地方交付税とは似て非なる臨時財政対策債の本質

地方交付税とは似て非なる臨時財政対策債の本質
地方交付税とは似て非なる臨時財政対策債の本質(写真=PIXTA) (ZUU online)

■はじめに

 すべての都道府県、市町村(以後、「地方公共団体」と表記)が住民に必要な行財政サービスを提供するに当たって、財源に不足が生じないように国から交付されるのが地方交付である。

 その総額は、2月に国が公表する地方財政計画において決定されている。ただし、国の税収伸び悩みと財政赤字が長期にわたって続くなか、地方交付税に対する法定財源だけでは、地方が必要とする地方交付税の水準を確保することができず、特別な措置を講ずることが毎年度繰り返されている。

 この特別な措置は「地方財政対策」と呼ばれ、対策の主要手段として2001年度に創設されたのが臨時財政対策債である。

 臨時財政対策債が特別視される理由は、地方公共団体が発行する地方債でありながら、地方交付税に準ずる財源として、発行可能額を国が決めていること、調達した資金には使途の制限は課せられないこと、元利償還金に対して、その100%が次年度以降の地方交付税算定過程において国から補填を受けること、にある。

 地方交付税の「分割・後払い」に近い性格づけがなされているのが臨時財政対策債であると言っても、過言ではないであろう。とはいえ、償還に関わる責務を負うのが発行した地方公共団体である点は、他の地方債と何ら変わらない。財源補填は、通常、20年ないしは30年かけて行われるため、償還が満了するまで厳格な資金管理も求められる。

 しかし、臨時財政対策債が地方交付税に準ずる財源だからという理由で、これを地方債総残高から除外した金額を地方公共団体の実質的債務残高とみなして財政状況を説明する資料が多々見られる。臨時財政対策債の残高は2014年度末に48兆円に達し、これを含む地方債総残高145兆円の1/3を占めるに至っている。

 実質的な債務残高から臨時財政対策債を除外する考え方は本当に妥当であろうか。そもそも、わずか14年間で臨時財政対策債がここまで増大したのはなぜなのであろうか。今後、臨時財政対策債はどうなるのであろうか。当レポートでは、元来の地方債としての側面に注意を払って、臨時財政対策債に関するこれらの問題について考えてみたい。

■臨時財政対策債の発行動向

◆地方財政計画における地方交付税と臨時財政対策債

 冒頭で述べたとおり、地方交付税の総額と臨時財政対策債の発行可能総額は、地方財政計画において決定される。この地方財政計画は、国が翌年度の地方財政全体の歳入と歳出の積算を行って、地方公共団体における財政運営の指針として示すものである。

 当然、歳出総額には国の期待する地方行財政サービスの水準が反映される。同時に、歳出総額と歳入総額は一致するように算定されるから、国の期待する歳出水準を実現するのに必要な財源は、その歳入総額の中で保障されていることになる。

 そして、「措置を講じなければ生じた地方財政計画上の潜在的不足額」、いわゆる「マクロの財源不足額」を解消させる特別な措置、すなわち「地方財政対策」を経て、地方交付税と臨時財政対策債(発行可能額)の総額が決定されている。

 このような潜在的な不足額は、地方税だけでなく、地方交付税の財源として法定された国税の収入が十分ではないからこそ生ずるのであり、それを顕在化させないように「地方財政対策」の中で地方交付税の加算措置を講ずることは、赤字国債を増発することで地方交付税の一部を賄うことを意味する。

 潜在的な不足額を賄う費用は国だけでなく、地方も負担しており、それが地方公共団体によって発行される臨時財政対策債である。

 臨時財政対策債が創設される前は、「交付税及び譲与税配布金特別会計(以後、「交付税特会」と略記)」による借入れがその役割を担っていた。しかし、交付税特会による借入れは、究極的には、未来の地方交付税総額からの前借りのようなもので、個別地方公共団体にとっては債務として認識し難く、返済のために財政収支の黒字を増やすというようなインセンティブは働きにくいことが指摘されていた。

 そうした交付税特会借入れに代わる存在として登場したのが臨時財政対策債であり、交付税特会の新規借入れは徐々に縮小され、2007年度には新規借入れが完全停止された。つまり、潜在的な不足額に対して地方が負担する財源は、2007年度以降は大部分が臨時財政対策債となったのである。

