第98話 鬼神と2人目の超越者
鬼神との戦闘です。
Word5ページ未満です(酷いネタバレ)。
この作品では長時間の戦闘シーンは基本的にありません。
鬼神は1度でも攻撃をしたら目覚めると言う事だったので、起きる直前の攻撃は可能な限り同時に行うことにしていたのだ。
念話があれば、同時攻撃のタイミングを合わせるのは容易だからな。
まず、マリアとセラは魔法よりも剣による攻撃の方が威力が高いので、出来る限り近づいて<飛剣術>を繰り出した。
座った状態の鬼神に対して、下半身よりも上半身を狙った方がダメージが大きそうだからな。狙い違わず、2人の攻撃は鬼神の頭部に命中したようだ
マリアは<結界術>、セラはレンタルした<
ドーラには<飛行>で空を飛んだ状態から、<竜撃>によって限界までチャージした<竜魔法>を撃ってもらった。長い期間動かない相手なんて、<竜撃>の格好の獲物であるというしかないだろう。
ドーラの放つブレスは、鬼神の正面胴体部分を広範囲にわたってこんがりと焼くことになった。
さくらとミオはそれぞれリーフとミカヅキに乗った状態で左右から遠距離攻撃を放った。
ちなみに、リーフとミカヅキは呼んだが、ブルーは仕事がないので呼んでいない。微妙に凹んでいた。
さくらは豪勢にレベル10の極大魔法を放ち、ミオも限界まで魔力を込めた矢を10本同時に放った。どちらも隙は大きいが、2人に出来る最大級の攻撃である。
なお、ここまで強力な攻撃をするのは2人も初めてだったりする。
余談ではあるが、今行った攻撃の中で最大威力を持っているのは、ドーラのチャージした<竜魔法>だったりする。
やはり、隙が大きいものほど威力が高いというのはお約束なのだろう。
全ての攻撃が同時に着弾し、鬼神のHPをある程度減らすことになった。
ああ、鬼神の奴、特にHPが滅茶苦茶高いんだよ。これだけの全力攻撃をしてもHPを5分の1くらいしか削れない程に……。さすがの俺もアレを腹パン1発で倒すのは骨が折れるだろうな(出来ないとは言っていない)。
「す、凄い攻撃なのだぞ……。でも、あまり効いているようには見えないのだぞ」
「まあ、HPもあまり削れなかったからな」
トオルが驚愕に目を見開く。
あれだけの規模の攻撃を放てる俺の仲間と、その攻撃を受けても無事な鬼神の両方に対して驚愕しているようだ。
-DOGAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!-
攻撃を受けた鬼神は目覚め、<鬼神の咆哮>を発動させた。
その巨体から発せられる咆哮は空気を震わせ、凄まじい衝撃を伴い、城の残骸である瓦礫や、城下町に無造作に置いてあったものが吹き飛んでいく程のものだった。
上空を飛んでいた鳥達がその衝撃に気絶し、墜落していく姿も眺められた。
今夜は鳥の唐揚げかな……。
「す、凄いのだぞ。ここまで衝撃が来たのだぞ……」
「耳が……痛いです……。私の名前……ミミです……」
咆哮を聞いて仰け反ったトオルとミミが言う。
ミミは自分の名前をネタにしなくてもいいと思う。
この咆哮には精神を蝕む効果があるみたいだけど、俺の配下になったものには<
あ、つまり普通の奴には効くんだよな……。
《ご主人様、避難をした住民が今の咆哮を聞いて恐慌状態に陥りました》
《やはりそうなったか……》
エンド住民達の避難先について行ったメイドからの念話を受けて、思っていた通りの事態になったことを悟る。
メイド達の話によると、<鬼神の咆哮>による影響は様々で、恐慌状態になって暴れ出す者が多数出たそうだ。
どうやら、レベル、と言うかステータスが低い者ほど酷い状態に陥っているらしい。
うーむ、ここまで影響力が強いなら、ステータスを奪ってあっさり退治の方が良かったのだろうか?
