第94話 聖剣鍛冶と洞窟
件の人気に嫉妬。
もう、件の短編作ろうかな。
「異世界で
完全なタイトル落ち作品じゃないですかー。
後、前話の感想で見かけたのですが、トオルが女性名に見えない人は「フルバ」を見ましょう。
森全体の火が消えたことを確認した俺達は、『シルフの森』に入り魔剣鍛冶師の元へ急ぐ。
少なからず火で焼かれ、必死で逃げ回っていたこともあり、魔剣鍛冶師の残りHPは多くない。この状況で魔物や獣に襲われたら死んでしまうだろう。
そうでなくとも、突然の大雨で身体中びしょ濡れになっており、体力が奪われているようだ。それは俺のせいだ。
「何で人間が空を飛べるんだぞー!?」
「仁君ですから……」
《ですからー》
未だに慣れてくれないカオルが叫んでいる。
ブルー達を帰してしまったので、自前の『不死者の
森の中を歩いて進むのって、基本的に時間の無駄だよね。
もちろん、森の中に用があるときは別だけど。
それから少しの時間飛行して、魔剣鍛冶師のいる地点に到着した。
幸い、魔物や獣は周囲にはいない。考えてみれば、森が火事になったらそこに住む魔物も獣も逃げ出すよな。逃げ遅れた奴を狩ろうとは考えないよな。
「はい、到着」
「やっと……、着いたのだぞ……」
地面に降り立ったところでカオルが呟く。
ブルーに乗せていた時、最後の方は多少慣れていたように思えたのだが、『不死者の
同じように運ばれていたさくらは慣れたものである。
ちなみに、ドーラとマリアは自前の飛行手段があるのでそちらを使用していた。
「これは……酷いです……」
「うむ、酷いのだぞ……」
地面に横たわる魔剣鍛冶師のミミは酷い有様だった。
脚は炎に焼かれてズタボロになっており、かろうじて脚だったとわかるような状態だ。
下半身ほど酷くはないが、上半身も無事なところを探す方が難しい状態だ。
一応、意識はあるみたいだが、朦朧としているようで目の焦点は定まっていない。
「とりあえず、『ヒール』!」
HP的にかなりヤバいので、最初に『ヒール』をかけて死なないようにしておく。
ミミは俺達の存在に気が付くと、虚ろな目のままこちらを見上げてきた。
その瞬間、『チリッ』と何かが反応した気がした。
A:ミミが<鑑定>スキルを使ってきました。影響が低いので放置しました。
そう言えば<鑑定>なんてものもあったよな。別にステータスが見れるわけではなく、物の価値が大体わかるだけらしいから関心もなかったのだけど……。
「……神……様……?」
「あっ!?」
俺を見て『神様』と呟いたミミを見て、何故かマリアが動揺した。
確かに『神様』呼びは不愉快だが、意識が朦朧としている者の幻覚にまで反応するほど、シビアな判定はしていないぞ。
「俺は神様じゃないぞ。普通の人間だ」
「え!?」
《え!?》
「え……!?」
俺がミミに返すと、何故かマリア、ドーラ、さくらが疑問符を上げた。おいコラ。
「人……間……?そんな訳……」
その直後、限界が訪れたのかミミは眠るように気絶をしてしまった。
「さて……どうするかな?」
「仁様、その方を私に預けてはいただけないでしょうか?」
ミミをこれからどうするか考えていると、マリアが真剣な目でそんなことを言って来た。
あ、この目は知っている。
……あの時は俺がしばらく目を離した隙に、ルセアを立派な信者に仕上げたんだよな。
「どうするつもりだ?」
「はい。私達の事を限定的に伝え、仁様の配下になるか選ばせます。配下になる場合は欠損を回復させ、ならない場合は本人の望む場所に連れて行き、そこで解放します。欠損回復を望まない場合、鍛冶師として復帰するのは困難でしょうから、仁様のお望みも叶わないと思います。これらの説明をするのに仁様のお手を煩わせるのも如何なものかと思うので、私の方で行わせていただきたいのです」
「なるほど……」
今回、相手は敵対者と言う訳ではないので、強制的に奴隷にするようなことは出来ない。……と言うか、俺がしたくない。
しかし、配下にして口止めをしなければ欠損回復をするのも躊躇われる。
欠損回復しなければ鍛冶師への復帰は無理だから、俺の目的である『魔剣』と『聖剣』を見ることは叶わない。
そして、その説明をするためにミミはマリアが預かりたい、と言う事だ。確かに納得できる内容なんだけど、どうしてもルセアの顔が浮かんでしまう。
