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人間乳搾り牧場

作者:√7

今作品は2時間で削除するつもりです。

 僕たちの学校は五年生になると宿泊学習というものがある。宿泊学習の主な目的は、えぇーとなんだっけ? たしか、集団の規律を守ろうだったかな?


 多分、そんな感じだったはず。


 現在はバスに揺られて、宿泊学習最後の目的地である牧場へと向かっている。

 僕は頬杖をつき、窓の外を眺め、暇を適当に潰していた。それに徐々にだが、眠気が襲ってきたし、そのままグッスリと眠りたいところだ。

 と、そんな時だった。後ろの座席から顔をすっぽりと出して

 「なぁ、みんなでトランプやろうぜ?」とトモキが提案を持ちかけてきた。


 「なんだよ。人がせっかく、眠ろうと思っていたのに」


 トモキは僕たちのクラスで一番のお調子者であり、一番のトラブルメーカーだ。


 「まぁーそんなつれないこと言うなって。ほら、ジュンも一緒にやろうぜ」


 「はぁー仕方ねぇーなー」瞼を擦り、眠気を抑える。


 正直、バスの中なので退屈だった。これはいい提案だとみんなが賛成して、周りの奴らと共にトランプを始めることになった。


 「みなさんーそろそろ牧場に着きますよぉー」

 先生の快活な声に僕たちは「はぁーい」と元気いっぱいに返した。

 だが、実際は返事だけで僕とトモキはまだババ抜きが終わっていなかった。

 他の生徒たちが窓から牧場を眺めている際も僕たち二人はババ抜きに夢中で気にすることはない。バスが止まり、先生が皆に降りるように指示を出していく。

 だが、僕とトモキは二人でババ抜きがあと少しで決着がつくところなので、まだ降りようとは思えない。もしも負けたら罰ゲームでこの牧場で何かを奢る約束をしたのだ。


 「ジュンー、トモキー、二人とも何をやってるの? 早くバスから降りなさいー」


 「あぁー先生。今、財布を探してるんだよ。ごめんー」と適当に探しているふりをして誤魔化した。しかし全然僕たちのトランプ試合は終わる気配を見せない。

 だから先生が痺れを切らして、僕たちの元へやってきた。


 「あぁー二人とも、先生に嘘をついてトランプをしてたんだ」と呆れたような声を出した。その声色はどこか僕たちを軽蔑してるようでとても怖く感じてしまう。


 僕とトモキは二人で目を合わせ、誤魔化そうとする。だが、必死に考えてもこの場を切り抜けるような嘘は簡単に出てこなかった。

 だから二人して、一緒に先生へ「ごめんなさい」と頭を下げる。


 「いいよ。許すよ。二人とも、とってもいいこだから」と先生がニコッと微笑み、僕たちの頭を撫でてくれた。

 なんだかとても嬉しかった。トモキの方を見てみると、デヘヘと笑みを浮かべ、頭をカリカリと掻く。

 流石はお調子者である。でもその気持ちになるのは分からない話ではない。

 僕たちの先生はとっても若くて綺麗なだからだ。たしか……先生は二十代後半だというのは聞いたことがある。でも詳しくは聞いたことがない。


 それと長い黒髪が特徴的で和風美人なのだ。三者面談時にあの鉄仮面と呼ばれる父さんさえもデレデレしていた。その話を家でしたら、母さんと喧嘩になってたなー。

 まぁ、どうにか離婚問題とまでは発展しなかったので良かった。


 「それじゃあ、二人とも行こっか」と先生に手を握られ、僕たちは牧場へと向かった。


 先生はいつもニコニコで活発的な人だ。でも怒ると物凄く寡黙になって、とても怖い。


  「ここが牧場かー」と中に入った瞬間に声を出してしまった。テレビなどでみたことがある、至って普通ののどかな牧場だった。柵で囲まれた草原の中で一部の牛たちはムシャムシャと音をたて、口いっぱいに頬張る。

 また、ある一部の牛たちは人懐っこいのかこちらの方へ歩み寄ってきた。

 すでに牛が柵の方へやってきており、みんなも興奮状態。優しく撫でたいと思うけれど、みんなが集まりすぎて全く触れることができない。

 そんな時だった。


「ほら、君たちも牛を触ったらどうだい?」

 後ろから突然肩を叩かれて話しかけられた。僕とトモキは同じように身体をビクンと動かし、驚いてしまった。

 恐る恐る後ろを振り向く。すると、そこには人当たりの良さそうなシワが寄ったおじさんが居た。おじさんは僕たちの顔の高さに合わせ、膝を曲げてニッコリと不気味な笑みを見せる。


 「人が多くて……」とトモキが答えた。

おじさんは薄緑色の作業服で額の汗を拭い、顎に手を当てて何かを考えてるみたいである。


この牧場で働いている人たちも同じ服を着ているので、このおじさんもの牧場で働いている人なのかな?


