第102話 出発と過去
ついに本編で言及されるアイツ。
色々と準備をしていたら、あっという間に正午が迫って来た。
騎士団は
俺はもちろん
余談だが、ドーラは自前の<飛行>スキルで飛びたがった。
しかし、今回は騎士として、つまり
そして、渋々、とても不満そうに他の
もう1つ余談だが、今回は珍しくセラの体重の件で悶着が起こることはなかった。
いつも重くて余計な手間をかけているので、今回は事前に準備をしていたのである。
もちろん、さくらの<
この魔法により、セラも普通の
なお、同じような悩みを抱えていたティラノサウルスのティラミスにも好評だったことを付け加えておく。この度、ついにティラミスは(進入禁止だった)2階への進出を果たしたのだ。泣いて喜ぶなよ……。
こんな事なら、さっさと作ってあげるべきだったな。反省……。
80匹の
ここからエルディア王国との国境、ガラン山脈へと向かうつもりだ。
なお、20匹の
「では、武運を祈っておるのじゃ」
「お任せください」
サクヤが余所行きの口調で俺たちを激励する。
この作戦にカスタールの未来が掛かっているので、女王自らが見送りに来ているのだ。
尤も、カスタールの未来が掛かっているのは事実だが、ガラン山脈を越えるルートで奇襲をする作戦が必須と言う訳ではない。
普通にリラルカから、俺達がかつて通った道から逆侵攻しても良かった。
このガラン山脈ルートの作戦はサクヤが考えて俺に提案してきたものだ。この作戦が1番一般市民への被害が少ないからである。
前にも言ったが、
態々一般市民を害そうとは思わないが、何か不愉快なことをされて我慢する理由も(戦時中ゆえに)ない。
元々、エルディアに対しては良い感情が皆無なので、敵対行動にはいつも以上に過敏になるだろう。もちろん、マリアも過敏に反応するだろうし、さくらの感情すら読めない。
そんな俺達の行動を危惧したサクヤが、かろうじて俺達に飲ませた作戦が、今回の『ガラン山脈越え、王都急襲作戦』なのだ。
これが魔族相手とかだったらともかく、仮にも勇者召喚をした人類側の国が相手だ。
俺の行動全てを止めることは諦めたサクヤだが、今後の統治の事を考えても、不用意に人死にが出ない方が良いと判断し、身を張って俺のことを止めたのである。
具体的にどう身を張ったかと言うと……まあ、その話は置いておこう。
サクヤに見送られてカスタール王城を飛び立った俺達は、エルディア王都とカスタール王都を真っ直ぐ一直線で繋いだルートを飛行することにした。
航空戦闘が当然になった時代ならともかく、空戦と言う概念すらないような世界ならば空中の直線移動への警戒は最小限でいいだろうと考えたからだ。
勇者の中にも<飛行>に類する
俺達が警戒しなければならないのは、騎士団でも、王家でも、勇者ですらないのだから……。いや、一応は勇者に該当するのか?
