挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
23代目デウス・エクス・マキナ ~イカレた未来世界で神様に就任しました~ 作者:パッセリ

第一部 神なる者、方舟に目覚めしこと【更新中】

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
13/76

#3 ZAP!!

 幾度かの遭遇、幾度かの戦闘、そして死人。


「おのれ異端者め!」

「はいご苦労さん」

「ぎゃあーっ!」

「生かしておく意味はありません」


 ×複数回ループ。

 割と立て続けに敵の兵士が出て来たけれど、20秒もあれば片付くので、実質的に各個撃破状態になっていた。


 手短な拷問を繰り返した結果として分かったのは、あの戦いが基地内でもトップシークレットらしいという事だけだ。責めに屈しても、みんな『知らない』としか言わない。

 要するに情報ゼロだ。


 そんなわけで俺たちは、所々にある構内地図を頼りに、捕虜の一時的監禁に使えそうな部屋をしらみつぶしに探していた。


 だが、そうして探索していても、それらしい場所は見つからない。

 途中で一回、厚さ50cmの隔壁で前後をふさがれて暴徒鎮圧用の神経ガスを流し込まれたんだけど、魔法コマンドで隔壁をぶち抜いて事なきを得た。


魔法コマンドで都合良く探せないのかよ」

『捜索対象者のDNA情報などがあれば瞬時に発見可能ですが、そうでない場合は基本的に、条件入力を行ったうえでの広域検索となり、精度は落ちます。

 また、重要な設備は魔法コマンドに対する防護が施されていることが少なくありません。捕虜収容区画は脱獄防止や外部からの干渉を遮断するため……』

「すごいようで絶妙に不便なのな」


 うんざりし始めた俺の独り言を拾って、もはやどこから聞こえてるのか分からない『天の声』が答える。抑揚の無い合成音声。悪の大企業の冷徹な社長秘書みたいな雰囲気。

 世界運営支援システムを名乗るコイツは、『神様』(つまり今は俺なんだけど)を支援するため、方舟のメインフレームに存在するAIだ。榊さん曰く『天使様アンヘル』。なのでとりあえずアンヘルと呼ぶ事にした。東京タワーに刺さって地球滅ぼしそうな名前だ。


「なぁ、アンヘル。本当にこの建物で間違いないのか? 基地って、いくつか建物があったけど……」

鋼鉄執行官アンテノーラの手に掴まれたまま、この建物に連れ込まれたところを最後に、救助対象者の姿は確認できていません。

 私は賢様から半径10km圏内の同階層に限っては、賢様の権能である『千里眼』を借り受けた情報収集が可能です。これは上空からの視点となりますゆえ、当該人物が建物外に出ていれば、私が追跡可能です。それらしき護送車輌なども確認できませんでした』


 千里眼。

 すなわち、コロニーの天井に無数に備え付けられた監視カメラによる、世界監視。

 神様は、このコロニーのシステムを自分のために使うことができる。って言うかそうやって神様の力を再現してるんだな。今は使い方を勉強するどころじゃないからアンヘル任せである。


「ならここに居るはず……つっても、地下から別の建物に連れてかれた可能性なんかはあるよな。そんな道があればだけど」


 時間との勝負、かも知れない状況。

 出たとこ勝負で突っ込んだけれど、ここは当初の方針にこだわらず、柔軟な判断をすべき場面鴨知れない。


「基地の一番偉い人を探すべきかな……」


 まさかトップまで何も知らないって事はないだろうし。

 と、なると司令官室か……それともこの状況なら、デカいモニターと大量のパソコンが並んだ、NASAの打ち上げ司令室みたいな部屋で命令してたりするのか?