 おじさんは顎から手を離し、何かを思い付いた様子である。


 「そっか。それじゃあ、こっちに来てごらん」と柔和な笑みを見せ、おじさんが僕とトモキの二人を連れ出した。みんなから離れていく。

 先生たちや生徒たちは牛に興味津々で僕たち二人とおじさんには全く気が付いていないみたいである。


 少しだけ怖くなってしまった。だけど、トモキも一緒に居るから大丈夫だよな。


 で、でも……。


 「おじさん。どこに行くの?」と尋ねると、おじさんは少しだけ口元をあげる程度で他には何も言わなかった。


 「ねぇーおじさんって誰? 何者?」とトモキが尋ねた。流石はお調子者である。


 「おじさんはこの牧場の責任者だよ。あぁー簡単にいうと、そうだなぁー。社長ってことだね」


 なぁーんだ。社長さんだったのか。なんか疑ってしまって、悪いことをした気分になってしまう。

 おじさんが僕たち二人を連れてきた先には、子牛がいた。


 「ほら、他の人たちには内緒だよ」


 「か、かわいいー」とトモキが感嘆な声を上げる。


 「ねぇーおじさん。触っても大丈夫なのか?」


 「あぁー大丈夫だよ。ほら、キミも触ってごらん」

 おじさんに急かされ、僕も子牛を触ってみることにした。ふわふわとした毛並みだ。

 とっても触り心地が良いので、このまま持って帰りたいと思ってしまう。

 それにとても愛嬌があって、とっても可愛かった。


 その後、僕たち二人は子牛を愛でつづけた。でもそろそろ時間だから、みんなの元へ戻ろうと思った。おじさんからも早く戻った方がいいと言われ、僕たちはみんなの元へと戻る。