それでも、馬で走るよりは何倍も速くガラン山脈へと到達した。
《常にマップの確認を怠るな》
《ねえ、ご主人様。いくら何でも警戒のしすぎじゃない?》
俺の指示を受けたミオが不思議そうに返す。
飛行中なので念話なのは当然のことだ。周囲には竜騎士達もいるからな。
《いくら警戒しても足りない。向こうにはアイツがいる可能性が高いんだからな》
《アイツって誰よ?》
《出来れば、アイツの事は語りたくないんだが……》
《ん?その反応……。もしかして、マンイーター戦の時に言っていた知り合い?》
俺の反応を見て、ミオが正解へとたどり着く。
《……勘が良いな、ミオ。正解だ。と言うか、よく覚えていたな》
《ご主人様が珍しく嫌そうな顔をしていたからね。印象に残っていたのよ》
《仁様の事ですから、私も覚えています》
《何となく、記憶にあるような気がしますわ》
《?》
うん、流石にドーラは覚えていないよな。
《ああ、思い出しました……。そう言えば、そんなことも言っていましたね……。仁君がそんな反応をするなんて、一体どんな知り合いなんですか……?》
出来ればアイツの事は語りたくはない。
しかし、いつまでも口を閉ざしている訳にもいかないだろう。
これから、エルディアに行く以上、アイツとの衝突は避けられないはずだから。
《いつまでも黙っている訳にもいかないか。……アイツ、名前は
《ファン……ですか……?》
《また、よくわからない関係ね……》
一言で、とは言ったが、これで説明しきれるとは思っていない。
俺とアイツの関係性の全てを説明するには、文庫本一冊では足りないくらいの文字数が必要だろう。出来るだけ短くまとめる必要がある。
《アイツは俺のことを物語か何かの主人公だと思っている》
《ご主人様の都合のよさを見れば、それも無理からぬことじゃない?》
ミオがアイツの考えに理解を示しかける。
《それで、アイツは物語を面白くしようと俺と敵対する》
《うん、理解できない》
ミオがアイツの考えを理解することを諦める。
《物語としてはファンなんだけど、そこに手を加えようっていうのがアイツの変わったところの1つだな。例えるなら、自分の好きな漫画に、自身を敵として設定して、勝手に手を加えるんだ。それも2次創作とかじゃなく、作者の家に行って原稿に直接な》
《それは、とんでもない人ね……。確かに一応はファンなのかもしれないけど、そんな人に付きまとわれる主人公と作者は堪ったものじゃないわよ》
《全面的に同意する。そして、その主人公が俺って言う訳だ。最悪なことに、アイツは俺と同じくこの世界に転移してきた。もちろん、俺と違って正式な勇者としてな》
この流れで、俺がエルディアに攻め込む時に敵対しないと考えるのは、少々無理があると思う。これ幸いにと俺と敵対をしてくるだろう。
《なるほど、確かにそれは要警戒ね。でも、今のご主人様なら倒せる相手なんじゃないの?だって、特に変わったところがある訳でもない、普通の勇者なんでしょ?》
《1つ聞きたいんだが、俺がここまで警戒する相手が、普通の勇者だと思うか?》
《違うんですか……?》
さくらが不安そうに聞いてくる。
俺がここまで警戒する相手、と言うのはそれだけで不安を覚えるレベルなのだろう。
マリアの目にも警戒心が溢れかえっている。
《ああ、具体的にどうなっているかはわからないが、普通の勇者とは一線を画す存在になっているはずだ。何せ……》
その瞬間、敵からの攻撃を感知した。
「<飛剣術>!」
-ドオオオオオオン!!!-
俺と同じく攻撃を察知したマリア、セラと共に放った<飛剣術>が、高速で迫っていた極太レーザーを相殺した。
斬撃でレーザーを相殺できたことに対するツッコミは受け付けない。
さくら、ミオ、ドーラも攻撃自体は察知したようだが、俺達が迎撃に動いているのを見て、武器を構えるだけに留めていた。
後続の竜騎士達も狼狽しているので、合図を出して一旦地上へと降りる。
《何、今の……?どこから攻撃が来たの?マップにはそんなもの……》
地上に降りながらミオが攻撃元について考えるが、そんなのは最初から決まっている。
《マップが表示されるのは隣接エリアまでだ。それより先から放たれるレーザーを感知できるわけがない》
《まさか!?今のレーザーって2エリア先から飛んできたの!?》
《間違いないだろうな。マップ上には攻撃が発射された反応もないし……》
攻撃の準備が始まっていたら、アルタが見逃すはずもない。
A:はい。隣接エリアまでで攻撃の兆候はありませんでした。
2エリアとなれば、ここからなら最低でも30kmは離れることになるので、驚くべき精密射撃である。
まあ、当たってもほとんどダメージはないのだが……。
ん?当たっても大したダメージがないのに、なぜ迎撃したか?
