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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第6章 イズモ和国編

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第99話 復興(10%)と興行

珍しくガチの観光をします。

「ごちそうさまでした。さて、今日は何をするかな……」


 朝食後、椅子に座りながら本日の予定を考える。

 当然、いつものメンバーも一緒だ。


「明日からエルディアに向かうし、今日はイズモ和国観光なのよね?」

「ああ、そのつもりだ」


 ミオの言うように、今日まではイズモ和国を観光する予定なのだが、エンドは鬼神の影響でボロボロになっているので、とてもじゃないが観光なんかできる状況ではない。

 そうなると、エンド以外の観光地をトオルかカオルに聞いて、そこに向かうというのが1番だろう。流石にもうハンナが尾行してくることもないだろうから、ある程度自由に行動できるはずだしな。まあ、ハンナがいたからと言って、自重する保証もないけど……。


「とりあえず、観光地の心当たりをトオル達に聞くところからスタートかな。ミオたちはどうする?今日も料理研究か?」

「イズモ和国にしかなさそうな料理は大体集めたから、今日はご主人様に同行するわよ」

「そうですわね。たくさん食べましたわ。満足ですわ」


 どうやら本日は2人も俺に付いてくるようだな。


「そうか、じゃあ準備をして早速イズモ和国に向かうとするか」

「はい」×4

《おー》


 本日の方針が決まったところで、準備のために食堂の扉を開けると、そこにはミミが跪いて短剣を掲げていた。

 どうやら、昨日の夜から作り始めた聖剣が無事に完成したようだった。


「仁様……、お納め……ください……」


 『聖剣・メサイア』の時と全く同じ文言で剣を捧げるミミに対して困惑する。

 え?もしかして、これって毎回やらなきゃいけないの?


「それって、お願いしてた私の短剣よね?」

「そう……です……」

「えーと、何でご主人さまに渡すの?」


 短剣を見てミオが首を傾げながら発したセリフにミミが頷く。


「私の聖剣は……全て仁様の……物です……。全て……仁様に……お渡し……します」

「そ、そうなの……。わ、わかったわ。ご主人様、その剣をミオちゃんに下さいな?」

「あ、ああ。わかった。ほら……」


 そう言って、掲げられた短剣を受け取り、そのままミオに渡す。

 どうやら、毎回やらなければいけないようだ。


聖剣・タリスマン

分類:短刀

レア度:伝説級レジェンダリー

備考:所有者制限、勇者強化、魔族特効、瘴気除去、武器召喚


「へー、これもきれいな剣ね」


 そう言って、鞘から抜いた短剣を眺めるミオ。

 この聖剣も全体的に白く美しいと感じるようなものだった。


「で、この武器召喚って何?」

「この指輪を……付けてください……」


 ミオの質問に対し、ミミは持っていた指輪を手渡す。


名前:聖剣・タリスマンの指輪

備考:『聖剣・タリスマン』と対になる指輪。


「付けたわ。どうすればいいの?」

「その手を……軽く開いて……、指輪に……少し魔力を……込めながら……、聖剣の……名前を……呼んでください……」

「うん、『タリスマン』!おっと!」


 その瞬間、ミオの手のひらに『聖剣・タリスマン』が現れた。ちなみに鞘なしだ。

 落ちそうになる聖剣をミオがそのまま握る。


「御覧のように……、指輪の元に……聖剣が現れます……。戦闘中に……便利です……」

「おー、これは面白いわね。<無限収納インベントリ>でも似たようなことは出来るけど、事レスポンスにおいては<無限収納インベントリ>以上ね」


 ミオが感心したように何度か聖剣を呼び出してみる。

 <無限収納インベントリ>を使う場合、ある程度集中していないと難しい部分はあるからな。魔力を込めて呼ぶだけなら、その方が速いし楽なのは間違いがない。


「これなら、ずっと持っていなくてもいいし、非常用にあると便利かもしれないな……」

「わかりました……。出来るだけ……この機能を……付けます……」


 俺が呟くと、その呟きを拾ったミミが即答する。


「無理はしなくていいが、出来るだけ頼む」

「はい……、お任せ……ください……」


 両手の指に可能な限りこの指輪を付け、状況に応じて武器を切り替えながら戦うというのもロマンを感じる。多分、カッコイイ。

 と言うか、この世界に転移魔法はほぼないのに、聖剣自体は転移できるということになる。

 何か意味があるのだろうか?