A:その場合、<超越>を入手できない可能性が高いのですが、構わなかったのでしょうか?
……駄目だな。目の前に有る<超越>を諦めることは出来そうにない。
悪いけど、エンドの住民には犠牲になってもらおう。一応、アフターケアくらいはしておこうか。
《恐慌状態は一度気絶させれば治るらしいから、状態の酷い者から対処しておいてくれ》
《わかりました》
さて、鬼神との戦いに戻ろうか。
覚醒した鬼神はまず最初に立ち上がろうとした。
当然だよな。座った状態でまともに動けるわけがないんだから。
しかし、そんな事はこちらの想定通りだ。
起き上がろうと地面に両手を突こうとしたところで、左右に分かれていたさくらとミオがその腕に向けて全力で攻撃を仕掛けたのだ。
少し遅れてマリアとセラも腕に向けての<飛剣術>を繰り出す。
-GUUUOOOOO!!!???-
全ての攻撃が腕に直撃し、堪らずに手を引っ込める鬼神。
ダメージがそれほど多くないとはいえ、無視できないレベルの衝撃を手に与えれば、引っ込めざるを得ないだろう。
そう、俺達の基本戦術は『鬼神を座った状態で完封する』と言うものなのだ。だって、立ち上がると明らかに被害増えるし……。
その時点で鬼神は俺の仲間達を明確に敵と認識したようだ。
今までは何となく「寝起きに身体が痛い」と言った雰囲気だった鬼神だが、「痛えなこの野郎(全員女性)」と言った雰囲気へと変貌したのがここからでもわかる。
-GUGAAAAAAAAAA!!!-
敵と認識したら一切躊躇はしない様で、鬼神は座ったままその腕を振り回し、正面にいたドーラを殴りつける。
ドーラはそれを避けるのではなく、その手に持った盾で受け止めることにした。
体格差を考えれば、絶対に受け止められるようなものではないのだが、この世界では物理法則さんよりもステータスさんの方が偉いようで、あっさりと鬼神のパンチは止まってしまった。
-GOGAAAA!?-
鬼神の顔にも明らかな驚愕が浮かんでいる。
俺達に当て嵌めて言えば、ハエがハエ叩きを受け止めたようなモノだからな。そりゃあ当然驚くよ。
そもそも、この鬼神さん。HPは馬鹿みたいに高いのだが、攻撃力はそれ程高くない。
もちろん、普通の生物に対しては十分以上の攻撃力を誇るのだろうが、ここまでステータスを上げてきた俺達から見ると、「レベルや巨体の割には攻撃力低くね?」と言わざるを得ないのだ。
見ての通り、盾を構えたドーラに受け止められてしまう程度だ。しかも、飛行中なので脚に踏ん張りがきかない状態と言うおまけ付きだ。
鬼神が驚愕している間に、背後からマリアによる<飛剣術>の連撃が届く。
マリアの奴、俺の必殺技(仮)である『飛剣連斬(<飛剣術>をひたすら連射)』を使っているようだ。どうにもマリアは俺の技を真似したがる傾向にあるらしいな。
別に真似を禁止している訳ではないので構わないと言えば構わないのだが……。
-GO、GOGAAA!?-
今度は背後からの攻撃に鬼神が目を剥く。
ああ、言ってなかったかもしれないが、マリアには背後からの攻撃を担当してもらうことにしてある。
鬼神を座った状態にすると言う事は、背後からの攻撃が1番対処しにくい。止めをマリアが刺す以上、1番攻撃しやすい位置にいてもらうのが1番だと考えたのだ。
なお、鬼神の正面にはドーラとセラの盾持ち組、鬼神の右手側にはさくら、左手側にはミオが陣取っている。
仮にも勇者に背後からの攻撃を指示する俺はどうかと思う。
もちろん、俺からの指示なので、マリアは快く了承の意を示した。
後ろを振り向き、<結界術>で作った結界の上に乗るマリアを見つけて、鬼神が攻撃をしようと試みる。
しかし、ただでさえ背面は攻撃しにくいのに、他の方面への対処が疎かになったらどうなるだろうか?
