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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第6章 イズモ和国編

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第93話 開眼と魔剣鍛冶

前話を投稿して気付いたのですが、前話もエイプリルフールネタに向いていた気がします。

コイツどんだけエイプリルフールネタ好きなんだよ。


タイトルの開眼は仁の異能の事ではありません。

 さて、トオルとカオルの茶番について説明をしよう。


 トオルとカオルは双子のである。

 父親である現国王唯一の子供で、母親は2人を産むと同時に亡くなっている。


 国王は亡くなった王妃の事を深く愛しており、後妻などは考えられなかった。

 しかし、産まれたのが両方とも女児だったので、このままでは男児の跡継ぎを得るために猛烈な後妻プッシュが始まってしまう。

 そこで国王は悩み、考え、そして思いついた。『いっそ子供の1人を男の子として発表すればいいんじゃね?』と……。国王、はっちゃけ過ぎである。


 そうして関係者に緘口令を敷いた国王は男女1人ずつ、双子の兄妹であると発表した。それが兄トオルと妹カオルである。

 さすがの国王も一生誤魔化せるとは考えておらず、双子が成人したときには『実は両方女でした』と公表するつもりらしい。その頃なら後妻ラッシュも来ないと考えたからだ。

 「トオル」も「カオル」も男性名とも女性名ともとれる名前なのは、女性だと発表したときに周囲に与える影響を考えての事らしい。


 2人はすくすくと育った。

 エンド城内でも信頼できる者には真実が伝えられており、表面上は兄妹と言う事になっているが、その実姉妹として2人は暮らしてきた。

 姉妹として暮らしていけば、当然のように趣味も似てくる。

 エンド城内に飾られている国宝級の刀。2人が刀剣の収集と鑑賞にハマったのは、その刀が切っ掛けだった。それはもう、ガッツリとハマった。


 しかし、男子(扱い)のトオルはともかく、女子のカオルは刀剣の収集が趣味と言うのはいささか外聞が悪い。

 そこでカオルは悩み、考え、そして思いついた。『そうだ!見た目は同じなんだし、時々「トオル」と「カオル」の役を取り換えよう』と……。発想の飛躍が親子である。


 トオル自身、女子として振る舞いたいときもあると言う事で快諾。こうして、2人は誰の目を憚ることなく刀剣収集に没頭するのだった。

 トオルが服屋にいたのは、カオルへの贈り物と言う名目で自分の女性服を選ぶためだし、同じ理由でカオルが武器屋に行くこともある。

 あえて男っぽい口癖なのだぞ、女っぽい口癖ですのを使うことで、口調と服装を替えるだけで簡単に入れ替われるようにする目的もあるようだ。


 今回のように珍しい刀の持ち主を見かけた場合は、1度城に連れて行き、途中でカオルと入れ替わることで2人とも鑑賞できるようにすると決めている。

 廊下ですれ違った時、カオルがトオルを呼び止めたのも、『約束を忘れるな』と釘を刺す目的があった。

 ちなみに、コレクション部屋に向かう途中でカオルとすれ違ったのも、カオルが刀の鑑賞をしてきた帰りだったりする。


 最後、『英霊刀・未完』の魅力に狂ったトオルが、お姫様カオルの服装でお坊ちゃまトオルの口調を使ってしまうという失態を犯さなければ、見て見ぬふりをしてあげても良かったのだが……。

 ああ、もちろん入れ替わりにはすぐに気付いたよ。そもそも、一卵性双生児と言う時点で入れ替わりって伝統芸みたいなものだろ?

 エステアで配下にしたカレンとソウラの双子は、顔つきは似ていて、声とか動きはシンクロするんだけど、髪の色が全く違うから入れ替わりにはあまり向かないんだよな。残念。


 とにかく、世にも珍しい双子の入れ替わり茶番劇、そっと見守るのがマナーってヤツだ。

 もちろん、自滅をしなければ、だが……。



「まあ、トオルが女だというのが国家機密だと言う事はわかる。でも、いきなり殺そうとするのはどうかと思うんだよ」

「「申し訳ございませんでしたー!」」


 トオルとカオルから話を聞いた後、2人に向けて冷ややかな目を向けて言う。

 現在、トオルとカオルの姉妹は俺達の前で全裸土下座をしている。

 何故2人が全裸になっているのか?それは単純な理由だ。トオルが女であるとバレた時に、カオルがこう口走ったからだ。


『その者達を殺し、口封じをするのだぞ!』


 その瞬間、周囲にいた男女のSP達が武器を抜いて、俺達に襲い掛かってきたのである。

 トオルは止めようとしていたので、カオルだけが暴走してしまった感じだな。

 幸いと言うか、不幸にもと言うかは意見が分かれると思うが、カオルが俺の武器である『英霊刀・未完』を持ったままなのも俺達を侮ってしまった原因かもしれない。『強い武器はこちらの手元にある、今なら殺せるはず』ってね。