簡単だ。俺達6人は無事でも、
山脈に降り立った俺達の元へ、代表してギルバートが質問にやって来た。
「ジーン殿、今の攻撃は一体!?」
「恐らく、勇者の
「そ、そんな馬鹿な……!?我が国の中に裏切り者がいたと言う事か!?」
「可能性はゼロではないが、相当に低いと思う。何故なら、もし裏切り者がいたのなら、あの程度の攻撃を仕掛けてくる訳が無いからな。もっと確実にこちらに被害を与える手を用意していただろう」
先ほども言ったが、あの程度の攻撃、当たっても大したダメージはない。
竜騎士に当たったら、落ちる可能性はあったが、それでも全滅と言うにはほど遠いだろう。
裏切り者がいて、1番効果のある最初の奇襲でその程度の事しかできないというのなら、そんな裏切り者に大した脅威を感じない。
俺なら、もっと効果のある攻撃を選ぶ。
……どちらかと言うと、今の攻撃は俺に対するメッセージに思えて仕方がない。
何故なら、マップ認識外からの超遠距離攻撃は、俺に対する有効打に
今のレーザーだって、もっと俺達が近づいてから撃った方が当たる可能性も威力も高かっただろう。なのに、あえて超遠距離からの攻撃と言うスタイルをとった。
近距離で撃ったらバレることを知っていたかの如く。
まるで、俺への対策であることを主張するかの如く。
ああ、いるな。これは、いるな。
「なるほど……。しかし、このまま進むのは危険と言う事に変わりはないだろう。このままではいい的だ」
「いや、このまま進む」
「何故だ!?」
驚き、大きな声を上げるギルバート。
「この程度ならば問題がないからだ。それに、敵に情報が洩れている可能性は最初から考えていた。今更、作戦を変更するほどの問題ではない」
「何だと!?」
情報が洩れている可能性を予想していたというのは本当だ。
より正確に言うのなら、アイツが準備をしている可能性と言った方が正しいか。
何せ、
まあ、理解した上でイズモ和国観光をしていた俺が言う事でもないか。
「あの程度の攻撃なら、何度来ても迎撃できるし、それ以上の攻撃だって対応してみせる。例え、勇者を含むエルディア軍全軍がガラン山脈を越えた場所で待ち構えていたとしても、食い破って王都を攻め滅ぼしてみせる」
例え、アイツが待ち構えていても、1度滅ぼすと決めた以上、変更なんてありはしない。
「そこまで、自信を持って言えるのか……。信じても、良いのか……?」
「任せろ。必ずこの戦いを勝利で終わらせて見せる」
「……わかった。このまま進もう」
ここからはいつ攻撃が来てもおかしくないと言う事を竜騎士達に伝え、入念に準備をして再び空へ飛び立つ。
先ほどのレーザーの軌道を考えると、ある程度低空飛行した方が良いと判断し、ガラン山脈ギリギリを進んでいく。
最初の1発以降、レーザーによる攻撃がないままにエリアを跨ぐことになった。
そこで、俺達を攻撃してきた勇者達がマップ上で確認することが出来た。どうやら、ガラン山脈近隣の村に滞在しているようだ。
ああ、村の中となるとエリアが変わっちゃうんだよね……。それもあったか……。
名前:
LV27
性別:女
年齢:17
種族:人間(異世界人)
スキル:<毒耐性LV3>
称号:転移者、異界の勇者
<
周囲にステータス低下、毒、麻痺などの状態異常を引き起こす霧を発生させる。効果と範囲は反比例の関係となる。
名前:
LV33
性別:女
年齢:17
種族:人間(異世界人)
スキル:<光魔法LV1>
称号:転移者、異界の勇者
<
日の光を収束、反射することが出来る。日の光を長時間浴びることで充填、放出することも出来る。
名前:
LV34
性別:女
年齢:16
種族:人間(異世界人)
スキル:<剣術LV2>
称号:転移者、異界の勇者
<羅刹の
一定時間暴走状態になる代わりに身体能力が大幅上昇し、身体に触れるだけで斬れるようになる。
どうやら、3人組の女子生徒のようだ。ん?この名前、どこかで見覚えが……。
「っ!?」
俺が記憶を手繰り寄せていると、横を飛んでいるさくらの顔色が変わった。
《さくら、どうしたんだ?》
《なんでも……ありません……》
《何でもないって顔じゃないだろう》
見るからにさくらの顔色は青くなっている。
《さくらー、だいじょぶー?》
《うん、ドーラちゃん、ありがとうね……。本当に大丈夫ですから……》
心配するドーラに無理をした笑みで返すが、どう見ても大丈夫と言う顔ではない。
過去のトラウマを話すときでもここまで酷い顔はしていないだろう。
そこで、記憶の糸が繋がる。……まさか!?