当然、各方面から攻撃が雨あられと降り注ぐことになった。
-DOGOOOOOONNN!!!???-
その巨体故にどうしても動きが鈍重になる鬼神は、多方向からの攻撃にめっぽう弱い。
攻めに回った場合は話が別なのだが、座った状態で碌に攻められない状態では、優位性のほとんどが潰されていることになる。
はっきり言えば、少々硬いサンドバッグでしかないのである。
それから10分後、少々硬いサンドバッグは無事に破壊された。
鬼神のHPが0になったら、その巨体は一瞬で消滅していた。
そして、鬼神がいた跡地には、ステータスの備考にも書いてあったとおり、鬼神を構成していた『大精霊』、『依り代』、『鬼の魂』の3つのみが残されていた。
その3つを回収したマリア達が帰ってきたので、いよいよリザルト確認の時間だ。
「それで、マリアの武器は両方とも
「はい、『太陽神剣・ソルブレイズ』と『月光神剣・ルナライト』に変化いたしました」
太陽神剣・ソルブレイズ
分類:片手剣
レア度:神話級
備考:『月光神剣・ルナライト』装備時に効果大幅上昇、迷彩剣、不壊、覇気、所有者固定
月光神剣・ルナライト
分類:短剣
レア度:神話級
備考:『太陽神剣・ソルブレイズ』装備時に効果大幅上昇、迷彩剣、不壊、覇気、所有者固定
驚くべきことに、マリアの持つ2つの武器は、それぞれが
これに関しては俺もアルタも知らなかったので、いい勉強になったと言えるだろう。
「そうなると、セット装備を強化した方が得なのかな?次の機会があったら、同じくセット装備持ちのセラに止めを刺させるとするか……」
「まあ、それは楽しみですわ!」
セラも大剣と大楯のセット装備持ちだから、強化するには丁度いいと言えるだろう。
「むー、そうなるとミオちゃんは後回しかー。無念……」
武器にこだわりはないくせに、ゲーム的な意味で
「私は強化しなくても構わないので、セラちゃんの次の機会があったら、ミオちゃんかドーラちゃんにしてください……」
《ドーラもあとでいいから、ミオにしてあげてー》
「さくら様、ドーラちゃん。ありがとー!」
「わかった。機会があったら、セラ、ミオ、ドーラ、さくらの順に強化していこう」
そんなに大量の『人類の最終試練』と戦う機会があるのかはわからないけどな。
でも、何だかんだ言って戦うことになるんだろうなー……。
「後、無事に<超越>スキルと「超越者」の称号を入手できたみたいだな」
「はい。これで今まで以上に仁様のお役に立つことが出来ます」
「マリアちゃんは相変わらずねー……」
今でも割と頻繁に新スキルを入手してくるマリアだが、<超越>スキルによってブーストされることになったら、一体どれほどの事になるのだろうか?実に楽しみである。
「それはそれで大事だけど、ミオちゃんとしてはドロップ品の方が気になるかなー」
「おっと、そう言えばそれもあったな。ステータスの備考欄に書いてあった以上、この3つが鬼神を構成していたもので間違いはないだろう」
そう言って、<
『大精霊』は瓶の中で弱々しく輝いている。パッと見た感じは蛍の様でもある。
精霊(妖精?)らしく瓶に詰めてみたら<
名前:なし
LVなし
性別:なし
年齢:なし
種族:大精霊
備考:司るものを失った名も無き大精霊。
鬼神に力を奪われ続けていたらしく、元々持っていた情報のほとんどを失って瀕死の状態になっている。
アルタ曰く、
上手く飼い慣らせたら、精霊の輝石を使って契約をしてもいいかもしれない。ダメならグッバイだ。
「仁様はその精霊を使役なさるおつもりですか?」
「ああ、一応そのつもりだ」
「今度はご主人様も精霊使いになるのね。……ぶっちゃけ今更よね?」
<精霊術>に関してはカスタールで入手したのにずっと無視をしていたからな。
当時は使いたい理由もなかったけど、今なら色々と余裕もあるし、試しに使ってみてもいいだろう。ミオの言う通り、かなり今更感はあるが……。
「……まあな。でも、『精霊化』をやってみたいんだよ」
「ああ、クロード達の……。確かにあれは格好いいわよね。必殺技っぽくて」
「この精霊が俺に適合するかはわからないんだけどな」
『精霊化』には精霊と使役者の相性も要求される。相性が悪ければ『精霊化』出来ないので、最悪の場合、エルと同じような使い魔ポジションしか役割がなくなってしまう……。
L:また妾の出番がなくなるのじゃー!