 このような背景を踏まえて、地方財政計画における地方交付税と臨時財政対策債(発行可能額)の推移を2000年度以降についてみた。両者ともに年度ごとに変動するものの、地方交付税と比べると、臨時財政対策債の変動は大きい。また、地方交付税に対する臨時財政対策債(発行可能額)の割合は変動を伴いながらも、趨勢的な上昇傾向を示している。

 こうした関係が見られることには、明確な理由がある。「地方財政対策」の対象となる「マクロの財源不足額」が景気変動と密に連動していて、その大部分を加算措置に基づく地方交付税の増額と臨時財政対策債で賄っていることに起因している。このうち、地方交付税の加算措置は国の一般会計における負担分(*1)、臨時財政対策債は地方による負担分である。

 景気が良いときには、地方税も、地方交付税に対する財源となる国税も増加するから、「マクロの財源不足額」は縮小する。一方、景気が悪いときは、地方税も国税も減少するから、「マクロの財源不足額」は拡大する。こうした「マクロの財源不足額」の変動が、その解消策である地方交付税の加算措置と臨時財政対策債に反映される。つまり、地方交付税における加算措置分も、景気が良いときには縮小し、景気が悪いときには拡大する。

 しかし、地方交付税のうち加算措置分以外の部分、すなわち、国税の一定割合を財源とする「地方交付税の法定率分」(*2)は景気が良いときには増加し、景気が悪いときには減少する。そのため、両者を合わせた地方交付税の総額は、結果的に変動が目立ちにくくなる。これに対して、臨時財政対策債(発行可能額)には、景気が良いときには減少し、景気が悪いときには増加する関係が顕著に反映されやすい。

 もう1つ重要なことは、過去に割当がなされた臨時財政対策債の元利償還金の財源として新規の臨時財政対策債(発行可能額)が割当てられる方式が採用されていることである。まず、過去の臨時財政対策債(発行可能額)に由来する当年度の元利償還金(*3)の全額が、新たな発行可能額に計上される。

 そして、「マクロの財源不足額」から、当該額のほか、過去の地方財政対策に起因して後年度に交付税加算することが定められている額(法定加算)、リーマン・ショック後の対応として地方の借金を抑制する観点から特別に交付税に加算される額(別枠加算)などが控除された残余が、「国と地方が折半すべき財源不足額」となる。この1/2の金額も新たな発行可能額に計上される。つまり、2種類の臨時財政対策債(発行可能額)の合計額として、その総額が決まる。

 折半額に対応する臨時財政対策債(発行可能額)は、景気とともに循環的に変動する部分が大きいが、自らの元利償還金に対応する臨時財政対策債(発行可能額)は発行残高の増大に伴って増加していく。しかも、2001年度以降の平均的な「マクロの財源不足額」はバブル崩壊後の1990年代と比べても大きく、臨時財政対策債(発行可能額)の総額は短期間に増大することとなった。

 このうち、元利償還金に対応する臨時財政対策債発行可能額は、2013年度以降、発行可能総額の過半を占めるまでに至っている。

 過去に割当がなされた臨時財政対策債の元利償還金に対して、地方交付税の増額など現金の形での財源が国から交付されるルールが採用されない限り、臨時財政対策債残高の増大に伴って、元利償還金への対応で割当てられる発行可能額は不可避的に増えていく。したがって、今後も、臨時財政対策債の発行可能総額は、循環的に変動しつつ、趨勢的に増大していくものと考えられる。

◆個別地方公共団体における臨時財政対策債の発行

 個別地方公共団体にとっては、すべての地域、すべての地方公共団体に共通して求められる地方行財政サービスだけでなく、地域独自の歳出や任意の歳出を賄ううえで、特に重要な財源と言えるのが、資金使途に制限が課せられない地方税、地方交付税と臨時財政対策債である。

 とりわけ、税収に恵まれない地方公共団体に対して、国から交付される地方交付税や国から発行可能額が割当てられる臨時財政対策債は、なしでは済ませられない財源と言えるであろう。

 これまで述べた地方交付税総額と臨時財政対策債の発行可能総額をマクロの地方交付税、マクロの臨時財政対策債と呼ぶならば、個別地方公共団体に対する地方交付税額および臨時財政対策債発行可能額はミクロの地方交付税、ミクロの臨時財政対策債と呼ぶことができる。

 ミクロの地方交付税および臨時財政対策債とこれらを算定するための詳細なルールが決定されるのは例年7月末であり(*4)、それに5ヶ月先行するかたちで、マクロの地方交付税とマクロの臨時財政対策債が決められている。つまり、マクロの金額が先に決まり、それと整合的になるようにミクロの金額、ミクロの算定ルールが後で決まっており、本質的には、マクロの総額を按分したものがミクロの金額となっている。

