第101話 大精霊と決戦準備
タイトルから察することが出来るように、実際に戦争(っぽいモノ)が始まるのは次回からです。
第6章終了時の短編にしても良かった内容かもしれません。
ここで登場させないと、しばらく登場するチャンスがなくなるので出しました。
朝、目覚めると身体中が柔らかい感触に包まれていた。
目を開くと、目の前には20歳くらいの美女が全裸で横たわっており、俺のことを抱きしめていた。
触れている辺りから
なるほど、この美女は昨日毛布で包んだ精霊だな。寝ている間に十分に回復して、大精霊としての姿を取り戻したのだろう。
そう考えてみると、人間離れした美貌にも納得が出来る。
顔も含め、全身は完全な対称で構成され、その造形は作り物めいているようにも感じる。
白、と言うよりは
あのサッカーボールが、たった一晩で良くここまで化けたものだ。
……それにしても眠い。まだ、時間は早いみたいだし、もう少し寝るとするか……。
おやすみ。
至福の2度寝を終えた俺の前には、1度目に起きた時と同じように大精霊の姿があった。
俺が起き上がろうとすると、大精霊は抱きしめていた手をほどき、俺が起き上がると同時に起き上がった。
当然、全裸なので色々と見える。
寝る前に包んでいた毛布はベッドの下へと落ちている。
ちなみにかなりスタイルが良い。ボリュームもさることながら、特筆すべきは全体のバランスだ。まるで美術品のようである。……言い換えれば、作り物めいているってことでもあるのだが。
「とりあえず、服を着せないと駄目だろうな」
俺がそう言うと、大精霊は手をポンっと叩き、その身体が光に包まれた。
次の瞬間には大精霊は白いクロークのようなもので身を包んでいた。
大精霊は喋ってはいないが、その表情から「これで大丈夫でしょ?」と言っているように感じる。
俺がベッドから降りて立ち上がると、大精霊はその背中から4対8枚の白く輝く翼を出して宙に浮いた。
鳥のような羽ではない。蝙蝠のような羽でもない。もっと言えば、羽と呼んでいいのかもわからないような、ただの光る楕円形だ。
しかし、それが空を飛ぶ美女の背中に2つずつ対になって浮かんでいたら、それは羽にしか見えないだろう。もちろん、普通の生物はそんな羽では飛べない。
身長が170くらいだから、2m近い髪の毛か……長すぎる。
そう言えば、精霊は髪を切る必要はあるのだろうか?
A:ありません。
まあ、本人が邪魔と思っていないのなら、俺がどうこう言う問題でもないよな。
「ふわあああ……」
「むう、もう朝かのう……」
と、そこでブルーとエルも起きてきた。
目が覚めるタイミングも一緒とは、本当にブルーとエルは仲が良いな(本人達にとっては不服な評価)。
「……ご主人様、誰、それ?」
俺の方を見たブルーから、至極当然の質問が飛んでくる。
「大精霊だよ。一晩
「本当にますたーは何でもアリじゃの……」
「大丈夫、大分慣れてきた」
ブルーは意外と順応性が高いようだ。
エルの方は歳のせいで柔軟性が足りないのかもしれない(超長生きだし)。
そろそろ、大精霊のステータスを見ておこうか。
名前:なし
LV1
性別:女
年齢:0歳
種族:大精霊
スキル:<精霊LV-><MP吸収LV10>
備考:無を司る大精霊。
昨日までは「なし」だった項目がほとんど埋まっている。
疑問点としては、「名前がないのは何故か?」、「精霊に性別はあるのか?」、「年齢が0歳なのは何故か?」と言ったところだろう。
A:この精霊は鬼神に吸収された段階でほとんどの情報を失いました。名前がないのは元々なのか、あったけれど失ったのかは不明です。年齢は封印から解放され、大精霊としての姿を取り戻した時に再カウントが始まりました。性別に関しては基本的に不定ですが、本人が強く望んだ場合はその性別へと変化します。1度決めると以後変更することは出来ません。
つまり、この精霊は鬼神に吸収され、解放された段階で生まれ変わったと言う事か。
だから解放直後は情報がなく、大精霊になった時点で初期化されたのだろう。
おっと、大精霊に戻ったのなら、まずこれだけは確認しておかないといけないな。
「お前、俺と<精霊術>の契約をするつもりはあるか?」
-コクコクコクコク-
俺がそう言うと、大精霊は凄まじい勢いで何度も頷くと、感極まったという表情になり俺に抱き着いてきた。むぎゅう。
とりあえず、大精霊が俺以上に乗り気な事だけは理解した。
後、服は着ているけど、下着は着ていないことも分かった。ほら、大精霊の奴、宙に浮いた状態で俺に抱き着いてきただろ?