 そこでは乳搾り体験が行われており、必死にみんなが乳搾りをしていた。悪戦苦闘しているなか。作業服を着た係員が乳搾りの方法を何度も指示を出した。

 やはり動物を扱う仕事というのは色々とデリケートな部分があるのだろうか。係員は生徒たちの動作が誤っているとすぐに持ち方を変えるようにと教えてあげていた。

 乳搾り体験が終わった後は事前に用意されていたのか、牛乳を係員から受け取ることができる。僕たち二人も急いで乳搾りを終わらせ、美味しい牛乳を飲んだ。


 それからは自由行動になり、僕たちは色々な場所を回ってみることにした。牧場はかなり広く、それに子供たちが遊べるような遊具なども用意されている。


 いつもの仲良しグループで鬼ごっこをすることになった。鬼はクラスの山田くん。

 山田くんはメガネをかけており、痩せ型だ。足はそれほど早いわけではないが、持久力があって一度ロックオンされると地獄まで付いていくという異名を持っていた。

 鬼ごっこが始まり、足には自信があるが体力に自信がない僕は隠れることを優先することにした。多分、普通に草原内で鬼ごっこをすれば確実に負けると分かっていたからだ。

 そんな僕の後ろをトモキは付いてきていた。どうやら僕が何か名案を思いついたのを感じ取り、自分も真似しようと思っているのだろう。


 山田くんが僕たちに背中を向けて、数を数え始めた。隠れる場所がバレてしまうと一発でアウトなので、僕が背中を向けるようにとお願いしたのだ。


 まずは木の後ろに隠れて山田くんの動向を探ることにした。


 山田くんは数を数え終わり、鬼のような形相で辺りを見渡した。ターゲットが見つかったようで追いかけ回した。そして、捕まった。次はアイツが鬼か。

 そんなこんなで鬼ごっこは続いた。僕も何度か鬼になったし、トモキもなった。


 そしてまた山田くんが鬼へとなった。僕の体力はほぼ限界に近く、小屋のような場所に身を潜めることにした。トモキも何故か僕に付いてきた。


 「どうしてお前も一緒に来るんだよ」


 「だって、お前がいたら囮になるだろ?」


 最低だった。たしかにトモキは足が物凄く早くて、それに体力にも自信がある。

 多分、僕を置いてそのまま逃げる作戦なのだろう。それに必然的に足が遅い側が狙われるのが当たり前か。と、その時だった。小屋の中に誰かが入ってきた。

 誰だろうかと思っていると、そこに居たのは先ほどのおじさんである。

 僕たち二人はおじさんに話かけようとした。だが、どこか表情がおかしかった。

 トモキも何かがおかしいと悟ったようで息を殺して、僕たち二人は身体を縮こまらせた。


 おじさんは重そうな段ボールをあっさりと持ち上げ、移動させた。

 段ボールが元あった場所には隠し扉のようなものがあった。おじさんはポケットから鍵を取り出し、そのまま中の方へと入っていった。


 僕とトモキはおじさんがどんな場所に行ったのか、無性に気になってあとをつけてみることにした。どうやら使われていたのは南京錠のようだ。かなり大きい。

 それだけこの中に何か重要なものでも入っているのか。それにしても場違いな錠である。


隠し扉を開いてみると、そこにはハシゴがあり、奥深くまで続いているのがよく分かった。外からの光では全く先がどのようになっているのか分からない。

 と、おもむろにトモキがポケットの中からライトを取り出す。


 「お、お前……」

 そういえば、トモキはホテル内で就寝時間になった後もみんなで遊べるようにとライトを持ってきていたな。そのおかげで一日目はみんなで色々と遊びまくった。

 就寝時間を過ぎると先生が見回りに来て、電気は消してないと怪しまれるからとか言ってな。でも一日目の話だから、もうすでに忘れてしまっていた。


 「ほら、俺たちの冒険の始まりだぜ」とニカっと白い歯を見せて笑う。


 「さっさとライトをつけろ」


 「あぁー分かったよ」

 ライトをつけてみる。だが、ライトではまだまだ下の方まで見えなかった。

 あまりにも深いのだろう。


 「入ってみるか?」


 「もうそれしかないだろ。ここまで来たらさ」


 「そうだよな」


 僕たち二人はハシゴを降りていった。地上からどのくらい下へ僕たちは進みつづけたことだろうか。ようやく下へ辿り着くことができた。かなり深くまで進んだ気がする。

 殺風景で何もないので、そのまま上を見上げてみる。それにしてもこの場所はどんな空間なのだろうか。もしかして、何かの秘密組織が暗躍している場所なのではと妄想を膨らませる。

 それにしても深いと思うし、何より不気味だ。鬼ごっこをしていたためにかなり汗を掻いていたはずなのに、スゥーと汗は消え、寒気がした。

隠し扉をそのまま開けたままであったはずだが、豆粒サイズにしか見えない。

 なんだか、物凄く怖い。そんなことを思う僕を傍らにトモキはウキウキ気分である。


 「スゲェー」と何度も口に出して、目をキラキラと光らせている。


 「おい。どうしたんだよ? 顔色が悪いぞ。もしかして怖いのかよ?」

 トモキがバカにするように僕を挑発してきた。それに反発するように「そんなわけねぇーだろ」と返した。


 「それじゃあ、進むか?」と言って、トモキはライトを奥へと向ける。


 通路のようになっており、ここから先にもっと進めそうだ。でも通路は大人が一人歩ける程度でそれほど広くはない。本当に何かの秘密基地みたいだ。


小さなライトを頼りに僕たちは進み続けた。不気味で何もない。ただ、真っ暗闇な世界。


 おじさんは一体どこに向かったのだろうか。そんなことを思っていた時だ。


 僕らの目の前に大きな白い扉が見えた。トモキと僕は顔を見合わせ、この先に何かがあるに違いないと悟った。そしてゆっくりとゆっくりと、扉を開いた。


 扉の隙間から見えたのは一糸まとわぬ女性たちの姿である。彼女等は首に鋼鉄の輪を付けられ、鎖で繋げられていた。ベロを大きく出し、目を虚ろにさせてヨダレを垂らしている。


 「な、なんだよ……アレ」と小さな声でトモキが呟いた。彼は顔を真っ青になっていた。

 僕も顔が硬直してしまい、開いた口が塞がらなかった。


 おじさんは何も言わずに裸の女性たち——本当にアレは人間なのだろうか?——人間のような生命体に向かって、笛を吹いた。


 すると、全裸の生命体は自らの胸部を乱暴に揉みほぐし、体内から母乳——果たして本当にアレはそうなのだろうか? 白濁色の液体と言った方が良いかもしれない——を放出した。

