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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第6章 イズモ和国編

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第97話 鬼神復活と裏切り者

悪だくみ系のイベントは、マップがある仁がいると基本的に使えません。

A:マスター少々お待ちください。ご報告したいことがございます。


 町を出て『ポータル』で首都に戻ろうとしたら、アルタがストップをかけた。

 こういう感じでアルタが止めるって言う事は、何か面白いことになってるんだろうな。


A:ご期待に沿えるかはわかりませんが、エンド城の地下に封印されていた鬼神が復活いたしました。


 はい? ……何でいきなりそんなことになっているんだ?

 そもそも、鬼神の封印って後500年は解けないっていう話だったろう?


A:どうやら、人為的に解かれたようです。アーシャ達の馬車が首都の隣接エリアに到着したために明らかになりましたが、詳細はいまだ不明です。マスターの配下が1人でも残っていれば阻止も出来たのでしょうが、全員出払っていたのが仇になってしまったようです。


 アルタは俺の配下全員のマップを常に確認しており、世界各国を監視下に置いていると言っても過言ではない。

 しかし、基本的に俺の配下と言うのは俺の行動範囲とともに広がっていくため、俺が思い付きで初めて訪れるような場所には揃っていないことが多い。例えば、思い付きで3日間観光することを決めたイズモ和国とかね……。

 その結果、首都近隣に配下が誰もいないという状況が発生し、運悪くその隙に何かが起こり、鬼神が復活する運びとなってしまったのだろう。


「た、大変なのだぞ!な、何とかしないといけないのだぞ!」


 同じくアルタの報告を聞いたであろうトオルが狼狽える。

 ふむ、確かにこのまま何もしないと言う訳にもいかないだろう。


「そうだな。折角誰かが封印を解いてくれたんだ。倒さないと勿体ないよな?」

「仁君、喜んでいるようにしか聞こえませんよ……?」

「な、何で少し笑っているのだぞ……?」


 おっと、少し笑みが零れてしまっていたか。失敗失敗。


 さくらの言う通り、少々喜んでいる自分がいるのは認めざるを得ないだろう。

 元々、鬼神に関してはかなり興味があったのだ。もちろん、倒すべき相手として。

 ただ、自分達で鬼神を復活させるような真似は出来ないと、に過ぎない。

 もし、俺達に関係のない所で鬼神が復活し討伐することになったのなら、俺達が遠慮をする必要はどこにもないだろう。


「と言うか、何でよりにもよって仁殿がいないところでそんなことになるのだぞ!?仁殿がいれば止められていた可能性が高いのだぞ!?」

「そうだな。それに関しては運がよか……悪かったとしか言えないな」


 ここで1つ冷静に考えて頂きたい。

 俺がいない時に鬼神が復活したのは、誰にとって都合が良かったのか?


 もし、仮に俺達がいるときに何らかの理由で鬼神が復活しそうになったとしよう。

 その場合、状況にもよるだろうが、俺は鬼神の復活を止めた可能性が高い(絶対に止めたとは言わない)。そうなると、ほぼ確実に鬼神は復活しないことになる。

 逆に言えば、俺達が不在の間に復活した以上、俺達に止める術はなかったと誰から見ても明らかになる。そして、この場合のみ・・俺達は無関係な善意の第3者として大手を振って鬼神と相対することが出来るのだ。

 これはもう鬼神を討伐しろと言われているようなものではないか。だからする。


 さて、こうなると鬼神の情報を確認しない訳にもいかないよな。

 今まではあえて鬼神についてはステータスチェックの1つもしていなかったからな。理由?簡単な話だ。調べたら戦いたくなる可能性があるからだよ。

 尤も、レアスキルだけなら<生殺与奪ギブアンドテイク>で封印された状態で奪うのも有りなんだが……。ん?それが1番平和的だったのかも……。

 封印された鬼神から能力を奪った場合、俺は能力を得られて万歳、イズモ和国は知らずに鬼神が無力化されて万歳、鬼神は封印されている上に能力奪われてしょんぼりとなる訳だ。


 まあ、今更言っても仕方がないし、今は少しでも鬼神の情報を集めることに注力しよう。

 と言う訳でドン!