「一応、最初はさくら向けに作ってもらえるか?」

「え……?私ですか……?」

「ああ、ミオと同じく遠距離戦闘が中心だろ?杖術があるとはいえ、それだけと言うのも心許ないからな。手札は多いに越したことはないだろ?」


 どちらかと言うと非常用の武器と言う印象が強い。

 近接戦闘に慣れた俺やマリア、セラ、ドーラが使うよりも、さくらが使う方が良いだろう。


「なるほど……。わかりました……。ミミさん、お願いしますね……」

「はい……」


 次の聖剣の依頼が終わると、ミミは与えられた部屋に戻るようだ。

 どうやら、夜を徹して鍛冶を行っていたので、今から寝るらしい。完全に生活リズムが崩れている。


A:この生活リズムの方がマスターへ聖剣を捧げるのに向いていると言っていました。


 ……確かに昼とか夜に渡されるよりは、朝に渡された方が色々と都合が良いのは事実だが、そこまでしなくてもいいのではないだろうか?


A:信者にはその様な理屈は通用いたしません。


 だよねー……。



 今度こそ準備を終えて『ポータル』でエンドまで転移する。

 なお、転移先をエンド内のとある屋敷に指定するようにメイドに言われた。もう、この時点で色々と予想が付くのだが果たして……。


「ようこそいらっしゃいました」×多


 予想通り、俺達が転移した先には何10名ものメイド達がきれいに並んでいた。

 どうやら、エンド内にアドバンス商会名義で屋敷、もとい商店を建てたようだ。

 立地を確認すると、俺達がエンドに最初に来た時に通った大通りの一等地である。


「ご主人様も殿様待遇に大分慣れたわよね。これを見て顔色一つ変えないもの……」

「まあ、こんだけ何度も同じような光景を見てれば、多少は慣れるのも当然だろ」

「私は未だに落ち着かないです……」


 他愛ない話をしながら屋敷を出ると、周囲には破壊の爪痕があちこちに残っていた。無事な建物などただの1つもないだろう。……俺達が出てきた屋敷以外は。

 夜の内に瓦礫の撤去はほとんど終わったようで、今はもう新しい建物の建造に取り掛かっている。特に国の象徴であるエンド城は急ピッチで再建が進んでいるようだった。……もちろん、アドバンス商会主導で、である。

 何でも、国の土建屋に建築技術を提供させ、本職を上回る速度で建造を進めているそうだ。


 アドバンス商会の実力を知る者達としては、城の再建もメイド達の力を借りたいと思うのは当然だ。明らかに速度が違うからな。

 しかし、炊き出しや仮設住宅の建設くらいならばともかく、城の建設などの大事業を善意で無償で行う訳にもいかない。当然お金を取ることになる。

 しかし、国の立て直しにもお金は必要なので、払えるものはあまり多くない。だったらどうなるか?決まっている。現物支給である。こうして、アドバンス商会はエンドの一等地に商店を開くことになったのだ。