 マクロの発行可能額からの按分ルールに関して、2012年度までは人口に基づく算式が採用されていたことで、不交付団体にもミクロの臨時財政対策債発行可能額が付与されていた。そのため、本来は財源に余裕があるはずの不交付団体の中にも臨時財政対策債を起債する団体が見られた。

 しかし、2013年度以降は交付団体のみに発行可能額が付与される制度へと改められた。具体的には、都道府県と市町村に分けて、ミクロの財源不足額の集計値に占める当該地方公共団体のシェアに基づいて、マクロの発行可能額が按分されるルールが採用されている。

 いずれにしても、個別地方公共団体にとっての臨時財政対策債は、発行可能額が外生的に与えられるものであり、選択することができるのは、その範囲内で現実の起債額を決定することと、償還年限等の発行条件を設定することのみである。

 そこで、都道府県と市町村に分けて、臨時財政対策債の発行可能額と実際の起債額を集計した。折れ線グラフが発行可能額を、棒グラフが実際の起債額を示している。まず、発行可能額については、2007年度までは都道府県全体と市町村全体に付与された金額がほぼ同額であったが、2008年度以降は都道府県に加重している。

 一般に、都道府県の方が市町村よりも財政規模が大きく、市場公募債であれ、銀行等引受債であれ、市場から円滑に資金を調達する能力や信用力は高いと考えられるから、より多くの発行可能額を都道府県に割当てる「都道府県シフト」は適切なものであったと言えるであろう。

 また、発行可能額と実際の起債額の乖離に着目すると、次の特徴が指摘できる。第1に、都道府県の方が市町村よりも乖離幅が小さいことである。第2に、2013年度以降は、両者ともに乖離幅が縮小し、都道府県については乖離がほとんどなくなっていることである。

 2013年度以降の乖離幅縮小は、臨時財政対策債の発行可能額が交付団体のみに付与されるようになった制度改正によるところが大きい。不交付団体は、本来は臨時財政対策債を必要としないはずであり、2012年度以前の時期において、発行可能額が割当てられているからといっても、堅実な財政運営を行う地方公共団体であれば、起債しないという選択が妥当な選択であったはずである。

 恒常的な不交付団体が臨時財政対策債を発行した場合、その元利償還金に対して、国から財源補填が行われる効果は実質的に生じないから、償還時にはその全額を自ら調達する財源で賄わなければならない。その意味で、どのような分野にどれだけ歳出するのかという将来の選択の範囲を狭めてしまう。したがって、不交付団体が臨時財政対策債を発行する可能性を閉ざす制度改正は適切なものであったと言える。

 これに対して、交付団体にとっては、臨時財政対策債は地方交付税の代わりとでも言うべき財源である。もし、国の税収が潤沢で、地方が必要とする地方交付税総額を国税に対する法定率分だけで賄うことができるほどあれば、地方財政計画上の潜在的な不足額は発生せず、その解消策としての臨時財政対策債を必要とすることもないはずである。

 このように、個別の交付団体にとっては、臨時財政対策債は地方交付税のまさしく「代わり」に近しい存在であるから、発行可能な上限まで起債する地方公共団体が多いことが想像される。

 都道府県の場合、制度としての臨時財政対策債が創設された2001年度以降において、常に不交付団体であったのは東京都だけであり、他は2006~08年度に限って、愛知県が該当するのみである。東京都を除いた46道府県ベースで発行可能額に対する起債額の割合を計算すると、2001年度を除いて、99.5%以上の値を続けている。一方、市町村全体の発行可能額に対する起債額の割合は、2001~10年度においては85%前後であった。

 マクロの発行可能総額をミクロの発行可能額へと按分する際のルールが、人口に基づいて不交付団体にも全面的に付与されていた2009年度以前の方式から、ミクロの財源不足額に基づいて交付団体にのみ按分される2013年度以降の方式へと、段階的に移行したのが2010~12年度の期間であり、発行可能額に対する起債額の割合は緩やかに上昇していった。そして、この割合は、2013年度以降は94%前後となっている。

 注目すべきは、国からの交付資金を必要とするはずの交付団体において、6%ではあるが、臨時財政対策債の発行が抑制されているという事実である。2013年度は53もの交付団体が起債を全く行わなかった。交付団体による起債抑制は、臨時財政対策債が地方交付税に近しい存在であるとしても、地方交付税とは異なるものであることを反映している可能性がある。