うん、まあ、頑張れ。
次は『依り代』、これは何と言うか……マネキン?
そうだな、人間の特徴を反映しているけれど、人形のように個性を持たせていない等身大の存在をマネキン以外の言葉で表現できそうにない。
「次はこれだな」
「マネキンよね……?」
「マネキンですね……」
うん、誰がどう見てもマネキンのようだ。
「等身大」と言ったが、そのサイズは丁度俺と同じか少し大きいくらいだ。
考えてみれば、これがあの鬼神の肉体を構成していたと言う事になるのだが、質量保存則はどこへ旅立ってしまったのだろうか?
依り代
備考:魂を与えることで自在に形を変える
そもそも、「魂を与える」と言う事が普通は不可能なのだが、それさえ超えてしまえば自由自在に姿を変えることが出来るようだ。
最後の『鬼の魂』によって、鬼の姿へと変貌していたのだろう。
A:この『依り代』を私にいただけないでしょうか?
アルタが物を欲しがるとは珍しいな?
一体何の目的で使用するんだ?
A:この『依り代』と『魂魄結晶』を用いれば、私の端末を作り出すことが出来そうです。
ああ……、アルタの人化フラグがこんなところで回収されるのか……。
まあ、アルタが肉体を得たからと言って、何か悪い事が起こるとも思えないし、『魂魄結晶』と合わせて持って行って構わないぞ。
A:ありがとうございます。
「アルタがマネキンを使って人化するらしい」
「唐突ですわね。つまり、アルタさんが肉体を得ると言う事ですわよね?」
「ああ、その通りだ。『魂魄結晶』が魂。『依り代』が肉体。アルタ自身は精神と言う事になるようだな」
アルタ自体は並列で同時に行動できるので、肉体を得たからと言って他の作業が疎かになることはないはずだ。
並列意思の内の1つが外部インターフェースを得ることになる訳だ。
と、そこでミオが恐ろしい事をポツリと呟く。
「ついに万能マネージャーが肉体を得るのね。……この『依り代』を量産出来れば、アルタ軍団が出来ないかしら?」
A:試してみます。
「止めろ!」
A:止めます。
確かにそれが出来れば色々と便利かもしれないが、いよいよもってSFになってしまう。
タイトルは「AIの反乱」と言ったところだろう。実際にアルタが反乱を起こすとは思えないが、何と言うか……落ち着かなくなる。
A:補足ですが、この『依り代』は勇者の
こうして、「AIの反乱」は未然に防がれることになったのだった。
これ、分類するなら異世界ファンタジーだからね?
そして最後の『鬼の魂』だが、俺の目には拳大の黒い魔石にしか見えない。
鬼神魔石
備考:鬼神の本体ともいうべき魔石。邪悪なる鬼の魂が封じ込められている。
ステータスを確認してみた所、やはり魔石のようだ。
もちろん、ただの魔石でないことは明らかなのだが……。
「この魔石を<
ふと気になったことをアルタに確認してみる。
<
<
この場合、鬼神魔石を吸収するだけで良いのだろうか?