《この3人組、どこかで見たことがあると思ったら、王城でさくらに絡んでいた3人組か?》
《……はい。この女子生徒達が、私の事を……1番酷く虐めていた3人組です……》
確信をもって聞いた俺に対し、さくらは渋々だがはっきりと頷いた。
《やっぱり、そうだったか……》
どこかで見たことがある名前だと思ったよ。
王城では、気になった相手の事をこまめにステータス確認していたからな。
さくらを見つけた時、傍にいたから記憶の片隅に残っていたのだろう。
《さくら様が時々暗い顔でお話しされるような所業をしてきた方達と言う事ですわね?》
《そう言う事になるわね。聞いているだけで嫌な気分になる虐めよね。……それで、ご主人様、どうするの?》
《仁様、さくら様がお望みでしたら、私が切り捨ててきますけど、如何なさいますか?》
さくらから断片を聞くだけで胸糞が悪くなる虐めの話を聞いていた3人が、さくらを気遣うように見ながら俺に尋ねてくる。
さくらを気遣う顔の中に、その勇者達を許せないという怒りが見て取れる。
もちろん、俺も絶賛不愉快モード突入中だ。
《どう見ても友好的な相手じゃないのは確実だ。
《……………………》
さくらは黙って俺の話を聞いている。
顔色は悪いが、表情は真剣そのものだ。
《ないんだけど……、今回だけは話が別だ。見ての通り、あの勇者達はさくらの因縁の相手だ。彼女達をどうするのか、それを決めるのはさくらに任せたいと思う》
《私が決める……?仁君、どういうことですか……?》
言われたことの意味が分からないかのように、さくらが首を傾げる。
《さくらは彼女達をどうしたい?どうしてほしい?それを教えてくれ。惨たらしく殺したいか?関わりたくもないか?見逃してあげたいか?さくらが望むのなら、俺は主義を曲げてでもそれを叶えてあげたいと思う》
《……………………》
本来、俺は敵対する者に容赦はしないし、殺すにしても極力苦しまずに殺すようにしている。しかし、今回の件だけは例外にさせてもらおうと思う。
もし、さくらが望むというのなら、勇者達を殺さずに見逃してもいいと思っているし、逆に最大級の苦痛を与えてジワジワとなぶり殺しにするのも厭わないつもりだ。
何故、急にこんな事を言い出したかと言うと、俺達がこの世界に来て結構経つし、そろそろさくらも元の世界のトラウマを乗り越えた方が良いと思ったからだ。
俺達と一緒に行動をして、随分と笑顔を見せるようになってきたさくらだが、今でも時々トラウマが、過去の虐めの影響が顔を出す。
もし、今の自分が幸せなら、過去に縛られるだけ損だ。乗り越えてしまうべきだ。
虐めっ子達の存在に、さくらが暗い顔をするだけの価値はないのだから。
そのためには、過去のトラウマの象徴である、虐めっ子と相対するのが良い切っ掛けになると思っていた。機会があればいいとは常々思っていた。
日下部や佐野のような無関係な勇者が相手では、本質的な解決にはならない。
辛いのは間違いないだろうが、実際にさくらを虐めていた者達と相対すれば、どんな結末であろうと1つの区切りにはなる。
区切りがつけば、今までほどは暗い顔にならなくなるだろう……多分。
折角、何の偶然かさくらの事を虐めていた3人組が、勇者の集団から孤立して俺達と敵対しているのだから、こんな機会は滅多にないだろう。
うん、気付かない振りをするのは止めよう。偶然なワケねえだろうが!!!