服の素材は透けないけど、結構薄手みたいだから色々とわかるんだよ。
「あー……精霊契約とかするし、時間がかかるかもしれないから、先に朝食をとってくれ」
「わかったわ」
「うむ」
そうして2人は朝食をとるために部屋から出て行った。
2人が出て行き、部屋の扉が閉まるのを見てから、大精霊の方に向き直す。
「よし。後回しにする理由もないし、先に契約をするか?」
-コクコクコクコク-
俺が問いかけると、再び大精霊は勢い良く頷く。
一旦大精霊を引きはがし、<
それと、<精霊術>のスキルレベルを10にしておく。予想ではあるが、力の強い精霊と契約する方が要求スキルレベルは上がるだろうからな。
以前確認したのだが、精霊と契約をするときは『精霊の輝石』を持った状態で<精霊術>による契約の要求をする必要がある。
この「契約の要求」とは<魔物調教>と似たような陣をぶつけることを言う。以前、カスタール奴隷冒険者組のユリアが契約するところを見せてもらったので間違いない。
俺が『精霊の輝石』を持って大精霊の方に向き直すと、大精霊は大慌てで『精霊の輝石』を俺から取り上げた。
WHY?
大精霊は『精霊の輝石』を俺のベッドの上にぽいっと放り投げる。
WHY?
俺が大精霊の奇行に困惑していると、大精霊は俺に向けて<精霊術>で用いる陣を飛ばしてきた。よく見ると、以前見たモノとは陣の細部が異なっているな。
その陣が俺に当たることで、大精霊の目的がようやく理解できた。
この陣の内容は、俺が出そうとしていた陣の真逆。簡単に言うと、「私の事を使役して!」と言うものだ。どうやら、大精霊は自分から契約を願い出たかったようだ。もちろん、精霊側から契約を願い出るなどと言う事はほぼ0に等しい事例のようだが……。
なお、この場合は契約に『精霊の輝石』は必須ではなくなる。だからポイしたと言う事か。
>「大精霊」が精霊契約を要求しています。許可しますか?Y/N
ゲーム的な選択肢が出てきました。
これ、多分普通の人には出てこないよね?
A:はい。
ここで精霊契約を断る理由もないので、「Y」を選択する……「N」を選択したら、大精霊泣くかな?
A:泣くと思われます。全く関係ありませんが、『精霊の涙』と言う宝石があり、大抵の国では国宝として扱われます。
……それは、俺に大精霊を泣かせろと言っているのか?
と言うか、それは宝石の別名であって、大精霊を泣かせたからと言って入手できるものでもないだろうに……。
アルタの冗談はさておき、「Y」を選択する。
>「大精霊」と精霊契約(主)をしました。
>「大精霊」に名前を付けますか?
テイムと違い、名前を付けるかどうかは使役者の任意のようだ。
「名前、欲しいか?」
-コクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコク-
過去最高の勢いで大精霊が首を上下に振る。
そこまで名前が欲しいというのなら、付けてあげない訳にもいかないだろう。
ただし、センスはお察しである。はい、ドン!