尤も、マリアもルセアも俺に直接何か不愉快になるようなことを言ってくるわけではないし、大きな問題がある訳ではない。ただし、
むしろ、そんな簡単に信者が増えるのか気になるので、ここで預けてみて様子を見るのもいいかもしれない。これでミミがあっさり信者になったら拍手喝采である。
『神様』呼びが若干気になるけど……。
「私の……名前はミミ……です……。どうか……私を……貴方の……
ミミを助けてから2時間後、カスタールの屋敷に戻り、ソファの上でドーラと戯れていたら、マリアに連れられてきたミミが跪きながらそう言った。
かなり途切れ途切れで、最後の方にはかすれる様な声になっていた。
ちなみにドーラは俺の膝の上で寝ているので、俺は立ち上がることが出来ない。
マリア達が処置をしたのだろう。ミミの欠損は完全に回復している。
そして、当然のようにマップ上のユニット色は黄色。そう、信者になっていたのだ。
思っていたよりもあっさりと信者になるんだな……。早いよ。
「仁様、彼女は仁様の
「ああ、わかった……」
マリアに促されるままにミミに向けて手を伸ばす。
<
ドーラが乗っかっているので俺は動けない。故にミミに近づいてもらうしかないのだ。
「失礼……します……」
そう言ってミミは更に近づいて跪き、俺の小指に自身の小指を絡ませる。
俺は<
そのまま、ミミのスキルから<
ミミは多分に熱のこもった視線で俺のことを見つめてくる。
「これでミミは俺の配下だ。ミミ、これからよろしくな」
「はい……、よろしく……お願いします……」
ミミはドワーフと言う事もあり身長は低い。精々120cmあるかどうかと言ったところだろう。その割に胸は必要以上に大きい。セラに匹敵、とまではいかないが身長との比率を考えると必要以上に目立ってしまう。鍛冶をするときに邪魔にならないのだろうか?
こげ茶色の長髪を後ろで1本に縛っており、目はたれ目で優し気な印象を受ける。
「それで、自身のスキルについて話を聞いたんだよな?」
「はい……。驚きました……けど……、今までの……人生を振り返ると……納得……出来てしまいました……」
予想通りと言えばそうなのだが、ミミの人生は不運の連続だったようだ。
この国で貴族の元に生まれたけど、些細なミスで没落しかけたり、鍛冶の腕で再建しようと思ったら卸し先が潰れて止めになったり、親子3人で慎ましく生きて行こうと思ったら両親が事故死したりと散々な目に遭っていたようだ。
これには不幸キャラのさくらさんも顔が引きつっている。
「両親が……死んだとき……、その悲しさを……忘れるために……鍛冶に打ち込みました……。その時に……魔剣が……出来上がったんです……」
その時に出来上がったのは『魔剣・エンバー』と言うモノだったそうだ。
その魔剣の効果は、
しかし、その魔剣でできることは死体の傷を治すことだけ。
傷が治った時、『もしかしたら生き返るかも』と期待したそうだが、結果は言うまでもないだろう。
とは言え、死体の傷を無くすと言うだけでも、それなりの需要はある。
魔剣を作れる鍛冶師として有名になったものの、不思議なことに彼女のいるところはそれだけで物事が上手くいかなくなる。あ、これはスキルのせいですね。
魔剣を再び作り出すことも出来ず、周囲の人間を不幸にしていることに気付いてしまったミミは逃げるように『シルフの森』へとやって来た。
これがミミが14歳の時の話だ。以来5年間、この森の中で魔物と戦いつつ武器を打ち、時々街へと出向いて作った武器を売る生活をしているのだそうだ。パワフルである。
しかし、その代償として人と接することが極端に減り、人と向かい合ってまともに喋ることが出来なくなってしまったんだとか……。
つまり、コミュ難にしてプロのぼっちと言う事だ。
今も、俺の前だからと言う理由で、かなり無理をして喋っているらしい。
なお、さくらさんの表情が非常に暗い。
察するに、似たような経験があるのではないだろうか。
「今日は……うっかり炉の火を……消し忘れて……出かけて……運悪く何かに燃え移って……。両親の形見を……取りに戻ったら……あの有様です……」
恐らく、『うっかり炉の火を消し忘れた』のが<
圧倒的に最悪なシナジーを発揮したことになる訳だ。
「ハードな人生送ってんなー……」
「それも……今日で……終わりです……。かみ……仁様には……本当に……感謝です……」
今、『神様』って言いかけたよね?
