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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第6章 イズモ和国編

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第92話 刀マニアとエンド城

勘違いをしないでいただきたいのは、作者はエイプリルフールネタを含む、イベントに全力を注ぐ系の作者ではないと言う事です。

あくまで、思いついたからやっただけで、思いつかなければ何もしません。

ただ、思いついたら全力です。今回、やり過ぎた感はあります。

「おにーさん、また来てねー!」


 うどんを食べ終わった俺達は、アトリに見送られながら忍者うどん店を後にする。

 結局、アトリは店の中で何か動くようなことはなかった。一体何がしたかったのだろう?


A:ハンナ、及び店主は声に出さず、唇の動きだけで会話をしていました。それによると、首都に入ろうとする外国人を調査し、問題があるようならば排除するという任務を請け負っているようです。


 うん、思っていた通り、忍者って奴は超物騒だね!

 いや、むしろそう考えれば納得できる部分もあるか。つまり、アトリ、いやハンナ達忍者は首都の防衛を担っているということなのだろう。

 スパイや危険人物が入ってきた時、首都の中枢に行く前、入ってすぐのところで仕留めるのが目的だから、こんな所でうどん屋をやっているということだ。


 ん?と言うことは、俺達は『危険なし』って判断されたのか?

 自分で言うのも何だけど、俺達はかなり怪しかったと思うぞ。


A:いいえ。マスター達は『要経過観察』だそうです。


 ……なるほど、それでさっきからハンナが俺達の後を付けてきているのか。

 隠密行動は素晴らしい腕前なんだけど、残念なことにこちらにはマップがあるんだよ。

 本当にマップは反則だよな。


《仁様、排除いたしますか?》


 マリアがいつも通り物騒なことを言う。

 忍者の事を『超物騒』と言ったが、身内にも同じくらい『超物騒』な娘がいたね。


《止めておけ。首都の入り口を守っているということは、国家公認の可能性が高い。下手に事を構えると、いきなりお尋ね者になる可能性すらある。不愉快な目に遭うか、観光を終えるまでは我慢しろ》

《はい、わかりました》


 折角、日本っぽい国に来たのだ。こんなに早く観光をお終いにするのは勿体ない。

 ハンナもただ観察しているだけで、こちらに手を出すつもりはないようだし(マップ上のユニットも緑色のまま)、放っておくのが1番だろう。



 昼食を食べ終わったので、次は服を買いに行こう。


「じゃあ、次は服を買い揃えようか。このままじゃあ、目立ってしょうがないからな」

「おー!全員分の和服、ミオちゃんがコーディネートしちゃうよー!」


 張り切るミオを先頭にして、和服店へと向かっていく。

 マップを見るより地元民の意見、……と言うことで、ハンナ達におススメの服屋を聞いておいたのだ。一応確認したところ、その服屋は忍者店ではなかった。

 その店の名前は『呉服問屋 玉屋』と言った。ツッコミは不在しんだ。


 大通りを進んで5分、到着した玉屋は周囲の店よりも一回りも二回りも大きかった。

 ハンナ達には予算考慮しないでおススメを聞いたから、一番の有名どころなんだろうな。


「ご主人様には黒くて侍っぽい服でしょー。さくら様には桃色さくら柄の着物でしょー。ドーラちゃんは白地に青いアジサイの柄でしょー。マリアちゃんはご主人様とお揃いの侍服でしょー。セラちゃんは大正時代の女学生服……って、時代考証間違えてない?ここだけやけにハイカラよ? ……で、最後にミオちゃんは花柄の七五三用の服よ。似合うのも悲しいけど、ネタに走ってみました」


 玉屋に入って10分で、ミオが全員分の和服(一部議論が残る)を選んでくれました。

 会計を済ませて、全員が着替えた状態で集まる。

 それぞれ似合っているんだけど、所々ネタを織り交ぜてきているな。特に奴隷組は……。


「あのー、僕のこれはいったい何なのかな?」


 1番のネタ要因であるアーシャが、青いはっぴを着ながら聞いてくる。


「はっぴよ。由緒正しきお祭りの衣装よ!」

「え?なんでお祭りの衣装を?」

「ネタよ!」

「ネタかー……」


 俺達のノリに慣れてきたのか、アーシャは諦めるかのように呟く。

 ミオの場合、俺やさくらにはネタを振れないので、その分セラや他の奴隷には容赦なくネタを振っていくからな。


 全員分の服を選んだのはいいのだが、ミオは本来の目的を覚えているのだろうか?