 なお、それでも足りない分は借金と言う事になっている。

 ……王族を配下にして国を実質的に支配することはあったけど、借金で支配するというのはまた新しいパターンだと思う。

 いや、支配したからどうすると言う訳でもないのだが……。


 屋敷を出た俺達は、マップで確認してトオルの元へ向かって行く。

 どうやら、本日はトオルはトオル、カオルはカオルとして活動をしているようだ。入れ替わる余裕がないとも言う。


《やっほー!》

「おお、仁殿達、来てくれたのだぞ?」


 俺達の存在に気付いたトオルが仮設テントから出てくる。


 トオルは現在、仮設テント内で各種書類と奮闘しているようだった。

 どうやら、アルタに手伝ってもらっている模様。王族って基本的にアルタを知るとガッツリ使って来るよね。


A:問題ありません。


 そう言ってもらえると助かるよ。……王族達が。


 さて、さっさと要件を済ましてエンドを出て行こうか。理由、俺がここにいるとメイド達が俺を優先するので仕事が進まなくなるから。

 少し離れた所でカオルも似たような事(アルタに手伝いを頼むのも同じ)をしているので、2人とも忙しいのは間違いがないだろうからな。


「……と言う訳で、どこかおすすめスポットはないか?出来れば、今日1日くらい潰せる場所が良いな。移動時間は問わないぞ」

「本当に仁殿は観光が第1優先なのだぞ……」

「……まさか、心当たりがないのか?自国の事なのに?」


 呆れたような顔をしてトオルを睨む。

 トオルが役に立たないのなら、カオルに聞くしかなくなる。2度手間は面倒だが……。


「ひんっ、そんな冷たい目で見られると気持ちいいのだぞ」

「あー、そうだったな。こういう奴だったな」

「理解できませんわ……。ご主人様に睨まれて喜ぶなんて……」


 喜んでいるけれど、身体は正直みたいだぞ。よく見ると漏らしているし……。


「やめて。つねらないで欲しいのだぞ。痛いのは嫌なのだぞ」


 とりあえず頬をつねってみる。ついでに『清浄クリーン』をかける。

 トオルには物理ダメージしか効かないからな。


「あ、あるのだぞ!仁殿に聞かれてもいいように、いくつか候補を出しておいたのだぞ」

「早よ言えや」

「町なら商売都市アキンド、探索なら『ウンディーネの泉』か『サラマンダーの火山』なのだぞ!」


 探索の方の2つは聞いたが、町の方は聞いたことがないな。

 それにしてもエンドとかアキンドとか、勇者って頭悪いなぁ……。


「商売都市アキンドはエンドに次ぐ規模を誇るイズモ和国第2の都市なのだぞ」

「今、第1位がボロボロだけど、順位逆転していない?」


 ミオが尋ねると、トオルも気まずそうな顔をする。

 多分、事実上順位が逆転しているんだろうな。


「それは言わないで欲しいのだぞ……。アキンドは商売がエンドよりも盛んで、海外の物品も多く流れ込んでいるのだぞ。観光産業が中心と言う訳ではないけれど、色々と興行もあるんで、観光と言う意味では行ってみて損はないのだぞ」