鬼神

LV250

スキル:

身体系

<鬼神体LV10><完全耐性LV->

その他

<鬼神の咆哮LV->

備考:『大精霊』、『依り代』、『鬼の魂』からなる人造神。人類に課せられた最終試練の1つ。


<鬼神体>

鬼神専用スキル。<身体強化>、<HP自動回復>、<MP自動回復>、<覇気>、<狂戦士化>を含む統合スキル。


<鬼神の咆哮>

鬼神専用スキル。咆哮を聞いた生物の精神を蝕む。


 ふむふむ、コイツも始祖神竜エルと同じく最終試練の1つなんだな。

 ……でも、一部スキルこそ似ているもののレベルはエルの300よりも低いぞ?

 もしかして、始祖神竜よりも前に倒すことを想定された最終試練だったりするのか?例えるなら、PRPGで想定されていない順番で四天王を倒すみたいな感じかもしれない。

 四天王最弱よりも先にNo2の紅一点を倒すみたいな?


 レベルだけで全てを判断するのは危険だが、始祖神竜よりも強い可能性は低いだろう。

 それなら、ここは俺が倒さずに他の子に倒させた方が良いのではないだろうか?

 やはり第1候補はマリアだろう。なぜなら、<超越>の習得スキルポイント増加が1番効果を発揮しそうだからだ。間違っても俺が倒して<超越>を死にスキルにしてはならない(戒め)。


「鬼神のステータスを確認した結果、マリアにとどめを刺させることにした。他のメンバーも参加して構わないが、とどめはマリアに譲るように。後、万が一を考えて俺は参加しないことにする。……俺がとどめを刺すと勿体ないからな」

「はい。仁様の御心のままに」


 恭しくマリアが礼をする。


「つまり、私とマリアちゃん、ドーラちゃんの3人で戦うと言う事ですか……?」

《がんばるよー!》

「ああ、多分3人だけでも余程のことがない限り負けるような相手じゃないはずだ」

《ちょーっと待ったー!》


 俺がさくらの質問に答えると、念話で待ったがかかった。この声はミオだな。


《そんなボスっぽい奴と戦うのにミオちゃんを仲間外れにしないでよね!》

《そうですわ。戦闘担当のわたくしを忘れてもらっては困りますわ!》


 どうやら、アルタから話を聞いていたようで、ミオもセラも戦う気満々のようだ。

 人数が増えるとダメージのコントロールが若干大変になるだろうが、アルタが監督してくれれば問題はないだろう。


A:お任せください。


《わかった。2人も参戦してくれ。ただ、とどめはマリアに譲ってくれ》

《おっけー、確かにマリアちゃんが<超越>スキルを1番活用できそうだものね》

《うう、出来ればわたくしも欲しいですが……。今回はマリアさんにお譲りしますわ》


 正直に言うと、こんなすぐに最終試練と戦うことになるとは思っていなかった。

 多分、その内他の子にも機会が回ってくるような気がする。


《じゃあ、俺達が『ポータル』で転移したら、同じところに飛んで来い》

《はーい》

《はい!》


 スキルだけを見ていても戦略を立てられないので、現物確認も兼ねてエンドへと『ポータル』で転移することにした。

 なお、エンド城の刀部屋に置いた『ポータル』は使えなくなっていた。

 さくらに聞いたところ、『ポータル』を設置した面が大きく変形している場合、『ポータル』は残っていても転移対象には出来なくなるようだ。



 エンド内では、ハンナの監視があったため念のため『ポータル』をあまり使わないようにしていた。そのため、エンド城以外の『ポータル』となるとかなり数が限られてしまう。

 今現在、エンドは大変な混乱の中にあると言う事で、付近に人のいない『竜の門』へと設置しておいた『ポータル』へと転移することにした。


「あれが鬼神か」

「大きいですね……」

《おっきー》

「相手にとって不足はありません」


 『竜の門』を出た俺達が見たのは、倒壊したエンド城跡地に胡坐をかく巨体だった。

 エンド城の高さを考えるに座高だけで60mくらいはあるだろう。

 その姿は俺のイメージしていた日本風の鬼とは大きく異なり、どちらかと言うとオーガを巨大にしたような禍々しい風貌だ。肌は全体的に黒く、瘴気を周囲に振りまいており、その額からは真っ黒な角が1本生えている。