 どのみち、それは別の建物か。


「アンヘル、なんか一番偉い人が居そうな建物を……」


 探してくれと言いかけて、俺は妙なことに気がついた。


「神様?」

「……急に、静かになったな」


 榊さんの声が、異様にクリアに聞こえた。


 さっきまで、辺りは騒然としていた。

 兵士が立て続けに襲いかかってきて、非戦闘員はドタバタと避難し、上を下への大騒ぎだったのだけど、足を止めてみれば不気味なくらい、一切の音がしない。


『……賢様。現在居る建物の外に、兵士が集合しています。巨大人型兵器や戦車などの動きも』

「何?」


 そう言われて耳を澄ませば、どこからか、ガシンガシンと地面を踏みしめる音と、機械の駆動音が聞こえてくる。

 窓から外を見た俺は、巨大ロボの砲口と目が合った。


「……え?」


 *


 轟音と共に鋼鉄執行官アンテノーラの主砲が放たれる。


 堅牢なはずの基地の建物も、さすがに至近距離から砲撃を受ければひとたまりも無く、合成トーフケーキをスプーンですくったみたいにえぐり取られ、瓦礫と化す。


「よし、成功だ!」


 鋼鉄執行官アンテノーラ三機が一斉に砲撃し、侵入者が居るはずの区画を消し飛ばすと、ナムはガッツポーズの代わりにひとつ手を叩いた。周囲からは溜息のようなどよめきが上がる。

 基地の作戦司令室は、賢が想像したものほぼそのままで、ひな壇場の席に端末とオペレーターが並び、正面に巨大なモニターがある部屋だった。

 画面の中では、砲撃で崩された基地の建物がもうもうと土煙を立てている。既に人員はほぼ退避しているのだ。侵入者と交戦して負傷した兵士もまだ少し残っていたが、異端者を倒すための尊い犠牲として祝福的結末を迎えたので、それはそれで概ね問題は無い。


「本当によろしかったのですか? 総司令部への確認も無く、このような……」


 気遣わしげな副官に、ナムは軽く手を振って応じる。


「構わん。高司祭殿が、この戦いによる出費は特別費で無制限に補填すると……基地が全部消し飛んでも建て直してやると確約してくださったのだ。……ああ、いっそ更地にして、全部新品にするのもいいかも知れんな」


 ナムの悲哀と実感が篭もった軽口に、オペレーター達から失笑のような笑いが漏れる。

 この基地は、周辺に強力な魔物が出る事も少なく、暴徒(民主主義者とか)の相手をすることも少なく、重要度が低い基地と見なされ、予算は潤沢と言えない。

 仮にも教会の組織なのだから、威信にかけて外面を取り繕っているが、内面はと言えば、いつシャワーの修理予算を計上するかで数時間悩むような有様だった。


「ところで、その高司祭殿はいずこへ?」


 教会本部の高官という特権をいいことに、作戦司令室にまで好き勝手に出入りしていた御仁だが、今この時ばかりは姿が見えない。

 訝しむ副官の言葉を聞いて、ナムも首をかしげた。


「本部と連絡を取るとおっしゃっていたが、そう言えばなかなか帰って来ない……」

「し、司令官!」


 正面モニターを見ていたオペレーターのひとりが悲鳴のような声を上げる。


「……なんだとぉ!?」


 一拍遅れて、立ちこめる土煙の中にそれ・・に気がついたナムも、思わず、素っ頓狂な声を揚げた。


 *


 俺たちを残して建物の一部が完全に消失したので、建物の断面図がよく見える。床と天井の間だった場所から千切れたパイプがコンニチワしてる光景とか、漢のロマンと言っても過言ではないのだが、のんびり見物してる場合じゃないな。


 俺と榊さんは、光を照り返して二十面体ダイスみたいに輝くバリアに覆われて浮遊している。もちろん、俺の魔法コマンドである。


「……無茶苦茶しやがる。お前らの基地だろーが」


 土煙の向こうに巨大ロボの姿を見て、俺は毒づいた。

 鋼鉄の胸板には『神罰』の文字。何が神罰だっつーの。


 ばっくりと建物が抉られた中を、俺たちはガクガク下降していた。

 正確には、浮かんでいようとしたんだけどなんかそれが上手くいかなくて、バリアを張ったままちょっとずつ落ちてくしかない感じ。


「クソ、なんか飛行が安定しねえ」

『現在、賢様は、飛行と防御の多重詠唱パラレルコマンド状態にあります。複数の魔法コマンドの同時使用は、純然たる技術であり、いかに神として無限の魔法力コマンドリソースを持つ賢様でも誤魔化しは利きません』