A:はい。鬼神魔石を吸収すれば鬼神専用スキルを使用できるようになります。<
「これを吸収すれば鬼神のスキルが使えるみたいだな」
「でもご主人様、鬼神のスキルってそんな目ぼしいものあった?」
「言われてみれば、それ程欲しいモノはなかった気がする……」
ミオに言われて考えてみる。
鬼神が持っていたのは<鬼神体LV10>、<完全耐性LV->、<鬼神の咆哮LV->の3つだけだ。ハッキリ言ってこのレベルの魔物にしては少ない。
一応、<鬼神体>は統合スキルのようで、複数のスキルを内包しているものの、特に希少なものはなかった。
<鬼神の咆哮>は完全ユニークの精神攻撃なのだが、そもそも大抵の場合は複合スキルの<恐怖>で十分だ。態々叫ぶなんて恥ずかしい。
加えて言うのなら、「鬼神専用」ではない<完全耐性LV->はエルを倒した時に入手したので2つ目だ。誰にあげようかな?
「うむ、全く欲しいものがない。どうしようか、これ?欲しい人いる?」
「仁君が要らないのでしたら、誰も欲しがらないと思います……」
さくらがそう言うと、他のメンバーも頷く。
「タモさんにあげても、鬼神になれる訳じゃないでしょうし……。いらなくても、ご主人様が吸収するしか使い道がないんじゃない?」
「そうするか……」
と言う訳で、特に必要ではないけど、他に使い道がある訳でもないので俺が吸収します。
にゅるんっと魔石を吸収して、鬼神のスキルが使えるようになりましたとさ。
……何と言うか、扱い軽いなー。
「ああ、そうだ。ついでに<完全耐性>欲しい人いるか?」
ついでだし、この場で<完全耐性>の配布先を決めてしまおう。
「止めを刺したのはマリアさんですし、マリアさんが貰うべきですわよね?」
「いえ、今回はあくまでも仁様の指示で止めを刺しただけなので、私の功績ではありません。それよりも、さくら様が使うべきだと思います。この中で、仁様に次いで尊いお方ですから」
「わ、私ですか……!?」
マリアに急に話を振られてさくらが驚いている。
いや、マリアの言う事にも一理あるな。
可能性はほぼ0に等しいが、状態異常によって混乱や暴走したときに、このメンバーの中で誰が1番ヤバいかと言われれば、それはさくらに他ならないだろう。
自身が使っているからわかるが、異能は影響力が大きすぎる。特にさくらの異能は魔法、つまり世界のルールごと変えるような効果を持っているので、変な方向に暴走させた場合、どうなるのかは俺でも想像できない。
そう考えてみたら、俺の持っている<完全耐性>は最初からさくらに渡しておくべきだったのではないだろうか?
「マリアの言う通りだな。<完全耐性>はさくらが持っていた方が良いだろう」
「仁君がそう言うのでしたら、ありがたく頂戴します……」
《ごしゅじんさまむてきー、さくらもむてきー》
さくらに<完全耐性>を渡す。
ドーラには悪いが、<完全耐性>では無敵には程遠い。
しかし、こうなると全員分の<完全耐性>が欲しくなるのは、やり込み派ゲーマーの性だろう。
さて、今回のリザルト確認はこんなものだろう。
最終試練との戦いの後は、色々と得る物が多い。出来れば、数週間に一回くらいは戦ってみたいものである。
L:そんなことになったら、普通に世界が滅ぶと思うのじゃ。妾だって『竜の森』から出て、人間の国や街を攻撃しておれば、相当な被害を出していたはずじゃからな。
まあ、そんな奴らと数日で2度も遭遇している俺が言えた義理ではないのだが……。
鬼神を討伐してから1時間以上が経った後、鬼神がいなくなったことに気付いた住民達がエンド(跡地)に恐る恐る戻ってき始めた。
住民達は結構遠くまで逃げていたようで、帰ってくるのにも相応の時間がかかってしまうようだ。後、鬼神の所在がわからないので、不安で足取りが重いと言う事もあるだろう。
「しっかし、メイド達はどこまでやるつもりなんだろうな?」
「ご主人様が止めれば止めるんじゃない?」
「そりゃそうだろうが、ここで止めたら困るのもエンドの住民だしな……」
俺達もリザルトの確認が終わったので、エンドに戻ってきたのだが、正直酷い有様である。
家屋の多くが倒壊しており、無事な建物を探す方が難しいくらいだ。城に至っては完全に崩壊しているしな。
そして、ここからが肝心なのだが、メイドが、働いているのである。
瓦礫の撤去、仮設住宅の設置、炊き出しの配布など、おおよそ考え得る被災時の対処を100名以上のメイドが行っているのである。
お揃いのメイド服を着ているので、一目で同じ所属だとわかるメイド達が、鬼神と言うある種の災害の被害を受けた住民達を支援しているのである。
これにはエンドの住民達も困惑している。
まず第1に、一体どこからこれ程のメイド達が出てきたと言うのか?