 攻撃してくるSP達を見ながら俺は悩んだ。殺意を持って攻撃を仕掛けてきた相手に手加減をするのは趣味ではない。SP達を皆殺しにするのは簡単だ。

 しかし、どういう行動をとっても、面倒なことになるのは間違いがないだろう。少なくとも、この国の観光を切り上げる羽目になるのは確定である。


 攻撃者に対して、殺さずに報復を行い、かつ穏便に済ませる方法はないだろうか?

 ふと、最近『竜人種ドラゴニュートの秘境』で色々やった事を思い出した。

 そして閃いたのだ。


『そうだ。相手を支配下に置いてしまえば、こちらが何をしても(強制的に)穏便に済むじゃないか』


 SP達が武器を抜いてからこの間、約0.2秒である。

 そうと決まれば行動は迅速に始めるべきだろう。俺は襲い来るSP達全員に<手加減>を使った腹パンを喰らわせて昏倒させた。

 その後、一瞬の出来事に呆けていたトオルとカオルにも腹パン。


 全員が昏倒したところで、それぞれ順番に<奴隷術>をかけていく。相手を強制的に奴隷にするには、相当に<奴隷術>のスキルレベルが高くないといけない。

 と言う訳でちょいちょいとスキルをいじってLV10にしておいた。


 はい、全員無事に奴隷になりました。

 奴隷にしてしまえば、こちらの不利になることは証言できなくなるし、奴隷紋を隠しているのでパッと見は奴隷になる前と何も変わらないからな。

 普通の相手にこんなことはしないが、相手が攻撃をしてきた。攻撃の意思を見せたというのならば話は別だ(トオルは巻き添え)。悪いが、生きているだけマシだと思ってもらおう。


 余談だが、双子が全裸なのは、<奴隷術>を施すときに服が邪魔だから剥いたためである。

 SPの女性陣も着物は剥いてある。なお、男性陣は見苦しいので上半身だけ剥いた。そして、主犯であるカオル(トオルも巻き添え)は、更に容赦なく褌まで剥ぎ取っておきました。

