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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第7章 灰の世界編

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第101.5話 大精霊レインの君臨

精霊レインの短編です。本当に短いです。

 その日、アト諸国連合のとある国の上空を、奇妙な光る物体が飛んでいるのが目撃された。

 光る物体は真っ直ぐ飛ぶのではなく、蛇行したり、くるんと一回転したり、不規則な飛行を続けていた。


「♪♪♪♪~」


 ニコニコと笑顔で飛翔するのは、つい先程進堂仁の契約精霊になったレインだ。

 本来、大精霊は人間と精霊契約などしないが、瀕死のところを仁に救われたレインは別だ。

 命を救われ、仁の魔力で全身を満たされているレインは、既に仁にベタ惚れなのである。


 もちろん、人間の惚れ方とは意味合いが異なってはいるが、それでもかなりの入れ込みようなのは伝わる。何故なら、レインは『女性型』の大精霊だからである。


 レインは元々性別を設定していない大精霊だった。

 しかし、1度小精霊まで格を落とされ、そこから仁の魔力によって大精霊として復活する際、レインはあえて女性型に設定することを選んだ。

 理由は単純だ。仁の寵愛を受けたかったからである。

 そこまでしてでも、少しでも仁に気に入られたいと願ったのだ。ベタ惚れである。


「♪♪~♪♪~」


 大精霊として復活し、無事に仁と精霊契約できたことが嬉しくて嬉しくて、それが飛び方にも現れてしまっているのだ。


 とは言え、レインも別に遊びで飛んでいる訳ではない。明確な目的地がある。

 レインは知る由もないが、その目的地は周辺の人々から『グレン火山』と呼ばれている活火山で、強力な火属性の魔物が多数生息していることで有名だ。



 しばらく飛行した後、レインが『グレン火山』へと到着した。

 普通の人間だったら、その気温だけで死にそうになる程なのだが、大精霊であるレインにそんなことは関係ない。何事もないかのように進んでいく。


 途中、レインの存在に気付いた魔物達が襲い掛かってくるものの、レインに触れた瞬間に<MP吸収>スキルにより全身の魔力を吸収されて昏倒する。

 実は<MP吸収>を持つレインは大精霊としてはかなり異端の存在だ。


 本来、魔力の塊である精霊は、種族特性的に<MP吸収>を習得することは出来ない。

 外部の魔力を取り込むには<MP吸収>ではなく、精霊ならば誰もが持っている<精霊>スキルにより、取り込みやすい形に変換するプロセスが必要になるのだ。

 万が一<MP吸収>を覚えて、直接MPを吸収してしまった場合、精霊への影響が大きすぎて自己崩壊してしまう可能性もあるだろう。


 レインの場合、精霊ならば誰もが持っているはずの<精霊>スキルすらも鬼神に奪われていたため、仁達に救われた時点では魔力の回復手段がなかった。

 MPが空に近く、鬼神の影響で自我が限りなく薄くなっていたからこそ、仁の魔力を受け入れることが出来たのだ。そして、仁の魔力を大量に、一気に吸収したことにより<MP吸収>のスキルが発現することになった。

 その酷く限定的で稀有な経験を経ることにより、レインは<MP吸収>スキルを獲得し、<精霊>スキル無しでも吸収した魔力を取り込みやすい形に変えるコツを得たと言う事だ。


 精霊が<MP吸収>を得る事の何が強力かと言えば、吸収できる魔力に制限がない事だ。そもそも、<MP吸収>と言うのは接触している相手からMPを吸収するスキルであり、MPが満タンならば使えない。

 しかし、精霊には魔力(MP)はあるものの、MPの上限は存在しない。つまり、いくらでも魔力を吸収することが出来るのだ。

 故にレインは魔力を持つ生物を相手にする限り魔力切れを起こすこともなく、<精霊>スキルの何倍もの速度で魔力を吸収できる常識外れの精霊となってしまった。


「♪♪♪♪~」


 周囲の魔物達もレインの異常性に気付き、段々と襲って来なくなる。

 レインも魔物退治が目的と言う訳でもないので、襲い掛かって来ないのならば、と無視をして進んでいく。

 レインの目的はこの『グレン火山』の1番奥にいる存在なのである。



 ご機嫌なレインが火山の中を進み、ついにはその最奥にまで辿り着く。

 火山の最奥、ここは既に人間が生存できる状況ではない。


 その最奥にいたのは、火の塊が形作る女性だった。明らかに人よりも大きく、3m程のサイズを持つ。

 彼女には名前はない。そして、種族は『火の大精霊』という。


「何をしに来た。名も無き大精霊よ」

(……………………)