 どうやら、まだ完全には目覚めていない様で、その目は閉じたままだ。


「何と言う事なのだぞ……。まさか、鬼神が復活するなんて……。エンドの街が……」

「これが……鬼神……。凄い……迫力……です……」


 トオルとミミのイズモ和国組が冷や汗を垂らしながら呟く。

 どうやら、鬼神の話自体はイズモ和国にも残っているようだ。


 そして、鬼神の復活と共に倒壊したエンド城が、エンドの城下町に降り注いだせいで、街のいたるところが破壊されている。少なくない人数の死傷者も出ているようだ。

 被害に巻き込まれなかった住人達は、鬼神から距離を取ろうと避難を開始している。

 もちろん、あのサイズの鬼神が動き始めたら、何処まで逃げても無駄なんだろうけど……。


 そんなことを話していたら、ミオとセラが『ポータル』で転移をしてきた。


「おまたせー……って何あの巨体!?」

「この間『竜人種ドラゴニュートの秘境』闘ったドラゴンよりも大きいですわね」


 転移してきた2人も鬼神の姿を見て驚く。

 今まで戦ってきた相手の中でも最大サイズなのは間違いないだろう。ドラゴンでもここまで大きい奴はいなかった。


「さて、ミオとセラも戻ってきたことだし、早速作戦会議をしよう。……今は起きていないみたいだけど、鬼神が起きるまでどのくらいの猶予があるんだ?」


A:攻撃を仕掛けなければ、1時間は起きないと思われます。


「なるほど、時間的猶予は十分にあると……。住民の救助と避難もあるから、攻撃を開始するのは1時間ギリギリにしようか」


 アルタ曰く、攻撃を仕掛けたら起きるようなので、人的被害を減らすために少しでも逃げる時間を確保した方が良いだろう。

 負けるとは思わないが、あの巨体が動いたらそれだけで被害が出るだろうからな。


「そうしてくれると助かるのだぞ……。後、城の崩落に巻き込まれた者の救助は急いでくれると助かるのだぞ。多分、父上も巻き込まれているのだぞ」

「あー、それっぽいのがいるわね。結構深手を負っているみたいだし、助けるなら早い方が良いと思うわよ?」


 トオルの懇願を聞いてミオが調べたようだ。

 確かに城の崩落に巻き込まれた者の中に、「イズモ和国国王」の称号を持つ者もいるな。

 そして、HPが割とヤバい。流血をしているようで徐々に減っていっている。


「こうしてはいられないのだぞ!」

「まあ待て」

「ぐえっ!?」


 父親が重症と言う事で、慌てて駆けて行こうとするトオルの襟を引っ張る。

 意図せず首を絞められた形になったトオルが潰れたカエルのような声を上げる。


「な、なにをするのだぞ!?早く父上達を助けないと……」

「トオル1人で行って何の役に立つ?行くのならメイド達と一緒に行け」

「え?メイドが何の役に立つのだぞ?」


 ウチのメイド達の事を知らないトオルが首を傾げる。


「……そうですわよね。普通、メイドがこの状況で役に立つ訳ないですわよね」

「メイドは普通そんなことをしませんよね……。慣れと言うのは怖いです……」


 我が家のメイドを基準とするのは間違っていることをセラとさくらが思い出した。

 メイドの定義が揺らぐ。


「どういうことなのだぞ?」

「ウチのメイドは万能だから、人命救助くらい簡単にこなすってことよ」

「ルセアさんに連絡を入れました。すぐに救助メイド部隊がやってくるそうです」


 意味の分かっていないトオルにミオが説明をする。

 ところでマリアの言っていた救助メイド部隊って何?初耳なんだけど?


A:人命救助に特化したメイド達です。


 それからすぐに、50名のメイド達が『ポータル』で転移してきた。

 軍隊のようにビシッと整列したメイド達が、エンドの各地へと向かって行った。一部はトオルと共にエンド城へと向かう。どうでもいいのだが、救助を行うのにメイド服と言うのはどうなのだろう?