 横でミオが「無慈悲……」と呟いていたけど気にしないよ。


 さらに余談だが、男装している方は胸をさらしで押さえつけているようだ。

 14歳と言う事もあり、それなりに育っていたせいか、結構ぎっちり締め付けられていた。



 双子は目覚めた後、自分たちの置かれた状況が把握できていなかったみたいだが、俺が親切丁寧に教えてあげたら、最後には理解して泣き出してしまった。

 茶番の詳細については泣き止ませて・・・・から確認した。

 ちなみに、SP達にはかなり詳細な命令をしており、まともな行動は一切できなくなっている。なお、男性陣は強制的に目を瞑らせている。


「あのー、私達、これからどうなるんでしょうか?」

「あんな事やこんな事をされちゃうんでしょうか?ドキドキ……」


 補足しておくと、2人は全裸とわかった途端、普通の女子っぽい喋り方になった。

 なんでも、『なのだぞ』、『ですの』は役作りのために意識的に使っている口癖で、服を着ていない時は今のような喋り方らしい。

 対外的に見せる性格も、本来の2人からは微妙に外れたモノであり、行動パターンに齟齬が出ないように調整している。

 そして、服を着るとその服に引っ張られて口調と性格が変わるとのこと。先程、トオルが設定を間違えたのは、刀の魅力に取りつかれて平静を失っていたのが原因のようだ。


「うん?よく聞くと2人の反応、微妙に違くない?」

「そうですわね。トオルさんの方が少し嬉しそうですわ」


 横で話を聞いていたミオが首を傾げる。


「……トオル、お前はあんな事やこんな事をして欲しいのか?」

「いえ、そんなことは……ないとは言いません」

「ト、トオル、何を言っているんですか!?」


 俺が尋ねると、トオルは否定をしているようで否定をしなかった。

 どうやら、『あんな事やこんな事』をして欲しいらしい。

 そして、横にいるカオルも驚いている。


「……今まで、王族である私達を下に見るような人はいなかったじゃないですか」

「え、ええ、それはそうですよね」

「今、私達は奴隷にされ、服を剥ぎ取られて地に伏しています。完全に屈服し、人として最低限の尊厳も残っていません。……それが、何故だか新鮮で気持ちいいのです」

「え、ええー……」


 トオルの突然のカミングアウトにカオルもドン引きである。当然、俺達もドン引きである。


「まさか、こんな目に遭って屈辱よりも先に快感が来るとは思いませんでした。私、どうなってしまったんでしょう……?」

「どうにかなっちゃったんだと思うぞ」


 恍惚とした表情を浮かべて呟くトオルにツッコミを入れる。

 そこで、トオルと似た趣味(刀的な意味で)を持つカオルの事が気になった。


「カオルの方は、今の状況についてどう思う?気持ちいいか?」

「わ、私は気持ちよくなんて思っていません!」


 そう言って、カオルはお腹を押さえながら全力で否定してきた。

 ! その時、俺の中で何かが閃いた。俺はカオルに近づいてその額に手を伸ばす。


―ペシン!―


「何を……、ぁん!」


 俺はカオルの額にデコピンを喰らわせてみた。

 思った通り、カオルの口から出てきたのは悲鳴ではなく嬌声だった。


「カオル、お前痛いのが気持ちいいんだろ?」

「な!?そ、そんな訳ないじゃないですか!」


 カオルは驚愕に目を見開くも、すぐに気を持ち直して反論してくる。


「今さっきカオルは腹を押さえたよな。回復をした以上、痛みが残っている訳はない。でも、腹を押さえた。知っているか?<回復魔法>じゃあ、快感を消すことは出来ないんだぞ」

「な……、え……、まさか……、でも、そう考えると……」


 カオルは自身の気持ちに整理がついていない様で混乱をしていた。

 しばらく放置すると、カオルは肩をがっくり落として話を続けた。


「そうみたいです……。さっき、お腹を殴られたとき、意識を刈り取られる直前の一瞬で、すごく気持ちいいと感じていました」

「デコピンはどうだった?」

「それも、気持ちよかったです。私も、トオルと同じでどうにかなってしまったようです……」


 意気消沈しながらカオルが呟く。


「カオル……。痛いのがいいなんて、変わっていますね」

「ト、トオルにだけは言われたくありません!」


 どうやら、トオルとカオルの姉妹は、2人ともガチなドMさんだったようだ。しかも、傾向は完全な真逆である。


・トオル:精神的苦痛が快感になる。肉体的なモノはNO。

・カオル:肉体的苦痛が快感になる。精神的なモノはNO。


「ご主人様が新しい扉を開いちゃったのね……」

「そうみたいですわね。ご主人様は予想してたんですの?」


 ミオとセラが苦笑している。


「いや、これに関しては全く予想できなかった」


 俺も流石に双子の姫様が両方ドMだとは思わなかった。せめて、バランスを取って1人がドMでもう1人がドSだったら面白かったのに……。あ、そう言う問題ではないか。


「仁様が望むのでしたら、私の事を痛めつけて頂いても構いません」


 マリアは平常運転いつものである。

 流石にそろそろ反応にも疲れてきたよ。


《ドーラはいたいのやー!》

「私は……痛いのも苦しいのも慣れていますけど、嬉しくはないです……」


 さくらさんの目からハイライトが消える。

 こちらもある意味、心的外傷いつものだよな……。


 閑話休題。


「話を戻すが、別にお前達2人の事を痛めるつもりも、罵るつもりもない」

「「えー……」」

「はいそこ、残念そうに言わない」


 トオルは「罵る」に、カオルは「痛める」に反応して残念そうな顔をする。


 2人は自身の性的趣向を自覚すると、思いもよらぬ速さで順応した。

 どう考えても公には出来ない趣向である。既に趣向がバレており、強制的にとは言え自らの主人となった俺が相手ならば、何を隠すことなく趣味にふけることが出来ると判断し、「罵ってほしい」&「甚振ってほしい」と縋り付いて懇願してきたのである。

