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なつとイッキュウさんに　娘が生まれて優と名付けられました。
なつは　職場に復帰し昼間は　イッキュウさんが子育てをしました。
２人は　大変な思いをしながらも優の成長が何よりの生きがいになっていました。
そして　イッキュウさんがマコさんのプロダクションに勤める日も近づいていましたが…。
（なつ）あ…。（坂場）ダメだった。　どこも落ちた。
えっ…　全部？
保育園　全部落ちたの！？
うん…。
え～…どうすんのよ？
♪～
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
♪「口にする度に泣けるほど憧れて砕かれて」
♪「消えかけた火を胸に抱きたどり着いたコタン」
おはようございます。（荒井）お～　おはようさん。
なっちゃん　仲さん　呼んどったで。
仲さんが？
新しい企画？（仲）そう。とうとう　なっちゃんにも作監の機会が回ってきたんだよ。
あ…　作画監督の？
内容は　まだ僕も聞いてないんだけどね。
テレビ漫画ですか？うん　だろうね。
ああ…。
なっちゃん　無理なら断ってもいいんだよ。
え…。まだ育児も　大変な時期だろ。
作監になるのをあと何年か待ってもらってもそれで　クビになるようなことはないと思うから。
実は　悩んでるんですそのことで…。
イッキュウさんが勤めに出るのにまだ　子どもの預け先が決まっていなくて…。
うん…　とにかく話だけは聞いてみようか。
はい。
（ノック）・はい。
失礼します。・どうぞ。
失礼します。（山川）奥原さん。
育児の方は　もう落ち着かれましたか？
はい　おかげさまで。（山川）それは　よかった。
まあ　掛けて。
奥原さんには　約束どおりこれから　作画監督をお願いしたいと思っています。
あとは　製作部長の方から。
新しいテレビ漫画シリーズで放送は　今年の秋からを予定している。
（仲）どういう企画なんですか？
企画は　これだ。
（仲）漫画原作なんですか。
「キックジャガー」？ちょっと　いいですか？
（佐藤）キックボクシングを題材にした漫画だ。
キックボクシング？（佐藤）見たことある？
見たことはありませんが知ってます。
足を使ってもいい　ボクシングですよね。
そう。　もともとは　タイの伝統的格闘技ムエタイから来ているんだがキックボクシングは日本で生まれた新しい格闘技だ。
それが　今じゃ　もう大人気でテレビ中継は高視聴率だ。沢村　忠　スーパースターを生み出した！知ってるかね？　沢村　忠。
いいえ…。（佐藤）真空飛び膝蹴り！
こうやるんだ…　アイヤー！
佐藤部長…　格闘技　お好きなんですね。
大好きだ。　いや　絶対いけるよ　これ。
この企画　受けるよ。
これ　主人公は覆面をしているんですか？
そう！　ジャガーの覆面その名も　キックジャガーだ。
覆面ってのがいいよ。
しゃべる時に口を動かさなくて済むからね。
はあ…。
いや　しかし　格闘技の漫画を女性の奥原さんに任せてしまうのはどうなんでしょうか？
いや　作監なら　もっと　ふさわしい人間がほかにもいると思うんですけども。
ただの格闘技漫画じゃないんだよ。
キックジャガーはね　孤児院の出身で孤児たちのために戦ってるんだ。泣ける　いい話なんだ。君なら　この作品の世界観　描けるだろ。
（山川）無理なら無理だとはっきり言ってもいいからね。
分かりました。　やらせて下さい。
なっちゃん…。約束は約束ですから。
本当に大丈夫なの？　悩んでるんでしょ？
それは…　なんとかします。
作画監督は　全ての作画に目を通し絵の質や　キャラクターを統一しなくてはならない激務です。
意地で引き受けることはないですよ。
契約にしろなんて　もう言いませんから。
意地ではありません。覚悟はしてましたから。
期待して頂けるなら　応えてみせます。
（ため息）
（神地）あっ　なっちゃん。神っち…。
何か　大変な仕事　引き受けたんだって？
いや…　仕事自体は　別にいいんだけどさ。
子どものことか？うん…。
保育園には　全部落ちてしまって。
預ける先がないのか。
うん…　それなのにイッキュウさんに相談もせず新しい仕事を引き受けてしまった。
はあ…　私はバカだ。
まあ　バカだから　やってけんだよねこんな仕事。
バカな母親は　始末が悪いの…。
私も飲もう。
♪～
作画監督か。うん。
とうとう来たか。
ごめんね　相談せずに引き受けて。
