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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第7章 灰の世界編

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第104話 魔族転生と断罪

四天王は既に退場済みです(意味深)。

 クラウンリーゼが起きるのを待つこと数分。


「うっ……。うぅ……。うん……?」


 ようやくクラウンリーゼが目を覚ました。

 ついでに言うとキャリエリウスはまだ正気に戻らずに虚ろな目をしている。今はマリアによって完全に拘束されており、ポロリは直されている。


「な、何これ?一体どうなってるのよ。ここどこ!?え?ちょっと動けないんだけど!」


 壁に挟まったままジタバタともがいているクラウンリーゼ。

 混乱すると中二病スタイルは消えてしまうのか、今は年相応の喋り方になっている。


「誰かー!ここから出してー!」

「いや、呪印カースなり何なりを使って脱出しろよ」


 クラウンリーゼがあまりにも狼狽えすぎていたので、思わず突っ込んでしまった。


「だ、誰かそこにいるの!?助けて!助けてください!」


 近くに俺がいることに気が付いたクラウンリーゼが助けを求めてくる。

 いや、だから呪印カースを使えというのに……。


「はあ?何を言ってるんだ?さっきまで殺そうとしていた相手に……」

「な、何のこと!?殺すって何!?」


 明らかに不自然なレベルで会話が噛み合っていない。

 ……もしかして、記憶喪失にでもなったのか?


A:どうやら逆のようです。ステータスをご確認ください。


 逆?一体どういうことだ?

 とりあえず、クラウンリーゼのステータスを確認してみる。


名前:クラウンリーゼ

LV44

性別:女

年齢:14

種族:魔族(転生者)

スキル:<暗黒剣LV5><闇魔法LV3><身体強化LV6><飛行LV4>

呪印カース:<存在加算アドラステアLV->


 …………は?

 種族のところに『転生者』が追加されているんですけど……?

 一体どういうことだ?


「ね、ねえ。何か言ってよ……。私、一体どうなっているの……?気付いたらこんなところで動けないし……。そもそも、ここどこ?私、確かトラックに轢かれて……」


 ……そのフレーズ、もしかして。


「1つ聞きたいんだが、お前の名前は何だ?」

「え?名前?私の名前は成瀬なるせめぐみよ。それより、助けるなり説明するなりしてくれない?ちょっと不安で仕方がないんだけど……」


 どう考えても日本人の転生者だ。


 嘘をついている可能性は?……<千里眼システムウィンドウ>でも<真実の眼トゥルーアイズ>でも『嘘をついていない』となっている。

 と言うか、そもそも、このタイミングで急にそんな嘘をつく意味が分からない。


 トラックに轢かれたというのが事実で、死んでこちらの世界に魔族として転生したと考えるのが自然だろうか?