 縋り付いてくるのを押しのけようとするとその痛みでカオルが喜ぶ。悪態をつくとトオルが喜ぶ。……かなり厄介である。


「とにかく!俺達の目的は観光だ。その邪魔だけは絶対にするなよ」

「「は、はい……」」


 2人に向けて軽く殺気を飛ばすと、2人とも大人しく頷いた。


 トオルもカオルもドMとは言え死にたい訳ではない。

 罵られるのはともかく殺気は普通に怖い。痛いのは良くても死ぬのは嫌だ。当然である。


「それに加えて、おススメの観光スポットや、珍しい特徴を持った者がいたら教えてくれ。2人も一応王族みたいだし、自身の国の事だから何か知っていることもあるだろ?」

「一応……」

「一応呼ばわり……この扱い……あぁ!」


 カオルは王族の前に「一応」を付けられて消沈し、トオルはそんな扱いを受けて快感で身悶える。そんなだから「一応」なんだよ……。


「普通、王女様に聞くことじゃあありませんわね……」

「まあ、ご主人様だし」


 セラとミオが呆れているが、知ったことではない。

 自分の知らないことを詳しい人間に聞くのは当然のことである。


「はぁはぁ……。コホン、それなら丁度いい者がいます。『珍しい特徴を持った人』の方なのですけど、……何でも『魔剣』を生み出す力を持った鍛冶師だそうです」


 まだ頬を赤くして悶え続けていたトオルが息を整えて俺の質問に答えた。

 魔剣か。この世界に来てからちょくちょく縁のあるアイテムだよな。勿論悪い意味で。


「私も本人と会って話を聞いたことがあるのですが、彼女は特別な能力を持った剣、魔剣を打つことが出来るそうです」

「『出来るそう』って、打ったところを見たことはないのか?」


 どうでもいいが、『彼女』と言ったのだから、その鍛冶師は女性なのだろう。


「はい。彼女も今まで1度しか魔剣を打てたことがないそうです」

「何か条件でもあるのかな? ……確かに面白そうな人だな。興味があるから一度会ってみたいんだが、その鍛冶師はどこにいるんだ?遠いのか?」

「多少遠いですね。ここからだと南に馬車で3日くらいでしょうか」


 思っていたよりも時間がかかりそうだな。いや、飛んで行けばもっと早く着くな。

 エルディア王国を攻めるのが3日後だから、この国の観光はそれまでには終わらせたい。


「じゃあ、その鍛冶師の居場所を教えてくれ。場所さえわかれば俺達だけで勝手に行くから」

「え!?私達も連れて行ってくださいよ!」

「そうです!きっと何かが起こるんですよね!見たいです!」


 俺のセリフに反応し、2人は凄い勢いで食いついてきた。

 ……まあ、何かしら起こるだろうけどさ。


「そうは言っても、2人を連れて行くとなると色々と面倒なんだよな。そもそも、2人ともそんな簡単に他所の国の人間と出かけられるのか?」

「それに関しては問題ありません。『トオル』は刀のことになると無茶をする人間と思われていますから」


 それが良い事かどうかは別の話である。


「連れて行けるとしてもどちらか1人だけだな。『カオル』は刀に興味がないんだからさ」

「「あ……」」


 トオルとカオルは顔を見合わせる。

 対外的に刀好きなのは『トオル』だけなので、『カオル』は当然お留守番である。


「以前、トオルが魔剣鍛冶師の方とお会いしたとき、次に機会があったら私が会えるようにするという約束をしましたよね?」

「た、確かにそう言う約束をしたことはあります。ですが、今回は案内役もあるのですから、以前行った私の方が相応しいと思います!」


 2人の間で火花が飛び散る。


「何で剣呑な雰囲気になっているのよ……」

「双子だからこそ、譲れないモノもあります」

「刀の所有権、実は2人で明確に分かれているんですよ」


 ミオの疑問に双子が答える。

 『2人のモノは全て2人の共有財産』と言う訳ではないようだ。


「どちらでもいいから早くしてくれ」

「「は、はい!」」


 俺が先を促すと、2人は大慌てでじゃんけんをした。

 その結果、カオルが俺達に同行することに決まった。


「む、無念です……」

「ああ、勝ててよかった……」


 カオルはパーを頭上に掲げて喜び、トオルは四つん這いになって悔しがっている。


「さて、案内役も決まったことだし、そろそろ出発をするか」

「あー、ご主人様。ちょっといい?」

「どうしたんだ、ミオ?」


 明暗の別れた2人の反応を楽しみながら話を進めようとしたら、ミオが待ったをかけた。


「私とセラちゃんの2人はこの国で食べ物の調査をしたいのよね。鍛冶師のところに行くと言っても、明確な目的がある訳じゃないでしょ?エルディア戦まで3日しかないし、折角だから色々と調べておきたいのよ」