「彼女には今後、私達専属の鍛冶師になってもらうつもりです。とは言え、
「全力で……武器を……作ります……。いずれ……仁様の武器にも……負けないモノを作ってみせます……」
マリアの説明とミミの宣言を聞いて、元々の目的を思い出した。
「そうだ。ミミ、その内でいいから聖剣を作ってくれないか?どんなものが出来るのか知りたかったんだよな」
ミミには魔剣、もしくは聖剣を作ってほしいと思っていたのだ。魔剣の条件を考えると、気楽に作ってくれと言えるようなものじゃないからな。
尤も、強い感情を要求される時点で、聖剣の方も簡単な訳はないんだけどな。
「わかりました……。任せて……ください……。マリアさん……、鍛冶場は……どこですか……?」
力強く頷くミミ。盛大に胸が揺れる。
「では、私はミミさんを案内していきます」
「いや、今すぐにって訳じゃないんだけど……」
俺が頼んだ直後に移動を開始し始めたミミとマリアを止める。
「今なら……、聖剣でも……何でも……作れる気が……するんです……」
「そ、そうか……」
元気いっぱいに宣言をされては、流石に止めるのも憚られる。
こうして、ミミとマリアは備え付けの鍛冶場へと向かって行った。
「意外と前向きな方ですね……。かなり不幸な目に遭っているというのに……」
ミミの様子を見ていたさくらが呟く。
「ミミさんだけじゃありません……。マリアちゃんやミオちゃん、セラちゃんだって皆不幸な目に遭ってきた人達ばかりです……。でも、皆今は活き活きとしています……」
「ミオとセラなんて食道楽に行っているからな」
マリアは怪我で、ミオは鉱山送りで、セラは飢餓で死にそうなところを買ったのだ。
元々捨て値同然で売られていた奴隷達が、現在は異国の地で食べ物屋巡りをしている。
……冷静に考えると結構凄いことである。
「それに比べて私ときたら、イジメられていた程度の事をいつまでも引きずるなんて、本当に情けないですよね……」
どうやら、さくらは自身よりも酷い目に遭っているのに、現在は立ち直って活き活きとしている少女達を見て、思うところがあったのだろう。
この世界に来て結構な時間が経つ。しかし、さくらのトラウマスイッチは未だに健在だ。
頻度はかなり少なくなっているが、それでも完全に治ったわけではない。さくらはそんな自分を情けなく思っているようだ。
しかし、さくらの言い分には理解はできるが納得は出来ない部分もある。
「そんなことはないんじゃないか?」
「え……?」
俺の言葉が意外だったのか、さくらは驚いたような顔をして俺を見る。
「交友関係の広い俺の親友が言っていた事なんだけど、イジメで受けた傷と言うのは簡単には治らないらしい。だから、長期間引きずってしまうのも当然なんだとさ」
「そうなんですか……?」
親友の浅井は交友関係が広く、人間関係のトラブル対処に呼び出されることがあった。その中にはイジメの被害を受けた者へのフォローと言うのもあったらしい。
俺?俺にそんなトラブルフォローが回ってくる訳ないだろ?もし回ってきたら、完全な人選ミスだよ、それは。
「曰く、『悪意を
もう1つ。『歪んでしまった
と言うか、浅井はどんないじめ被害者を見てきたのだろうか?今更ながら少し気になる。
「……………………」
さくらは黙って俺の話を聞いている。
「確かに、世界と言う規模で探せば、さくらより不幸な人間は山のように見つかるだろう。でも、だからと言ってさくらの受けた傷が浅いという理屈には繋がらない。イジメで受けた心の傷が痛んだとして、それが情けないなんてこともない」
「本当に、そう思いますか……?」