 ミオは人間として転生したが、ティラミスは魔物として転生した。ならば魔族として転生してもそれほど不自然なこともないだろう。

 そして、頭を打った衝撃でその事を思い出した?んな馬鹿な……。


「おーい……。そろそろ私泣いちゃうよ。女子中学生を泣かすの……?」


 クラウンリーゼ改め成瀬恵が放って置かれ過ぎて涙声になっている。

 泣いちゃうよと言いつつ、ほぼ泣き始めていた。

 まあ、流石にこれはアイツも無関係だろうし、とりあえず助け出してもいいんじゃないかな?万が一攻撃してきても、防ぐ分には問題がないだろうし……。


「わかった。とりあえず、引っ張り出すぞ」

「や、やっと話を聞いてくれた!うん、うん!お願いします!」


 恵が突っ込んだ壁に近寄り、その足をむんずと掴む。


「ひゃう!?」

「じゃあ、引っ張るぞ。せーの……」

「いたた!?痛い!痛いよ!止めて!?」


 引っ張り始めるとすぐに恵が声を上げた。

 マップを見てみると、崩れた瓦礫が壁の向こう側で恵の動きを押さえつけており、引っ張るだけでは抜けないようになっていた。


「これは引っ張っても無理だな。諦めよう」

「あ、諦めないでよ!?助けてよ!?」


 打てば響くというか、良い反応するなぁ。

 さて、あんまり弄り過ぎても話が進まないし、そろそろ本気で助けるとするか。


 剣で壁を貫き、空いた隙間から壁の向こう側を視認して『ワープ』。

 恵を押さえつけていた瓦礫を全て切り崩して元の位置へ『ワープ』。

 そのまま恵を引っ張って全身をこちら側へと戻す。


 この間僅か3秒である。


「え?今何が起こったの?」


 助けられ、俯せになったままの恵が言う。


「助けろと言われたから助けたんだが?迷惑だったか?戻すか?」

「……いえ、ありがとう、……ございました」


 お礼を言った後、恵はその場で立ち上がる。

 そして、自分の姿を確認して目を丸くする。


「え?何この格好?って言うか眼帯?道理で前が見難いと思った。え?何で私こんな格好しているの?そしてなんで私の肌が紫色なの?特殊メイク?」


 残念ながら、恵の混乱はまだまだ収まりそうにない。

 そして、どうやら恵のようなケースでは、クラウンリーゼとしての記憶は失われているようだ。それが一時的なモノなのか、永続的なモノなのかは不明だが……。


「な、なんなのよこれぇー……。もうやだぁー……。びえー……」


 完全に処理能力の限界を超え、とうとう恵が泣き出してしまった。

 鼻水を垂らして子供のように泣きわめくガチ泣きである。



 さて、俺への質問も無いようなので、マリアの元へ歩いていく。


「仁様、あの魔族は一体どうしたのでしょうか?」

「わからん。ただ、色々と面白おかしい事になっていることだけは間違いがない」


 正直言って予想外の展開である。

 クラウンリーゼの呪印カースが途中で終わってしまったのは残念だが、それ以上に面白いことになっているのだから良しとしよう。

 それに、ステータスを見る限りでは呪印カースは消えていないので、見るチャンスがなくなったわけではない。


「あの娘はどうなさるのですか?」

「そうだな。出来れば配下にしておきたいな。アルタが調査をするにも、俺の配下にしておいた方が色々と楽だからな」


 アルタのQ&Aも万能ではない。

 祝福の残骸ガベージのように入手してから調査したり、配下にすることで初めてわかることもある。

 かなり異常イレギュラーな存在なので、出来れば確保しておきたいというのが本音だ。


「泣いている奴に説明するのは面倒だし、アルタに説明を任せるためにも強制<奴隷術>が手っ取り早いかな」


 泣いている女子中学生を無理矢理奴隷にする。まさしく鬼畜の所業である。


 混乱している奴に現在の状況を1から説明していたら日が暮れてしまうので、出来ればアルタに説明を丸投げしたい。調査も含め、奴隷にするのが1番効率的だろう。


A:お任せください。


 <奴隷術>で相手を強制的に奴隷にするには、こちらのレベルやステータスが相手よりも相当上で、更には高レベルの<奴隷術>も要求される。

 だが、ちょっと前に『竜人種ドラゴニュートの秘境』で大量のドラゴンを倒し、レベルが大幅上昇したので、レベル・ステータスに関しては全く問題ない。

 ついでに<奴隷術>レベルはイズモ和国でトオル・カオルを強制的に奴隷にする際に10まで上げているので、こちらも特に問題はない。


 そうと決まれば早速<奴隷術>を発動して恵にぶつけてみようか。


 おっと、奴隷にしたときに何が起こるかわからないから、念のため<生殺与奪ギブアンドテイク>のレベル7効果で呪印カースを無効化しておこう。

 ロマリエの時みたいに急に記憶を失われても面倒だからな…………よく考えたら、ロマリエも記憶を失っているんだよな。何か関係があるのか?


A:調べておきます。


 ああ、頼む。少しだけ嫌な予感がするからな。


 魔族の記憶の件は後回しにして、今は恵を奴隷にすることに集中しよう。……改めて考えると酷い言い草である。

 今度こそ<奴隷術>を発動し、陣を恵にぶつける。


「びえーん!……ふえ?な、何!?」


 無事に<奴隷術>が効果を発揮して恵が俺の奴隷となった。

 見たところ呪印カースや恵本人への影響はないようだ。


「え、ええ?頭の中に声が!これ何!?」


 どうやら、早速アルタが恵への説明を開始したようだ。

 大抵の場合、アルタの声を始めて聞いた者は似たり寄ったりの反応をするから、この光景も見慣れたものである。



 恵がアルタの説明を聞いている間、俺とマリアはキャリエリウスの様子を確認していた。


 アルタ曰く、反撃の威力を計算した結果、そろそろ起きるらしい。

 がっちり拘束しているから、起きたところで何もできないだろうけどな。


「う、ううん……」


 よし、大体アルタの計算通りのタイミングで起きてきたな。


「あらあら?一体どうなっているのかしら?」


 キャリエリウスは周囲を見渡し、理解できないとばかりに首を傾げている。


「そこのお兄さん。何でわたし縛られているのかしら?何かご存知?」


 キャリエリウスは、初めて俺を見たような反応をして質問してきた。

 少し前に似たような反応をした奴がいたんだけど……。まさかそんなことはないよね?