 土建をやるときもメイド服なんだから、今更か……。


「さて、救助はトオル達に任せて、こちらは作戦会議の続きだ」

「仁君を除いた5人で戦って、とどめはマリアちゃんが刺すんですよね……?」

「あれ?ご主人様は戦わないの?」


 ミオが首を傾げる。


「ああ、そう言えばミオとセラにはその話をしていなかったな。万が一に備えて俺は戦わないつもりだ。俺が止めを刺したら勿体ないにも程がある」

「りょーかい」


 死にスキルをダブらせるとか、最悪と言う他ないだろう。


「ステータスを見てもエルより弱いみたいだし、5人で戦って負けるとは思えない。もちろん、油断はするなよ。俺が楽勝だったエルより弱いけどな」


L:扱いが酷いのじゃー……。


 エルががっくり項垂れながら呟く(肉体がないのでイメージです)のを無視する。


「はい、仁様の前で無様な姿を見せるつもりはありません」

「当然よ!油断して負けるとかかっこ悪いことこの上ないじゃない」

「そうですわ。戦うときは常に真剣ですわ」

《がんばるよー!》


 気合十分だな。

 ……さくらはこのテンションについて行けないみたいだけどな。後ろで苦笑してるよ。



「仁様、そう言えば鬼神を討伐する時の武器はいかがいたしましょうか?仁様のお話では、討伐者の武器が強化されるのですよね?」

「そう言えばそんな話もあったな……」


 最終試練を突破した者の持つ武器はレア度が2階級特進する。

 俺の伝説級レジェンダリー装備の『霊刀・未完』が、神話級ゴッズ装備の『英霊刀・未完』になったようにな。

 ここでマリアに『英霊刀・未完』を持たせて鬼神を倒させたら、最上級レア度の創世級ジェネシスになるのだろうか?


