第95話 聖剣と殺人鬼
文字数は多い割にあまり話が進みません。
「もぐもぐ……。何これ、凄く美味しい。ウチのうどんじゃ勝てない……」
「美味いだろ。うどん店に行ったときにいた8歳くらいの女の子が作ってくれたんだ」
「凄い……。でも、はぁ……」
『ノームの洞窟』内でハンナ(アトリ)を確保した後、俺達は洞窟の外で夕食を食べることにした。当然、ハンナも一緒である。
最初は一緒に食事をしようと言ったら凄い勢いで断られたのだが、その理由を聞き、1つ1つその理由を潰していった結果、最後には諦めて行動を共にすることになったのだ。
1番効いたのは、『忍者じゃないなら、一緒に行動しても問題ないだろ?』の一言である。
こうして、俺達を監視するはずの忍者は、監視対象に見つかり、監視対象の用意した食事を無理矢理食べさせられるという屈辱を、夕食と共に味わうことになったのだ
ぶっちゃけると、ハンナによる追跡が鬱陶しかった。だから軽く意趣返しするのと同時に、こちらの索敵能力が高い事を教えておこうと思ったのだ。
あっさり<隠密>を見破られ、確保されてしまったハンナは、驚くほど見事に落ち込んでいるからな。
ちなみに、カオルは忍者の存在は知らないし、ハンナの顔にも見覚えはないそうだ。どうやら、王族と言っても子息レベルでは忍者部隊の存在は教えられていないようだな。
「お代わりが欲しければ言えよ。まだ結構残っているからな」
「うん、大丈夫だよ。私、小食だから」
「ああ、忍者だから、食べないで動く訓練を……いや、何でもない」
「…………」
お、ハンナがプルプル震えているな。
見ていて面白いから、これからもちょくちょく忍者ネタで弄っていこう。
その後、食事を終えたハンナは、「一緒に野営をしよう」という俺達の誘いを全力で断り、『ノームの洞窟』へと入っていった。
ハンナ曰く、『出来れば今日中に宝石をある程度集めておきたい』だそうだ。
善意により手伝うといったのだが、残念ながら同じように全力で断られてしまった。
「ふむ、本当に宝石を集めているみたいだな」
「仁様の言う『アリバイ作り』ではないでしょうか。1度<隠密>を見破られてしまった以上、不用意なことは向こうも出来ないはずですから」
俺がマップを見てハンナの動向を探っていると、横にいたマリアが推測を口にした。
「じゃあ、この隙に馬車で帰ったらハンナはどんな顔をするかな?」
「仁君がそういう風に弄るってことは、アトリちゃんの事を気に入ったんですか……? 」
《ハンナどれいにするのー?》
俺の提案を聞いて、さくらとドーラが尋ねてくる。
「多少弄ると面白いとは思っているけど、今のところ奴隷云々の予定はないな」
いつも言っているが、敵か理由が無ければ態々相手を奴隷にするつもりはない。
今回のハンナのように、多少鬱陶しいだけの相手を敵認定するつもりはない。それに、ハンナも上から指示された仕事だろうからな。
ただ、気分が良い訳でもないので、多少の意趣返しはしておく。
「それに、弄るのならここにアーシャとカオルがいるから」
「え!?僕達って弄る用の奴隷なの!?」
「驚きなのだぞ!? ……でも、甚振る分には構わないのだぞ」
驚くアーシャと期待をするような目で見てくるカオル。
「弄る専用とまでは言わないけど、弄りやすい奴は意外といるからな。反応が良い奴は、ついつい弄っちゃうんだよなー……」
「あんまり嬉しくない評価だね」
「甚振ってほしいのだぞー……」
やり過ぎると「弄る」が「苛める」になるから注意が必要である。
その影響もあって、さくらの事はほとんど弄れなかったりする。
それは何故かって?さすがの俺も地雷原でダンスするほど命知らずじゃないからな。
「カオルはそんなに甚振ってほしいのなら、自分で自分を甚振ってろ」
「その手があったのか!なのだぞ」
名案とばかりに手を叩くカオル。