 念のため、キャリエリウスのステータスを確認してみる。


名前:キャリエリウス

LV46

性別:女

年齢:27

種族:魔族(転生者)

スキル:<鞭術LV6><闇魔法LV6><身体強化LV4><飛行LV4>

呪印カース:<存在堕落フォーリンダウンLV->


 …………やっぱり。


 どうやら、クラウンリーゼに引き続き、同じ四天王であるキャリエリウスも魔族として産まれた転生者だったようだ。

 ……これを偶然と捉えるのは、どう考えても無理があるだろう。


 まあ、貴重なサンプルが増えたと思えば、そう悪い事でもないだろう。

 <生殺与奪ギブアンドテイク>のレベル7効果で呪印カースを無効化して、すかさず<奴隷術>を発動。キャリエリウスが俺の奴隷となった。この間僅か1秒である。


「あらあら?今のは一体……?頭の中から声が……。何かしら?」


 恵と似たような反応をして、アルタからの説明を受け始めたキャリエリウス。

 2人を奴隷にして説明をアルタに任せてしまったので、することがなくなってしまった。


 折角暇になったので、ミオ達へ念話でもして暇つぶしをしよう。


《ミオ、そっちの方はどうだ?》

《あ、ご主人様。こっちは終わったわよー。魔族は全滅と言って問題ないわ。あ、そうそう。竜騎士部隊もちょっと前に到着したから、今はそっちに説明をしているとこ》

《ああ、そう言えばいたな……。色々あったからすっかり忘れていたよ》


 王都が魔族に襲撃されていたので、竜騎士部隊よりも先行したからな。

 時間的には到着していてもおかしくはないだろう。


《ご主人様の都合次第だから、竜騎士達には城壁の外側で待機してもらってるわ》

《しばらく、そのまま待機させておいてくれ》

《了解。……ところで、面白い事って何?》


 ミオがワクワクしたような声で聞いてきた。


《マップで俺達のいる場所を確認すればわかると思うぞ》

《どれどれ……。え?……はい!?》

《見ての通り、魔族の四天王2人が転生者だったので奴隷にした》


 マップを見て混乱しているミオに簡潔に説明する。


《はー……。やっぱり、ご主人様といると退屈しないわね。それにしても、魔族って人類の敵なんだけど……。一体、どうなっているのかしらね?》

《それは今アルタが調べている最中だな》


 2人を奴隷にしたことで、サンプルも増えたし、調査の準備は整っている。

 後は祝福の残骸ガベージの時のように結果を待つだけだ。


《もしかして、今まで倒してきた魔族も転生者だったのかしら……》

《同じ四天王だし、ロマリエは微妙なところだな。下っ端魔族に関しては知らん。まあ、敵である以上、転生者だろうが何だろうが概ね殺すけどな》


 今回、クラウンリーゼとキャリエリウスの2人は、面白い呪印カースを持っていたからじっくりと戦うことになった。

 しかし、本来だったら下っ端同様に瞬殺コースでもおかしくはなかった。


《ご主人様はそうなるわよね。……私は同じ転生者として若干の躊躇があるわ》


 ミオにとって、転生者関連の話は他人事ではないのだろう。


 例えば、全ての魔族が転生者だったとして、そいつらの元の記憶を取り戻す手伝いをしてやるのかと聞かれれば、当然答えはNoだ。

 今回は偶然2人が記憶を取り戻したから奴隷にしたが、態々記憶を取り戻すという手順を踏んでまで魔族や転生者を奴隷にしたい訳ではない。

 そもそも、記憶を取り戻す方法が明らかになるかどうかもアルタの調査次第だからな。


《今後の方針を決めるにしても、アルタの調査次第だな》

《だね。アルタの調査が終わったら、私にも教えてね。流石に気になるから》

《わかった》


 と言う事でアルタ、何かわかったらミオにも教えてあげてくれ。


A:了解いたしました。1つ提案なのですが、2人への説明に時間がかかりそうですので、一旦カスタールの屋敷に転送していただけますか?マスターはその間にエルディアの後始末をしては如何でしょう。