 そこで、次節では、臨時財政対策債の償還と残高、元利償還金とそれに対する国からの交付税措置に焦点を当て、臨時財政対策債が地方交付税とは似て非なる存在であることについて考えてみたい。

■臨時財政対策債の償還と残高の推移

◆臨時財政対策債の元利償還金に対する交付税措置の真実

 臨時財政対策債が地方交付税の「分割・後払い」に相当する財源としてみなされる理由は、第1に地方財政計画策定時の「地方財政対策」を通じて、マクロの地方交付税とマクロの臨時財政対策債が一体のものとして決定されること、第2に、臨時財政対策債の発行によって調達した資金の使途には制限が課せられないこと、第3に、後年度の地方交付税算定過程において、臨時財政対策債の元利償還費の100%が実質的に国から補填されること、いわゆる「元利償還金に対する交付税措置の割合が100%であること」の3点に尽きるであろう。

 特に、臨時財政対策債も起債した地方公共団体の明確な債務でありながら、これを地方債の総残高から控除した金額のみを実質的な債務としてみなす立場は、第3の点を拠り所とするものであろう。しかし、「元利償還金に対する交付税措置」については、注意すべき点が多々ある。

 第1に、この措置額は実際の臨時財政対策債の起債額ではなく、発行可能額に基づいて算定されるため、発行可能額を上限としてどれだけ起債するのかという選択は、措置額には全く影響を与えないことである。つまり、「交付税措置」を受けるために起債する必要はないということである。

 第2に、「交付税措置」といっても、発行可能額から交付税額が直接算定されるわけではないことである。ミクロの地方交付税は、「基準財政需要額-基準財政収入額」という算式で計算されるが、この基準財政需要額に臨時財政対策債の元利償還費を算入する方式を採っている。

 したがって、交付団体にとっては、この算入額の分だけ地方交付税が増額される効果があるが、基準財政需要額と基準財政収入額の差額が負である不交付団体においては、元利償還費算入によって差額のマイナス幅が拡大するだけであり、国から財源が補填される効果は実質的には生じない。

 また、前節で述べたように、個別地方公共団体に対しては、マクロの臨時財政対策債発行可能額が按分されてミクロの臨時財政対策債発行可能額として割当てられており、ミクロの地方交付税算定の前段階で、基準財政需要額から予めミクロの臨時財政対策債発行可能額が控除されている。

 しかも、マクロの発行可能額には、すべての地方公共団体の臨時財政対策債の元利償還金相当額が反映されている。そのため、ミクロの地方交付税が増額される効果とミクロの臨時財政対策債発行可能額が増額される効果が合成されて一体のものとなったのが、この「交付税措置」であり、2つの効果をミクロレベルで分解することはできない。

 第3に、この交付税措置がきわめて長い期間にわたって実施されることである。ある年度に割当てられた臨時財政対策債発行可能額の元利償還費は、翌年度以降の15年、20年、ないしは30年をかけて、全額が初めて回収できるというものである。

 そして、実質的な財源補填効果があるか否かは、発行可能額が割当られた年度において交付団体であったか否かではなく、後年度の措置時点において、交付団体であるか否かに依存する。このため、年度によっては交付団体にも不交付団体にもなる可能性がある地方公共団体にとっては、実質的な財源補填効果があるか否かは事後的にしかわからない。

 第4に、国から補填される元利償還費、すなわち、基準財政需要額への算入額は、現実の償還実績額ではなく、国が想定した標準的な償還方式・償還年数の下での理論償還費として算定されることである。

 通常は、据置期間3年の実質17年間、もしくは実質27年間の元金均等償還方式が想定されている。そのため、現実の償還期間よりも措置期間の方が短いケースや満期一括償還方式で起債したケースなど、措置額が現実の償還額(満期一括償還方式に対する減債基金への積立額を含む(*5)。

 以後、同じ)を上回る年度が多々生ずる可能性がある。この差額を将来の償還に備えて積み立てずに、他の歳出に充ててしまえば、国からの措置期間が終わった後は、自主財源での償還を行う必要が生ずる。このように、臨時財政対策債は、地方交付税とは著しく異なる特質を備えている。臨時財政対策債が地方交付税と同等と言えるのは、恒常的な交付団体に対する国からの財源補填効果を、長期で見た場面に限られる。