 元々、和服を着ることを決めたのは、『町中で目立たなくするため』だ。

 ここまでバラエティ豊かな服を着た集団が、町中で目立たない訳が無いだろう。


A:この程度ならば大丈夫です。学生服と同じ理由で、日本と同じ用途で使われている服はほとんどないからです。町を見れば、ミオの言うネタに走った服も多く見受けられます。


 ……ああ、そうか。日本人が広めた服と言うだけで、正式な用途が一緒に広まったわけじゃないのか。だから、一般的な服としてはっぴや学生服なんかが着られているのか。

 良く見たらミオ達と似たような服を着ている者も少なからずいるみたいだしな。


 目立つことを気にしなくていいのなら、俺も精一杯ネタに走るとするかな。

 <無限収納インベントリ>から『英霊刀・未完』を取り出して帯に差し込む。

 これでより侍っぽくなったぞ。


 ちなみに、店内には『帯刀可、抜刀厳禁』と言う張り紙がしてある。


「ああ、そうですね……。仁君の武器は刀だから、服装とぴったり合いますね……」

「そうですよー。それを狙って、ご主人様に侍服を着てもらいました!ご主人様、思っていた以上に侍服似合うわね」


 さくらが納得したように頷き、ミオが俺の格好をまじまじと見つめる。


「しかし、本当に凄まじい存在感ですわね、その刀。鞘に入れて腰に下げているだけなのに、思わず意識が向いてしまいますわ」

《つよい力をかんじるー》


 セラの言うように、『英霊刀・未完』は神話級ゴッズ装備の称号に相応しく、圧倒的な存在感を放ち続けている。

 どれくらい凄いかと言うと、周囲のお客さんが横を通るときに思わず『英霊刀・未完』に目をやってしまう程だ。


 少し、昔の話をしよう。


 俺が『霊刀・未完れいとうミカン』を手に入れたのは、元Sランク冒険者であるセルディクを倒した時だ。

 セルディクが『霊刀・未完れいとうミカン』を『収納ストレージ』の魔法で取り出した時、刀は剥き出しのまま出てきた。

 しかし、セルディクが死んで『収納ストレージ』の中身がばら撒かれた際、そこには『霊刀・未完れいとうミカン』の鞘も一緒に落ちていたのだ。


 そして、刀と鞘は基本的にセットとして扱われるらしい。

 何が言いたいのかわからないかもしれないが、つまりこういうことだ。


英霊刀・未完の鞘

分類:鞘

レア度:神話級ゴッズ

備考:不壊、抜刀術補正(極大)、覇気制御、所有者固定


 簡単に言うと、鞘も神話級ゴッズになっていました。

 ずっと仕舞いっ放しだったのだが、気が付いたらこんなことになっていてビックリだよ。


 神話級ゴッズの刀が神話級ゴッズの鞘に入っているんだ。存在感はあって当然と言えるだろう。一応、これでも「覇気制御」によって存在感は抑えているみたいだが……。

 少なくとも、抜き身よりは大分マシなのだろう。アルタ曰く、心の弱い者の前で抜刀すれば、それだけで意識を奪うことが出来る程らしいからな。


「単に侍の格好をするだけなら、態々『英霊刀・未完』を差さなくてもいいかな。折角、イズモ和国に来たんだから、帯刀用の刀でも買って行くか。これだと目立ってしょうがない」


 悪目立ちしないように和服を買ったというのに、差しているだけで目を引く刀なんて差したら本末転倒だろう。


「侍の格好をするためだけに刀を買うって言うのも、凄い変な話ではあるわよね」

「まあな。でも、嫌いじゃないだろ?」

「もちろん!」


 苦笑するミオに質問すると、当然のごとくミオは首を縦に振る。

 ネタに走る以上、そのネタには全力を尽くすべきだよな。


「となると、次は武器屋に行こうか。どんな武器があるのか気になるし、もしかしたら掘り出し物があるかもしれないからな」

「そうそう伝説級レジェンダリーから替えるような装備があるとは思えないですわ」

「僕の武器は伝説級レジェンダリーじゃないけどね……。ナイフと鞭で良いものがあったら、買っておきたいなー」


 伝説級レジェンダリーを超えるような掘り出し物が、町の武器屋にある確率ってどのくらいだろうね?