「こいつもう駄目だ……?お、野営の準備も終わったみたいだし、そろそろ休むとするか」
カオルの性癖に呆れていると、少し離れた所からカオルのSP達が近づいてきた。
どうやら、カオルに頼まれていた野営の準備が終わったらしい。
本当は屋敷に帰って休むのが1番だけど、近くにハンナもいることだし、アリバイ作りも兼ねて『ノームの洞窟』入り口付近においてある馬車で野営をするつもりだ。
少し驚いたのは、カオルは野営に対して全く抵抗がなかったことだな。トオルとして刀関係で遠征したこともあるようなので、意外と慣れているらしい。結構ワイルドな姫様である。
その後は特に変わったこともなく、『ルーム』の中にあるベッドで、常夜と月夜をモフモフしてから(呼んだ)、ドーラを抱きしめて熟睡しましたとさ(疑問視される野営の意味)。
結局、ハンナは夜遅くまで宝石採掘をしていたみたいだよ。流石忍者、夜は強いんだね。
そして次の日、俺達は隠れていたハンナを回収して一緒に朝食をとった。
「ごちそうさまでした……」
「どうだった?今日の朝食は?」
「美味しかったよ、おにーさん……」
そうは言っているが、ハンナの目からは光が失われていた。
今朝は今までの倍くらい離れて監視をしていたはずなのに、あっさりマリアに捕縛されてしまったからな。忍者としてのプライドはズタズタだろう。
ええ、もちろんわざとですとも。
「今日はもう帰ろうと思うんだけど、君はどうする?一緒に帰るか?」
「もうしばらく採掘を続けますから!お気になさらず!」
残念ながらハンナはまだ採掘を続けるらしく、俺達だけで帰路に就くことになりました。
もちろん、アーシャ達に馬車の移動は任せて、俺達はさっさと屋敷に戻ることにしたけどな。アーシャもイズモ和国の魔物をテイムすると言っていたし、丁度いいだろう。
一応言っておくと、ハンナは今回もしっかりと尾行してきているよ。懲りないねぇ。
「じゃあ、悪いけど帰りもよろしく頼む」
「了解。テイムは自由にしていいんだよね?」
「あまり時間をかけすぎるなよ。俺達が馬車から出てこない事に違和感を覚えられても面倒だからな」
「わかった。気を付けるよ」
片道2時間くらいならいいけど、4時間も5時間も馬車の中から出てこないというのは不自然だ。
アーシャがテイムに集中しすぎないように釘をさしておく。
「余も先に帰っていいのか、なのだぞ?」
「ああ、昨日の夜、寝る前に念話が来たんだけど、ミミの聖剣が完成したらしいんだ」
「おお!それは見たいのだぞ!」
カオルは目を輝かせて言う。
「多分、そう言うと思っていたからな。もちろん、カオルにも見せるつもりだ」
「やったのだぞ!嬉しいのだぞ!ありがとうなのだぞ! ……ただ、若干トオルに申し訳ないのだぞ。余だけが良い思いをしすぎている気がするのだぞ……」
「じゃあ、聖剣を見る前に代わるか?」
カオルが申し訳なさそうな顔をしていたが、俺が質問をすると首を横に振った。
「それは余が見るのだぞ」
「そこは譲らないんですね……」
「今の流れは譲るところだと思ったんだけどな……」
「聖剣まで!聖剣完成までは余の番なのだぞ!」
どうやら、聖剣に関しては譲るつもりはない様なので、さくらも俺も呆れ顔だ。
まあ、マニアと言うのはチャンスがあったら絶対に逃さないモノだから仕方ないよな。
アーシャとSPに後を任せ(カオルの護衛なのにカオルは先に帰る)、俺達は『ポータル』で屋敷へと戻った。
屋敷に戻ると、そこには当然のように跪き、鞘に入った剣を掲げるミミの姿があった。
ああ、注釈を付けようか。
「仁様……、どうか……お納め……ください……」
「……ああ」
微妙な気持ちになりつつもミミから剣を受け取る。
どうやら、反りの入っていない直刀のようだ。ミミは刀鍛冶師でもあるようだが、なぜ態々直刀を作ったのだろうか?