「探索の2つは『ノームの洞窟』と『シルフの森』に似たようなモノか?」

「うむ。それぞれ珍しい素材が豊富で、魔物が強い土地なのだぞ。仁殿達なら余裕なのだぞ」


 俺の問いにトオルが頷く


「イズモ和国に来てからは探索や戦闘が多めだから、最後くらい町の観光でゆっくりするのも有りだな。……皆の反対が無ければ、アキンドに行ってみたいんだがいいか?」

「はい……。大丈夫です……」」

《さんせー!》

「仁様の御心のままに」

「まあ、ついて行くって言ったしね」

「ミオさんに同じく、ですわ」

「そこは右に同じく、じゃない?」


 トオルに詳しい場所を教えてもらい、俺達はエンドを出た。

 トオルも付いてきたそうにしていたが、通りかかったカオルにがしっと掴まれて逃げられなかったようだ。そりゃあ、1人だけ楽しい思いなんかさせないよな。



 騎竜ブルーに揺られること20分。

 俺達はイズモ和国第2の都市アキンドへと到着した。


 エンドと同じように、入り口で通行料を払……わない。

 トオルからイズモ和国内のどの街にでもタダで入れる通行手形を貰っているからだ。脅し取ったとも言う。いや、脅されて喜んでいたけど……。

 当たり前のように通行手形を見せる俺達に対して、門番はとんでもないものを見るような目を向けていたのが印象的だった。


A:通行手形の署名が国王と王子の連名だったからではないでしょうか。


 ……そりゃあ、ビックリするよね。

 後で差しさわりのないモノに取り換えてもらおう。絶対無意味に目立つよ。

 後でトオル〆る。


 アキンドはエンドに匹敵する面積を誇り、エンドと同じように中心には城がある。

 ただ、こちらの城は使われておらず、観光名所として入場できるようになっていた。

 アキンドと言う名前や、第2位の商業都市と言う事から考えて、大阪と大阪城がモチーフではないかと思う。


 エンドに比べて行政に関する施設が少なく、商店の類がかなりの面積を誇っていた。

 大通りの賑わいはエンドを上回っているだろう。あちこちに屋台が並び、人で溢れかえっている。観光を主軸にしている俺としては、見逃すことのできない街だろう。

 見れば、イズモ和国とは異なる服装をしている者も多少はいる。エンド以上に海外との交流が盛んなようだ。冗談ではなくいずれはイズモ和国最大の都市になるかもしれない。


「市場の方に行くと、大道芸なんかもやっているみたいだな。興味あるから行ってみようか」


 興行で賑わった町なら、あちこち見て回るだけであっという間に1日が終わるだろう。


「ちょっとそこの屋台で食べ物を買ってきますわ」

「あ、私も行くわ!ってタコ焼き?らしいと言えばらしいけど、時代考証ガン無視ね……」

「俺達の分もよろしく」

「わかりましたわ」


 セラとミオが買ってきたタコ焼きを頬張りながら大通りを歩いていく。


 少し大通りから外れたところにある市場には、店舗がほとんどなく代わりに屋台や大道芸人、フリーマーケットのように商品を陳列している者が大勢いた。

 特に祭りの日と言う訳でもないようなのだが、雰囲気は完全に日本のお祭り状態である。


《ひとがおおーい!》


 沢山の人間を見て、ドーラが驚きの声を上げる。

 ちなみにドーラは現在俺が肩車をしている。人混みが多い場所で子供から手を離しちゃいけないからな。手を繋ぐよりは肩車の方が楽だからな。手を離してもバランス感覚が良いから落ちないし。

 まあ、マップがあるから手を離しても迷子になるようなことはないだろうが念のため。


「そうですね……。本当に沢山の人がいて、熱気が凄いです……」

「あー、さくら、人込みとか苦手か?」


 偏見かもしれないが、「さくら」と「混雑」と言う言葉が上手く合わさらない。


「確かに少し苦手です……。人混みに行くと、いつも嫌そうな目を向けられるので……。でも、ここではそんなことも無いので大丈夫です……」

「そ、そうか……」

「ホント、さくら様の過去話って、コメントしにくいわよね……」


 そのコメントしにくい過去話、一体どれだけ引き出しストックがあるのかね?