>「レイン」と名付ける
>「プラナ」と名付ける
>「ちな」と名付ける
>「ゆかり」と名付ける
「レイン」は目の色、
「プラナ」は髪の色、プラチナからもじったのだと思われる。
「ちな」もプラチナからだろうな。酷いけど……。
「ゆかり」は置いておく。
ここは大人しく「レイン」にしておこう。
不安があるとすれば、水の精霊と間違われないか、と言う事である。
「よし、決まったぞ。お前の名前はレインだ、うわっと!?」
名前を言い終わった瞬間、大精霊改めレインが抱き着いてきた。
レイン、大精霊のくせに感情表現豊かだな。全く喋らないけど。
レインとの契約を終えた後、朝食をとるために食堂へと向かう。
丁度、メインメンバー達が揃っていたので、その場でレインについて説明をした。
「わずか2日で大精霊としての力を取り戻すとは思いませんでしたわ。本当、ご主人様は相変わらずですわね」
「いや、俺もまさか2日でこうなるとは思わなかった」
セラが呆れたように言うが、俺としても予想外だったのは事実だ。
「仁君ですから……」
《ですからー》
もはや定番になったセリフをさくらとドーラが口にする。
思っていたよりも汎用性高いね。
「それでご主人様、『精霊化』はもう試してみたの?」
「いや、まだだな。とりあえず、朝食を食べることを優先させたから」
パンを食べながらミオの質問に答える。
「じゃあ、朝食の後でやってみましょ!クロード達に見せてもらった時から結構興味あったのよね」
「そうだな。食後の運動に『精霊化』を試してみるか」
なお、『精霊化』は使用者への負担が大きいので、本来は腹ごなしにやるようなものではない。
ここで少し精霊、<精霊術>、<精霊魔法>、『精霊化』について説明しよう。おさらいの部分も多い。そして、多分長くなる。
まず、精霊と言うのは、この世界に存在する属性を司るエネルギー生命体の事だ。魔力が意志をもって具現化した存在でもある。
精霊はその身に宿る魔力量によって区分され、上から大精霊、中精霊、小精霊、微精霊と分けて呼ばれる。なお、「魔力量=意思の強さ」と考えても良く、大精霊は人間と変わらない程の自我を持ち、微精霊はほとんど自我を持たず、大気中を漂っている。
基本的に精霊は各種属性を持っており、それぞれの属性の魔力が強い場所を好んでいる。そして、同じ属性の魔力を蓄えることで、精霊としての格は上がっていく。
さて、ここで1つ気になることがある。レインの属性だ。
レインのステータス、その備考欄を見てみると「無を司る大精霊」と書いてある。いや、「無」は属性ではないだろうと突っ込みたいのを抑えて、考察をしてみる。
鬼神に取り込まれていたことで、レインはその
俺達が助けた時(正確には俺はその場にいなかったが)、レインは小精霊の規模まで格を落とされていた。その時に元々持っていた属性も失ってしまったのだろう。
本来なら魔力の濃い場所で長い時間をかけて回復するのだろうが、俺が魔力を注ぎ込んだため、たった一晩で回復することになった。しかし、俺は人間なので固有の属性を持たない。より正確に言うのなら、色々混ざり過ぎていてどれか1つこれだと言うものがない。
故にその魔力を吸い込んだレインも、属性を持たないまま大精霊になってしまったのだ。
よって、レインは自然界の大精霊から見ると、かなり不自然な大精霊になってしまったと言えるだろう。
これがどのような影響を与えるのかは今は置いておく。
次に<精霊術>と言うのは、精霊と契約をするためのスキルだ。ある意味、<奴隷術>なんかに近いとも言える。
<精霊術>のスキルと『精霊の輝石』を持って精霊に契約を申し込む。精霊がそれを受け入れれば、晴れて精霊を使役できることになる。当然、失敗することもある。
精霊は普段、魔力の消費を抑えるために『精霊の輝石』の中に入っており、「『コールエレメント』~各種属性~」の宣言で呼び出して使役する事が出来る。
精霊を呼び出している間、術者は常に魔力を消費することになるが、普通の人間よりは精霊の方が魔力の扱いが上手いので、同じ魔法でも精霊に任せた方が効果が高いことになる。
通常あり得ることではないが、精霊の方から契約を願い出てくることも出来るようだ。今回、俺とレインの契約がそうだったように、精霊から契約を望んだ場合、<精霊術>のスキルも『精霊の輝石』も不要となる。
何故、通常あり得ないかと言うと、精霊から契約を望めるのは大精霊に限定されるからだ。そしてこの場合、精霊はかなり不利な条件で契約を結ぶことになる。