絶対……アイツの仕業だよな。コレ……。
お膳立てされているのに乗るのは気に食わないが、それでも今回は乗るしかないだろう。どう考えても、さくらのメンタルへの影響が大きすぎる。
《……………………》
さくらはしばらく考え込み、俯いた状態で話し始めた。
《考えてみたんですけど、私がどうしたいのか……?その答えがいくら探しても出てこないんです……》
《じゃあどうする?あの勇者達の事なんて、考えたくもないというのなら、本当にマリアに瞬殺してきてもらうか?もちろん、それはそれでありだ》
《お任せください》
『考えない』というのも1つの区切りではあるが、あまり綺麗な終わり方ではない。
考え得る中で1番後を引いてしまう可能性が高いルートだ。
出来れば、そのルートは選んでほしくないと思いながらも、否定はせずにさくらに問う。
《いえ、そうじゃないんです……。仁君、私に彼女達と話をさせてくれませんか……?》
《どういうことだ?》
さくらの言い分に俺の方が少し驚いてしまった。
《感情の整理がつかないんです……。恨む気持ちもありますし、忘れたいとも思っています。それでいて怖いとも感じているんです……。何を選んでいいのか、何を選びたいのかが整理できないんです……。だから……、1回会って、自分の本心と向き合いたいんです……》
《大丈夫なのか?》
確かに、『勇者達と話す』と言うのも選択肢の中にはあった。
それは、上手くいけば完全に過去を乗り越えることが出来るルートでもある。
だが、その分1番負担が大きいのも間違いがない。
《正直言うと自信はそれほどありません……。でも、この機会を逃すと彼女達と、自分の過去と向き合う機会なんてもうないと思うんです……。だから、お願いします……!》
確かに同じような機会が巡ってくる可能性はかなり低いだろうな。……アイツがお膳立てした状況なんだから。
そして、さくらが自分で選んでやりたいと言った事に対して、俺が止める理由はどこにもないし、誰かに邪魔させる気もない。
《わかった。あの勇者達の処遇についてはさくらに任せる。それで、俺達も一緒に行った方が良いか?それともさくらだけで行くか?もちろん、タモさんくらいは付けるけど……》
さくらが1人で会いに行きたいというのなら、若干の不安はあるがそれでもいいと思う。
良いのか悪いのかは知らないが、勇者達がいる村は俺達の航路からは少しズレている。
少し航路を変えることも、1人だけ別行動をして会いに行くことも出来るからな。
本当に至れり尽くせりである。
《1人で行くのは少し怖いです……。でも、今からエルディアに行くのに、こんなところで時間を潰す訳にも行きません……。だから1人で行こうと……》
《でしたら、
さくらが言い終わる前にセラが同行を申し出た。
《
《セラちゃん……。良いんですか……?》
《もちろんですわ。さくら様の事は必ずお守りしますわ》
確かに、セラだったら安心してさくらの護衛を任せることが出来る。
単純な防御力だったら盾装備のドーラも負けていないが、今回はメンタル的な意味でも護衛が必要だ。その点で考えると、ドーラにはちょっと厳しいだろう。
ミオではさくらの不足を補えないし、俺やマリアだとやり過ぎてしまうかもしれないからな。
《セラはそれでいいのか?これから王宮側も戦闘になるから、活躍の場には困らないぞ?》
《ご主人様、いくら
見せ場を求めていたセラに冗談めかして聞くと、少し拗ねながらそう言った。
《わかった。じゃあ、セラはさくらの護衛をしてくれ》
《セラちゃん、よろしくお願いします》
《了解ですわ》
話をしている内に勇者達のいる村が近づいてきた。
「はあっ!」
ある程度近づいた所で再びレーザーが放たれてきたので、セラが<飛剣術>で迎撃した。
どうやら、先程のレーザーはかなり溜めていたようで、明らかに威力が落ちている。ここまで弱くなっていると、例え竜騎士部隊に直撃しても無傷同然だろう。
それでも迎撃はする。ダメージがないからと言って攻撃を受けるのは趣味ではないのだ。
そろそろさくら達と別行動する時間だ。
後続の竜騎士部隊に、部隊を分けるという合図を出す。
《さくら、頑張れよ》
《はい……!》
さくらの乗ったリーフと、セラの乗った料理
アイツの性格を考えると、さくらを直接襲うという可能性は低いだろう。アイツは、基本的に俺にしか興味がないからな。まったく嬉しくはないが……。
まあ、そのおかげでさくら達を別行動にすることにも、不安を感じる必要が無いのだ。感謝……は出来ないな。うん、無理。
さくら達と別れた後も俺達は飛行を続けた。
もう30分もすれば王都に到着するだろう。
虐めっ子勇者達のレーザー攻撃以降、俺達への攻撃は行われていない。
勇者のステータスを確認したときに村の様子を見たのだが、勇者以外の戦力はいなかった。同じく、道中の村にも戦力は一切存在しなかった。
エルディア王国は俺達の侵入に気付いているのだろうか?それとも、アイツの独断なのだろうか?