 ちなみに本人も言っている通り、アーシャの武器はナイフと鞭だ。俺の奴隷になるまでは<剣術>も<鞭術>も持っていなかったけどな。


「例え現状よりも良い装備があったとしても、仁様から頂いた武器から替えるつもりはありません」

「もし、仁君が新しい装備をくれたらどうするんですか……?」

「替えます」


 マリア(平常運転)とさくらのやり取りについてはノーコメントで。


 とりあえず、武器屋行きが嫌な子はいないみたいだから、次の目的地は武器屋に決定だな。

 念のため、目立つ『英霊刀・未完』を仕舞おうかな……。


A:マスター、急接近する者があります。


「はふああああああああああああ!!!!!!」


 アルタのアラートが上がると同時に、叫び声のようなものが聞こえる。


 声のする方を向けば、見るからに貴族(日本的な意味で)のお坊ちゃまといった子供がこちらに向かって全速力で駆けて来ていた。

 子供は栗色の髪をした鬼人種のようで、額に1本の角が見える。道理で人間の子供では考えられない程の速度で近づいてきている訳だ。

 マップを見たところ、ユニット色は赤色(敵)ではなく緑色(無関心)ではあるのだが、どう見ても無関心には見えない。少なくとも攻撃目的では無なそうだが……。


《仁様、排除いたしますか?》

《いや、どう見ても普通の子供だ。今はまだ・・・・、そこまでしなくてもいいだろう》


 一瞬の内にマリアと念話でやり取りを終える。


「はふほわああああああああ!!!!!!」


 子供は大声で叫ぶと、走った状態から俺に向けて飛びついてきた。

 当然、俺は避ける。


―ドンガラガッシャーン!!!―


 車は急には止まれない。慣性の法則に従い、子供は勢いのまま俺の背後にあった展示物に突っ込むことになった。


「若様!」

「ご無事ですか!?」


 子供を追いかけてきたのは、見るからに武士武士しい格好の5名の屈強な男達だった。

 子供を若様と呼んでいるし、見た目も相まって完全にSP(和風)である。

 SP達はひっくり返ってふんどしが丸見えになっている子供に駆け寄り介抱をしている。どうやら、子供は軽く目を回しているようだ。


「貴様ァ、よくも若様に!」


 SPの1人が鬼のような形相でこちらに近づいてくる。完全に冤罪である。

 見れば、その男は下げていた刀の柄を握っている。


 なるほど、なるほど。見るからに貴族っぽい子供。話を聞く気がなさそうな護衛。貴族関係のトラブルが嫌いな俺。さて、質問です。これから何が起きるでしょうか?