大精霊は強い自我を持っている。それなのに自分が不利な条件で契約を結びたいと思うだろうか?当然、そんな訳が無いと言う事だ。
なお、不利な理由の1つは『精霊の輝石』で魔力消費を抑えることが出来ず、自身の持つ魔力を消費することになるからだ。
ついでに言えば、精霊から契約を申し出た場合でも『精霊の輝石』を後で用意することは出来る。なので、ポイされた『精霊の輝石』にレインを入れることにしようと思う。
<精霊魔法>と言うのは大気中の微精霊に魔法を使わせるスキルの事だ。
微精霊はほとんど自我がないため、<精霊魔法>スキルで魔力を与えてお願いすれば、比較的簡単に言うことを聞いてくれるのだ。詠唱は微精霊が代行してくれるので、1度お願いをすれば発動まで術者の行動が阻害されることもない。
契約した精霊の属性や、個人の所有する魔法の属性に縛られることなく、多様な種類の魔法を使うことが出来るのも利点だ。
代わりにいくつか欠点もあり、微精霊は司る属性以外の場所にはあまり存在しない。本能的に自身の格を上げようとするからだ。そのため、使いたい属性の微精霊が少ない場所では魔法が使えない。簡単に言うと、火山で水魔法が欲しいのに、水の微精霊がいないから使えない、と言った具合だ。弱点を突くのが極端に苦手な魔法と言えるだろう。
後、微精霊が魔力を蓄えるためにマージンを持って行くので、消費魔力が多い。結構ガッツリ取られるらしい。
最後に『精霊化』と言うのは、カスタール冒険者組奴隷のクロード達が編み出した、精霊をその身に纏うことで戦闘能力を大幅に向上させるという必殺技のようなものだ。
単純な身体能力の向上だけではなく、その精霊の属性をまとうことが出来るようになるので、状況によってはかなり有利に働く。
加えて、本来ならば精霊への魔力供給は全て<精霊術>の術者が行う必要があるのだが、『精霊化』をしている場合はその使用者が消費を肩代わりすることが出来るようになる。これにより、同時に複数人の『精霊化』も可能となる。
もちろん、メリットだけと言う訳でもなく、大きなデメリットや制限もある。
まず、魔力消費を肩代わりするとは言っても、『精霊化』自体がかなりの無茶をしているのである。当然、普通に精霊を呼び出して使役するよりも消費魔力は大きくなる。
よって、基本的には長時間の使用は出来ないと考えて良い。さらに無茶をして精霊をまとっているので、肉体的な負担も大きく、魔力消費と合わせて使用後はろくに動けない状態になってしまう。まさしく、最後の切り札と言う訳だ。
そして、これが1番の制約でもあるのだが、この『精霊化』、相性のいい精霊とでなければ、そもそも行う事すらできないのである。
配下のクロードも、光の精霊としか『精霊化』をすることは出来ない。大抵の場合1属性、多くても2属性の精霊としか『精霊化』できないようだ。
さて、ここで再びレインの話になる。
レインは俺の魔力を吸収した大精霊だ。かなり乱暴な理屈になってしまうが、魔力的には俺と同一の存在と言ってもいい。
そんな存在が俺と相性が悪いわけがあるだろうか?当然、そんなことはないだろう。
むしろ、最高の相性と言ってもいいだろう。
と言う訳で、俺はレインとの『精霊化』が不可能だとは端から考えていなかった。
朝食後、俺達は中庭に出てレインとの『精霊化』を試してみた。
事前に考えていた通り、俺とレインの相性は良く、『精霊化』をすることは出来た。
「……確かに、『精霊化』自体は出来たんだよな」
「でも、ステータスが全く変わらないわね?」
「一体、どういうことですの?」
ミオとセラが首を傾げる。
折角『精霊化』をしたのに、俺のステータスは全く変化していなかったのだ。
その代わり、『精霊化』によるMPの消費も発生していない。
アルタ、どういうことかわかるか?
A:『精霊化』と言うのは人が持っている魔力に、精霊の魔力が混ざることで化学反応のような事が起こり、能力を爆発的に上げているのだと思われます。この時、ある程度似た魔力でなければ混ざることは出来ません。これがマスターの言う相性に繋がるのだと思われます。レインの場合、実質的にマスターと同じ魔力なので、混ざることによる影響がないのではないでしょうか。
……つまり、相性が良すぎるってことか?
本来は混ざれる程度に似た魔力の人と精霊が行う『精霊化』を、ほぼ同一の性質を持つ人と精霊が行ったため、『精霊化』としての反応のしようがなかったと言う事か?
何と言うか、やり過ぎた……?