そもそも、避難誘導もしていたよね?と言うか、住民が帰りつく前に既に仮設住宅を準備していたってどういうこと?と言った具合だ。
もちろん、全て『ポータル』でやってきたメイド達である。
少し前に国王が住民に向けて、鬼神についての説明をした。
そして、その場でメイド達が善意の救援であることも明らかにしたのだ。
よって、多少不審に思いつつも、それを誰も糾弾できないという状態になっている。
実際のところ、エンドの住民達だけでは現在の状況にするのにも多くの時間を要しただろうから、助かっていることは間違いがないのである。
肝心のメイド達の目的だが、言わずと知れた国家中枢へのアプローチである。
メイド達はアドバンス商会として災害支援を行い、この国内部での影響力を強めていくつもりのようだ。
さて、何故メイド達はこの国で影響力を強めようと思ったのか?
もちろん、俺が観光する先に支店を置き、そのサポートするためと言う事もあるだろう。
しかし、本質はそうでは無いようだ。ミオ曰く、「この国には和食の食材が揃っている」とのことである。
そう、この国でアドバンス商会が影響力を強める目的は、俺の和食生活を充実させるために他ならないのである。
食材やノウハウを取得するため、現在、アドバンス商会は全力で『恩』を売っている最中なのである。『恩』は重いよね。
「まあ、和食食べたいし……」
「私も和食作りたいし……」
と言う訳で、俺もミオも和食のためにメイド達を止めることなく好き勝手させているのだ。ま、まあ、誰も困らないからいいよね?
《またうどんたべるー!》
「私も楽しみですわ」
そうそう、うどんと言えば忍者のハンナも忘れちゃダメだよな。
ハンナや俺達が乗っているはずの馬車は避難の最中にエンド付近まで到着した。
その時点で鬼神の姿に気付いたハンナは、馬車の監視を放棄して忍者の関係者の元へと走った。しかし、忍者が何人いたところで鬼神をどうにか出来る訳が無い。
それでも鬼神の様子を見るために数名の忍者が鬼神へと接近した。この時点で俺達の鬼神討伐が開始されたのである。
鬼神の偵察をしていた部隊にハンナも含まれていた。
そこで、鬼神と戦う俺の仲間達の姿を確認したハンナは理解して呟いた。
「ああ、あれは手を出してはいけない相手だったんだ……」
ハンナが色々と諦めたような顔をして呟いていたことをアルタが教えてくれたのだ。
一応の念押しとして、隠れているハンナ達の元へメイドを1人遣わせて、「余計な事はするな」と伝えてもらった。忍者達は面白いくらいに狼狽していたそうだ。忍べよ。
今度、またうどんを食べに行ってあげようと思う。
色々なことをしていたら、日も暮れてほとんど夜になっていた。
流石にこの状態のエンドで一泊する訳にもいかないので、一旦カスタールの屋敷へと戻ることにした。幸いなことに監視もついていないからな。
トオルはエンドの一大事と言う事もあり、国王達と共に事態の収拾に向けて動いている。
カオルもいつの間にか帰って来てそれを手伝っている。
馬車で戻って来たアーシャは、驚くべきことに10匹以上の魔物をテイムしていた。
控えろと言ったのは聞いていなかったのだろうか?