直刀には余計な装飾などはされていない。そして、ただただ白い。
柄、鍔、鞘に至るまで真っ白である。
「早く抜いて欲しいのだぞ!」
「そう急かすな」
カオルが焦れているし、俺も気になるので鞘から刀身を引き抜く。
……やっぱり白かった。本当に白以外の色が存在しない刀である。ビックリである。
しかし、その存在感はかなりのモノだ。美しく、神々しくもある。装飾などないのに一目で美術品的な価値があることがわかってしまう。そして、態々ステータスを確認するまでもなく、強大な力を持っていることがわかる。
「綺麗ですね……」
《きれー……》
さくらとドーラも感嘆の声を上げる。
「ああ、まさしく聖剣と呼ぶに相応しいな。ミミ、よくやってくれた」
「勿体ない……お言葉……です……」
恭しく跪くミミ。はいそこ、神に祈りを捧げるように手を組まない。
さて、そろそろステータスチェックのお時間だ。
……いや、「強いのがわかること」と「強さを確認すること」は別だから。強いことが分かったからと言って、ステータスを確認しないでいい理由は1つもないだろ?
聖剣・メサイア
分類:刀
レア度:
備考:所有者制限、勇者強化、魔族特効、瘴気除去、自動修復、HP自動回復、状態異常耐性付与
うん、予想通り超強い。わずか一晩で
A:あくまでも普通の<鍛冶>スキルでは、と言う事です。<聖魔鍛冶>を使用する場合は別です。
あ、そうなんだ……。
と言うか、無駄に名前が仰々しいな。
能力の方は聖剣と呼ぶに相応しいものが揃っている。
『所有者制限』の条件は『俺、もしくは俺の配下』となっており、それ以外の者が使った場合、メリット効果は全て無効になるようだ。
『勇者強化』はその名の通り、称号に『勇者』と付く者が使用するとステータスがアップする。今のところ、『所有者制限』と両方の条件を満たすのはマリアと探索者組のシンシアだけだな。
『魔族特効』があるのは聖剣固有の効果なのだろう。おそらく、『勇者強化』と『瘴気除去』も同様だ。つまり、勇者が聖剣を持って瘴気を払い魔族と戦う、と言うのが本来のあるべき姿なのだろう。
それ以降の効果はどちらかと言うと防御寄りだな。壊れにくく、使用者を守る。うん、聖剣と呼ぶに相応しい力だ。そして、
「凄いのだぞ!余にも触らせてほしいのだぞ!」
「ああ、ほら」
「やったのだぞ!うひょおおおなのだぞー!」
カオルにメサイアを手渡すと、雄叫びを上げて頬ずりを始めた。
どうやら、完全にぶっ壊れているようだ。……いや、『英霊刀・未完』を見た時よりは反応が小さいから、これでもマシな方なのだろう。……これで!?