 さくらも(一応)大丈夫そうなので、全員で市場をぶらつきながら、屋台で食べ物を買ったり、露店を冷やかしたりする。

 そこそこ楽しい時間を過ごしているのだが、マリアだけは表情が厳しい。


「人が多いからには、仁様の護衛に力を入れなければ……」

「折角なんだし、マリアちゃんも楽しんだら?はい、あんず飴」

「そう言う訳にも行きません。仁様の身の安全が第1優先です」

「こりゃ駄目だ……」


 人が多いせいか、マリアはいつも以上に気を張っており、ミオが差し出したあんず飴も受け取らなかった。受け取らなかったのは、ミオの食べかけだったからかもしれない。

 マリアとしては俺には極力人の多い場所には近づいて欲しくなかったみたいだな。まあ、俺にそれを言ったところで、俺が止まるとは考えていないだろうけど。



 しばらく進み、大道芸人が多い区画にやって来た。


 海外からやってくる人が多いせいか、大道芸のバリエーションが多い。

 傘回しやコマ回しと言ったイズモ和国、と言うか日本らしい大道芸の他に、ファイヤージャグリングやマジックなども見ることが出来る。

 剣と魔法の世界でマジックと言うのもアレなのだが、魔法は魅せて楽しむものではないのでまた別の話だろう。


「屋台で買ったものを食べながら、大道芸を見て回るのって凄く観光者っぽいわよね」

「そだな。よく考えてみたら、観光第1と言いつつ、ここまで観光らしい観光をするのは初めてかもしれないな」


 当然のように屋台で売っていた焼きそばを食べながらミオと話す。


わたくしとミオさんは食巡りで似たような事をしていますわよ」

「そーね。お祭りって食文化がかなり前面に出てくるから、見逃せないのよね」


 ああ、確かにそんなことを言っていたような気がする。

 たまにはこういった雰囲気の観光をするのも悪くはないよな。そして、今までもチャンスはあったと言う事か。


「機会があったら、俺も連れて行ってくれ」

《ドーラもー!》

「りょーかい!」

「わかりましたわ」

「仁様がお望みでしたら、各地の祭りを調べ、『ポータル』でいつでも行けるようにします」

「マリアちゃんはホントブレないわね……」


 そして、俺の望みにマリアが過剰反応するまでがテンプレである。

 一応、調べるまでは良しとしたが、『ポータル』設置まではしなくていいと言っておいた。


 ゆっくりと大道芸ブースを見て回り、おひねりを投げる。

 一通り見た大道芸人には全員おひねりを投げ、面白さに応じて金額を変える。


 大道芸人の中にはスキルを持っている者も多かった。中には俺が見たことも無いようなスキルを持っていた者も存在したが、貸しも何もないので、奪ったりはしていない。

 当然、大道芸と合ったスキルを持っている者はそうでない者と比べても数段上のパフォーマンスを見せてくれた。

 しかし、何事にも例外は存在する。中にはスキルを持っていないのに、スキル持ち以上の芸を披露する者も存在するのだ。


 正午までで一番面白かったのは、竹馬に乗りながら目隠しでナイフのジャグリングをする大道芸人だ。もちろん、芸に合ったスキルなど持っていない。

 さくらはハラハラして見ていられないのか、チラチラと見たり見なかったりしている。大道芸人からしてみれば、いいお客さんである。


 そして、屋台で食べ物を買い続けていたせいで、昼時になっても腹が空いてこない。

 なお、小食のさくらは既に何も食べていなかったりする。

 セラ?一人だけ明らかに違うペースで食べ続けているよ。個人のお金を結構持っているようで、絶え間なく食べ物を買い続けている。



 午後は特設ステージで出し物があると言う事なので、少々寄ってみることにした。


 特設ステージは、階段状になった椅子でステージを見下ろす形になる。

 これを考えたのは転移してきた勇者だろう。何故なら、お煎餅とキャラメルが売っているからだ。圧倒的な日本人臭がプンプンとする。と言うか、悪ノリし過ぎである。


「うーん、ミオちゃん的にはあまり気が乗らないかな。他人事じゃないというか……」

「そうですわね。あまり気分のいいものではありませんわね」

「でも、私達は仁様に買われた時には全員捨て値でしたから、オークションに出られる訳はなかったと思います」


 ミオとセラが嫌そうな顔をするのも無理はない。

 午後最初の出し物は、奴隷のオークションだったのである。……そしてマリアは動じない。

 どうやら、ステージの出し物は大道芸に限定されている訳ではない様で、この次はサーカス、その次は骨董品のオークションとなっているようだ。


「じゃあ、次のサーカスまで少し時間を潰すとするか」

「さんせー」

「そうしていただけると助かりますわ」


 気が乗らない者がいるのに態々見ている必要もない。

 特設ステージの出し物は後回しにして、他の場所を巡るとしよう。


 と言う訳で、メイド達を呼んでオークションに参加させる。

 さっきマップで見たんだが、オークションで出品される奴隷の中に、レアなスキルやユニークスキルを持った奴隷が数人紛れ込んでいたのだ。

 このチャンスを逃す手はないだろう。そもそも、メイド達はアルタから話を聞いていたようで、俺が呼ぶ前からスタンバっていたようだ。

 奴隷商でレアスキル持ちを集めるのは、メイド達の基本業務の1つだからな。


 俺が奴隷メイドを買って、その奴隷が(アドバンス商会とかで)稼いだお金でまた新しい奴隷を買う。つまりこれは人類の夢の1つ、永久機関と言う事だ。

 まあ、その結果メイド達が4桁を越えたりしたんだけどな……。どうでもいいか。


 2時間くらいでオークションが終わる予定らしいので、その間再びブラブラと市場を見て回る。市場の良い所は時間を潰す手段に事欠かないところだろうな。


 そして、オークション開始から30分くらいしたところでマップにアラートが上がる。

 そのアラートとは、とある魔物がアキンドの町に入り込んだことを知らせるものだった。


「そう言えば、コイツが残っていたんだな……。律儀なことだ……」

「仁君、どうかしたんですか……?」

《どしたのー?》


 俺の唐突な呟きを拾い、さくらとドーラ(肩車)が尋ねてくる。


「ご主人様が唐突に呟くって事は、マップで何か見つけたのよね。どれどれ……」


 俺の様子を見て察したミオがマップで検索をかける。

 ミオの奴、思っていた以上に察しが良いな。


「もしかして、コレ?アキンドの町に吸血鬼が入り込んだって……」

「吸血鬼ですの?まだ昼ですわよ。……もしかして、また日光が平気な吸血鬼ですの?」

「ミオ、セラ、2人とも正解。どうやら、この街に日光を克服した吸血鬼が入り込んだようだな。何をしに来たのかは不明だが……」


 そう、アキンドの町に入り込んできたのは、日光を克服し、日中でも活動できる吸血鬼だったのだ。

 先ほど、『残っていた』、『律儀だ』と言ったのは、聖剣の試し切りをするときにアルタの挙げた3つの候補の最後の1つだからだ。『殺人鬼』を倒し、『鬼神』を撃破した今、残る『吸血鬼』が律儀に出てきてくれたことに対しての発言である。