A:残念ながら、最終試練で強化されるのは神話級ゴッズまでです。


 そうか……。残念だが、無理なら仕方がないな。ん?と言う事は『英霊刀・未完』は創世級ジェネシスになって、『完』になることは出来ないのか?……とても残念だ。

 未完のまま作者死亡で終了してしまう作品くらい残念だ。作者死亡しても止めるに止められずに続く作品もあるけど……。


「マリア自身の武器を使え。余裕があれば『太陽剣・ソル』の方を強化しておけ」

「はい、承知いたしました」


 マリアは二刀流だから、どちらか1つの武器しか強化できないだろう。

 どちらかと言えば、短剣よりもメインとなる長剣の方を強化しておきたい。


 そして、横で話を聞いていたミミに向き直る。


「ミミ、悪いな。折角作ってもらったが、『聖剣・メサイア』を強化してやれなくて……」


 状況によってはミミの作り出した聖剣を対象にしても良かったのだが、残念ながら今の聖剣は誰のメインウエポンにもなっていない。

 使われていない武器を強化するのは、有効とは言えないからな。


「気にしないで……下さい……。私が打った後で……聖剣が強化されても……、私にとっては……何の栄誉でも……ありませんから……」

「勝手に強化された武器を誇れる訳はないか……。悪かったな、変なことを聞いて」

「お気遣い……、ありがとう……ございます……」


 鍛冶師の立場で考えてみれば、自身の鍛えた武器が自身とは関係ない所で強化されたとしても、嬉しくもないし、誇れもしないだろう。

 単純にレア度が上がればいいって訳じゃないよな。


「お、その子がご主人様の言っていた鍛冶師ね。ドワーフの……ロリ巨乳……ですと?これは強敵ね……」


 ミオは真剣な表情でミミを見てアホなことを言う。

 そう言えば、ミオとセラはミミとは初対面だな。


「聖剣を打てる鍛冶師のミミだ。ミスリルから伝説級レジェンダリーの聖剣を打てる」

「ミミ……です……。よろしく……お願いします……」

「セラですわ。よろしくお願いしますわ」

「ミオよ、よろしくね。また私と似たような名前の子が……」


 ミオ、ミラに続いて今度はミミか。確かに似たような名前が多い気がするな。

 全員タイプはバラバラだけどな。


「あ、そうだ。ご主人様、聖剣見せて?」

「ああ、いいぞ」


 聖剣に興味津々のミオに『聖剣・メサイア』を取り出して手渡す。


「おー、神々しい剣ねー。効果もすごいわー。ミミちゃん、凄いわね」

「まだ……足りません……。もっと……良いものを……お渡ししなければ……」

「あー……、ミミちゃんも信者そうなのね……」


 何かを察したミオが苦笑する。


「ご主人様、わたくしからも1つ質問してよろしいですか?」

「なんだ?」


 今度はセラが質問をしてきた。


「止めをマリアさんに譲るのは構わないのですが、ご主人様以外にもわたくし達が間違えて止めを刺してしまう可能性は残ると思うのですが、どうしたらいいんですの?」

「ダメージのコントロールはアルタに任せているから、アルタの指示に従ってくれ。直接攻撃をする者は<手加減>スキルを発動しておけば、間違えることもないだろう」

「了解いたしましたわ」


 まあ、間違えてマリア以外が止めを刺したところで、特に損するわけではないからな。

 逆に言えば、俺が倒した場合のみ『損』と言う事になる。困ったものだ。


「後、俺は基本的に指示を出さない。何か指示したい事がある場合は、1度アルタを経由するからそのつもりでいてくれ。ぶっちゃけ、俺が指示するより確実だからな」


 指揮官の適性が大した事のないタイプのダンジョンマスター、進堂仁です。よろしく。



 その後もチマチマと鬼神戦について話し合っていたら、やけに興奮したトオルが帰ってきた。


「犯人が見つかったのだぞー!」

「犯人……と言うと、鬼神復活の実行犯と言う事か?」


 他にこの状態で犯人と呼べるような相手はいないだろう。


「そうなのだぞ。王家に仕える三重鎮が、父上を裏切って封印を解いたみたいなのだぞ。倒れていた父上を治療したら、教えてくれたのだぞ」

「内部犯かー。まあ、状況を考えると当然と言えば当然よね。ところで、三重鎮って何?」


 ミオの言う通り、この状況で外部犯と言う事は考えにくかったからな。

 マップ上にも、この国にいなそうな不審者(魔族とか)はいないし……。


 そして、三重鎮は俺も気になる。


「三重鎮は建国以来ずっと王家に仕え、王家を支えてきた由緒ある3つの一族の事なのだぞ。明智あけち湯田ゆだ古足ふるたすと言う名字を建国王より授けられたのだぞ」

「裏切るの前提じゃねえか!」

「だぞ!?どうしたのだぞ、いきなり?」


 思わず叫んでしまった。

 なんだよ。俺でも知っている裏切り者ランキングベスト3(ワースト?)じゃないか。

 日本人が建国した(推定)ことから考えても、確信犯以外の何者でもねえよ。


「うわー、これは酷いわね」

「よりにもよって、としか言えませんね……」


 ミオとさくらの日本人組が気の毒そうな顔をして呟く。


「あのね、その3つの名前、私達の知っている裏切り者の代表格のような名前なのよ。多分、この国の建国者もわかっていて付けたんだと思うけど……。まさか本当に裏切るとはね。はまり役過ぎるわよ」