 マップを見ると、城内にいた魔族は四天王の2人を残して全滅していた。

 タモさん軍団が片づけてくれたのだろう。これで、エルディア王国での戦いは実質的に終了したと考えても良いだろう。

 そして、戦いが終わって他にすることがあるんだから、暇になっている場合じゃないよな。

 エルディアと直接戦うことはなかったけど、実質俺達の1人勝ちだから、カスタールが戦勝国扱いでも構わないよな。


《アルタからの提案で、2人を屋敷の方に送って戦後処理を進めることにした。だから、竜騎士達を城の方にやってくれないか?》

《わかったわ。お城に直接乗り入れちゃっていいの?》

《大丈夫だな。中庭にでも降ろさせればいいだろう》


 ミオへの指示を出して念話を切る。

 魔族の2人はアルタの説明を聞いて顔色をコロコロ変えている。

 まあ、専らクラウンリーゼの顔色が変わっていて、キャリエリウスはあまり動じていないように見えるんだが……。


A:内心ではとても混乱しています。表情に出ていないだけのようです。


 ……あ、そうなんだ。

 キャリエリウスのキャラがよく掴めないな。


 どちらにせよ、説明が終わって2人が落ち着くまでには時間がかかりそうだし、カスタールの屋敷に転移してもらうか。


《ルセア、俺の指定する2人を『サモン』で回収してくれ。現在アルタが説明中の配下だ》

《了解いたしました》


 俺はカスタールの屋敷で総メイド長を務めているルセアに念話を送る。

 ルセアには俺の配下に関する管理を任せており、『召喚魔法サモン』などの配下に使用する魔法を与えている。

 メインメンバーを呼ぶことは出来ないが、俺の配下のほとんどはルセアが『サモン』で呼び出せるように設定している。

 これは、冒険者をやっている奴隷がピンチの時、強制的に回収するための措置である。


 念話を切った次の瞬間には2人の魔族は転移をして行った。



 さて、魔族の2人が転移した以上、俺もそろそろ今回の戦争?の後始末をしなければいけないだろう。

 戦争に『?』が付いたのは、戦争らしいことを何もしていないからだ。

 ならば、今から戦争らしい事をすればいいのだろうか?戦いがあらかた終わった後にする戦争らしい事………………略奪?

 それではまるでエルディアである。エルディアのようなところまで堕ちるなんて我慢できないので却下だ。


「まあ、やるべきことは色々あるんだけど、まずはアレが最初だろうな」


 俺はクラウンリーゼに蹴られて気絶したままの王女に目を向ける。

 召喚されて間もなく、俺とさくらはクリスティア王女によって王城から追い出された。

 そのことは不愉快だと思っているし、許したつもりもない。しかし、強く恨んでいるかと言われれば答えは否だ。そもそも、恨むほどこの国に居たかった訳ではないからである。

 追い出された段階で切り捨てることが確定していたのだから、追い出されたことを恨む理由もあまりないのだ。


 どちらかと言えば、今回カスタールに向けて戦争を吹っかけた事の方が許せない。

 そして、その件に関してどう責任を取らせるかと言うのは、本来は俺の管轄ではないのである。

 そこは、カスタールの女王であるサクヤに任せるべき案件だ。

 サクヤが王族は一族郎党皆殺しと言うのならそれはそれで構わないが、俺が勝手に殺すという訳にもいかないだろう。まあ、一族郎党には今現在、ほとんど未成年しか残っていないんだけどな。


