「ポケモンGO」や「イングレス」など、位置情報を使ったゲーム(略して「位置ゲー」)のパイオニアといえば、米Niantic(ナイアンティック)だ。2018年5月、Nianticの日本法人Niantic Japan内に新たな独立開発部隊「Tokyo Studio」を設立するなど、Nianticは技術に関する投資と人材採用を加速している。
6月には、AR(拡張現実)のための技術である「リアルワールド・プラットフォーム」を発表し、イギリスの関連ベンチャーであるMatrix Mill社の買収も発表した。
Nianticはどのような技術戦略を考えているのだろうか? 同社アジア統括本部長の川島優志氏と、日本法人所属のエンジニアたちへのインタビューから探った。
初の独立開発部隊「Tokyo Studio」設立、独自作品を生み出す
サンフランシスコに本社を持つNiantic。最高経営責任者(CEO)のジョン・ハンケ氏は、米グーグルで地図や位置情報を使ったアプリケーション群を作った「Google Geo」チームを創設した人物だ。
Nianticもグーグル内のラボとしてスタートした後、独立した。開発部隊は本社に集約していたが、今回初めて本社外、しかも日本に新しい開発部隊を持つことになる。それが「Tokyo Studio」だ。チームは現在6名だが、2018年末までに倍に増やすことを予定している。
Tokyo Studioの代表である野村達雄氏は、Tokyo Studio設立の目的を「ポケモンGOやイングレスのような既存のものでなく、まったく新しいタイトルを、新しい技術を使って開発すること」と説明する(現在は開発初期段階であり、サービスの開始時期はもちろん、内容についても一切公開されていない)。
Nianticは現在、米ワーナーと共同で、ハリー・ポッターを題材とした「位置ゲー」を開発中だ。
Nianticが手がける「ハリー・ポッター」のゲーム。開発は発表されているが、サービスイン時期、日本での正式タイトル名など、未確定の部分は数多い。
また、冒頭で紹介した、新しいAR技術を使ったゲームの準備も進めている。同社はゲームの種類を拡充する傾向にあり、その中の一つとして、「日本的なIPを、日本やアジアのエンジニア/デザイナーチームで作った新作」にしようとしている。位置情報を活かす、というコンセプトは同じでありつつも、新しい遊び方を狙ったゲームを作ることで、ユーザーとの関係をより幅広いものにしようとしている。
ポケモンGOが「AR」である本当の意味
Nianticアジア統括本部長、川島優志氏。
NianticのポケモンGOは、累計ダウンロード数が8億を超える圧倒的な成功を達成した。
一方で、そのヒットを受けて多くの「位置ゲー」が企画されたが、Nianticほどの規模にはなっていない。Nianticだけが、なぜここまで成功したのか?
7月31日に行われたTokyo Studioの記者説明会で、メンバーの一人はNianticの特殊性として「ゲームのためにゲームをつくっているわけではない」と説明した。
その背景にあるのは、「Nianticは(ゲーム会社ではなく)テックカンパニーである」(川島氏)という性質であり、技術を使って人とコンピューターの関係性を変えるというミッションが、彼らの根底にある強い動機になっているからかもしれない。
川島氏:Nianticは2012年にスタートアップ企業として生まれましたが、その時から、CEOのジョン・ハンケも含め、一貫したミッションと考えているのが「Adventures on foot with others」(みんなと歩いて行ける冒険)です。本当は世界は偉大なのに、我々はそれを忘れてしまっているんじゃないか、という危機感がありました。
(ハンケ氏がかつてグーグルで関わった)「Google マップ」「ストリートビュー」は、その場にいなくても、気になる場所の様子が分かるものでした。これはいわば「VR(仮想現実)的」です。しかし、そうしたアプローチでは、現実世界で我々が体験している「解像度」になかなかたどり着きません。ならば、現実の場所に実際に足を運んでもらうきっかけとなるテクノロジーを作りたい、と考えました。「(位置情報の技術を)AR的に使いたい」と考えたんです。
ARというと我々は「現実世界にCGのキャラクターが重なっている」ビジュアルをイメージする。ポケモンGOにもARモードがあり、象徴的な機能になっている。
だがそもそも「現実世界にCGのキャラクターが重なっている」ことだけがARではない。Nianticは早い段階からそれに気づいていた。
川島氏:ARの体験とは「現実にレイヤーを重ねること」であり、実際にはそこにはないにも関わらず、現実のものとして知覚できることが大切です。それは何も、「現実世界にCGのキャラクターが重なっている」ことだけを指しているのではありません。
ポケモンGOやイングレスには、「ポケストップ」や「ポータル」というものがあります。例えば、現実世界の「灯台」がポケストップになれば、地図上の灯台にゲームの中からのみ分かる情報が付加されます。結果、その灯台はただの灯台ではなくなります。ポケストップやポータルになることで「そこに行ってみたくなる価値」が生まれるのです。
Nianticは、現実世界の偉大さの力を貸してもらい、そこに実際に(屋外に)足を運んでもらえるように「背中を押す」役割を果たせるよう、力を注いでいます。
我々の中にはゲームを作るDNAはありますが、メンバーのほとんどはゲームを専門的に作ってきた人間ではありません。ですが、ビジョンは明確です。ゲームの力を活用し、人々に「外に出てほしい」と考えました。そのために必要な規模を持つ技術を開発してきたのです。