「ああ、少なくとも俺はそう思う。とは言え、心の傷が痛み続けることが健全と言う訳でもない。出来れば、さくらの心の傷にも癒えて欲しいと思っているよ。もちろん、俺に出来ることがあるのなら可能な限り協力するつもりだ」
さくらの心の傷を癒すためなら、俺は協力することを躊躇しないだろう。
そして、俺とさくらが協力すれば、その異能により大抵のことは実現可能だ。
「仁君……。私はどうしたらいいのでしょう……?」
俺の言葉を聞き、困ったような顔をして尋ねて来るさくら。
「それを決めるのはさくらだ。俺に出来ることは、さくらの望むことを全力で手伝うことだけ。何をするかを決めるのはさくらにしか出来ないことだ」
「…………」
再び無言になるさくらだが、今度は少し俯いて色々と考えているようだ。
協力することに躊躇はないが、俺にさくらの望みを決めることは出来ない。それが出来るのは、この世界にさくら以外に存在しない。
「しばらく、考えさせてもらってもいいでしょうか……?」
「ああ、ゆっくり考えると良い。幸い、時間ならたっぷりあるからな」
「はい」
折角、異世界で勉強や仕事に追われることなく生きていられるんだ。
じっくり考えて、後悔のない選択をして欲しい。
さくらと話をした後、しばらくするとアーシャから念話があった。
どうやら、馬車が第2のおすすめスポットに到着したようだ。
《こっちは目的地に到着したよ》
《わかった。今からそっちに向かう》
ミミを案内し終わったマリアを含め、元々馬車に乗っていたメンバーを集めて『ポータル』でアーシャたちの元へ向かう。
ちなみにカオルはミミを救助したあたりで馬車に戻しているので屋敷には来ていない。
「ようこそ。『ノームの洞窟』へ、なのだぞ」
「ここはまだ洞窟の入り口っぽいけどね」
馬車の中にある『ポータル』へと転移をした俺達が馬車から出ると、カオルとアーシャが出迎えてくれた。
そこは小さな山を少し登った先にある横穴の前で、
トオルとカオルのおすすめの観光(?)スポット。その名も『ノームの洞窟』である。
首都から見て北に位置するこの洞窟は、珍しい鉱石が掘れたり、珍しい魔物が生息していたりするらしい。しかし、この洞窟に生息する魔物が、普通の人間から見て強すぎるため、人の出入りはほとんどないし、周囲に村などが作られなかったという経緯がある。
そのため、ここは『坑道』とは呼ばれていない。『ノームの坑道』の方が個人的には語感が好きなのだが残念である。
「さて、それじゃあこの洞窟を探索しますかね」
「仁様、先頭は私が……」
そう言ってマリアが俺の前に立つ。
入り口付近には魔物の姿はないので、マリアを先頭に俺、カオル、さくら、ドーラの順で進んでいく。
それにしても『シルフの森』に『ノームの洞窟』か。これでサラマンダーとかウンディーネの名前を冠する土地があったら、完全に洋風ファンタジー世界だよな。
完全な和風地域なのに……。
「本当は『ウンディーネの泉』と『サラマンダーの火山』にも行きたかったのだぞ。でも、時間がないから諦めるのだぞ……」
戦闘能力が低いのでSPに囲まれて進むカオルが呟いた。
「あるのかよ……」
「仁君、どうかしましたか……?」
「いや、何でもない」
どうやら、本当にファンタジー御用達の名称が使われているようだ。
はいはい、勇者勇者。
しばらく進むと、マップ上で魔物の反応が増えてきた。
そろそろ戦闘になりそうだな。
「ここの魔物は硬い奴が多いそうなのだぞ。お主達の実力を見せて欲しいのだぞ!具体的には仁殿が刀で斬るところを見たいのだぞ!」
「ここにいる魔物程度なら、私1人で十分です。態々仁様の手を煩わせるような事はいたしません」