「これじゃあ、『精霊化』の意味がないよな……」
俺が呟くと、『精霊化』を解除してポロっと出てきたレインが「がーん!」と言う顔をする。喋らないけど、本当に表情が豊かである。
「でもご主人様、本来は『精霊化』って召喚者以外が精霊と行うモノよね?召喚者であるご主人様が『精霊化』したら本末転倒じゃない?」
「そう言われてみればそうか……」
ミオに言われて、確かにその通りだと考える。
本来の『精霊化』は召喚者の負担を減らしつつ戦力を強化するためのモノだ。クロード達も<精霊術>スキルを持つユリアが召喚した精霊と他のメンバーが『精霊化』を行っている。
俺が『精霊化』をするというのは、本来の趣旨から外れているのは間違いない。
「では、試しに私が『精霊化』をしてみてもよろしいでしょうか?仁様をお守りするのに、戦闘力はいくらあっても足りませんから」
そう言って、マリアが『精霊化』に名乗りを上げた。
「んー、出来ればミオちゃんもやってみたいけど相性はどうかな?」
「だったら、全員一回ずつ試してみたらいかがですの?」
《ドーラもやるー!》
皆がやる気になったところでレインの方を見てみると、何となく嫌そうな顔をしている。
「レイン、頼めるか?」
-コクコク-
俺が頼んでみると、さっきまでの嫌そうな顔はどこへ行ったのか、嬉しそうな顔で頷いた。
……結論、さくら、マリア、ミオは『精霊化』が出来たが、ドーラとセラは出来なかった。
《むねーん……》
「<敵性魔法無効>のせいでしょうか?他に心当たりもございませんし……」
アルタ曰く、セラの場合は<敵性魔法無効>が、必要性が低く、所有者への負担が大きい魔法を『敵性』として弾いてしまったようだ。
ドーラの場合はもっと単純で、魔物に『精霊化』は出来ないと言う事だ。
レインは俺の魔力で育ったせいか、俺の配下全員と精霊化できるらしい(魔物とセラは除く)。<
先に述べた、『似ているけど全く一緒ではない魔力』という条件が強制的に満たせる。
「凄い。ステータスを大分落としているのに、『精霊化』だけでかなり動きやすくなるわ」
「そうですね。これでより仁様のお役に立てそうです」
「レインさんが補助してくれているのか、速く動いても転びそうにありません……。これはいいですね……」
他のメンバーは全員効果を感じているようだ。
なお、さくらはステータスをかなり上げた状態でも転ぶ確率が0にはならないらしい。転んでもダメージを受けなくなったと喜んでいたこともあったか……。不憫だ。
「俺以外のメンバーにはしっかりと効果があるんだな。これからはそう言った運用を考える方が良いのか?」
俺が使っても効果がないのなら、最初から他のメンバーに使わせることを検討した方が効果的だろう。
-ふるふるふる-
しかし、俺がそう言うと、レインが全力で首を横に振った。
その顔からは「ご主人様と合体したいの!」と言う感情が見て取れる。
そして、グッと握り拳を作ると「なら、効果があればいいんだよね」とでも言いたそうな顔をして、……どこかへ飛んで行った。
そして、あっという間にレインの姿は見えなくなった。
What?
A:レインからの伝言です。「強くなって帰ってくるから、しばらく待ってて」だそうです。
うむ、何がしたいのかわからん。
「どっか飛んで行っちゃったわよ?」
「家出でしょうか……?」
レインが飛んで行った方角を見ながら、ミオとさくらが呟く。
「何か、強くなってくるそうだ。まあ、魔力はたっぷり与えておいたし、ヤバくなったら回収すればいいだろうから、しばらく好きにさせてやろう」
アルタ、レインの様子だけは確認しておいてくれ。
A:お任せください。
「了解いたしました」
「まあ、ご主人様がそれでいいんなら、文句はないけど……」
「色々と不思議な方ですわね」
「仁君の契約精霊ですから……」
《ですからー》
え?レインの不思議行動って俺のせいなの?
