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【暮らし】<研究者目指したけれど…大学非常勤講師らの嘆き> (番外編)新ルール導入、道開く
高い学歴を持ちながら、不安定な立場に甘んじている大学の非常勤講師。七月に「研究者目指したけれど」と題し、窮状を二回にわたって連載したところ、同じ境遇に苦しむ人たちから大きな反響があった。一方、かすかに変化の兆しも。組合が大学側と団交を重ねて待遇改善を勝ち取った例や、期間の定めのない雇用への転換が進んでいる例を見る。 (細川暁子) 「新聞を読んで、私も声を上げなければと思った」と話すのは、非常勤講師として大学で語学を教える女性(61)。二〇一四年から一年ごとに契約を更新し、週二コマを担当してきた愛知県内の大学でのことだ。 昨年夏、それまで午後だった講義時間が、次年度から午前に変更されると伝えられた。だが今年一月、次年度の授業計画を確かめた際、自分の名前がないことに気付いた。教務課に問い合わせたが、コマ数も時間も二転三転。結局、「巡り合わせが悪かったということで、ご了承ください」というメールが来て、その大学での仕事はなくなった。 本年度は県内二つの大学を掛け持ちするが、約三百万円だった年収は二百四十万円に減る。会社員生活を経て、四十代も半ばを過ぎてから名古屋大大学院に入学。六年をかけて博士号を取った。「こんなに簡単に仕事を失うなんて」と悔しがる。「非常勤講師がいないと大学の授業は成り立たないのに」。自分のように泣き寝入りする人が出ないよう、今後、弁護士らに相談することを考えている。 非常勤講師の雇用は、通常一年契約。十八歳人口の減少などから、大学が経費を抑えようとする中、雇用の調整弁として使われがちだ。日本を代表する東京大も例外ではない。東京大教職員組合によると、非常勤講師は、二〇一七年度まで「業務請負」の扱いだった。大学と直接、雇用契約を結ぶのとは違う。社会保険はおろか、教職員証や職歴証明書さえ発行してもらえないため、自分の経歴を証明することにも苦労していた。 元組合委員長で、東大社会科学研究所教授の佐々木彈(だん)さんら役員は「東大で待遇改善を実現させ、他の大学に広げたい」と考えた。そこで関東の大学の非常勤講師らが多く加入する首都圏大学非常勤講師組合と共闘。大学側と団交を重ねた結果、昨年度、大学が非常勤講師を直接雇用する仕組みが取り入れられた。東大によると、今年四月現在、約四百人が大学と雇用契約を交わしているという。 非正規労働を巡っては、一三年施行の改正労働契約法を受け、昨年四月から雇用制度が変わった。同じ職場で五年を超えて働けば、期間を定めない無期契約転換の権利が生まれるというルールの導入だ。東大はこれに基づき、五年を超えて働いた非常勤講師は無期雇用になるとの条文も就業規程に明記した。 名古屋大では約六百九十人いる非常勤講師のうち、これまでに十八人が無期契約となった。組合が熱心にビラ配りや勉強会、メールで周知した成果だ。雇用の安定という意味では大きな一歩といえる。 しかし、うまくいくケースばかりではない。全国の大学を見ると、無期契約の権利が得られる直前に「雇い止め」に遭う例が少なくない。転換は「十年を超えて働いた後」と主張する大学もある。「科学技術に関する研究者らは転換までの期間を十年とする」といった特例が、教員の任期法などで定められていることを盾にした論理だ。 無期転換の権利は、自分で申し出なければ得られない。名古屋大職員組合の佐々木康俊委員長によると、非常勤講師の中には、転換について知らない人もいるとみられる。佐々木さんは「研究者も労働者としての権利意識を持ってほしい」と呼び掛けている。
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