◆臨時財政対策債の現実の償還額と交付税措置額との関係

 臨時財政対策債の元利償還費に対する後年度の交付税措置が国が想定した標準的な償還方式・償還年数に基づく理論償還費方式で行われる以上、現実の償還額との間で著しい乖離が生じていないかどうかは、財政状況を正しく認識するためにも、必ず問われるべきものである。

 実は、個別市町村に関しては、地方債種類毎の元利償還実績、地方債残高や元利償還費に対する交付税措置額のデータは全く公表されていない。それでも、市町村全体の集計値、都道府県全体の集計値として、詳細なデータが部分的に公表されており、おおまかな傾向は把握できるはずである。

 臨時財政対策債の現実の償還額と交付税措置額について、各年度末で2001年度以降の累積額を計算し、その差額の推移を見た。交付税措置額には、交付団体と不交付団体、起債団体と起債しなかった団体を問わず、全ての地方公共団体の金額が集計されているのに対して、現実の償還額は、起債してその後に償還を行った地方公共団体の金額だけが反映されている。

 現在の東京都には発行可能額は全く付与されておらず、また、割当があった時期においても起債は全く行っていないが、過去に割当てられた発行可能額に基づいて理論償還費が現在も算定されているため、交付税措置額を都道府県全体の集計値から控除したのが、46道府県ベースの値である。

 これを見ると、2003年度までは、市町村、47都道府県、46道府県のいずれにおいても、「現実の償還累計額から交付税措置累計額を引いた差額」は正の値を示している。

 その理由としては、次のように考えられる。第1に、交付税措置が始まったのが2002年度以降であるためである。第2に、理論償還費算定に際しての標準的な償還年数として3年間の据置期間が想定されているため、当初は利払い費しか措置されなかったのに対して、実際には据置期間なしの償還方式を選択した地方公共団体があったとみられることである。

 しかし、その「差額」は徐々に負の値に転じ、2007年度以降は、市町村、47都道府県、46道府県のいずれにおいても、現実の償還累計額が交付税措置累計額を下回る状況が続いている。この結果は、理論償還費算定に際して想定された償還年数よりも長い償還年数での起債を行った団体や、満期一括償還方式で起債した後、減債基金への積立を十分に行わなかった団体が存在することを示している。

 注目されるのは、46道府県ベースで、「差額」のマイナス幅が2009年度をピークに縮小に向かっていることである。47都道府県ベースとの違いは、起債をしなかった東京都の分も集計対象に含めるか否かであり、含めた場合には、差額のマイナス幅が実勢よりも大きめに計算される。つまり、実勢を示すと考えられる46道府県ベースにおいて、着実な改善が進んでいることになる。

 こうした結果をもたらすには、理論償還費算定における償還年数よりも短い償還年数で起債する団体が増えたか、満期一括償還方式での起債を行った後、減債基金への積立を怠っていた団体が積み増しを行ったかのいずれか、もしくは両方が必要であり、都道府県全体として財政運営の堅実さが増していると評価できる。

 他方、市町村については、2013年度時点でも「差額」が拡大している。交付団体のみに限定して「差額」を計算することができないために実勢よりもマイナス幅が大きめに計算されており、本当に悪化が進んでいるとは限らない(*6)。状況を正しく把握するために、市町村毎のデータ公表が強く望まれる。

 このように、単純な集計値に基づく分析には限界があることも事実であり、個別団体ごとのデータが利用可能な都道府県について、46道府県のうち、各年度末において累積した不足額がある(現実の償還累計額が交付税措置累計額を下回る)団体のみを集計して、46道府県合計ベースと対比させた。

 これを見ると、不足団体に限れば、マイナス幅が依然拡大している。2013年度末の「差額」は4010億円であり、46道府県全体の措置累計額の36%に相当する大きさである。46道府県合計ベースでは不足額が縮小している事実と合わせると、個別道府県においては、堅実な償還という意味での改善と悪化の2極化が進みつつあることが推測される。

 元利償還費に対する国からの交付税措置があるといっても、起債した後は自らの責任において資金管理しなければならない。そのことを踏まえて、堅実な償還を行う団体が増える一方、「償還不足」の状況を続ける団体も依然残っている。

 少なくとも、地方債総残高から臨時財政対策債残高を控除した金額を実質的な債務残高とみなす考え方が問題なく適用できるのは、こうした「償還不足」がない地方公共団体に限られるはずである。

 不足がない団体においては、元利償還金のうち元金部分に対する今後の交付税措置見込額が臨時財政対策債の現存残高を上回るが、不足のある団体においては、今後の交付税措置見込額は臨時財政対策債残高よりも少ないと考えられるからである。