 ただ、これが戦争中だったら話は変わったんだよな。

 魔族の横槍がなく、俺がエルディア軍と戦うことになっていたら、戦争中の『不幸な事故』で片づけても良かったのに……。

 この状態で殺すのは流石に趣味じゃないからな。


「う、うーん……」


 そして、見事としか言えないタイミングで王女が目を覚ましたようだ。

 王女は起き上がると、周囲をキョロキョロと見渡し、魔族がいないことに気が付くとホッと安堵の息を吐いた。


「よ、良かった。た、助かったのですね」

「いや、助かってはいないだろう。俺達が残っているんだからな」

「あ、貴方はカスタールの……。わ、私をどうするつもりですか!?」


 王女は身を庇うようにして俺から距離を取ろうとする。

 確かに隠さなければ色々見えるような格好ではあるが、はっきり言って今更である。


「そりゃ、戦争を仕掛けた国の王女で、明らかな敗戦国となった訳だから、良くて捕虜、悪けりゃ処刑、もしくはこの場で断罪のどれかだな」

「わ、私は勇者召喚をした国の王女ですよ……」


 震える声で言う王女だが、それこそ今更の話であろう。


「そんな事、誰よりも良く知っているよ」


 俺はそう言って『謎の貴公子仮面ハイディングマスク』を外す。


「何と言っても、俺もその場にいたんだからな」

「あ、貴方は!何故貴方がここに!死んだはずでは!?」

「どうやら、そっちも覚えているみたいだな」


 驚愕の声を上げる王女。

 そして、王女が殺意を持って俺達を追放したことがここに証明された。


「くっ!」


 王女は後ろに跳びながら魔法を詠唱し始めた。

 彼我の距離が近いからか、5秒で詠唱の終わる『ファイアボール』のようだ。

 ……舐められたものである。


「ふん」


-ドス!-


 俺は王女を追い、躊躇なく腹パンを決める(<手加減>は使っています)。


「ぐぼおっ!!!」


 魔法が中断され、魔法陣が掻き消える。

 王女はその場に崩れ落ち、ビクンビクン痙攣をしている。


「ぐう、ぐ……、こんなことをして、ただで済むと思っているのですか……。勇者が、カスタールに行った勇者達が戻ってきたら、貴方なんて……」

「カスタールを襲った勇者達なら、全員死んでいるぞ。この国に残っている勇者もな」

「ま、まさか……」


 蒼白になる王女に、止めとなる一言を撃ち込む。


「カスタールの方は全員俺が殺した。この国に居た奴らは魔族の手によって殺されたな」

「そ、そんな……。勇者が負けるなんて……」


 えー?勇者ってそんなに強い人間に贈られる称号だっけ?


「くっ、勇者を手に掛けるなんて、貴方は魔族に手を貸すと言うのですか!」

「隣国に戦争を吹っかけるような勇者なら、百害あって一利なしだ。それに、大半の勇者は他の国に退避済みだから、ここに残った勇者を殺したところで何の問題もない。加えて言えば、魔族は魔族で俺が殺した」


 強いて問題を上げるのなら、『祝福の残骸ガベージ』を俺が全部回収したから、他の勇者の強化に繋がらないことだろうか?


「ど、同郷の、それも学友を殺して、心が痛まないのですか!」

「同郷だ、学友だって言っても、大半はただの知り合い未満だ。それよりも大切な者とじゃあ、比較にだってなりはしない。それに、俺の友人に盗賊がいる訳が無いだろ?」


 暗にこの国に残った勇者を盗賊呼ばわりする。

 少なくとも、俺とある一定以上親しい者は、1人たりともこの戦争に参加していなかった。

 親しくも無い同郷の学友と、和風ロリ女王サクヤではどちらが大切かなんて言うまでも無いだろう。


「め、女神様の神罰が怖くはないのですか!?ここまでの事をしたのです!きっと貴方には女神様が天罰を……」

「またか……。その女神様は、魔族の襲撃に対してどんな神罰を下したんだ?お前は女神様に救ってもらえたのか?俺にどんな神罰を与えられるんだ?」


 何かあると『女神様』と言うのは変わっていないらしい。

 女神は一体信者のために何をすることがあるのだろうか?