「そ、それが本当なら、ご先祖様は何を考えてるのだぞ!?」

「さあ?こればっかりは本人に聞かないとわからないわよ」


 ミオの説明にトオルが戦慄している。

 本当、一体何を思ってそんな名字を付けたのだろう。


①未来予知のような力があり、裏切ることがわかっていた。

②王家の側近と言う事もあり、裏切った時に面白くなりそうな名前を付けた。

③なんとなく。


 うん、②かな。


「ご先祖様の意味不明な行動はさておき、その裏切り者たちはどうしたんだ?」

「城の崩落に巻き込まれて死んでいたのだぞ」

「……はぁ?もう少し説明を詳しくしてくれ。意味が分からん」


 鬼神復活の黒幕が死んでいるとか何事だよ。


「鬼神の封印を解くには城の地下に行かなければいけないのだぞ。封印を解くと城の地下から鬼神が現れるのだぞ。城の地下は崩落して潰されるのだぞ」

「……なるほど」


 鬼神を復活させたのはいいが、復活の仕方を理解していなかったのだろう。

 城が崩落するときに、被害が一番酷い場所にいたと言う事か。

 何と言うか……、締まらないなぁ……。


「それで、肝心の救出の方は終わったのか?」


 黒幕っぽいのが死んでいた以上、俺達が気にすべきなのは鬼神のみだ。


「うむ、大体終わったのだぞ。……余はメイドと言うものを誤解していたようなのだぞ。確かに万能と呼ぶに相応しい働きだったのだぞ」

「いや、普通のメイドはそんな事出来ないからな?」


 さっきも言ったけど、ウチのメイドを基準にしてはいけませんよ。


「メイド達は今、逃げ遅れた者達を避難誘導しているのだぞ。万能なのだぞ……」


 トオルのメイドに対する認識が崩れてしまったようだ。


「後、余の刀は半分くらい駄目になっていたのだぞ。こんな時に言う事ではないのは分かっておるが、正直心が挫けそうなのだぞ……」


 相当にダメージがデカかったのか、トオルが思い出して泣きそうになっている。

 マップを見ると残骸がチラホラと……何とか直せると良いんだけどな。



「そう言えば、カオルは何故こっちに戻って来たんだ?そのまま避難をすればいいのに?」

「戦いを間近で見たいのだぞ。仁殿が見学するのなら、その横で一緒に見学をしたいのだぞ」

「ああ、邪魔をしないのなら構わないぞ」

「邪魔なんてしないのだぞ。大人しく見ているのだぞ」


 少し不安があるとすれば、トオル(とカオル)は興奮すると何をしでかすかわからないところだろう。具体的には名刀を見たり、双子の入れ替わりがバレたりした時だ。

 周囲の目を気にせずに突進してきたり、漏らしたり、殺害指示を出したりするのだからな。

 正直言って「大人しくする」がここまで信用ならない奴もいないだろう。


「私も……ご一緒して……、よろしいでしょうか……?」


 トオルの事を訝し気な目で見ていると、ミミが手を上げて聞いてきた。


「もちろん構わないが、ミミも戦いが見たいのか?」

「はい……」


 そう言えば、ミミは鍛冶師を本業にしているが、『シルフの森』で5年間魔物と戦い続けていたんだよな。戦い自体に興味があっても不思議ではないか。


「もしかして、ミミも鬼神と戦ってみたかったのか?」

「いえ……、戦いは……好きではないです……。森では……必要に……迫られていただけです……。見たいのは……皆さんの……戦う姿です……。武器作りの……参考に……」


 あっさりと言い切るミミ。どうやら、戦う事には興味がないというのは本気のようだ。

 実際のところ、スキルやステータスを見てもそこまで弱くはない。と言うか、普通に強い部類に入るのだが、本人的には鍛冶にしか興味がない様子。やや勿体ない気もする。


「戦士としてではなく、鍛冶師として戦いを見学したいと言う事か。それなら納得だ」

「はい……。仁様の……武器には……届かなくても……、他の方の……武器ならば……作れるかも……しれませんから……」


 現在、俺以外のメインメンバーの武器は伝説級レジェンダリーで統一してある。

 ミミは現時点で伝説級レジェンダリーを作成できるので、遠からず上位の幻想級ファンタズマに届くだろう。

 その場合、神話級ゴッズを持つ俺ではなく、他のメインメンバーの武器から更新していくのが望ましい。その時の為に、今から各々の戦闘スタイルを見ておきたいそうだ。


「ミミちゃん、私も神話級ゴッズの武器が欲しい!」

「ミオさんの……武器は……弓ですよね……?私……、弓は……作ったことが……ありません……。<聖魔鍛冶>で……作れるのでしょうか……?」


 挙手をして神話級ゴッズ武器をねだるミオだが、ミミは弓を作れないらしい。

 調べてみた所、<聖魔鍛冶>には弓を作る能力もあるようだ。


「一応、弓も作れるみたいだぞ。『聖弓』と言うようだな」


 破魔矢みたいなものだろうか?


