ワシこそがナンバーワン。オレが世界の中心だ…。半分は想像だが、名球会はそんな方々の集団だと思っている。逆にいえば、そういう我の強さがなければ、勝負の世界では成功しないということだ。それなのに、この人ときたら、全くお変わりない。
「もう知っとる選手もおらんし、ここでええわ」。竜のレジェンド・高木守道さんである。2度目の監督を退いてからは、球場に姿を見せる機会もめっきり減った。与田監督がグラウンドの隅から打撃ケージ真後ろに、案内しようと腕をつかんだのに「ここでええ」。そういう人である。
控えめで実直。「だから勝てなかった」という声もあるのだろうが、この人柄ゆえに当時の選手から慕われる。与田監督もその一人。「10・8では戦力になれず、申し訳ありませんでした」。握手をかわし、頭を下げた。25年も前のことを記憶から消せないのも、高木さんの宿命なのかもしれない。
6カードぶりに勝ち越しを決めた。3位に引きずり降ろした広島とは7ゲーム差。さすがに巨人のことを語るのは厚かましいが、久々に高木さんと会って、広島のことなら語る勇気を持てた。25年前の8月25日、中日はこの日と同じ広島と戦い、延長15回の熱戦を落とした。5時間43分。疲労感だけが残ったであろう1敗で、52勝53敗。首位の巨人とは9・5差がつき、順位も4位だった。
つまり、ここから始まったのだ。24試合を17勝7敗で巨人に並び、44日後に伝説の決戦を戦った。「負けたじゃないか」。そんな声もあるだろう。でも、1994年の竜はあきらめなかったから、今も激闘譜は語り継がれている。
52勝63敗2分け。借金は多いが、残り26試合は25年前のこの日とほぼ同じだ。繰り返すが広島とは7差。「できる」とは言わないが「できない」とも言わせない。広島を追え-。すべてはそこからだ。