いや　引き受けることは子どもを産む前から分かってたことじゃないか。
しかたないよ。
うん　そうなんだけど…。
なんとかするしかないよ。そのビラで　誰か見つかるかもしれないし。
うん…　でも作監なんてしたら預かってもらう時間も長くなるよね。
ねえ　いくらまでなら出せると思う？
よいしょ…　う～ん…まあ　月６，０００円までが限度だろうな。
６，０００円って安くない？
いや　それ以上は君と僕の収入では　きついだろう。
それは　純粋な人件費で経費は別に払うんだから。
（優の声）うん？
うん…。
（優の声）ああ…　よいしょ。
（優の声）はい　はいはい…。
（ブザー）あっ。
誰か来た。よいしょ…　優。
はい。はい。
は～い。
（戸が開く音）（坂場）あ　こんばんは。どうぞ。（麻子）お邪魔します。
あ…　マコさん！
こんばんは。　まあ　優ちゃん！大きくなったわね　ハハハハ…。
マコおばさん　覚えてる？おばは　いらないでしょ　おばは。
あ…　マコさん。　すいません。マコちゃんって呼んでね。
預け先が見つからないんだって？えっ？
昼間　イッキュウさんから電話もらったの。
預け先が見つかるまでは入社を待ってくれって。
そうなの？しかたないだろ。　どうぞ。
もう　こうなったら私も　一緒に考えるしかないでしょ。
マコさん…。
私のためでもあるでしょ。
本当に　すいません。
あなたが肩身の狭い思いをする必要なんてこれっぽっちもないの！
そんなんじゃ戦っていけないわよ。
優ちゃんも自分も守っていかなきゃしょうがないでしょ。
はい…。
バカ　泣いてんじゃないよ。どうしたの？
いや　すいません…。
マコさんに会うと何か　ほっとして。
それで　今は　何が一番必要なの？
もう行政には頼れないので無認可の保育園か個人で保育を引き受けてくれる人を探すしかないんです。
そのビラを　今　描いてたところなんです。これ。
（麻子）これ　どうするの？（坂場）近所の電信柱や掲示板に貼るんです。
よし。　あと何枚　必要なの？
とりあえず　１０枚は。うん…。
私も手伝う。
優ちゃんに会いたくなるような絵を描けばいいんでしょ？ハハハハハ…。
マコさん…　ありがとうございます！
すいません。ペンと紙を下さい。
あ…　じゃ　ここで。はい。
なっちゃんは今　どんな仕事してるの？
今度　作画監督を引き受けることになったんです。
作画監督？　引き受けたの？
はい。　それでどうしても　このビラが必要なんです。
（麻子）それじゃ　本当にいい人を見つけないと　ダメじゃないの。
はい…。
それで　どんな作品？
マコさんの好みじゃないと思います。
これなんですけど。
「キックジャガー」やるの？知ってますか？
私も読んでるわよ。
そうか　東洋動画で決まったのか。チクショー。
チクショー？
どんな話？キックボクシングの話。
知らない？うん…。
あの　実際にいる沢村　忠みたいなスター選手がいてタイから　一人の刺客が送り込まれてくる。
それが　ジャガーの覆面をつけたキックジャガーなの。
キックジャガーは反則技でも何でも使うんだけどそれは　悪徳プロモーターが仕組んだ八百長だった。
なるほど…。ところが　この悪役のはずのキックジャガーがスターに勝ってしまうの。
怒った悪徳プロモーターは次々と　今度こそ　本当に刺客を送り込むの。
実は　このキックジャガーの正体も日本人でそれが　ばれないようにジャガーの覆面をつけてるの。
マコさんも格闘技が好きだったんですか！？
別に。　勉強のためよ。時代に遅れないために。
あ…私も勉強します。
必殺技は　ダブル真空飛び蹴り！
えっ　ダブル真空飛び蹴り？
相手の頭上まで飛び上がって空中で両足を蹴って　蹴って…。蹴って？
トーヤー！あ　いや…　危ない！
（ブザー）ちょうど　ゴングが鳴りました。
ね。誰だろうね…。
（坂場）は～い。
（下山）よっ。おお…　こんばんは。
夜分に　ごめんなさいね。いや。ちょっといい？
ああ　どうぞ。お邪魔します。
あら　えっ…。茜ちゃん　久しぶり。
（茜）マコさん！いらっしゃい。
どうしたんですか？いや…　散歩がてら　ちょっとね。
うれしいね　うれしいね。（下山）マコちゃんに会えるとは思わなかったよ。（麻子）ちょっと…。
（茜）いや　マコさんにも会えるなんて思わなかった。
明ちゃんにも会えるとは思わなかった。ハハハ…。
マコおばさんよ　覚えてる？おばは　いらない！
えっ…。アッハハ…。
なつよ　今日は　やけに戦友が集まる日だな。