ブッシュ!? という何とも言えない音が響き渡り、液体は彼女達の足元に置かれた大きい透明な樽の中へ入っていく。勢いが凄まじく人間業とは到底思えない。

 本当にアレは人間なのだろうか。それとも人間とは違う種の生き物なのだろうか。


 そんなことを思っていると、おじさんが二回目の笛を吹いた。汚い音色だった。

 すると、彼女らの動きがピタリと止まった。そして彼女らの元へベルトコンベアによって、食事(パンと野菜と水)が運ばれていく。彼女達は疲れ切った表情をしており、明らかに常軌を逸した目付きで、今にも食事に食らいつきそうにする。

 しかし、おじさんが笛を吹いていないためにまだ食べれないようだ。一部の生命体は今にも食べたくて食べたくて仕方ないようで呻き声を上げ、暴れ回っている。


 ピッーと笛が鳴り響き、女体型の生命体たちはムシャムシャと音を立て、無造作に食事を開始した。そしてコツコツと少しずつ、おじさんが扉の方へやってきた。


 「お、おい……。おじさんがこっちにやってきたぞ」と小声でトモキに喋りかける。

 しかしトモキは食事をする未知の生物に釘付けであった。身体がガクガクして、動けないようだ。僕は慌てて、彼の身体を叩いて彼の意識をこちらに向かせる。

 おじさんがこちらに少しずつやってきている。コツコツと。あのとき、子牛を僕たちに見せてくれた彼とは大違いである。暗い表情の中に薄っすらとニヤケ顔を浮かべていた。

このままではバレてしまうかもしれない。見つかってしまったら、どうなるのか。

僕は考えることを放棄し、本能的に何かマズイことになったと理解した。そして、僕はトモキのシャツを掴み、駆け出した。狭い通路ということもあり、僕たちの足音はかなり響いいている。だが、後ろからの足音は全く聞こえない。どうやら、まだおじさんは僕たちの足音に気づいてないようだ。このまま上まで登り切ることができれば……このことを大人たちに報告すれば全てが解決するだろう。こんな場所になど二度と来たくはない。


 薄気味悪く狭い通路を無理矢理駆け続ける。トモキも完全に意識を取り戻したようで、一緒に駆けていた。それに酷く青ざめている。


 「さっきのは一体なんだよ!! あれ!! 人間なのか?」酷く荒げた声だ。

 彼もかなり切羽詰まってるのだろう。


 「僕にだって、わかるわけがないだろ。今はまず、出口を目指そうぜ」


 僕たちはどうにかハシゴの場所まで戻ってくることができた。元々一本道なこともあり、反対側の方は壁だったのですぐにここが最初の場所だと分かった。

 あとはハシゴを登るだけだ。トモキが先頭で、僕が後に続くことになった。

 彼がライトを持ってるから、そちらの方が視界が見え、安全ということになったのである。正直、僕はもしも後ろからあのおじさんが僕たちを付けてきていたらと思うと怖くて怖くて仕方がなかった。でも一歩ずつ一歩ずつ上へ上へと登っていくしかない。

 ハシゴを登り始めて、五分以上が経過した。出口はすでに見えている。明かりがすぐそばにまであるというのは本当に嬉しいものだ。


 と、ここで嫌な気配がした。何かが僕たちを必死に追いかけてきているような……。

 そんなことはないと思いながらも、心の中では何故か心配で心配で仕方がない。

 これが第六感とでも言うのだろうか。何故だか、意味が分からず怖くなり、俺はトモキに急いで上へ上がることを告げる。すると、彼は嫌々ながらもスピードを少しだけ上げてくれた。少しだけ、心の中が安心した。でもまだ、何か心残りがある。

 何だろう。この、変なモヤモヤは。それに下の方から風のようなものを感じてしまう。何だ、これは一体何なのだ。

 と、ここでハシゴを勢いよく登ってくる人型のようなものがはっきりと見えた。その人型はベロが異常に長い生き物のようだ。だが、はっきりと見えたわけではない。


 「おい……トモキ。ライトで下を照らしてくれ」


 すると、そこには薄緑色の作業着に身を纏った化物が勢いよく上へ上へと上がってきているのであった。

 アレがおじさんの正体なのだろうか……?