 基本的に大精霊ともなれば言葉を話すことが出来る。

 しかし、レインは鬼神に吸収されたときに言語を失い、未だに回復していないのだ。

 故に思念だけを相手に伝えている。これは念話とはまた別の物で、精霊同士でのみ通じる意思伝達方法だ。


「確かに我と貴様の元となった精霊は古くからの知己だった。しかし、貴様は明確に変質している。故に貴様を我が友として認めることは出来ない」

(……………………!)


 その言葉を聞き、レインは怒ったように訴えかけている。


「見捨てた訳ではない。貴様が鬼神に吸収されようと、我には何の影響もない。態々司る場を離れる程の事ではないだろう。故に我はこの場を動かなかった」

(……………………!)


 かつてレインが鬼神に吸収されそうになった際、レインは先程も言った思念により精霊の知り合いに助けを求めた。しかし、その結果は誰も助けに来ないという残酷なものだった。

 元々、レインは司る場から頻繁に外出していた珍しい精霊で、各地に大勢の知り合いがいたというのに、誰もレインを助けようとはしなかったのだ。

 故にレインは鬼神の中で長い期間絶望に心を蝕まれていた。故に仁の魔力で満たされた時、全てを仁に捧げようと決めたのだ。


「元々、貴様の方が精霊としては異端なのだ。我らに貴様の流儀を押し付けられても困る」


 レインはしばらく瞑目すると、『火の大精霊』を強く睨み付けた。


(……………………)

「ほう、我に戦いを挑むというのか?鬼神に存在を食われ、司る場すらない貴様が?」

(……………………)

「何?仁を司っているだと?何だそれは……」


 『火の大精霊』は火を司り、火山を場として整え、その火属性の魔力を吸収している。

 では、仁の魔力で満たされ、仁の隣を居るべき場所と決めたレインは何を司っているのか?当然『仁』である(自称)。

 どうでもいいことだが、『仁』はともかく、『ジン』と言うと精霊っぽさがアップする。


(……………………)

「確かに我にはわからないことだが……。気に食わんな。貴様、我を見ているようで全く我の事を意識しておらん。何故、見捨てた恨みなどと言う?全く恨んでおらんではないか」


 レインもわかっている。

 大精霊は基本的に司る場から動かないと言う事は。

 自分の方が異端なのであって、助けを求めても助けに来る大精霊などいないと言う事は。

 故に、悲しくはあり、絶望もしたが、実際のところ恨んではいないのだ。……ただ、どうでもよくなってしまっただけだ。


(……………………)

「戦う大義名分が欲しい?意味が分からぬが、そこまで言うのならば相手になってやろう。ただし、我は火の大精霊だ。少し熱くなってしまい、貴様を消滅させることになるかもしれぬが、恨むなよ?」

(……………………)

「良いだろう!これでも喰らうがよい!」


 そう言って『火の大精霊』はその身を大きく膨張させた。

 その姿はまさに『火の鳥』。圧倒的な熱量と存在感を誇る幻獣。

 その幻獣が大きな翼を広げ、レインを飲み込むように包み込んだ。


「ぎゃあああああああああああああ!!!!!!」


 そう叫んだのは当然『火の大精霊』だ。

 よりにもよって、レインを『魔力で包み込む』ような攻撃をしてしまったのである。

 その全てが<MP吸収>の格好の餌食であるとも知らずに……。

 『火の大精霊』は、その存在が持っていた魔力のほぼ全てをレインに吸収されてしまった。


「くうっ……。何と言う事だ。我がこのような姿に貶められるとは……」


 そう言ってその場に倒れ伏したのは、50cm程にまで小さくなってしまった『火の大精霊』だった。元々、女性の姿をしていたが、小さくなると同時に少女のような姿になっていた。

