよ」


 転移の際に祝福ギフトが無かったから、てっきり渡されなかったのだと思っていた。

 しかし、どうやら女神は俺達2人にもしっかりと祝福ギフトを配っていたらしい。

 だが、俺達はその祝福ギフトを無意識の内に『いえ、手持ちの異能があるから結構です』と受け取り拒否していたようだ。


「では、渡されるべきだった祝福ギフトはどこに行ってしまったのでしょうか?」

「いや、さっきお前が答えを言ったじゃないか……」

「はい、その内の1つは僕がいただきました。そのまま持っていても使い勝手の悪そうな祝福ギフトだったので、軽く弄っていたら呪印カースになったんですよね。使い勝手がよくなったからいいんですけど……」


 祝福ギフトって、ちょっと弄ると呪印カースになるのか……。

 いや、あまり驚くような話でもないか。性質が似ているっていうのは分かっていたことだし。


 それよりも、1つ驚く話が紛れ込んでいたな。


「その内の1つだって?俺とさくらの2つ祝福ギフトがあったんじゃないのか?」

「ええ、ですが僕が回収できたのは1つだったんですよ。もう1つはどこに行ってしまったんですかね?」

「ちなみに、お前が回収した祝福ギフトの元々の名前って何だったんだ?」


 祝福ギフトはその勇者に合ったものが与えられる。

 祝福ギフトの詳細がわかれば、俺のモノかさくらのモノかが分かる可能性が高い。


「確か……<闇夜の道標ナイトガイド>と言った名前だったと思いますよ。危険地帯でも比較的安全な場所がわかるようになる避難用祝福ギフトです」

「それは、さくらに与えられるべき祝福ギフトだろうな」


 周囲が危険で一杯だったさくらに必要な祝福ギフトだろう。

 少なくとも、俺の性質に合っているとは思えない。逃げるの嫌いだし……。


「ええ、僕もそう思いました。だからこそ改変したんですけどね。進堂に与えられるべき祝福ギフトだったら、多少使い勝手が悪くても、そのまま使ったと思いますから」


 「その方がストーリーが盛り上がるでしょう?」と織原は続けた。


「そうなると、俺に与えられるはずだった祝福ギフトはどこに行ったんだろうな?別に惜しいわけではないけど、多少は気になる」

「予想は出来ているんですけどね……。まあ、これは秘密と言う事にしましょうか」

「大して気になる話ではないが、織原がそう言うと逆に気になるな……」


 しかし、織原が秘密にすると言ったことを聞き出すのは容易な事ではない。

 大人しく諦めよう。だって、完全な時間の無駄だから……。


「どうでもいい話は脇にどけましょう。それより、2つ目の話です」


 話を続ける気は無いようで、織原はさっさと話を区切ってしまった。

 まあ、気になるなら後で自分で調べるからいいんだけどさ……。


「進堂はさらっと流してしまいましたが、この世界からの脱出方法の話です。この世界では魔法が封じられるので、野尻さんの祝福ギフト以外に直接転移する方法はありません」

「その祝福ギフトだって1度も行ったことのない場所には転移できないんだから、何かしらの方法があるはずだ」


 織原がここにいる以上、何らかの方法で元の世界(異世界の方)に戻る方法があるはずだ。

 そもそも、織原の目的が俺を異世界に閉じ込めることだとは思えない。そんなつまらない事をこの男はしない。


「勿論です。ただ、この場で全ての答えを言うのも勿体ないので、ヒントだけお教えしましょう。この世界と元の世界は『門』によって繋がっています。その『門』がどこにあるかは自分で探してください。ヒントは『密度』と『中心』です」

「なるほど。この異世界の『中心』で、そこを守るように何かが配置されているんだな。その『密度』が高い場所を探せと言う事か……」

「……進堂こそ、先読みしすぎですよ。そう言うのは後で考えてくださいよ。折角のヒントが台無しじゃないですか」


 はあ、とため息を吐きながら織原が項垂れる。

 良くも悪くも付き合いが長いからな。織原のヒントの傾向も予想がつくんだよ。


「そこまでバレているのなら、中途半端に隠す方が格好悪いですね。ええ、その通りです。この世界の中心に『門』はあります。何故、中心なのかと言えば、この世界は現在進行形で崩壊しているからです」

「崩壊?特に異変は感じないが、何かが起こっているのか?」

「はい。地図が外側から徐々に燃えているイメージですかね。段々とこの世界は狭くなっているんですよ。その地図の中心に『門』があります。ああ、一応言っておくと、完全に消滅するまでの時間的猶予は十分にあります。1年2年ではありません」


 なるほど、女神が創り、現在崩壊している世界ならば、『女神に見捨てられた世界』と呼ぶのが正しいだろうな。本当に見捨てたのかは別としても……。


「さっき、この世界に生き物がいるって言っていたけど、そいつらはこの世界の崩壊から逃げないのか?『門』を通れば異世界に行けるんだろ?」

「『門』の存在を知らないというのが1つ目。『門』の周囲に近づけないというのが2つ目の理由ですね。この世界にも魔物に近い存在がいるんですよ。それが、『門』に他の生物を近づけない様に守っています」