 3つの候補の内2つまで登場して、最後の1つが登場しない訳ないだろう。


 はい、いつものステータス


名前:ラティナ

LV60

性別:女

年齢:17

種族:吸血鬼

スキル:

武術系

<格闘術LV4>

身体系

<身体強化LV7><縮地法LV3><夜目LV2><飛行LV2><吸血LV5><闘気LV2>

その他

散歩日和デイウォークLV5><竜血覚醒LV-><勇敢なる挑戦者ブレイブハートLV->


<竜血覚醒>

竜の血統を覚醒させ、一定時間能力値を大幅に上げる。代わりに、常日頃から魔力を体内で循環させるため、あらゆる魔法を使用できない。


勇敢なる挑戦者ブレイブハート

自身と同程度、あるいは自身よりも高レベルの者がいる方向が何となくわかる。自身よりも高レベルの者と戦う場合、ステータスに補正がかかる。


 スキル欄から考えて、以前クロードが話していた武道家吸血鬼の娘ではないだろうか。

 武道家吸血鬼と同じ<竜血覚醒>、そしてジオルグと同じ<散歩日和デイウォーク>を持っているからな。

 そして、<勇敢なる挑戦者ブレイブハート>と言うのもユニークスキルだろう。

 この女吸血鬼、<縮地法>を合わせると1人でユニーク級のスキルを4つも持っていると言う事になる。

 普通にレベルもジオルグより高いし(俺達と戦った?時点のジオルグはLV52)……。


「ステータスを見る限り、クロード達の言っていた吸血鬼の関係者っぽいけど……と言うか、よく考えてみたらクロード含めて私達の出会う吸血鬼って全員血縁関係じゃない?」

「そう言えばそうですね……。縁があるというか、因縁があるというか……」

「まあ、別に会いたい相手と言う訳でもありませんものね」


 クロード達の合った吸血鬼は武者修行をしていたみたいだし、この吸血鬼も同じようなことをしていたのだろうか。

 それで、偶然この町に立ち寄った?そんなことがあるのだろうか。


 そこで、ふと<勇敢なる挑戦者ブレイブハート>のスキル説明を見て閃くモノがあった。

 こんなスキルを持っているのだから、恐らくはこの女吸血鬼は戦闘狂なのだろう。それも、格上を狙っては打ち倒すような重症患者だ。

 格上が近くにいたら、フラッと向かってしまうのではないだろうか。そして、この町には今誰がいる?