どちらにせよ、敵側にアイツがいるだけで油断できないのは間違いがない。
マップの確認は必須だが、それ以外の感覚も研ぎ澄ませておく必要があるだろう。
もうすぐ王都に着くと言う事で、一旦休憩をとることにした。
竜騎士部隊もまだ
それほど大きくない森に降り立ち、騎獣達が見えないように注意する。
周辺の魔物は低レベルなので、軽く威圧しておけば襲い掛かってくることはない。
竜騎士達が周辺を警戒しているが、実際は無駄なのである。すまん。
「さくら様、大丈夫かな?」
「セラちゃんがいますから、怪我とかは大丈夫だと思いますけど……」
ミオもマリアもさくらの事が心配なようだ。
もちろん、全く不安が無い訳ではないが、今のさくらなら大丈夫だという信頼もある。
「ねえ、ご主人様はどう思う?」
「どうしてもと言うのなら、アルタにさくらの様子を伺うのも手だけど……」
さくらのいるマップの情報を見ることも出来るので、さくらのHPが減っていないことはわかる。しかし、マップ上では精神状態まではわからないので、映像情報レベルで認識しているアルタに協力を頼むのが手っ取り早い。
「うーん、頼まれてもいないのに覗き見するのは好きじゃないわね。さくら様がよっぽどヤバくなった時以外は出来るだけ気にしない方が良いのかしら?」
「そうだな。でも、さくらの様子だと、それほど酷い事にはならないと思うんだよな。まあ、本当にさくらがヤバいと思ったら、エルディア王城を後回しにしても、さくらの元に向かうつもりだけどな」
「そうね。そうしましょ。っと、出来たわ。ちょっと騎士達に食べ物配ってくるわね」
「行ってまいります」
今まで、雑談をしながらも料理を作っていたミオとマリアが、軽食として準備したサンドイッチを竜騎士達に配っていった。
ああ、言うまでもないが俺は何もしていないぞ。戦力にはならないからな。
ちなみに、最近ではドーラも料理の手伝いを始めるようになった。今も鼻歌を歌いながらスープをかき混ぜている。
……物凄く、居心地が悪い。
ちくしょう。いつもなら料理の戦力外は俺とさくらの2人だからまだマシだったのに、こんなところでさくらと別行動を押した弊害が出て来るとは……。
いや、これが奴隷の正しい使い方だというのはわかってはいるんだけど……。
ギルバート達はミオ達の作ったサンドイッチとスープを受け取り、その美味しさに驚愕をしていた。
カスタール王城で出てくる料理も、ウチのメイド達が修行をさせた成果で向上しているらしいが、流石にミオの域には遠く及ばないだろう。
俺に対する態度以上に、ミオやマリアに対する態度が丁寧なものになったのがわかる。
俺がリーダーなんですけど……。これが胃袋を押さえた者の強さか……。
そして、俺は周辺の魔物達への威圧を強めなければいけなくなった。料理の匂いに惹かれて、魔物達が俺の軽い威圧を堪えて向かってくるようになったからだ。
軽食をとって十分に休憩をしたところで、俺達は再びエルディアの王都へ向かって飛ぶことにした。
もうじき、エルディア王国軍及び王国に味方した勇者達との戦闘ということで、否が応でも竜騎士達の緊張が高まっていくのを感じる。
この戦いの結果でカスタール王国の将来が決まるというのだからそれも当然だろう。
そうして飛ぶことしばし、ついにエルディア王国王都の隣接マップへと到着した。
「これは……」
王都ゼルガディアの様子をマップで確認した俺は驚きを隠せなかった。
「王都が壊滅状態だと……?」
なお、さくらサイドの話はまだ書いておりません。
後で本編中にさくら達が説明するだけになります。
その時点で希望が多ければ書く……かも?
余談ですが、虐めっ子3人には名前に隠しルールがあります。
20170709改稿:
高遠の読みを「たかとう」から「たかとお」に変更。