「残念なのだぞー……」
《マリアがんばれー!》
どうやら、カオルは俺が刀を使うところを見たかったようだ。
しかし、マリアの<過保護>スキルが強制発動し、その機会は失われた。
さて、そんなことを話していたら、音に釣られて数匹の魔物が近づいてきた。
そうだよね。洞窟って音が響くから、不用意に喋るべきじゃないよね。……相変わらず、俺達には緊張感が無さすぎる。
さて、これが『ノームの洞窟』最初の魔物のステータスだ。
メタル・アリゲーター
LV32
<身体強化LV3><噛みつきLV2><物理攻撃耐……
「はっ!」
次の瞬間、5匹の銀色ワニはマリアの一閃により上下に分断されることになった。
俺達は強くなり過ぎた結果、ステータスを最後まで読む時間すら無くなっていたようだ。
……これが、強さの果てと言うものか。
「仁様、終わりました。死体も回収済みですので、このまま進みましょう」
「お、おう、ご苦労様……」
見ればワニ達の死体はすでに回収されており、戦闘があった痕跡すら残っていない。
ワニ達のいた場所までは10m以上あったのだが、<縮地法>により一瞬で移動して斬殺、そして<縮地法>により一瞬で帰還をしてきたようだ。相変わらず、器用な子である。
「し、知ってはいたけれど、す、凄すぎるのだぞー……」
「あの程度の相手を瞬殺するなど造作もない事です。仁様の配下として研鑽を積めば、貴女にも今の私のようなことが出来るようになるでしょう」
「凄すぎるのだぞー……」
驚きすぎてカオルの語彙が少なくなってしまった。
ただ、1つ言っておきたいことがある。
今のやり方は配下の中でもマリアにしかできないからね?
そのまま進んでいくと、徐々に魔物との遭遇率が上がっていった。
この洞窟にいる魔物は、その多くが表面を硬い金属のようなモノで覆っており、普通の冒険者が相手をするにはかなり厄介だと思われる。
多くの魔物には名前の頭に『メタル』とか、『アイアン』とか付いており、おおよその硬さの予測が出来る。
「はぁ!」
もちろん、その程度でマリアの斬撃を防げるわけはない。今も『タングステン・タイタン』と言うとても硬そうな巨人の魔物を一刀両断にしたからな。
……と言うか、あるのか?タングステン?
「じゃあ、そろそろ採掘をするか」
少し開けた空間に出たので、ここを採掘ポイントにするのがよさそうだな。
「本当は仁様にそのようなことをさせるのは心苦しいのですが……」
マリアとしては、俺に採掘のような『作業』はして欲しくないらしい。
そう言ったことは全てメイド部隊の領分だそうだ。……『採掘』が『メイド』の仕事かどうかは意見が分かれると思うけど。
「いいだろ?これは俺がやりたい事なんだから」
「はい、それは理解しております」
何でも、この『ノームの洞窟』では様々な宝石や貴金属が採掘できるらしい。
宝石が欲しい訳ではない。しかし、折角採掘の本場に来たのだから、ここで採掘をしないというのは観光者としては失格だろう。
今言っても仕方のない事ではあるが、『シルフの森』では様々な高品質の薬草が取れたそうな。
火事で大分駄目になったし、ミミを放って採取するつもりもなかったが……。
ドリアードのミドリに食わせるためにも、後で確保しておいた方が良いだろうな。
そして、『ノームの洞窟』と『シルフの森』に高品質な素材があるとなると、『ウンディーネの泉』と『サラマンダーの火山』に何があるのか気になるのも事実。
とは言え、そちらに向かう予定はないから、素材集めも何もないんだけどな。
A:全てお任せください。
全てって何!?