A:この町には、マスター達以外に吸血鬼よりもレベルの高い者はいません。


 ……つまり、この女吸血鬼の狙いは俺達ってことか。


「<勇敢なる挑戦者ブレイブハート>のスキル効果で格上、つまり俺達のことを捕捉したのかもしれないな」

「つまり、この吸血鬼の狙いはわたくし達ですの?もぐもぐ」

「多分な。他に該当者もいないし、ほぼ間違いないだろう」

「そうなると、わたくし達が相手をしないと言う訳にはいかないのでしょうね。折角の観光中なのに、とても残念ですわ。もぐもぐ」


 セラが残念そうな顔をして串焼きを頬張る。

 その手には屋台で買った食べ物がいくつも握られていた。

 貴族の礼儀作法はどこへ行ったのだろうか?口にモノを入れて喋るなと言いたい。


「仁様の観光を邪魔するようでしたら、私が露払いをいたします」

「マリアちゃんも平常運……」

「マリア、頼む」

「頼んじゃうの!?」


 俺がマリアの発言を肯定したため、ミオのテンプレ的なツッコミが不発に終わった。

 そして、代わりに俺の方にツッコミが飛んできた。


 いや、だって観光の邪魔をされるの嫌だし……。

 マリアがやってくれるのなら、任せてしまってもいいかなと思う。


 面白そうだったら配下にテイムしてもいいけど、ジオルグに吸血鬼にされたミラの心情を考えると、吸血鬼は気軽にテイムしたくないんだよな。

 せめて、ミラの吸血鬼化を解除してからじゃないと……。


「ああ、吸血鬼をテイムするのは控えたいし、観光の最中に戦うのも気分が乗らないから、マリアがやってくれるというのならお願いしたい」

「はい、お任せください」

「それと話を聞いてみて、悪意を感じなかった場合は殺さないようにしてくれ。単純な求道者を殺すのは勿体ないからな。当然、明確な悪意を感じた場合は遠慮しなくていい」


 クロードの話では、敗北を認めた相手を殺すようなことはしない、真っ当な戦闘狂だったらしいので、その縁者と言う事なら多少は期待も持てる。

 しかし、ジオルグの縁者と考えると完全にNGになってしまうのだが……。


「ご主人様、真っ当な相手には結構寛容なのよね」

「まあな。真っ当な奴が報われない世界に価値なんてないだろ?まあ、真っ当な戦闘狂が真っ当な人格かどうかは別の話だが……」

「たはは……」


 俺が答えると、ミオも苦笑しか出来なかった。


「会ってみればすぐにわかるだろう。丁度、こっちに向かってきているみたいだしな」


 女吸血鬼は真っ直ぐに俺達のいる市場へと向かってきている。

 周囲の人間が何の被害も受けていないので、ジオルグのように無関係な人間に手を出す外道ではないと言う事だけはわかる。



 吸血鬼がアキンドの町に侵入してから10分後、件の女吸血鬼が俺達のいる市場までやって来た。

 もちろん、吸血鬼が来るからと言って、観光を中断する理由もない。実際に来るまでは観光を続けるよ。……この市場の屋台、大阪ベースだからか粉物が多いな。


 さらに待つこと数分、女吸血鬼ことラティナがついに俺達の前に姿を現した。

 ああ、ごめん。待ってないわ。粉物で口が渇いたから、フルーツジュースを買って飲んでたわ。……このほのかな酸味、隠し味は梅だな。


 ラティナはジオルグと同じ金髪で、ポニーテイルのようにまとめていた。

 クロードの闘った吸血鬼は髪を剃り、戦いに不利となるようなものを削っていたみたいだが、流石に女吸血鬼にそこまでの覚悟は無いようだった。まあ、髪を剃った女吸血鬼が現れても、コメントに困っただろうけどな。


 服装も道着などではなく、貴族でもあまり着ないような真っ赤なドレス姿だった。

 スタイルが良く、金髪金眼で凛々しく高貴な印象を受けるので、とても吸血鬼らしく似合ってはいるのだが、如何せんスキル構成とは不一致感が凄い

 そして、ただひたすらに目立つ。これでもかと言うくらいに目立つ。


 周囲の視線を一身に浴びるラティナだが、有象無象の視線には興味がないらしく、気にした様子もなく俺達に近づいてくる。

 互いの距離が3m程まで近づいた所で、ラティナは血のように真っ赤な唇を開いた。


「貴殿を相当の実力者とお見受けする。どうか、私と決闘をしてくれないだろうか?」


 その切れ長の瞳で俺のことをじっと見つめながら言う。


 どうやら、メインターゲットは俺のようだ。よく考えてみたら、このメンツの中でガチバトルが出来そうな相手って俺くらいだよね。

 お子様3人(ドーラ、マリア、ミオ)、大人しそうな女の子(さくら)、外見のみ貴族令嬢(セラ)。改めて列挙すると酷いパーティである。


「急に現れて何を言うのですか?そもそも、名乗りもせずに用件を一方的に言うなんて、失礼だとは思わないのですか?」

「むっ、それは失礼した。少々気が早かったようだな」


 マリアが前に出て、ラティナの無作法を咎める。

 意外と言う訳でもないが、ラティナはあっさりと謝罪を口にした。


「私の名前はラティナ。旅の武道家だ。武者修行の中で強者を探しては挑むと言う事を繰り返している。私の観察眼が、貴殿を実力者と判断した。故に私と戦ってほしい」

「その挑戦を受けても、私達には何のメリットもないと思うのですが?」


 俺達は戦闘狂ではないので、「戦う事」自体がメリットと言う事にはならない。

 いきなり襲い掛かってくるのでなければ、交渉をして損することはないだろう。尤も、いきなり襲い掛かってきたらその時点で敵認定で殺すけどな。


「当然、その点も考えてある。金が欲しいというのなら渡すし、私の身体を好きにしたいというのなら、それも受け入れる覚悟がある。私は命がけの戦いで負けたというのなら、勝者の言う事には服従する」