「ま、待つのだぞ!その者に手を出してはいけないのだぞ!」


 俺がこの国での観光を諦めつつ『英霊刀・未完』に手を伸ばすと、鼻血を出してふらつきながら起き上がった若様(仮)が、そう言ってSPの方・・・・を止める。

 しかし、若様(仮)の目は俺ではなく『英霊刀・未完』に釘付けである。


「その者の差している刀はとんでもない業物なのだぞ!そんな業物を当たり前のように差している者が相手では、お主達が束になっても勝てる訳が無いのだぞ!」


 俺の実力が直接わかる訳ではないが、持っている武器から実力を推し量ったと言う訳か。

 ……じゃあ、何であんな突進をしたのだろうか?下手をすれば俺に切り捨てられた可能性だってあっただろうに……。


「しかし!若様にお怪我を!」

「今のは素晴らしい刀を見て、我を忘れて飛びかかった余が悪いのだぞ。お主は余を暴君に仕立て上げたいのか?」

「いえ、そのようなことはありません。出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした」


 理性的なことを言う若様(仮)だが、その切っ掛けは『我を忘れた』と言う全く理性的ではないモノらしい。

 そして、今の話の中で理解できたことは、『若様(仮)は刀マニア』と言う事である。


 SPは俺のことを一睨みすると、若様(仮)の元へと戻っていった。

 その後、鼻血を拭き、着物を正した若様(仮)が俺達の方に向けて歩いてくる。


「先程は急に飛びかかったりして、申し訳ない事をしたのだぞ」


 若様(仮)が頭を下げる姿を見たSP達の顔に動揺が走る。


「若様、どこの誰とも知らぬ者に頭を下げるなど……」

「悪いことをしたら謝る。これは人として当然の事なのだぞ」


 若様(仮)はSPの言い分を切って捨てる。

 これは『真っ当な貴族サイド』の可能性が濃厚かもしれないな。……珍しい。


「挨拶が遅くなったのだぞ。余はこのイズモ和国の王子、トオルと言うのだぞ。お主達の名前を聞かせてほしいのだぞ?」


 そう、この若様(仮)はこのイズモ和国の王子なのでした。確かに若様だよな。

 そして、簡単に頭を下げて言い立場でもないよな。


「俺の名前は仁、右からマリア、さくら、ドーラ、ミオ、セラ、アーシャだ」

「貴様ァ!若様に何という口の利き方をしている!」


 俺が全員分の紹介を済ませると(しっかりと本名)、SPの1人が再び鬼顔になる。


「よい。今はお忍びなのだぞ。ふむ、何名かはイズモ風の名前なのだぞ?でも、お主達はこの国の出身ではないのだぞ?多分、旅人なのだぞ」

「……よくわかるな」


 俺の素性を知っている訳はないが、断言したと言う事は何かしらの理由があるのだろう。


「簡単なのだぞ。この国にいる珍しい刀を持った者はほとんど把握しているのだぞ。これ程の業物を持つ者を余が知らない訳が無いのだぞ。もしそんな者がいるとしたら、旅人に違いないのだぞ!」

「なるほど……。今までの言動を振り返るに、若様は相当な刀マニアなんだな」


 わかってはいたが、ガチの刀マニアの様である。


「そうなのだぞ!刀が好きで好きで仕方がないのだぞ!だから、お主の持っているその刀をもっとよく見せてほしいのだぞ!遠くからでもわかるその存在感!今まで見たことのない圧倒的な威圧感!見せて触らせて舐めさせてほしいのだぞ!」


 俺が話を振ると、水を得た魚のように怒涛の勢いでまくしたてるトオル。

 しかし、今のセリフの最後だけは明確にぶっ壊れているな。舐めるなよ、刀を……。


「出来れば譲ってほしいのだぞ……」

「無理だな」


 物欲しそうに『英霊刀・未完』を見つめる若様を切って捨てる。

 SPの1人が鬼顔になる。お前、邪魔だよ。


「多分そうだとは思っていたのだぞ……。だからこそ、見るのと触るのだけはどうしても許して欲しいのだぞ。しっかりと謝礼もするのだぞ!そうだ!折角だから、我が城に来てはくれないか?謝礼の件もあるし、どうせならば余のコレクションも見て欲しいのだぞ!」