「だから、別行動の許可をお願いいたしますわ」

「ああ、もちろん構わないぞ。鍛冶師のところに行くのも、純粋な興味だからな。それに食事の質が上がる可能性があるのなら、俺が止める訳が無いだろう?」


 特にこの国を調査すると言う事は、日本料理のレパートリーが増えることとイコールなので尚更である。

 ミオの事だから、少なくともうどんだけは形にしてくれるだろうな。楽しみだ。


「おっけー、やっぱご主人様ならそう言うわよね。しっかりとレパートリー増やしてくるから期待して待っててね!」

「ああ、任せる」

《ドーラも待ってるー!》


 こんな言い方をすると、すぐにでもミオ達と別行動をするようにも聞こえるが、実際は城を出るまでは一緒に行動するのである。



「そう言えばアーシャはどうしたんだ?馬車を置いたら来るような話をしていたけど?」

「確かに遅いですね。……マップでは馬小屋で馬に囲まれているようです」


 無念そうな顔をして俺達を見送ったトオル(姫様姿)と別れ、城から出て行こうとする道中、ふと思いついたことを口にした。

 それを聞いたマリアがマップで確認して報告してくれる。

 遅れて俺もマップを見ると、本当にアーシャが馬に囲まれていた。こんな感じ。


馬馬馬馬馬牛馬

馬馬馬馬馬馬馬

馬馬馬ア馬馬馬←『ア』がアーシャ

馬馬馬馬馬羊馬

件馬馬馬馬馬馬


「これは酷い」

「何があったらこんな事になるのよ」


A:アーシャは動物に好かれるようです。馬小屋に行っただけでご覧の有様になりました。


 流石は『魔物と獣の専門家』だな。詳しいだけじゃなくて、魔物や獣から好かれるという能力も持っているようだ。

 とりあえず、念話で話をしておこう。


《元気?》

《あまり元気じゃないかな……。多分、状況わかっていて聞いているよね?》

《まあな。今から町を出るんだけど、馬車の準備の方をよろしく。……出来るか?》


 正直に言うと、準備をできる状況には見えない。


《それは大丈夫だよ。全ての馬は調教済みだから、退いてと言えばどいてくれるはずさ》

《本当に流石だな……》


 馬のステータスを良く見ると『調教済み(アーシャ)』と言う記載が追加されている。

 <獣調教>のスキルを使うとこんな事になるのか……。初めて見たよ。


《じゃあ、城門の方に馬車を移動させておくよ》

《そうしてくれ》


 念話を切って城門まで進むと、話していた通りにアーシャが馬車に乗って待っていた。

 その横には伝令を出したカオル(トオル状態)の分の馬車も並んでいる。

 表向きには『俺達がトオルの道楽に同行する』と言う事になっているので、カオルの分と俺達の分の2台の馬車が必要になるのだ。SP(男性)も付いてくるからな。


「行ってらっしゃーい!」

「お気を付けて、ですわ」

「それでは、出発するのだぞ!」


 ミオとセラを残して馬車に乗り込んだ俺達は、カオルの号令で城門を出発した。



 首都を出た俺達はこっそり馬車を抜け出し、呼び出サモンしたブルー、リーフ、ミカヅキに乗って目的地である鍛冶師の住処へと向かっている。


「ふひょおおおおおおおおお!!!」


 変な声を上げているのは当然カオルである。

 人生初フライトON天空竜スカイドラゴンは刺激が強すぎたようだ。


 どうでもいい話だが、こっそり馬車を抜け出したのには理由がある。

 なんと、例の忍者ハンナが俺達の事をまだ尾行していたのだ。

 本当は適当な場所に馬車を泊めてから空の旅にするつもりだったのだが、そうもいかなくなってしまった。

 仕方がないので、アリバイ作りのためにアーシャやSPには、馬車で別のおすすめスポットに行ってもらうことにした。

 そっちはそこまで遠くないので、魔剣鍛冶師にあった後で着くくらいのペースで移動してもらっている。馬車が目的地に着いたら、(『ポータル』で移動後)我が物顔で馬車から出て行く予定だ。