「それで、どうだった?初めて聖剣を作り出した感想は?」
カオルの事は一旦置いておき、ミミに問いかける。
「とても……清々しい……気分です……。でも……まだやれる……気がします……。いずれは……
「それは凄いな」
普通の<鍛冶>では到底たどり着けないはずの
<聖魔鍛冶>ならばそこまで辿り着けるというのだろうか。もしそうなら、人数分の
口には出さないよ。口に出すと無理をしてでも叶えようとしそうで怖いから。
「ちなみにその聖剣の素材って何だ?やけに真っ白だけど……」
「ミスリル……です……。マリアさんから……分けて頂きました……」
「はい、迷宮の探索者組が集めた物を使っていただきました」
マリアの補足の通り、ミスリルなら迷宮で確保して、大量に保持しているからな。
本当ならば迷宮で確保する必要などなく、
ダンマスだからこそ、自制が必要なのだ。
「それでこの聖剣が出来るのか。オリハルコンならもっと凄い物が出来るかもしれないな」
ミスリルも希少金属ではあるが、比較的入手が容易だ。
そんなミスリルを用いてこのレベルの装備を作れるのなら、より上位の金属、例えばオリハルコンを用いて聖剣を作った場合、どれほどのものになるのだろうか。
実に楽しみである。
「はい……。やって……みせます……。でも……、思っていたより……消耗する……みたいです……。連続では……難しそうです……」
見れば、ミミのHPとMPは随分と減っている。
どうやら、聖剣を作るのにはHPとMPを消費するようだ。ある意味、命がけで作っていると言う事になる。
「無理はするな。可能な範囲で打ってくれれば構わないから」
色々と気になることの多いスキルではあるが、慌てて検証をするようなものでもない。
そう言うのは時間と体力のある時にじっくり行うべきだろう。
「あと、HPが減っているからポーションでも飲んでおけ」
「はい……、お気遣い……ありがとう……ございます……」
<
余談だが、<
そのポーションの多くはメイド達の作った
アドバンス商会では、メイド達の作ったポーションを販売しているのだが、ポーションは思っている以上に品質にばらつきがでる。
アドバンス商会独自の基準で、店売りの平均品質に対して誤差10%を出荷基準にしているらしく、それを外れてしまったポーションは<
それらのポーションは、<
そして、その中にはドーラ謹製の『すぺしゃるポーション』も含まれている。
カスタールで<調剤>を試して以来、時々ではあるがドーラは自分の作ったポーションを俺に見せに来る。
どうやら、品質の良いポーションを作る→俺が褒める→ドーラが喜んでやる気になる→より良い品質のポーションを作る→以下略、という無限ループが決まったようだ。
その結果、現在ドーラの作ったポーションの回復量は店売り平均の200%に到達していた。
当然、店売りになんかできないし、もはや別のアイテムと呼んでも差し支えないだろう。
ドーラ自身、作った後、褒めてもらった後のポーションに執着はないようで、そのまま「ご自由にお取りくださいポーション」スペースに放り込んでいる。
余談が長くなってしまったが、簡単に言うと今渡したのはドーラの『すぺしゃるポーション』なので、当然のごとく一発で全回復だ。
ドーラが自分のポーションが使われたことに気付き、何かを期待するような目で見上げて来るので、その頭を撫でる。
《えへへー》
ああ、癒される。
「それで仁様、あの聖剣は誰が使うことになるのでしょうか?勇者に強化がかかるとなると、私かシンシアちゃんが使うべきなのでしょうが、私は仁様から頂いた剣を使いたいですし、シンシアちゃんは剣を使わないですからね」
俺がドーラで癒されていると、横にいたマリアが尋ねてきた。
勇者であるシンシアのメインウエポンは杖。しかも殴るための杖である。
直接殴る感触がないと満足できないシンシアは、剣を使う気は全く無いらしい。最近では、より生身に近い
<勇者>スキルの影響で勝手に上がる<剣術>スキルが憐れである。
そして、マリアは<剣術>スキルを伸ばしているものの、聖剣を使う気は無い様子だ。
マリアの中では『勇者専用の聖剣』よりも『俺の贈った双剣』の方が遥かに価値が高いらしい。どちらも
まあ、大切なのは武器単体の性能ではなく、自身の戦術との噛み合わせの方だからな。合わない物を無理に使わせても意味はないだろう。
しかし、勇者が2人いて聖剣に需要がないというのも、中々にどうかしてるよな。
「勇者以外が使っても弱い訳じゃないだろうから、問題がある訳じゃあないんだけどな。どうせなら最大効率にしたいって気持ちがあるのも事実だ。ミミはどう思っている?」
製作者の要望も聞いておきたいので、ミミに尋ねてみる。
「私は……どちらでも……構いません……。その剣は……すでに仁様の物です……。それをどう扱おうと……仁様の……自由です……」
意外とあっさりとした反応である。
A:神に捧げた奉納物の扱いに口を出すつもりはないようです。
…………。
「ただ、……1つだけ……お願いがあります……」
「何だ?」
「1度で良いので……、仁様が最初に……その剣を使っては……いただけないでしょうか……?そうしていただければ……、私も……、その剣も……本望ですので……」
「まあ、それくらいなら構わないが……」
俺も試し切りくらいはしたいと思っていたからな。何も問題はない。
しかし、聖剣の試し切りとなると適当な相手で行うと言う訳にもいかないだろう。何と言っても聖剣だ。初陣にも出来るだけ相応しい相手を用意してやりたい。
アルタ、丁度いい相手はいないか?