 トオルに付いてお城に行くとなると、貴族関連のトラブルに遭う可能性は大幅に上がるだろう。とは言え、今のところトオル自体は不快な相手と言う訳ではない。

 SP達は若干ウザいが、相手がこの国の王子ともなれば多少は過剰反応してしまうのも無理はないだろう。

 最悪、不快な目に遭ったのならば、全てを切り上げてさっさと帰ればいいだけだからな。


 基本的に不快ではないイベントはバッチ来いというスタンスなので、折角だからトオルの誘いを受けてみようと思う。

 皆にも確認したが、問題はないみたいだからな。


「まあ、それくらいならいいかな……」

「本当か!?ならば早速来てほしいのだぞ!」

「ああ、構わないぞ。ただ、口調はこのままでいいか?正直、今更敬語にするのも面倒だ」

「うむ、よいのだぞ。お主達は余の客人と言う事で、特別に許すのだぞ」


 俺の『敬語使わない』宣言で、またしても後ろのSPが鬼顔になるが無視する。

 正直に言えば、この世界の王族に対して、敬語を使う程の敬意を抱いていないからな。具体的に言うと、この世界に転移したその日の内に捨てた。



 イズモ和国の首都、エンドの中心にある1番大きな城の名前は『エンド城』と言う。

 トオルの話によると、イズモ和国にある城の中でもエンド城が1番大きく、歴史も古いらしい。まあ、首都にある城よりも立派な城を作るとか、普通はありえないよな。


 現在、俺達はトオルと一旦別れ、預けていた馬車によってエンド城へと向かっている。

 トオル自身も服屋には馬車で来ており、俺達を乗せてエンド城まで行こうとした。

 しかし、その馬車だけでは俺達全員が乗り切ることは出来なかったため、1度自分達の馬車を取りに戻ることにしたのだ。


 エンド城は大通りを真っ直ぐ進めば着くので、トオル達がいなくても問題はないからな。

 トオルが門番に話を通してくれるので、俺達はエンド城の入り口に向かうだけで良い。


 しばらく馬車に揺られながら、大通りの景色を楽しむ。

 パッと見た限りは江戸時代風の文化なのだが、所々にこの世界独自の文化も見える。

 その最たるものは冒険者ギルドだろう。もちろん、ギルドの建物も和風だし、冒険者達も和服を着ているのだが……。

 少し興味があるから、時間があったら寄ってみようかな。


 さらに馬車を走らせること10分。

 大通りは人口密度が高かったのだが、城が近づくにつれて人口密度も減っていく。

 エンド城が間近になるころには、ほとんど人通りはなくなっていた。


 エンド城に到着した俺達が門番らしき兵士に声をかけようとすると、それよりも先に聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「待っておったのだぞ!さあ、早く!早く入ると良いのだぞ!」