結局、レインが旅に出ると言ってどこかへ飛んで行ってしまったため、『精霊化』のお披露目もなし崩しに終了と言う事になった。
『精霊化』を新必殺技に出来なかったのは残念だが、レインに何か心当たりがあるようだし、帰ってくるのを楽しみに待っていようと思う。
レインの件でそれなりに時間を使ったので、正午開始予定のエルディア進攻のためには、そろそろカスタール王城へ行かなければいけない時間だ。
本来なら朝一どころか昨日一昨日から準備をするべきなのだろうが、あいにく俺には準備は不要だ。エルディアの王都にちょっと行って来るだけだからな。
屋敷で準備を終えた俺達は、『ポータル』によりサクヤの私室へと直行する。
気安く転移される大国女王の私室である。プライバシーも何もあったものではない。
「ふわっ!?あー、お兄ちゃんか。びっくりしたなー」
私室で執務をしていたサクヤが驚いた声を上げる。
「と言うか、転移するのはいいけど、事前に念話の1つくらい欲しいんだけど……」
「考えておく」
「ご主人様はホント、私とかサクヤちゃんに容赦がないわよね」
ミオとサクヤは弄りやすいランキングの上位ランカーだからな。
割と最近、そこにブルーが加わったけど。
「うー、お兄ちゃんのイジワルー……。はあ、お兄ちゃん。王城に来たってことはエルディア進攻作戦の準備と思っていいんだよね?」
「ああ、流石に打ち合わせの1つも無しって訳にもいかないだろ?」
「もう、ほとんどは終わってるけどね」
一応、サクヤからの報告で騎士団の訓練の進捗などは聞いている。
乗りこなすだけなら2日目の昼には形になっており、3日目まで空中戦闘の訓練も出来るようになっていたそうだ。やはり、カスタールの騎士団は優秀だな。
「後、1つ聞きたいんだが、ジーンに対する反応はどうだ?急に現れて好き勝手しているし、あまりいい感情は持たれていないと思うんだけど……」
「ご主人様、自覚はあるのですわね……」
流石の俺もここまで好きやって、現場の騎士達に好かれているとは考えていない。
堂々と命令違反をされないくらいで済んでいれば御の字と言ったところか。
「内心は騎士団も複雑だろうけど、表だって文句を言える騎士もいないわよ。何しろ、
「ならいい。サクヤの事は信じているからな。もちろん、カスタール自体もある程度は信じているぞ」
多少の振れ幅はあるが、概ねこの国は信用に値する国だ。
特に、サクヤの目が行き届いている範囲ならば尚更である。
「大丈夫よ。特に今回選抜した騎士達はしっかりと面接もしているから。……流石に私が直接ってワケじゃないけどね。信頼できる家臣に任せたわよ」
自信を持ってサクヤが言うのだから、恐らくは問題が無いはずだ。
サクヤとのやり取りを終えた俺達は、今回同行する騎士団との顔合わせに向かった。
中庭でギリギリまで調整をしているというので俺達も向かう。
中庭では30匹くらいの
サクヤとともに現れた俺達(『
「ジーン殿、本日はよろしくお願いする」
「ああ、本日はよろしく頼む」
代表として前に出てきたのはご存知ギルバートだ。
こちらも騎士口調で挨拶をする。ミオが笑いを堪えている。
ギルバートは
上手く戦えば、騎士団長のゴルドとも接戦が出来ると言われている。尤も、本人はその評価を恐れ多いと固辞しているようだが……。
ギルバートからは
この3日間である程度形にはなってきたが、やはり専門家がいない状態の訓練には限度があるらしく、色々と気になる点が多いのだという。
一応、基本的なことはアルタがサクヤ経由で伝えていたらしいのだが、そう簡単に行くモノでもないのだろう。
「すまない。助言、色々と助かる。……しかし、本当に良いのか?今の我々ならばジーン殿の足手まといにはならない自信があるぞ。エルディアでは後処理だけと言わず、勇者達との戦いだってこなせるはずだ」
元々、勇者に対してあまり敬意を持っていない様子のギルバートは、対勇者だからと言って尻込みなどしていない。
実際問題、ギルバートの戦闘能力があれば、未熟な勇者相手ならどうにでもなるだろう。
「厚意はありがたいのだが、遠慮させていただく。足手まといと思っている訳ではないが、この戦いは我々の手だけで決着を付けたいのだ」
「何か、因縁でもあるのか?」
ギルバートが少し気まずそうな顔をして聞いてくる。
エルディア王国が勇者召喚で好き勝手をしていることを思い出したのだろう。今のエルディア王国は、どこに恨みを持っている人間がいてもおかしくはないのだ。
「ああ、少々根深い因縁があってな」
「……わかった。もう聞きはしない。だが、この作戦にカスタールの未来が掛かっている。万が一ジーン殿が失敗したときは、我々が後を引き継ぐ事は許可いただけるだろうか?」
「それはもちろん構わない。その場合、後の事は頼む」
「当然だ。この命に代えてもカスタールは守る」
ジーンには実績があるが、勇者が相手なので勝てる保証はない。ギルバートとしても万が一の事を聞かないわけにはいかないのだろう。
とは言え、俺があっさりとやられるような相手がいた場合、ギルバートを含むカスタールの騎士団には荷が重いと言わざるを得ない。
その場合、
大精霊がどこかに行ってしまいましたが、次回までに短編で何をやっているのかを明らかにします。
ある意味、仁の精霊らしい行動です。
章タイトル?深い意味はありませんよ。