「それが2つ目のヒントの密度だな。魔物の多い場所を探せって事だろ」

「その通りです。……中途半端なヒントにしなければよかったですね」


 結局、ヒントで済ませるつもりが、全部話してしまったようだ。


 この世界に存在する生き物が何なのかはまだ不明だ。

 人間のような種族なのか、全く別の生き物なのかもわからない。

 滅びゆく世界に取り残されているのは憐れだと思うが、助けるかどうかはまた別の話だ。


 とりあえず、織原を倒した後で余裕があれば原生生物の様子を見に行く。

 助けるに値する存在だったら、何とか助けてみるといった具合だろう。


「ついでに言うと、この辺りには魔物っぽいモノはいませんので、安心してください。進堂との戦いを邪魔されるわけにはいきませんからね」

「俺はそれに感謝をすればいいのか……?」

「いえ、心配しないでくださいね、と言う事です。進堂に気を使ったんですよ」


 全く嬉しくない気遣い再びである。



「さて、僕の方から話すこともそろそろなくなってきました。進堂の方はどうですか?色々話したから、追加で聞きたい事とかありませんか?」

「うーむ、特に思いつかな……いや、1つだけ残ってた。今回のエルディアとの戦争、お前はどこまで関わっている?」


 織原がエルディアで事を起こした以上、戦争自体に大きく関わっていた可能性が高い。


「進堂が僕の事を評価してくれるのは嬉しいんですけど、残念ながらそれ程大したことはしていませんよ。大きなところでは、日下部君にエステアについて教えた事と、勇者が戦争に参加した場合のメリットを王族に話した事と、魔族にエルディアとカスタールの戦争の事を伝えたくらいです」

「要所要所で大体関わってるじゃねえか……」


 1つ1つはそれ程大したことではないが、この戦争の状況を大きく変えた選択の裏には織原の存在があったことになる。まあ、今更驚くことではない。


「と言うか、お前もしかして魔族とも連絡が取れるのか?」

「ええ、それは勿論です。そもそも、魔族の持っている祝福ギフトを回収する魔法の道具マジックアイテムだって、僕が魔族に協力したから完成したんですよ。魔族だけであんな装置を作れる訳ないじゃないですか」

「アレもお前の仕込みかよ……」


 そのせいで勇者が100名以上死んだというのに、何の感慨も湧かないようだ。

 その点に関しては俺も人の事は言えないのだが……。


「アレが無ければ、魔族もエルディアを攻めようとは思わなかったでしょうからね。元々、魔族も勇者を倒すために色々と手を打っていたみたいですが、何者か(ちらっ)が全て台無しにしてしまったようで、簡単に手を組んでくれました。何者か(ちらっ)のおかげですね」


 『何者か』の辺りで俺の方をチラチラ見てくる織原がウザい。

 どうやら、俺が行く先々で四天王を潰していたから、進退窮まった魔族が織原の協力を受け入れざるを得なかったという背景があるようだ。

 別に俺が悪い訳でもないのだが、織原の関与を許したという一点でもって失敗である。


「他に細かい仕込みと言えば、木ノ下さんの関係者をガラン山脈付近の村に配置したり、進堂が殺すのを躊躇わないで済むよう、C組を中心に勇者を編成したことくらいですかね」

「C組……か。確かに禄でもない連中しかいなかったからな。そんな気はしていたよ」


 うちの学校において、C組と言うのは『良くないモノ』を集めておくようなクラスだ。

 一応言っておくと、不良の掃き溜めと言う訳ではない。そこまで頭の悪い連中はウチの学校に入れない。

 詳しい説明は端折るが、簡単に言えば『虐めが起きやすいクラス』とでもいうべきか。俺もそれを知ったのは異世界転移するちょっと前くらいなのだが……。


「ええ、この舞台を整えるのには結構苦労しました。さて、進堂の表情から察するにもう質問はないんですよね?」

「だから表情を読むなと……いや、いい。ああ、もう聞きたい事はないぞ」

「突っ込みを放棄されるのは、それはそれで寂しいですね」


 一体どうしろと言うのだ。


「進堂がつれないのは残念ですが、久しぶりにじっくり話を出来たので良しとしましょう」

「俺は織原と話をしたい訳じゃないんだが……。まあいい。そろそろ始めようか」


 織原と話をするのは疲れるが、得るものは大きいのが問題だ。

 裏でコソコソやっている時は徹底的に隠すのに、表に出た途端に全てをぶちまけるのだ。

 途中までのやり口はともかく、最後の潔さだけは嫌いではない。


 そして、織原との話が終わると言う事は、これ以降は話す間もない戦いが始まると言う事に他ならない。


「進堂の準備はいいですか?」

「ああ、いつでも来い」

「では、行かせていただきます」


 こうして、俺と織原の誰も見ていない1対1の戦いが始まった。

ほぼ1対1の会話で1話使うのは初めてです。色々詰め込み過ぎた……。


思わせぶりなセリフや、説明をしていない重要な情報(伏線)が大量にあります。

つまり、「仁(作者)は知っているけど、仲間(読者)にはまだ公開していない情報」です。織原の正体とか。


次回は珍しく仁視点ではなく、3人称視点(ナレーション)で進みます。

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