A:イズモ和国内でしたら、いくつか候補があります。エンド城に封印された太古の鬼神。呪いの武器を持ち、賞金首になっている殺人鬼。各地を旅している流浪の吸血鬼。その他、小規模な者であれば5件ほど挙げることが出来ます。
イズモ和国らしく、鬼で揃えてきてくれたのか……。
どれも面白そうだけど、1番気になるのはやはり鬼神だろう。……と言っても、俺もエンドに初めて入った時、鬼神がいることは確認しているんだよな。
最近、地下にある物を見逃すことが増えてきているから、マップを見るときは地下も検索対象に入れるようにしたんだよ。そしたら、エンド城の地下に超高レベルの『鬼神』が封印されていたと言う訳だ。
しかし、この封印と言うのがしばらくは解けそうにないんだよな。
A:後500年は解けません。その気になれば今すぐにでも解くことが出来ます。
試し切りのために態々危険を冒すというのも本末転倒と言うか、無意味なことだよな。
『聖剣』の初陣だ。どうせだったら『善行』に該当するような相手が望ましい。
なので、鬼神討伐は却下。その他の候補から選ぼうと思う。
……そうだな。その中で1番緊急性の高い、もしくは邪悪な相手はどれだ?
A:呪いの武器を持った正体不明の殺人鬼です。既に50人以上殺しています。冒険者に対する依頼ではなく賞金首と言う事で、証拠があれば誰が討伐しても良いことになっています。
余談だけど、この国にも冒険者ギルドはあるようだ。
もちろん、普通に和風の建物だ。冒険者ギルドって言うと、どうしても洋風建築のイメージが強いが、そんな決まりは無いようだ。
賞金首は通常の依頼と異なり、誰が討伐しても良い、と言うのは朗報だ。
冒険者の仕事の邪魔をしないというのは大事だからな。彼らの飯のタネだし……。
聖剣の相手に呪いの武器と言うのも狙い澄ましたかのようにピッタリだ。
ん? ……その呪いの武器、魔剣じゃないよね?
A:魔剣です。
本当に、ピッタリの相手だ……。
「アルタと相談したんだけど、聖剣の試し切りの相手として、イズモ和国の殺人鬼を選ぼうと思う。何でも、既に50人以上殺しているらしいからな」
「はぁはぁ……、聞いたことがあるのだぞ!」
聖剣メサイアに頬ずりをした状態のカオルが何か知っているようだ。
とりあえず
「ああ!まだ貸して欲しいのだぞ!」
「さっさと話せ」
聖剣に名残惜しそうな目を向けてカオルが話を続ける。
「うう……。今、イズモ和国内を騒がしている殺人鬼なのだぞ。なんでも、女性ばかりを狙って斬り殺す殺人鬼らしいのだぞ。女性ばかり狙う卑劣漢のクセに戦闘能力が高くて、高ランクの冒険者も返り討ちになっているそうなのだぞ。ついた渾名が『
どこかで聞いたような話だな……。
具体的に言うと元の世界の19世紀ロンドンとか。
「元の世界で聞いたことのある話に似ていますね……」
「ああ、俺も記憶にあるな」
やはりさくらも同じような印象を受けたようだ。
ミオがここにいても同様だっただろう。
「それほど詳しくはないんですけどね……」
「俺もだ」
もしかしたら、ミオだったらもう少し詳しい話を知っていたかもしれないな。
あるいは、この間アト諸国連合で倒した勇者(笑)の佐野(猟奇犯罪マニア)だったら、確実に詳しかっただろう。
「犯人についてはどれくらい明らかになっているんだ?例えば、犯行の動機とか、犯人の住処とか……」
「ほとんどわかっていないんだぞ。首都から見て東側の村に目撃情報……被害が集中しているから、そっちを根城にしているって予想が立っているくらいなのだぞ」
「……こりゃあ、探すのに時間を取られるかな?」
思っていた以上に情報が少ないようだな。
聖剣の初陣には相応しい相手だが、何処にいるか探すのに時間がかかってしまいそうだ。
まあ、ブルーに乗って空を飛びながら、各エリアを探索すればどうにでもなるんだけどな。
