第559話 歓迎会
こうして、俺たちとセバスチャンたち三人の冒険は、ひとまず終了した。
クラウドに弟子ができたという点では、少しはめでたい一件だったかもしれない。
しかし事はそれだけでは終わらない。そもそもそれで済まそうとは思わない勢力も存在する。
「さて、新人ども。お祈りは済ませたか? 覚悟はいいか?」
「え? 一体なにが?」
「待ってくれ、俺たちは心を入れ替えて――」
「ここはどこ? パパ助けて」
ストラールの街に戻った翌日。セバスチャンたちは、冒険者ギルド地下にある訓練場に呼び出された。
そこには男性冒険者と、少数の女性冒険者たちが彼らを待ち受けていた。
彼らには殺気はないが、静かな怒りが満ち溢れていた。それを察したのか、三人組は狼狽して周囲を見渡している。
俺とクラウドもその動向を察知して、見学席から様子を見に来ていた。
「クラウド、止めなくてもいいの?」
「ああなった連中は止められないし、止まらない。身に染みてわかってる」
「なんともせつない」
多分、以前の俺たちに対するぞんざいな態度への報復なのだろうが、まあやり過ぎない程度なら見守っておこう。
あまり庇うと、逆に俺たちの目を逃れて制裁や陰湿なイジメへ発展しかねない。適度な発散は必要だろう。
それに連中にとっても、地元の冒険者と触れ合ういい機会でもある。
「まず歓迎してやろう。このストラールの街へ来たことをな」
「そしてストラール式の歓迎を受けてもらおう」
「許せねぇんだよ。お前は触れちゃいけないモノに触れちまったんだ」
「ちょ、待ってくれよ! 何を言っているかわからねぇ!?」
まぁ、俺たちがこの街でアイドル扱いされていることくらいは、鈍感な俺でも理解している。
そんな俺たちにあの態度を取ったのだから、地元民に怒りを買うのも当然だろう。
「そう、お前は俺たちが信仰する、触れちゃならねぇ大事な物に触れてしまったのだ。そう……ミシェルちゃんのオッパイにな!」
「なんだよ、それぇ!?」
「そっちかよ!!」
悲鳴を上げる三人組と同じく、俺も思わずツッコミを入れてしまった。
そういえば彼らと模擬戦をやった時、ミシェルちゃんが胸を押し付けながらセバスチャンを締め上げていたっけ。
ここの連中はそれを妬んで、今回の暴挙に出たのだろう。
「あ、ニコルさん! 見ててください、ばっちりヤキ入れときますから」
「いやいや、そんなのは必要ないから! ミシェルちゃんの胸に触れたのは確かに問題だけど」
「こんな連中にまで慈悲を施すなんて、さすがニコルさん!」
「どうしてそうなるの!?」
ダメだ、こいつら。全然話が通じない。
俺は拳を握って抗議したが、連中にはそれが俺の優しさから来る擁護のように聞こえたらしい。
もちろん、俺にそんな意図は欠片も存在しない。
俺の横ではクラウドが諦念を込めた顔で首を振っていた。
「無駄だって。それで止まるなら、俺の時のシゴキは存在しない」
「クラウドはクラウドだから許される」
「それも酷くねぇ?」
「クッソ、クラウドの奴! ミシェルちゃんだけでなく、ニコルさんともイチャイチャしやがって!」
「やっぱ奴も後で『特訓』だな」
「なんでそうなるんだよ!?」
俺と似た悲鳴を上げるクラウドは置いておくとして、今は目の前の惨事である。
見ると、三人組に対して冒険者三人が組になって、小規模集団戦の準備が行われていた。
もちろんセバスチャンたち三人組に、勝算などあろうはずがない。
最初は俺たちへの暴言に対する制裁紛いの訓練かと思っていたが、色恋の嫉妬が絡むとなると行き過ぎる可能性も出てきた。
「あの、できれば程々で――」
「お前ら、ニコルさんからの慈愛に溢れたお達しだ。やり過ぎない程度に……
「おおおおぉぉぉぉぉぅ!!」
冒険者側から進み出た三人が、セバスチャンたちの確認も取らずに襲い掛かる。
半ば不意をつかれた形のセバスチャンたちは、狼狽したままに、その襲撃を受けることになった。
経験の浅い新人である彼らに、この劣勢を立て直す術はない。
「死なない程度に死ね、オルァァァァァァァ!」
「ひ、ひぎゃああああああああ!?」
「よくもミシェルちゃんの胸を、私も狙っていたのにぃぃぃ!」
「知るかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
散開する間もなく三人に包囲される三人組。そのまま瞬く間に、攻勢に押し潰されていく。
しばらくすると、ズタボロになった三人だけが残され、包囲が解除された。
攻撃していた冒険者三人は、実にスッキリした顔をしている。
「治療係、治してやれ」
「へぃ!
セバスチャンたち顔負けの
その魔法の効果か、彼らの傷は癒され、気絶からも目が覚めたようだ。
「し、死ぬかと思った……」
どうにか気絶から回復した三人は、ヨロヨロと身を起こす。そこへ更なる追撃の言葉が掛けられた。
「では、次の組。準備しろ」
「もうやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
悲鳴を上げる三人を無視して、別の三人組が進み出る。その顔には嗜虐的な笑みが浮かんでいた。
傷だけは癒されたものの、装備はすでにボロボロ。しかし先輩冒険者たちは、それで済ます気はないらしい。
その日は一日中、彼らの悲鳴が地下から響いてきたのだとか。
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