 「’(’’%’¥&’(%’%%’(’(’(%’(%’(’T’()&’(’(&Y&&’(T’RT’&’&T’&%&%$&%$&)(&)(%’(%(&’(&%(’&()&(’&(’(%’$’&$&%#%&#%#%’R&”$%”#&’UY()U0)’)0&’$’」


 言語とは到底思えない奇声を上げながら、長いベロをヘビやトカゲのようにちゅるちゅると左右に器用に動かしながら、こちらに迫ってくるのである。


 「お、おい!! 急げ!! トモキ!! 早く上に行け!!」


 僕は生命の危機を感じてしまい、トモキにさっさと行くようにと命じた。

トモキもことの重大さに気づいたようで慌てて、上へ上へと目指した。


 「おい。トモキ、俺を蹴るなって!!」


 彼は足を空回りさせ、僕に当たっているのを分からないほどにパニックになっていたのだと思う。急いで上へ上へと目指した。後ろの方からグングンとこちらに化物がやってきているのがわかる。もしも、捕まったらどうなってしまうのか。


 トモキが地上へと出ることができた。次は僕の番——。


 そのときだ。僕の足を、大きな手ががっしりと掴んできたのである。


 「つ、つかまえた」と、ドスのきかせた声を出しながら。


 「っ——!? はっ、離せよ!!」

 僕は訳が分からずにただ大きな声を出し、そして後ろを何度も何度も蹴る。

 しっかりと何かを蹴っている感覚はある。ただ、それと同時に僕の足を折れそうなぐらいの強さで容赦無く握り潰そうとしてくるのだ。


 「と、トモキ!! 僕を引き上げろ。た、助けろ!!」


 僕は彼に助けを呼んだ。彼はすぐに、僕を助けようとして僕の腕を掴んで思いっきり引っ張ってくれた。それと僕自身の腕力が相まって、少しずつ上へ上がっていくのであった。

 そして、僕はまた力一杯、後ろに向かって蹴った。すると、後ろにいた化物の不意を衝くことができたのだろうか。彼はそのまま少しだけ、あの暗闇の世界——奈落の底とでも言うべきなのだろうか。あの人間とは思えない生命体が生きていた世界——へと落ちていった。そして、僕はどうにか地上へと帰還することができた。


 ほ、本当に助かった……。と、安心するのはまだ早い。


 僕たちは隠し扉に掛かっていた南京錠を閉める。これで一安心だろう。

 ここ以外の出口はないと信じたい。もしもここ以外の場所からでも帰還することができたと言うのならば、多分完全に僕とトモキはあの化物に殺されるとみていいかもしれない。それに今まで置いていたように、重い段ボールを配置し、そしてさらにもっと重そうなものを追加で置いていく。これで隠し通路の戸が開くことはないだろう。


 「ドンっ!! ドンっ!!」隠し通路の戸を開けようとする音が聞こえてくる。

 でも開けようとしても、出られないようである。それに叫び声が聞こえてくる。


 「助けてくれー。助けてくれー」と。


 人間の声を巧みに使って、僕たちに同情させるつもりなのだろう。絶対に助けるつもりはない。僕たちははっきりと見たのだ。あの、化物を。そして、この隠し通路の下で、何が起きていたのかを。


 「ジュンー トモキー 早く出てきなさい−!! バスの時間よー!!」


 先生の快活な声が聞こえてきた。そういえば、もう集合の時間だよな。


 僕たちは急いで先生の元へと駆け寄った。先生は僕たち二人を見ると、心配した表情を変え、ニコッと微笑んだ。やっぱり、先生は優しいなぁー。



 「あなたたち二人とも、一体どこで何をしてたの?」


 すると、トモキが我を忘れたかのように、自分たちの冒険譚を話し始めた。


 最初は先生も冗談半分で聞いていたのだろう。だが、途中から異変を察知したのか、冷徹な表情へと変えた。あの、怒ったら怖い時の顔だ。

 先生はいつも、優しい。だが、時々物凄く怖くなる。まるで、人を何人も甚振って殺してきたかのような、自分を押し殺してきたかのような、そんな表情。


 「ねぇーあなたたち。そこで見たこと、聞いたことそれは全部忘れちゃいなさい」


 「えっ?」

 「えっ?」


 僕とトモキは二人同時に声を出していた。先生なら、あの惨状を話せば、すぐに僕たち二人を助けてくれると思っていたのに。


 「この宿泊学習で学ぶべきことがなんだったか、覚えてる?」


 「…………」

 「…………」


 「あぁーやっぱり忘れちゃってるかー。じゃあ、特別に教えてあげる。今回の宿泊学習の目的は『集団の規律』よ。だから全部忘れちゃいなさい。もしも、大人になりたいと思うのならね」


 先生はとても僕たち二人に何かを暗示するように、伝えそのままみんなが待つ方へと向かっていった。


 「なぁー、トモキ。本当にアレってなんだったのだろうな」と尋ねてみる。


 だが、トモキはもう何も口にはしなかった。


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