A:その必要はありません。実はその殺人鬼とは1度、隣接エリアでニアミスしていたので、配下のメイド部隊(隠密仕様)に後を付けさせていました。なので、既に拠点、戦力などの情報は十分に揃っています。
……ああそう。本当に後は倒すだけって所までお膳立てが出来ているんだね。
「アルタ曰く、住処はもう見つけてあるそうだ。後は俺が行って倒すだけみたいだな」
「我が国の大事件の扱いが軽すぎるのだぞー……」
「仁君ですから……」
《ですからー》
さくらとドーラはそのフレーズを気に入ったのか?
さて、殺人鬼退治に出かけることが決まったのなら、次はその準備だ。
とりあえず、ミオとセラの2人に念話で説明だな。
《……と言う訳で、俺達は今から殺人鬼で聖剣の試し切りをするから》
《うん、傍から聞くととんでもないことを言っているわよね》
せやな。
《2人はどうするんだ?俺達に付いてくるのか?》
《それはちょっと無理っぽい。少し離れた町にラーメン屋があるみたいだから……》
《よし、ミオ、行ってこい!》
《だよね!?》
流石にラーメンと殺人鬼だったらラーメンが勝つだろう(意味の分からない比較)。
ミオには是非ラーメンのレシピを覚えてきてもらいたい。なお、『和風の国じゃないのかよ!』と言うツッコミは黙殺する。
本当は俺も行きたいけど、1度決めた予定を簡単に覆すのも……。
《ご主人様が馬車を使っているから、こっちは馬を借りて行くつもりよ。だから悪いけどセラちゃんもこのまま私と同行ね》
《ラーメン……。ミオさんやご主人様がそこまで言う料理を食べられるとは、楽しみで仕方がありませんわ!》
セラもラーメンを食べる気満々の様子。マジで羨ましい。
《わかった。ラーメンの件は2人に任せるからな。絶対に再現してくれよ?》
《まっかせてよ!》
《まかせて欲しいですわ!》
ミオとセラにラーメンの再現を任せ、念話を切った。
これで、上手くすれば今日の夜にはラーメンが出来上がるだろう。
「次はカオルとトオルの入れ替わりだな」
「も、もう少し。もう少し余の番と言う訳には……」
「別に構わないけど、これよりも後になると武器を使う機会がなくなるかもしれないぞ。トオルを説得する自信があるのならご自由に?」
ミミとの約束は『1度使う』なので、殺人鬼を相手にしたらその後どうするかは未定だ。
観光に徹して刀に触れない可能性だってある。
「無理なのだぞ……。そんなことになったら、本当にガチ喧嘩なのだぞ……。大人しく入れ替わるのだぞ」
その後、カオルをエンド城に戻して、代わりにトオルが同行することになった。
ちなみにカオルはこの後、『カオル』として別の街に公務で視察に行くことになっている。
自分が視察に行っている間に、片割れは聖剣を使っているところを見学しているなんてことがバレたら、確かにガチ喧嘩になりそうである。
「そう言う訳なので、よろしく頼むのだぞ」
「……口調が同じだし、見た目も同じだから入れ替わった感じがしないな」
あくまでも俺達に付いて来ているのは『トオル』なので、服装ごと2人が入れ替わったと言う訳だ。
口調も変わるので、入れ替わりが認識しにくいのである。いや、むしろ双子の入れ替わりとしては正しいのだが……。
「安心してほしいのだぞ。ちゃんと入れ替わっているのだぞ。痛いのは嫌だけど、罵ってくれるのは構わないのだぞ」
「ああ、確かに入れ替わっているみたいだな」
「ついでに言うと、昨日今日の事はカオルから説明を受けているので、入れ替わっていることはあまり気にしないでくれて構わないのだぞ」
「説明って……、入れ替わりには30分くらいしかかかっていなかったはずだけど?」
「それだけあれば十分なのだぞ。忍者娘をいじるのが気に入ったという話から、今朝の朝食で忍者娘の目から生気が抜けていたという話もできるのだぞ。聖剣が直刀で真っ白な装飾なしの刀と言う話をすればいいのだぞ?」
どうやら、入れ替わり中に起こった出来事の共有を終えているようだな。
たった30分でどれだけ高密度の情報をやり取りしたのだろうか?