A:『シルフの森』の薬草集め。『ウンディーネの泉』の海藻、珍魚集め。『サラマンダーの火山』の希少鉱石集めです。
本当に全てだった!
……まあ、やり過ぎて生態系とか崩さなければいいか。アルタ、任せた。
A:はい、お任せください。
さて、そろそろ本格的に採掘を始めるとしようか。
俺は用意してきたツルハシを取り出す。宝石の採掘にツルハシが適切かどうかは置いておこう。
「そいや!」
俺は適当な壁に向かってツルハシを振り下ろす。
「ガキン!」と硬い物がぶつかる音がしたと思ったら、ポロリと壁の表面が剥がれ落ちる。
俺は落ちてきた欠片を拾い上げ、数回小突く。すると表面に付いた岩の欠片が剥がれ落ちて、中から黄色く光り輝く宝石が現れた。
精霊の輝石
備考:<精霊術>による精霊との契約に必要。精霊の強さに応じて必要になる『精霊の輝石』の大きさも変化する。
「まあまあだな」
「今、何をしたのだぞー!!!???」
俺が戦果を確認して頷くと、カオルが変な物でも見たような顔で叫ぶ。
その後ろではアーシャも困惑したような顔になっている。
一体どうしたというのだろうか?
「知ってはいたけど、僕のご主人様はとんでもないよね。アレでマップを使っていないというんだからさ」
「仁君ですから……」
《ですからー》
アーシャが呆れた様な顔をしているが、さくらとドーラは慣れたものだ。
ああ、アーシャの言う通り、今の俺はマップを使っていない。より正確には、宝石の位置をマップで検索したりはしていないというべきか。
まあ、態々そんな事をしなくても、適当に振れば宝石くらい掘り当てられるし……。
アーシャやさくらがカオルに説明をしているのを尻目に、俺は再び採掘作業に精を出す。
さくらやアーシャ、カオルは採掘に興味がない様だが、ドーラは少し興味があるようで、俺と一緒にツルハシを振るっている。
しばらく採掘をしていたが、この辺りの宝石が減ってきた気がしたので手を止める。
あまり採りすぎても良くないからな。尤も、周囲にそこそこ強い魔物がいる状態で、採掘に精を出せるものは多くないだろうから、そんなに気を使う必要がないのも事実ではある。
ちなみに、魔物達はある程度近づいてきたら、マリアに一瞬でスライスされている。
「よし、こんなものかな」
「凄い量の宝石なのだぞー。これだけで一財産なのだぞー」
「仁様、この宝石は如何する予定なのでしょうか?」
マリアが宝石の使い道について聞いてきた。
ふむ、採掘自体が目的だから、入手した宝石の使い道について深くは考えていなかったな。
「『精霊の輝石』はクロード達冒険者組に、正確には<精霊術>を使うユリアにあげればいいか。他の宝石はアドバンス商会経由で市場に流すなり何なり、自由にしてもらって構わないぞ」
『精霊の輝石』は市場にも割と流れているし、売ろうと思えば売れるだろうが、身内で使う者がいるのだから、そちらを優先してやりたい。
「わかりました」
そう言うとマリアは地面に並べられた宝石類を<
「あ、ちょっと待て、『精霊の輝石』の1番大きい奴だけは俺が持っておくから」
「はい、仁様の御心のままに」
最大サイズの『精霊の輝石』を、<
前にクロード達が精霊と合体する『精霊化』って技を編み出したからな。必殺技っぽくて1度やってみたかったんだよな。
どうしても契約したいって訳じゃないけど、機会があった時のために1個くらい持っておいてもいいだろう。
「さて、時間も遅くなってきたことだし、洞窟の外で野営でもしようか」