 ここまで小さくなると、『大精霊』と呼ぶことは出来ないだろう。

 自我は十分に残っているので、『中精霊』と言ったところだろうか。


(……………………)

「な、何を馬鹿な事を言っているのだ。我がこの場からいなくなったら、どのような影響が出るのかわからないのだぞ!」


 レインが何を言っているのかはわからない。

 しかし、『火の中精霊』の慌てようからして、ただ事ではないことだけは伝わってくる。

 ゆっくり歩み寄ってくるレインに対し、『火の中精霊』は逃げるように後ずさっていくが、どんどんと距離が縮まっていく。


(……………………)

「や、止めろっ。くっ」


 レインは『火の中精霊』を掴み上げる。


「止めろ!我はまだ、消えたく……」


 最後まで言うことが出来ず、『火の中精霊』は<MP吸収>により消失した。

 肉体を持たず、魔力の塊である精霊は、<MP吸収>に対して抵抗する術を持たないのだ。

 つまり、レインは精霊でありながら精霊を殺すことに特化していると言う事になる。


 レインは取り込んだ『火の大精霊』を咀嚼するかのようにゆっくりと体に馴染ませる。

 十分に馴染んだところで、満足そうに頷いた。


 これで、レインを構成する魔力に、が含まれたことになる。


 レインの目的はこれだ。

 仁と『精霊化』をするためには、仁と完全に同一の魔力ではいけない。故に別の大精霊から魔力を取り込むことで、「仁に似た別の魔力」を人工的に作り出そうというのだ。

 自分を見捨てた時に「友達」から「どうでもいい存在」に成り下がった大精霊達なら、吸収してしまっても何の感慨も湧かないからである。


(……………………)


 ただ、大精霊が急にいなくなることへの懸念はある。

 良くも悪くもエネルギーの塊である大精霊だ。活火山から急にいなくなった場合、何が起こるのかわからない。

 レインとしては別にどうでもいいことなのだが、仁がどんな反応をするかわからない。


 人間に迷惑がかかるようなことはしない方が良いと考えたレインは、何かを持つかのように手を広げた。

 その隙間に魔力が集まっていき、最後には1m程の炎で模られた少女が出てきた。

 サイズこそ違うが、それは紛れもなく『火の大精霊』だった。


「何故、我の意識が蘇ったのだ……?」

(……………………)

「眷属、だと……?我の存在の主導権を握っただと……?」


 レインは吸収した『火の大精霊』の意識を、自らの魔力に混ぜて再構築した。

 現在の『火の大精霊』はレインの一部であり、レインに逆らうことは出来ない。そして、司る場で集められた魔力は、ほぼ全てがレインの元へと向かう。


「ふざける……ぐうっ!?」


 レインが軽く念じるだけで、『火の大精霊』は指先1つ動かすことが出来なくなる。

 レインは『火の大精霊』に近づくと、その頭に手を乗せる。


(……………………)

「ま、待ってくれ!我が悪かった。わかっている。もう抵抗などしない。だ、だから、その手を離してくれ!?」


 その姿に大精霊の威厳などなく、ただの怯える少女の様だった。

 レインはその反応に満足したのか、うんうんと頷いて手を離す。

 ホッと息をつく『火の大精霊』。


(……………………)

「ま、まだ他の大精霊も吸収するのか……」

(……………………?)

「い、いや、文句などない。……我らはとんでもない者を見捨ててしまっていたのだな」


 何かを後悔するかのように俯く『火の大精霊』を無視して、レインは次なる目的地に向けて『グレン火山』を出発するのだった。



 これが後に『究極の大精霊マスターエレメント』と呼ばれるレインの始まりの神話だった。


 それにしても、レインにとって恨むべき対象である鬼神が、最も現在のレインの在り方に近いというのは何という皮肉だろうか。


ある意味、仁やさくらの経歴の焼き直しです。

さくらはエルディアで見捨てられた時に絶望しました。仁は見捨てられた時に勇者達を『どうでも良い存在』にしました。そして、見捨て返しました。

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