「それでか……って事は、攻撃と同時に防御するのも難しいのか?」

『はい。無意識に常時発動できる身体強化を除いて、ですが』


 ぬう。

 こちとら魔法使い歴1時間くらいという超絶ビギナーなんだから、そういう練習が必要そうなやつはたぶん無理だ。

 まずは防御を安定させるため下へ降りるとして……その先どうするか。

 あれを攻撃中に反撃されたら、榊さんは当然として、俺もヤバイかもしんない。


「つまり……やられる前にやれって事か」


 *


 作戦司令室は混乱していた。

 より正確に言うなら、そこに居た全員が混乱していた。


「おかしいぞ! あれだけ大砲をぶち込んで、何故生きている!? あれを防ごうと思ったら魔導兵サイでも10人、いや20人は必要に…………」


 相手が魔術師ウィザードだと分かっていたからビームなどのエネルギー兵器ではなく、魔法コマンドでは防ぎにくい、大質量による攻撃を選んだのだ。

 実弾を装填する大口径砲に加え、崩落する建物そのものもダメージを与える。……はずだった。

 しかし、どうだ。敵は血の一滴も流していない。


 立ちこめる土煙を裂くように、額の魔晶石コンソールを輝かせ、侵入者の少年は、ゆっくりと地へ降り立つ。

 それは、図らずも宗教画のごとく畏敬の念を呼び起こす光景であった。


「か、神…………」


 あまりの事に呆然としていたオペレーターのひとりが、モニターを見ながら言葉を零した。

 当然ながらその一言はナムの逆鱗に触れる。


「きっ、貴様! 不敬罪で銃殺されたいのか!? あれが神であるわけがなかろう!

 神とは! 昨春にお隠れになったハルトムート様であり!!

 明日! 神格化なされるシャルロッテ様に他ならぬ!

 あれは神の真似事をしているだけの冒涜的なカルト小僧だ!!」

「申し訳ございません!」


 だが、もしあれが神でなければ何なのだ。という感想それ自体は、自然なものだろう。

 軍事に携わる彼らは、魔法コマンドによる戦闘もよく知っている。その常識から外れた力を見せつけられたのだ。


「ぐ……奴が生きているのは、偶然だろう。瓦礫が盾になって、うまく衝撃が伝わらなかったとかな。

 今度は丸裸だ。奴が動き出す前に、再度、全力で攻撃する!」

「はっ!」


 偶然?

 どれだけ運が良ければ(あるいは悪ければ)建物ごと吹き飛ばされて無傷でいられるのだろう。

 それは命令を下したナム自身の頭にもある疑問だったが、偶然だと信じたかったし、周囲の者達も同じだった。


 *


 ウィンウィンと駆動音を立てて、巨大ロボの前身に備え付けられた武器が俺たちの方へ向けられる。


『敵、砲撃準備中と推測』

「それっぽいな……」


 微妙に位置取りを調整し、三機が等間隔で俺たちを取り囲んでいる。

 今度こそ仕留める気らしい。

 ちなみに、その背後には戦車みたいなのとか、兵士とかがスタンバってるという状況。


「とりあえずデカいのを潰したいんだけど、あれ、どの辺に人が乗ってるんだ? できればそういうとこ避けて攻撃したいんだ」


 どうしようもない時は別として、やっぱり人殺しはできれば遠慮したい。

 俺のために死ぬ奴なんて、少ない方がいいに決まってる。

 味方だろうが敵だろうが、それは同じ事だ。


鋼鉄執行官アンテノーラは無人兵器です。基地内の操縦室にコクピット状の操縦席を設け、そこから遠隔操作されています』

「マジで?」

『有人である場合には、急激な機動時にG加重の問題が発生し、また撃破された場合にパイロットを失う可能性が高いためです』

「じゃ、好きにやっていいって事だな」


 手加減無用なら幸い。

 俺はゆるく両手を広げ、集中する。


 魔法コマンドは、思考によってナノマシンに命令する。つまり、何をどうしたいのか、鮮明にイメージできるほど良いし、そのために呪文やアクションを混ぜるのは普通に行われているらしい。


「……潰れろ!」


 イメージを魔晶石コンソールに伝えるため、俺は広げた手をグッと握った。


 がぎょん!


 奇妙な音を立てて、鋼の巨影は消失した。

 後に残ったのは、多様な金属資源がたっぷりと含まれた、バランスボールくらいの大きさの資源ゴミスクラップだった。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。