 カオルに目的地の詳細を聞いたところ、エンドから南に馬車で3日程道なりに進むととある町に到着する。そこから、東に1時間ほど移動すると広大な『シルフの森』と呼ばれる森があり、そこに件の鍛冶師は1人で住んでいるという話だ。

 上空の移動のため道なりに進む必要はなく、単純な直線距離で移動することによって、馬車で3日の旅をわずか1時間まで短縮することに成功したのだった。


「カオルから聞いた目的地だけど、後1分もすれば到着するだろうな」

「早すぎるのだぞ!非常識すぎるのだぞーーーー!」


 カオルが涙目で鼻水を垂らしながら絶叫している。

 悪いな。非常識なのはいつもの事だから、慣れてもらうしかないんだよ。


 丁度そのタイミングでマップ上のエリアを跨いだらしく、隣接エリアに『シルフの森』が確認できた。

 目視でもそろそろ見えるだろうと思い目を凝らしてみると、『シルフの森』のある方角から大量の黒い煙が立ち上っているのが見えた。何事だ?


A:どうやら、目的地である『シルフの森』が燃えているようです。


 マップを確認してみると、アルタの言う通りに『シルフの森』が燃えている。

 それも、ボヤとかそんなレベルの話ではなく、大規模な山火事レベルの火災だ。

 ははは、鍛冶師に会いに来て、森が火事になっているよ。笑えるね。……笑えねえよ。


 そんなことを考えている内に燃え盛る『シルフの森』が目前へと迫って来た。

 とりあえず、ブルー達には火の手が届かない離れた場所に着陸してもらう。


「じゃあ、私達は帰るわね」

「失礼いたします」

「また呼んでくださいねー」

「ああ、またよろしく頼む」


 同行しても構わなかったのだが、この後に予定のあるらしいブルー、ミカヅキ、リーフの3人が先に帰還した。予定があっても俺達の移動を優先させる3人は従魔の鑑である。

 『ポータル』さえ置けば、帰りの足が必要ないと言うのも大きい。


「仁様、如何なさいますか?中に入るのは出来れば止めて頂きたいのですが……」

「そうは言っても、困ったことに魔剣鍛冶師がまだ森の中にいるんだよな」


 鍛冶師は森の中にある小屋で生活をしていたようだ。

 しかし、その小屋は全焼と言っていいレベルで燃えている。

 どうやら、火事の火の元はこの小屋にあるようで、小屋を中心に火が燃え広がっている。


 考えてみれば、雷でも落ちなければ森が自然に火事になる訳が無いからな。

 ……いや、思い返してみれば『ゴブリンの森』でゴブリン・ソーサラーが<火魔法ファイアボール>使って来ていたな。アレ、下手をすれば山火事案件だったよな。


 話が逸れたので戻そう。

 現在、魔剣鍛冶師は必死で森に広がる炎から逃げている最中だ。

 ステータスを確認したところ、脚が火事で焼けて動かせなくなってしまい、走って逃げることが出来ないようだ。そのため、這いずって広がりゆく炎から逃げるという割と絶望的な状態にある。


 そして、これが魔剣鍛冶師のステータスである。


名前:ミミ

LV38

性別:女

年齢:19

種族:ドワーフ

スキル:<剣術LV6><槍術LV5><鑑定LV8><鍛冶LV7><聖魔鍛冶LV-><悲劇の引き金トリガーハッピーLV-><不運LV10>

称号:元貴族令嬢


<聖魔鍛冶>

作成した武器に特殊な能力を与えることが出来る。発動条件は強い願い・感情の発露。強い正の感情とともに作った武器には『聖』の名が冠される。強い負の感情とともに作った武器には『魔』の名が冠される。『魔』の武器の場合、与える能力は願いの本質から外れてしまう。


悲劇の引き金トリガーハッピー

自身と周囲の人間に集中力、感情抑制能力などの精神的な機能低下を与える。所有者に近づくほど効果が増大する。


 個々のスキルレベルは尋常ではないくらいに高いのだが、スキル構成が最悪だ。

 特に問題なのは<悲劇の引き金トリガーハッピー>。集中力が低くなって、感情の抑えが効かなくなったら、そりゃあ悲劇の引き金にもなりそうだよな。

 それに加えて<不運>スキルのLV10があるのだ。どんな悪いことが起こっていても不思議ではない。ほら、称号欄を見ればその予想が出来るだろ?