 身体を好きにしていい。

 その言葉を聞いた周囲の男達の視線が、ドレスの開いた胸元から除く豊満な胸へと集中し、ゴクリと喉を鳴らす。これは不可抗力である。

 ……いろんな意味で身体張っているよな。コイツ。


「へぇ……。嬢ちゃんを倒したら、その身体を好きにしていいんだな?」


 周囲の男たちの中から、そんな言葉とともに現れたのは、見るからにマッチョなゴロツキと言った風情の男だった。

 こんな見るからに『町のゴロツキA』が、LV60の吸血鬼に勝てる訳が無い。


「……ああ、もちろんだ。それだけの実力者相手ならば、身体を許すことも厭わない」

「へへっ。じゃあ、嬢ちゃんの相手は俺がしてやるよ」


 ニヤニヤと笑いながらラティナに近づく『町のゴロツキA』。


「ああ!アイツは最近この辺りを荒らし回っている札付き冒険者、『毒拳のゴロー』じゃないか!」

「何だと!あのゴロー・ツキシマか!?新人冒険者を使い潰して『新人冒険者狩りのゴロー』なんて呼ばれている外道じゃねえか!」

「俺も知ってるぞ。『食い逃げのゴロー』だよな。悪い噂ばかりの冒険者に目を付けられちまったか。あの嬢ちゃんも可哀想に……」


 ああ!そんな態々わかりやすいフラグを建てなくても!

 そして、『町のゴロツキA』の異名が多い。碌でもないモノしかないけど……。


「貴殿が私の相手を? ……少々不足が過ぎるのではないか?」

「言ったな、このアマ!これでも喰らいやがれ!」


 沸点の低い『町のゴロツキA』は、腕を振り上げる。

 メリケンサックのようなものを付けており、その部分には毒が塗られている。多分、さっきの野次馬のセリフに合った『毒拳』の由来だろうな。

 天下の往来でそんな武器を使うなよ……。


-ドス!-


「ぐぶうっ!!!」


 しかし、その腕が振り下ろされることはなかった。

 一瞬のうちにラティナが『町のゴロツキA』に腹パンをしたからだ。

 そして崩れ落ちる『町のゴロツキA』。


 は、早い。早すぎる。

 『町のゴロツキA』のフラグが回収されるのが早すぎる!

 と言うか、今みたいなわかりやすいテンプレ、俺の方に来いよ。

 何でいつもテンプレは俺を素通りしていくんだよ。冒険者ギルドとか!ゴロツキとか!


「すげえ。人間的にはアレだけど、戦闘能力は高いと言われているゴローをあんなに簡単に……。あの嬢ちゃん、只者じゃないぞ」

「ああ、最低のクズ野郎だが、戦闘力だけならCランク冒険者に相当すると言われているあのゴローを……」


 野次馬が親切に『町のゴロツキA』、本名ゴローの説明をしてくれる。


「上手く加減が出来たようで何よりだ。町中で人を殺すと色々と面倒だからな」


 どうやら、ラティナは人間社会に精通しており、無暗に荒らすつもりはないようだ。

 まあ、『町のゴロツキAゴロー』の件は自業自得と言う事で1つ……。


「なあ……、これってチャンスじゃないか?あの『ゴミ屑ゴロー』が気絶してるんだぜ。ゴローに恨みのある奴を集めれば……」

「お、俺、知り合いに声かけてくる!」

「俺も、あの時の恨みを……」


 そして、野次馬たちは何故か物騒な方に話が進んでいた。

 うむ、思っていた以上に面白い方向に話が転んだな。……だからこそ、絡まれた相手が俺達でないことが悔やまれる。

短編で出したキャラの関係者を本編で出すの好きです。

本編で出したキャラの関係者を短編で出すのも同じくらい好きです。


ゴローはかなり秀逸な出来だったと思っています。

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