 見れば、城門の横にある兵士の詰所からトオルが出てきたところだった。もちろん、SPも一緒に出てくる。

 何で王子様がそんなところから出てくるのだ。


A:刀を見るのが楽しみで、少しでも早くマスター達を出迎えたかったようです。


 子供か!あ、子供だ。


「若様、あまり勝手なことを言わないでくださいよ!いつも言っていますが、城に入るには色々と手続きが必要なんですよ!」

「良い!余が許すのだぞ!」

「はあ、まったく、若様は本当に刀馬鹿なんだから……」


 門番はため息をつきつつも、それ以上の説得は諦めた様子だった。

 どうやら、トオルのおかげで城に入るために手続きをカットできるようだな。

 しかし、門番とのやり取りを見るに、今回が初めてではないようだ。


「お客人の馬車はどうしますか?出来れば、御者の方にはついて来てほしいんですが」

「ああ、なら僕が行くよ。ご主人様達は先に行っていいよ」

「わかった。任せる」

「早く行くのだぞ!」


 アーシャに馬車を任せて、俺達はトオルの案内で城門をくぐり城の中に入る。

 外観からの予想を裏切らず、城内も純和風の立派な造りになっており、俺、さくら、ミオの3人は特に興味津々である。


「早速、余のコレクション部屋に行くのだぞ!」

「それはいいけど、俺の持つ刀を見なくてもいいのか?」


 トオルの目的は俺にコレクションを見せることではなく、俺の『英霊刀・未完』を見ることにあるはずだ。


「もちろん、そのために行くのだぞ。余のコレクション部屋は刀を見る、保管するのに最適な環境を作っているからだぞ。どうせ見るのなら、最高の環境で見たいのだぞ!」

「なるほど、理解した」


 あまり詳しくはないが、日本刀の保管には注意点が多いと聞いたことがある。

 刀マニアを自称するのなら、最高の環境を望むのは必然と言えるだろう。マニアとは、趣味のためには全力なのである。



 トオルの案内でエンド城を進み、トオル曰くコレクション部屋へと向かっていく。

 道中、城勤めの者とすれ違うこともあるが、俺達が城内にいることについてはノーコメントで、トオルに挨拶だけして通り過ぎていく。


「あら、トオルお兄様、帰っていたんですの?」


 もうすぐコレクション部屋に辿り着くという時に、反対側から歩いてきた少女がトオルに話しかけてきた。

 その後ろには女性版のSP連中が付き従っているし、トオルの事を『お兄様』と呼んでいるから、トオルの妹なのだろうな。


「おお、カオルか。帰ったのだぞ」


 カオルと呼ばれた少女は、トオルと同じく栗色の髪を肩まで伸ばし、色取り取りの花をあしらった華美な着物を着た和風美少女だった。

 服装や髪型(トオルは髪を後ろで1本に縛っている)以外の背丈や顔つきは非常に似ているので、恐らくは一卵性双生児、俗にいう双子なのだろう。


A:そうです。


 さすがに双子云々はステータスに表示されないからな。

 まさしく和風お姫様と言った様子なので、これからはカオル姫と呼ぼう。


「そちらの方々は?」

「うむ、いつものなのだぞ」


 カオル姫が俺達の方を見てトオルに問いかけると、トオルはそれだけの説明で終わらせてしまった。本当にいつもの事なのだな。


「まあ、また珍しい刀を見つけたのですのね……はふあ……」


 俺の腰に差された『英霊刀・未完』を覗き見たカオル姫が、フラリとよろめく。

 すかさず女性SPがカオルの身体を支える。


「……すまんのだぞ。カオルには刺激が強すぎたようなのだぞ」


 トオルが頬をかきながらそんなことを言う。

 それがわかっているのなら、事前に言ってほしいものである。


「カオルの事は任せるのだぞ」

「はっ!」

「余達は早くコレクション部屋に行くのだぞ」

「トオルお兄様!」


 カオル姫を女性SPに任せ、先へ進もうとするトオルをカオル姫が呼び止める。


「わかっているのだぞ」

「なら、いいですの……」


 振り向いたトオルが一言いうと、それだけでカオル姫は納得したようだった。

 さて、今のやり取りにはどのような意味があるんだろうね?


 カオル姫と別れた後、コレクション部屋までは一本道を真っ直ぐ進むだけだった。


「さて、ここが余の自慢のコレクション部屋なのだぞ!」


 そう言って部屋の扉の前でトオルが自信満々に言う。


「この部屋の中は魔法の道具マジックアイテムによって、常に刀にとって最適な環境が整えられているのだぞ。意外と維持費が馬鹿にならないのだぞ!」

「じゃあ、止めるのか?」

「絶対に止めないのだぞ!」


 俺の質問に即答するトオル。

 維持費程度で止めるような生半可なマニアではないようだ。マニアとは、生活水準を落としても趣味を優先するのである。

 魔法の道具マジックアイテムを使う段階で、相当のガチと言う事は明確なんだよな。


「それでは御開帳なのだぞ!」


 トオルが引き戸を開け、部屋の中の様子が明らかになる。


 まず、目につくのは壁にびっしりと並べられた刀の数々だ。壁自体が棚のようになっており、所狭しと刀が飾られているのである。100本は優に超えているだろう。

 部屋の大きさは普通の宿屋を3部屋ぶち抜いたくらいはあるだろう。趣味の部屋と言うには少々大きすぎる気もするが、王族の趣味と考えれば抑えた方なのかもしれない。

 部屋に飾られた刀達はその多くが希少級レアであり、一部秘宝級アーティファクトも混ざっている。そして、1本だけ伝説級レジェンダリーがあるのも驚きである。

 一応、言っておくと一般級コモンは1つもなかった。トオル自身が選んで手に入れたというのなら、中々の目利きと言えるだろう。


「これは中々に壮観な眺めだな」

「すげー、マニアすげー……」


 俺の横で呟くミオの驚きポイントがおかしい気がする。

 さくら、セラ、マリアも興味深そうに周囲を眺めている。ちなみに、ドーラは全く興味がなさそうだ。


「これだけ集めるのは苦労したのだぞ……」


 うんうんと頷きながら、何かを懐かしむような表情をするトオル。

 その集め方が、貴族の権力により無理矢理、とかだったら評価が一転するんだけどね。


「さて、では早速お主の刀を見せてほしいのだぞ」


 トオルの変わり身の早さは評価すべきポイントだな。

 いつの間にかマスクと手袋を身に着けて、刀に手垢が付いたり、つばが飛ばないようにしている。やべえ、本格的だ。そして、俺はそこまでしたことがない……。

 いや、伝説級レジェンダリー以上になると、あまり手入れしなくても劣化しなくなるんだよ。ゴブリンの剣とか使ってた時は、結構こまめに手入れしてたんだよ。ホントだよ!