 何かあるのならむしろ教えて欲しい。


「そ、それは……。わ、私は……」


 その後に続く言葉が出てこない。

 自身の身を守る術が1つも残っていないことを悟った王女の顔が絶望に染まる。


「もう無いようだな。捕虜にするつもりだったけど、そこまで反抗的な態度をとるんだったら、この場で切り捨てた方が楽かもしれないな。捕虜の候補はまだいるし……」


 闘う力の残っていない人間を殺すのは気が進まないが、攻撃してきたという実績もあるし、邪魔になりそうなら敵対者として殺した方が良いだろう。

 俺は『英霊刀・未完』を鞘から抜き、剣先を王女に向ける。ついでに威圧する。


「ひぎぃ!げひゅっ……」


 王女は俺の威圧に完全に飲まれ、身体中を震わせながら喘ぐ。


「ど、どうか命だけはお助けを……。わ、私に出来ることでしたら、な、何でもいたしますから……。あ、脚をお舐めしますか?わ、私の操を捧げましょうか?」


 完全に心が折れてしまったようで、卑屈に顔を歪ませてそんなことを言ってくる。

 脚を舐められても汚いだけだし、俺は王女に対して一切魅力を感じていないから、身を捧げられても迷惑なだけだ。


「ど、奴隷にでもなればよろしいでしょうか……」

「……まあ、その辺りが妥当なところだろうな。でも、正直俺はいらないんだよな……」


 今更王女を奴隷にしても、俺の心が満たされるわけでもないし、むしろ汚いものを配下に加えるみたいで嫌だ。

 そうだな。ならばいっそ、サクヤの奴隷にするというのはどうだろうか。

 それなら、俺の直下の配下ではないし、今後エルディアをどう扱うにしてもサクヤが直接決められるようになるから、丁度いいかもしれないな。

 と言う訳で、サクヤに念話をする。


《サクヤ、エルディアをほぼ制圧したぞ》

《あ、お兄ちゃん、お疲れ様。ホント早いわね……》

《まあ、魔族がほぼ占拠してたんだがな》

《何それ初耳なんだけど……》


 そう言えば、王都が魔族に占拠されていた事はサクヤに連絡していなかったな。


《俺達が攻めた時には既に魔族にボロボロにされていたんだよ。で、魔族を殲滅したから、俺達が制圧したも同然だろ?》

《まあ、そう言えないことも無いのかな……?コレ、どうなるんだろ……》

《それで、生き残っていたから確保したエルディアの王女を、サクヤの奴隷にしようと思うんだがどうだ?いるか?いらないなら殺すぞ》

《待って!いる!いるから早まらないで!》


 サクヤが慌てて俺を引き留めようとする。

 仕方がない。サクヤがいるというのなら、殺す訳にもいかないからな。


《でも、お兄ちゃんはそれでいいの?恨みがあるんじゃなかった?ホントは困るんだけど、お兄ちゃんがどうしてもと言うのなら……》

《好きじゃないけど、それほど大きな恨みはないぞ。それより、今後の国家運営のためにも、サクヤの奴隷にしておいた方が都合がいいと思ったんだ》

《あ、ありがと。私の事も気にしてくれたんだ。うん、じゃあ、ありがたく貰うね。今からそっちに行くよ?》

《ああ、『ポータル』は設置したぞ》


 念話を切ると、すぐにサクヤが転移してきた。


「え?今、何が……」

「お前には関係のない事だ。お前には今からカスタール女王の奴隷になってもらう」

「え?この少女がカスタール女王なのですか?」

「じゃあ、<奴隷術>を使うぞ」


 俺は王女の疑問を無視して<奴隷術>を発動して、王女の背中に奴隷紋を描く。


「サクヤ、血を一滴貰えるか?奴隷紋に付けてくれ」

「うん。えいやっ!てい!」

「ぐうっ!」


 サクヤは持っていたナイフで指を少しだけ切り、血を王女の奴隷紋に付ける。少し切るだけなのに、やたらと掛け声が勇ましい。

 <奴隷術>による奴隷契約が完了し、エルディア王女はカスタール女王の奴隷となった。


 サクヤは奴隷となった王女にいくつかの命令を下し、締めくくりとして俺達に命令権を付与した。


「じゃあ、この後はおにい……ジーンやマリーの指示に従うようにしなさい」

「はい……」


 一旦サクヤはカスタールに戻り、カスタールの竜騎士達が処理を終えた後、王女には敗戦の宣言をしてもらうことになっている。

 その後、王女をどう扱うかはサクヤの裁量次第だ。そこに俺が口を挟むつもりはない

 ……そうだな。折角の機会だし、少しだけ我儘を言わせてもらうか。


「サクヤ、1ついいか?」

「何、お、ジーン」


 どうしてもお兄ちゃんと言いかけてしまうようだ。


「強い恨みはないが、ケジメっていうのは大切だと思うんだ。だから、エルディア王女に一発だけ食らわせてもいいか?」

「ひっ!?さ、さっき殴ったじゃないですか!?」