アーシャ曰く、1匹1匹にそれほど時間はかかっていないそうだ。……まあ、それならいいか。アーシャも早く仲間を揃えたいだろうからな。
ミミはその足で鍛冶場へと向かって行った。
体力も十分に回復したので、次なる聖剣を打ちたいそうだ。
ミスリル以外の素材も色々と試してみるそうなので、楽しみに待っていようと思う。
夕食を食べ、風呂に入り、ドーラと少し戯れてドーラを寝かせる。
おっと、そう言えば精霊に
精霊は瓶に入れて<
取り出した瓶の蓋を開けると、少し元気になった精霊がフワフワと俺の周りを回る。
手を差し出すとそこに乗って俺からの
普通の人間なら、数秒でMP枯渇によりぶっ倒れるくらいの勢いで吸っていく精霊。
俺の場合、今までに奪った大量のMPと<MP自動回復>による割合回復があるので、全く問題はないのが救いだろうか。
自動回復とトントンで吸っているらしく、俺のMPは表面上減っていない。
「ご主人様は何をやってるの?」
同じ部屋で寝泊まりしているブルーが質問してきた。
「精霊に
「ああ、さっき私だけ呼んでくれなかったヤツね……」
ブルーは少し拗ねたように言う。
ミカヅキとリーフだけ呼ばれて、自分だけ出番がなかったことを気にしているようだ。
「でも、弱っているようには見えないわよ?フワフワ飛んでいたし……」
「1番の危機は脱したみたいだけど、本来はもっと強大な大精霊だったみたいなんだよ。本来の姿になるまでは
「こんなに懐いているんだから、ご主人様との契約を拒否するようには見えないわよ」
「だと良いんだが……」
餌をあげたらどっかへ行ってしまう野良猫のような生態ではないと良いな。
「精霊を使役するのよね?それってある意味使い魔みたいなものよね。何?エルの奴もう捨てられるの?」
「失礼なこと言うでない!別に捨てられる訳じゃないわい!そうじゃよな、ますたー?」
ブルーは悪戯を思いついたような顔をして、同じく部屋にいたエルを煽る。
部屋の隅で本を読んでいたエルは憤慨して俺に確認を取る。
ああ、エルの奴、人間の知識に興味があるようで、顕現している間は屋敷にある本を読みまくっているんだよ。ハッキリ言ってあまり似合わない趣味なんだけどな……。
「そりゃあ、捨てるような真似はしないぞ。もちろん、役割が被ると出番は減るが……」
「うぎゃあ!それも嫌なのじゃ!顕現していたいのじゃ!精霊よ、どこかへ行くのじゃ!」
「逆に言えば、使い魔を代わることで、エルは自由に顕現していても良くなるかもしれない」
「精霊よ、頑張るのじゃ!頑張ってますたーの使い魔になるのじゃ!」
エル、見事な掌返しである。
「さらに逆に言えば、エルは顕現させずに放置かもしれない」
「どっちなのじゃー!?」
はっきり言って、その時になってみないとわかりません。
「さて、そろそろ寝るかな」
「本当にご主人様は自由よね……」
「妾、寝る前に疲れたのじゃ……」
精霊に
この調子なら、しばらく充電を続ければ元の姿に戻るだろうな。
「じゃあ、お休み」
「「おやすみー」」
ベッドに入り、ドーラを抱き枕にして眠る。
明日はイズモ和国観光の最終日だ。
いつもの章構成ならこの話で終わりなんですけど、今回はもう少しだけ続きます。
理由:100話ぴったりで6章を終わらせたかったら。