「ああ。はい、どうぞ」

「うむ、借り受けるのだぞ」


 俺が腰から『英霊刀・未完』を鞘ごと引き抜きトオルに渡すと、トオルはうやうやしくそれを受け取った。

 トオルは子供なので、1人で刀を引き抜くのは大変なのだろう。同じく手袋とマスクをしたSPが鞘を支えて、トオルは鞘から刀を引き抜いた。


「はふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」


 その瞬間、トオルの口から漏れ出したのは凄まじいまでの絶叫だった。

 トオルの身体は外から見て分かる程に痙攣を繰り返し、目は血走って、膝はガックガック震えている。

 いや、反応が激しすぎるだろう。見ろよ、俺以外の面々(SPは除く)もドン引きだよ。

 ついでに言うと、股間の部分が盛大に濡れているので、相当勢いよく漏らしてしまったようだ。王族の粗相を見るのも久しぶりだな。4日ぶりくらいか?


 トオルはしばらく叫び続けた後、力尽きるかのように膝から崩れ落ちた。

 しかし、刀だけは地面に着けず、しっかりと持ったままである。


「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……。頼む、のだぞ……」

「はっ!」


 息を切らしたトオルがSPに刀を渡す。

 SPは刀を鞘に仕舞うと、俺に手渡してきた。


「見苦しいところを見せたのだぞ。服を替えて来るので、しばらくこの部屋で待っていてほしいのだぞ」


 トオルはSPの手を借りつつよろよろと起き上がると、そう言って部屋から出て行った。

 今回は見張としてSPが2人残っている。ああ、それでSPの数が8名に増えていたのか……。SPの人数なんて、大した意味もないから気にしてなかったよ。



 コレクション部屋でトオルのコレクションした刀を見ること10分。


「待たせたのだぞ!」


 服を着替えたカオルがコレクション部屋にやって来た。

 カオルはワクワクした顔をして俺の差している『英霊刀・未完』を見つめている。


「申し訳ないが、もう1度その刀を見せて欲しいのだぞ!」

「……ああ、構わないぞ。別に1度しか見せないとは言っていないからな」

「有難いのだぞ!しっかりと謝礼はするから、安心してほしいのだぞ!」


 もう1度『英霊刀・未完』を手渡し、同じ要領で鞘から引き抜く。


「はふああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 その瞬間、カオルの口から漏れ出したのは凄まじいまでの絶叫だった。

 カオルの身体は外から見て分かる程に痙攣を繰り返し、目は血走って、膝はガックガック震えている。もちろん、股間が濡れているのだから、漏らしているのも間違いない。


「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……。これは……、思っていたよりも……」


 膝から崩れ落ち、息を切らせながらカオルが呟く。

 そして、再び刀の方に目をやると……。


「はふああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 以下略。


 今度は叫び終わっても身体の痙攣が収まらずにビックンビックン震えている。

 目はとろんと虚ろになりながらも熱を持ち、マスクの隙間から涎が垂れている。どうやら、完全にイってしまったようだ。


「もう我慢ならんのだぞー!!!余ももっと刀を見たいのだぞー!」


 そんなカオルの様子を眺めていると、トオルが叫びながらコレクション部屋の扉を開けて中に入って来た。

 トオルは坊ちゃん的な服装から一転、カオルが先程まで着ていた華美な着物に身を包んでいた。後ろからは女性SPが追いかけてきている。


「トオ……カオル!口調!なのだぞ!」

「あ……。しまった、ですの……」


 カオルが慌てて嗜めるが時すでに遅し。

 姫様服で坊ちゃん口調と言う失態をやらかしたトオルが、今更姫様口調に直す。


 さて、そろそろ茶番はお終いでいいのかな?



名前:トオル・イズモ

LV7

性別:女

年齢:14

種族:鬼人

スキル:<剣術LV2><作法LV1><鑑定LV3>

称号:イズモ和国王女


名前:カオル・イズモ

LV7

性別:女

年齢:14

種族:鬼人

スキル:<剣術LV1><作法LV2><鑑定LV3>

称号:イズモ和国王女


一卵性双生児は基本同性しか生まれません。

鬼の双子?どこかで聞いたような気がする?全くの偶然です。

……2Pカラーはカレンとソウラの双子でやったから、今度の双子は入れ替わりネタです。

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