《ミオのりょうりあるー?》
「大丈夫ですよ……。イン……アイテムボックスに入っていますから……」
後は夕食を食べて寝るだけだな。……ああ、その前に釘くらいは差しておこうか。
俺はマリアに向けてアイコンタクトを送る。
「向こうから物音がしました。魔物かもしれないので、私が見てきますね」
マリアは俺のアイコンタクトに頷くと、そう言って入り口の方に<縮地法>で移動した。
「な!?」
「おや、貴女は確か、うどん屋のアトリさんでしたよね。どうしてこんなところに?」
ここからでは目視は出来ないが、どうやらマリアは無事に追跡者である忍者アトリ、本名ハンナを確保できたようだ。
ハンナの奴、ずっと、ずーっと俺達の事を追いかけてきて監視し続けていたんだよね。
『ノームの洞窟』に入れば付いてこないかとも思ったんだけど、そんなこと関係なしについてくるんだよ。洞窟内は暗いけど、音は響くから追跡は難しいはずなんだが……。
よっぽど自身の隠密行動に自信があったようだな。
ちなみに、マップがあるからわかったのに、あえて『物音で気付いた』ことにしたのは当て付けである。だって、忍者が物音で気付かれるって滅茶苦茶格好悪いだろ?
「マリア!そこに誰かいたのか?」
「はい、仁様。エンドのうどん屋で働いていたアトリさんがいらっしゃいました」
俺が声をかけると、マリアはハンナの手を引っ張ってこちらに戻って来た。
ハンナは町娘のような恰好をしており、洞窟とのミスマッチ具合が尋常ではない。
「アトリちゃんはこの洞窟に何をしに来たんだ?俺達は名所巡りってことで魔物退治したり採掘したりしに来たんだけど」
「え、えーっと……」
ここで会えての気づかない振りである。
見た目12歳、中身24歳のくノ一さん、一体どんな言い訳をしてくれるのだろうか?
……この言い方だと、ミオと若干被るな(肉体8歳、中身24歳)。
「わ、私も採掘に来たのよ……。ほら、この辺りって珍しい宝石が採れるから……」
む、言い訳が普通でつまらない。少し荒らしてみるか。
「へー、そうなのか。でも、大丈夫か?この辺りは魔物がかなり強いみたいだけど?」
「え、ええ。大丈夫よ。私これでも隠れるの得意だから」
ハンナは<隠密>スキルにより、これまで戦闘を1度もしていないというのも事実だ。
「あー、なるほど。アトリちゃんは忍者なんだな。それなら<隠密>が得意なのも納得だ」
「!?」
忍者であることがバレたアトリが驚愕の表情を浮かべる。
……駄目じゃないか。忍者がそんな簡単に動揺を顔に出したら。
ちなみに言うと、イズモ和国でも忍者と言うのは一般的な職業ではない。
『いるらしい』という噂レベルの存在であり、言ってしまえば都市伝説みたいなものだ。
「な、何のことを言っているのかな?」
「あ、そっか。忍者ってバレるのは良くないよな。今のは聞かなかったことにしてくれ」
「ちょ!?本当に私は……」
「わかってるわかってる。忍者じゃないんだよな」
良い訳をしようとしているハンナを遮って理解を示す。
理解を示したように見せて、相手の言い訳を封殺するという上級テクニックだ。
内心では全く理解していない場合の常套手段でもある。無情。
ミオの年齢の話が出てきていますが、この世界に主人公が来て数カ月たっているので、年齢が変わっているキャラもいます。
日付の話は意図的にしていないのですが、裏で設定はあります。誕生日は基本未設定です。あえて言うのなら、仁の誕生日は7月7日かな。