◆臨時財政対策債残高の動向

 臨時財政対策債の残高は、新規の起債額と前節で検討した現実の元利償還額のうちの元金部分との差額分だけ、毎年度増えていく。

 図表-7に示すとおり、都道府県と市町村における臨時財政対策債の残高は、依然増大を続け、両者を合わせた総額は2014年度末に48兆円に達している。しかし、より重要なのは、他の地方債と合算した全地方債の総残高が安定傾向にあり、2014年度は前年度から微減して145兆円にとどまったことである。

 臨時財政対策債以外の地方債にも元利償還金に対する交付税措置があり、措置額と比べた現実の償還額を臨時財政対策債において改善させるかわりに、他の地方債においては悪化させている地方公共団体が一部で見られる。それでも、地方債全体としては償還が着実に進み、全地方債残高の水準が抑制されている。

 臨時財政対策債は特殊な地方債ではあるが、地方債であることには変わりなく、臨時財政対策債を含むすべての地方債について動向を見守ることが最も重要なことであろう。

■おわりに

 当レポートでは、広義の地方交付税とみなせる部分が強調されて、他の地方債とは別扱いされることも多い臨時財政対策債について、元来の地方債として側面に注意を払って、発行と償還の動向を見てきた。

 元利償還金に対する交付税措置と現実の償還額の関係については、2001年度以降の累積額で見た場合に、前者が後者を上回るという「償還不足」の度合いが縮小するなど46道府県全体では2010年度以降に改善が進んでいる。他方、この不足が拡大を続けている団体もあり、2極化が示唆される。

 また、発行額に関する地方公共団体の選択は、国から付与される発行可能額を上限として起債額を決めることのみであり、マクロの発行可能総額がどのように決まるかに依存する部分が大きい。地方交付税のための法定財源としての国税が十分にはない中で地方財政計画上の財源不足を顕在化させないための手段が臨時財政対策債であり、その発行可能額は景気変動に伴って拡大と縮小を繰り返す。

 問題は、過去の臨時財政対策債の元利償還費のために新規の臨時財政対策債が割当てられる仕組みが採用され続けていることであり、この仕組みが改められない限り、臨時財政対策債は今後も趨勢的に増加していく。

 今後も地方財政計画の規模が変わらなければ、全額が措置される臨時財政対策債の元利償還費が増える一方で、それ以外の歳出に対する交付税措置額が減る可能性が高い。増大が続く臨時財政対策債残高を前にしたとき、憂慮すべきは、償還の問題より、この点かもしれない。

(*1)地方交付税に対する各種の加算措置は、「折半前財源不足額」に対応する「法定加算」と「別枠加算」、「折半対象財源不足額」に対応する「臨時財政対策加算」に分類される。
(*2)地方交付税法の改正によって、2015年度以降は、「所得税および法人税の33.1%、酒税の50%、消費税の22.3%と地方法人税の全額」が「法定率分」と定められている。
(*3)後述のとおり、元利償還金実額ではなく、国が想定した標準的な償還方式と償還年数に基づく理論償還費を指す。また、政令市を除く一般市町村においては、臨時財政対策債を含めた地方債の償還方式は、通常、満期一括償還方式ではなく、元金均等返済による定時償還方式が設定される。据置期間がなければ、起債後の半年後から元金償還が始まる。
(*4)地方公共団体は、独自にこれらの見通しを立てたうえで策定した予算を議会で議決し、新年度入り後に国から通知された額と見通し値との乖離の状況に応じて、補正予算での対応を行うものとみられる。
(*5)満期一括償還方式地方債の償還元金を減債基金へ積み立てた場合、決算統計上は償還として扱われ、公表ベースの積立金には全く反映されないかわりに、その分だけ地方債残高が減額される。また、現実の減債基金における満期一括償還方式地方債分の積立金データは一般公表されていない。
(*6)2-2節で述べたとおり、市町村については、交付団体であっても、臨時財政対策債を発行可能額の上限まで起債しないケースがあり、これも「差額」を拡大する要因となる。堅実な償還が「不足を生じさせない」行為であるとしたら、必要償還額を減少させる起債抑制は「資金剰余を生み出す」行為であり、拡大した「差額」には、見掛け上の数字とは反対に「改善を超えた改善」が一部含まれていることになる。

石川達哉
ニッセイ基礎研究所 金融研究部

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