 そして、これらの『悪い事』は<聖魔鍛冶>のスキルに絶大な悪影響を及ぼすのだろう。

 魔剣鍛冶師と呼んでいたが、実際には聖剣のような物も作れるらしい。

 しかし、前述の通りに『悪い事』ばかり起きていた人間に、正の感情と共に武器を作ることなどできるのだろうか?多分、無理だと思う。

 だから、<聖魔鍛冶>と言っても、実質的には魔剣しか作れないのだろう。


 俺の勝手な予想なのだが、<聖魔鍛冶>のスキルを持つ者は、<悲劇の引き金トリガーハッピー>や<不運>のスキルを必ずセットで所持していたのではないだろうか?

 丁度、マリアやシンシアの持つ<勇者>と<封印>がセットになっていたように……。

 だからこそ、今まで『魔剣』を見たことはあっても、『聖剣』を見たことがなかったのではないだろうか。まるで、『聖剣』の存在を許さないかのようなスキル構成だからな。


 さて、こうなると『聖剣』と言うのが気になってくる。

 アルタに聞けば教えてくれるだろうけど、出来れば現物を見てみたい。


A:……。


「ここまで来て見捨てるっていう選択肢もないよな。よし、助けよう」

「当然、仁様に同行いたします。<結界術>を使えば火は防げます」


 俺が1度『行く』と言ったら意見を翻すことはないと知っているマリアが、せめて俺の身の安全を守ろうと提案をしてきた。

 本当にマリアの<結界術>は便利だよな。<勇者>スキルが次にレベルアップしたら何を覚えるんだろうね?


「実際のところ、<結界術>が無くてもこのくらいの炎ならステータスと<火属性耐性>のおかげでダメージは通らないんだけどな」

「服は燃えますけどね……」

《ごしゅじんさまに買ってもらった服がもえるのはヤダー!》

「余は普通に死ぬのだぞー!」


 カオルにはステータスを与えていないので、火事に巻き込まれたら普通に死にます。

 余談ではあるが、カオル以外のメンバーは普通の服に着替えている。流石に着物で竜に騎乗するのは難易度が高い。具体的に言うと裾が捲れてパンツが見える。


「おっと、いつまでも話し込んでいると魔剣鍛冶師が死ぬな。早いところ助けてあげよう」

「そうですね……。急ぎましょう……」


 見れば、燃え広がる炎と魔剣鍛冶師の距離がかなり近づいている。それほどの猶予はない。

 ん?そもそも森の中を突き進む必要すらないんじゃないか?


「『アクアジャベリン』『ウィンドジャベリン』『アクアジャベリン』『ウィンドジャベリン』『アクアジャベリン』『ウィンドジャベリン』『アクアジャベリン』『ウィンドジャベリン』」


 俺は<水魔法>の『アクアジャベリン』と<風魔法>の『ウィンドジャベリン』を連続して4回使用する。


「仁君、急にどうしたんですか……?」

「魔剣鍛冶師を助けるための作業だよ」


 さくらの問いに答えつつ空を見上げる。

 丁度、それぞれの『アクアジャベリン』と『ウィンドジャベリン』がぶつかり、大量の雨を降らせるところだった。


「なるほど、流石仁様です。<結界術>!」


 大量の雨は森中に降り注ぎ、その炎を消火していく。

 俺達に向けて降り注ぐ雨はマリアの<結界術>が阻んでくれている。本当に便利。


 これは以前、アト諸国連合で大海蛇シーサーペントのメープルとハーピィ・クイーンのショコラが使った合わせ技だ。

 一応、雨を降らせる<水魔法>もあるのだが、普通に攻撃判定が入るので使用できない。

 これならば無害な水が降り注ぐので消火活動にうってつけなのだ。特許を取りたい。


「さて、火も消えたことだし、鍛冶師に会いに行こうか」

「行動の規模が大きすぎるのだぞ……」

「仁君ですから……」

《ですからー》


 これが、目を見開いて口をあんぐり開けているカオルと、既に慣れてしまったさくらとドーラの反応の違いである。


姫様コレクション(なんかネトゲっぽい)にご新規さん2人追加です。ただし、詳細は省略される。

そして、開眼したのは2人の性癖です。

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