「さっきのは反撃だ。今度のはケジメだ」

「殺さないようにしてよね?流石に殺されると面倒だから……」


 俺の宣言に王女が身を強張らせ、サクヤの方を懇願するような目で見るが、サクヤからの指示は『殺すな』だけだったので、絶望が再びその目に宿る。


「ああ、<手加減>はするし、ただのデコピンだから安心しろ……」

「<手加減>て、スキルじゃん……」


 スキルである<手加減>を使えば、致死量のダメージを与えても相手が死ぬことはない。

 逆に言えば、<手加減>を使わなければ死ぬダメージと言う事だ。


「はあ、仕方がないか。こうなると止まらないし……。クリスティア王女、『動くな』」

「ひっ!」


 サクヤが命令したことによって、後ずさろうとしていた王女の足が止まる。


「一発行くぞー」

「ひいっ!お、お止め下さ……」


-ドゴン!!!-


「ぎゃぴいっ!?」


 俺のデコピンを受けた王女が、不思議な悲鳴をあげながら数m吹き飛ぶ。

 その衝撃でかろうじて身体に張り付いていた衣類は剥がれ落ち、完全な全裸となった。

 更に、吹き飛び方が悪かったのか、おおよそ年頃の女性がしてはいけない格好で崩れ落ちている。具体的に言うと御開帳である。まあ、だからどうしたという話ではあるのだが……。


「よ、容赦ないわね……。でも、完全に伸びちゃってるけど、どうしようか?」

「<回復魔法>を使うのも勿体ないし、凍らせて<無限収納インベントリ>に放り込んでおくか」

「ほ、本当に欠片も容赦ないわね……」


 滅多に使う機会はない機能だが、<無限収納インベントリ>には凍らせたり、石化したりしていれば生き物も入れることが出来る。

 起きるのを待つのも面倒だし、<回復魔法>をかけてやるつもりもないからな。

 消費MP的には凍らせる方が高くつくことに関しては気にしないことにする。


「仁様、終わりました」

「……ご苦労」


 俺が「凍らせて」と言った時点で、マリアがクリスティアに<氷魔法>を仕掛けていた。

 「放り込んで」の時点で、クリスティアは既に<無限収納インベントリ>の中だった。

 これは有能と言っていいのだろうか?


「こっちはこっちで欠片の躊躇もないのね。うん、本当にお兄ちゃんが味方で良かったわ」


 サクヤの顔が引きつっている。

 味方に無体な真似をするつもりはないから、安心してもらっても構わないよ。

 多少、弄ることはあるけどね。



 サクヤが『ポータル』で戻って行った後、再びマリアと今後の処理について話し合う。


「王族の生き残りは他にもいるみたいだし、次はそっちの回収をしないとな」

「了解いたしました」


 折角なので王族の生き残りは全員回収しておこうと思う。サクヤへのお土産だ。

 残っているのは未成年だけだから、使い道はあまり多くないだろうけどな。

 なお、タモさんへの指示は魔族の殲滅だけだったので、王族の回復や回収は一切していなかった。ユニークスキル持ちへの対応は俺に準拠しているけど……。


 タモさんにはそのまま王族を回収するように指示を出しておいた。

 タモさんならば、バジリスクに擬態して相手を石化させて<無限収納インベントリ>に入れることが出来るからな。

 バジリスクは石化で有名なトカゲの魔物だ(諸説あり)。この世界でもテンプレを逃さずに砂漠に出現するらしい。……アト諸国連合でメープル達傭兵組が倒したと報告があった。

 当然、死体はタモさんの胃に収まった。スライムに胃があるのかは置いておく。

 ……魔族がいなくなったと思ったらバジリスクに襲われて恐怖する王族が見たい。


「一番近いのは……この部屋かな。ああ、でもこっちの方が死にそうか」


 遠方の王族はタモさんに任せ、俺達は近隣の死にそうな王族回収を優先する。

 王族が死ぬのは別に構わないんだけど、回収を決めた後に死なれると、俺が失敗したみたいで嫌だからね。


 さっさと王族を回収するため、召喚の間を出て中庭を進んでいる途中、急にとてつもない悪寒が俺を襲った。


「っ!」


 俺は直感に従い、『英霊刀・未完』を抜き、脇の下を通して背後に向け刺突を放つ。


「ぐふっ!」

「仁様!?」


 短い悲鳴と共に、何かを刺し貫く感触はあったが、その直後何かが俺の肩に触れた。

 マリアが俺に向けて手を伸ばしているが、その手が届く前に俺の視界が切り替わる。

 これは……転移か!?


 そして、次に俺が目にしたのは、周囲に立ち並ぶ灰色の高層ビル群だった。


???「お待たせしました」

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