「いよいよ入れ替わりの違和感がなくなってくるな。……本当に甚振るか罵るかでしか判断が出来なくなるかもしれん」
もちろん、マップによるステータス確認は別です。アレはチートだから。
「罵ってほしいのだぞ」
「うるせえ。黙ってろドMが」
「あひん♡」
試しに罵ってみたらこれである。
「今までの経緯を聞いているのなら話は早いな。今からこの国を騒がす殺人鬼を相手に聖剣の試し切りをする。それにトオルが付いてくるっていうことでいいんだよな?」
「当然なのだぞ!出来れば、使う前に余にも聖剣を見せて欲しいのだぞ!」
「それはカオル相手にやったから却下だな。入れ替わりは気にしないんだから」
「なのだぞ!?」
入れ替わりについて気にしなくていいといったのはトオル本人だ。
だったらカオルに対して行ったサービスを、トオルに対しても行う必要はない。
なんか、ショックで「だぞー……。だぞー……」とか呟いているけど無視でいいだろう。
「当然、ミミも付いてくるんだよな?」
「ご迷惑で……なければ……ご一緒させてください……」
「迷惑って言う事はないな。相手は魔剣みたいだし、ミミにも因縁はあるだろう」
何と言っても、魔剣の製造者は聖剣の製造者と表裏一体なのだから。
「ありがとう……ございます……」
これでトオルとミミは同行が決まったな。
マリアは……聞かなくていいな。絶対についてくるし。
「私も仁様に同行いたします」
《ドーラもごしゅじんさまといっしょー!》
マリアはともかく、ドーラとさくらには確認を取ろうと思っていたのだが、それに先んじてドーラが付いてくると宣言してきた。
「私もついて行きます……」
「いいのか?あまり見たくもないようなものを見ることになるかもしれないぞ?」
さくらは今でもグロいモノはあまり見ないようにしているからな(主に俺が惨殺した相手とか。ちなみに魔物は平気になった)。
先日の勇者戦でも、戦いが終わる頃にはさくらの顔色は目に見えて悪くなっていた。
「だからこそ、慣れないと駄目だと思うんです……」
「慣れて良い事なんてないんだけどな……」
「それは……そうだと思いますけど、いつまでもその事で仁君に迷惑をかけ続けるのは嫌なんです……!」
さくらの目からは強い意志を感じる。
人の死に慣れることを成長と呼ぶかどうかは意見が分かれるだろうが、俺と共にある限り、その光景からは逃れられないのも事実だ。慣れておくに越したことはないのかもしれない。……自分で言っておいて勝手な話だが、そこまで人の死が身近なのも問題だとも思う。
「わかった。付いてくるのは構わない。でも、無理はするなよ。無理をしてまで人の死やグロいモノに慣れる必要はないからな」
「はい……!」
これで同行するのはさくら、マリア、ドーラ、トオル、ミミの5名ってことか。
《…………》
あ、ごめんごめん。タモさんはいつも通りついてくるんだったな。
必要かはわからないですけど、レア度の一覧です。
霊刀・未完が2階級特進したせいで「
今後、出てくる予定はありません。
「