「そうなの……ですか……?今度……試してみます……」

「違う違う。そうじゃないの。弓は弓で興味があるけど、どちらかと言うとサブウエポンの短剣をグレードアップしたいのよ。だって、未だに『ミスリルナイフ』なのよ?」


 近接戦闘用にナイフを持っているミオだが、普段使いしない武器のために更新が滞っているらしい。明らかに現在のミオが使うには不足しているだろう。


「なるほど……。ミミ、悪いが見繕ってもらっても構わないか?」

「わかりました……。短剣……、用意します……。素材は……どうしますか……?」


 『聖剣・メサイア』はミスリル製で伝説級レジェンダリーだ。

 より高位の素材を使用すれば伝説級レジェンダリー以上のモノが出来るかもしれない。


「もっちろん、オリハル……」

「ミスリルだな」

「はい……。わかりました……」

「えー……」


 オリハルコン製の武器を要求しようとしたミオのセリフを遮る。


「サブウエポンにオリハルコンは勿体ないだろう?」

「無念……」


 『ミスリルナイフ』→『ミスリル製の聖剣』なので、一応はランクアップしているんだから、文句は言わないで欲しい。



 メイド達による避難誘導が終わり、住民達がある程度の距離を稼げたところで、鬼神が動いてもおかしくない時刻が近づいてきた。


 俺以外のメンバーはそれぞれ戦闘配置についている。鬼神は巨大なので、各々が攻撃する担当個所を分けることにしているのだ。

 俺はトオル、ミミ、一部のメイド達と共に、首都から少し離れた見晴らしのいい高台の上で優雅に見物を洒落込むことにした。

 これが、人類の最終試練に対する扱いである。


「仁様、お飲み物は如何いたしましょうか?」

「季節のフルーツを絞ってくれ」

「かしこまりました」


 白塗りの椅子に座り、テーブルの上にある皿からクッキーをつまみながらメイドの運んできた飲み物のグラスを傾ける。優雅な午後のひと時である。

 これが、人類の最終試練に対する扱いである(2回目)。


「これから、鬼神との戦いが始まるのだぞ?何でそんなに余裕なのだぞ?でも、この飲み物美味しいのだぞ。このお菓子も美味しいのだぞ……」


 俺の横で同じくお菓子と飲み物を口にしているトオルが呟く。


「俺の仲間が負けるとは欠片も思ってないからな。安心してみていられるのも当然だろ?」

「伝承では、勇者ですら封印するのがやっとだった化け物なのだぞ?」


 トオル曰く、かつて鬼神がこの地に現れた際、勇者がその相手をした。しかし、勇者ですら倒すことは叶わず、かろうじて封印することが出来たそうだ。

 実際には勇者が現れるまでに時間がかかっており、その間に滅ぼされた村や町は両の手では数えられない程だそうだ。


「……ああ、残念ながらその話には欠けている情報があるな。『異界の勇者』には『人類の最終試練』に参加する権利がないんだよ。具体的に言うと、『異界の勇者』の攻撃では『人類の最終試練』はダメージを受けない」

「そ、そうなのだぞ!?」


 実際に最終試練を突破して、始祖神竜エルを取り込んだことで得られた情報なのだが、最終試練には『異界の勇者』の攻撃が通らないらしい。

 マリアやシンシアと言った、この世界独自の勇者の攻撃は普通に通るようなので、「異世界勇者がズルをするな」と言っているのだと解釈をした。

 俺?はっはっは、勇者じゃないから問題ないだろ?な?


「勇者にとっては、ダメージが与えられないのだから封印するしかなかったんだろうな」

「驚きなのだぞ。伝承の裏にそんな事実があったなんて……」


 そんな話をしていたら、マリアからの念話が来た。


《仁様、そろそろ作戦を開始いたします》

《ああ。マリア、任せたぞ》

《はい!お任せください!》


 マリアが元気よく返事をしてから10秒後、鬼神への一斉攻撃が開始された。


 自分より年下の女の子達に巨大な怪物の相手をさせて、それを見学しながら女の子と一緒におやつを食べる男、進堂仁です。よろしく。

 ……冷静に列挙すると外道だな!?



*************************************************************


Q&A


Q:鬼神、動かないんだし、<生殺与奪ギブアンドテイク>でステータス奪えば完封できんじゃない?

A:その場合、<超越>スキルを入手する条件を満たせるか不明だったので止めた。


Q:鬼神、動かないんだし、仁が思いっきり殴って<手加減>でHPをギリギリまで減らして、止めをマリアに任せればいいんじゃない?

A:せやな。


明智あけち湯田ゆだ古足ふるたすは渾身のネタです。

もう出番がないから補足しておくと、この3人に背後には誰もいません。魔族も、アイツも。

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