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23代目デウス・エクス・マキナ ~イカレた未来世界で神様に就任しました~ 作者:パッセリ

ティザーストーリー

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#8 天落つる誅伐の星≪ジャッジメント・レイ≫

 修羅場と言って差し支えない光景だった。


 例のロボットが暴れた結果としてひどい状態の兵士の死体が散乱している。人体の焼け焦げるニオイがちょっと漂ってるのはミサイルのせいか。

 そして救助対象者の方も怪我をしている状況だ。腹を撃たれてるジャックさんもだけど、トリプルポチさんはちょっとヤバイ。両腕切断で、早く手当てしないと失血死やらショック死の危険もある。


 敵戦力は……兵士の生き残りはもうどうでもいい。兵士の格好をしているが、火器を使わず剣なんぞ振り回しているこいつ!


 辺りに漂う山吹色の粉塵は、どう見ても対ナノマシンチャフだ。

 この世界に存在する魔法……『コマンド』は、本当に超自然的な力ってわけじゃない。

 まず魔法コマンドを使おうという意志が、魔晶石コンソールによって方舟のサーバーに対する問い合わせ通信に変換される。

 そしてサーバーは、大気中から人体の中にまで方舟内におびただしい数存在するナノマシンへと命令する。後はナノマシンが働いて魔法コマンド発動だ。

 対ナノマシンチャフは、サーバーと魔晶石コンソールおよびナノマシンの通信を撹乱する作用がある。このチャフの中で十全に魔法コマンドを使うことはできない! 一般的な魔法コマンドとは別メカニズムで発動しているらしい、自己身体強化の魔法コマンドが頼みの綱となる脳筋空間だ。


 対ナノマシンチャフと言い、謎のローテク兵器と言い、一般兵に偽装してるけどこいつは……


「サイバネ強化兵か」

「サイバネ強化兵……だって!? 実在したのか!?」


 ジャック氏は驚愕していた。

 サイバネ、すなわちサイボーグ化パーツ。それ自体は別に珍しいもんじゃない。体の一部をサイバネ化した教会兵だって珍しくもない。

 だが、全身をサイバネで強化した人間兵器軍団『サイバネ強化兵』の存在は、教会の秘匿ゆえに都市伝説化している。

 例えるなら、アレだ。

 みんなイギリスの諜報機関MIⅥが実在することは知ってても、ジェームズボンドみたいなスパイが居るとは思ってないだろ。サイバネ強化兵はそういうフィクション的な存在だと思われてるらしいのだ。


 こいつらはその異常な身体能力をフルに活用すべく、中世風ファンタジーみたいな武器をよく使う。おまけに対ナノマシンチャフが大好きで、魔術師ウィザード対策に多用してくるのだ。


「そうとも。彼はコードネーム・スティレット。貴様ら薄汚い背教者を捕らえるため、教会本部から派遣された最強の人間兵器……サイバネ強化兵だ!」

「ああそうですか」


 偉そうな僧服を着た神聖オッサンが勝ち誇る。どうだ参ったかと言わんばかりだ。虎の威を借るなんとやらだなぁ。こういう奴ほど調子に乗ると止まらないんだ。

 剣をブチ折ってやったスティレットさんとやらは、すぐさま距離を取って代わりの剣を抜く。どこに持ってたんだ。


「すんません、遅くなりました。無事ですかトリプルポチさん」

「無事に見せられたなら、俺は自分を褒めたいね……」


 皮肉っぽくトリプルポチさんは言った。減らず口をたたく元気はまだある模様……とは言え迅速な治療を要求することは変わらない。


『アンヘル、見てるな? 救急キット用意しといてくれ。

 俺が戻ったら治すからそれまで保たせればいい』

『かしこまりました』


 脳内での会話はすぐにレスポンスが返った。


「ジャックさん、トリプルポチさんを連れて逃げられますか」

「逃げら……えっ?」

「さっきも言った通り、ここは俺が引き受けます」

「そんな、だって……」


 言いたい事は分かる。『こんな化け物じみた奴を相手に?』って。

 でもダイジョーブ、こっちも似たような身の上だ。ほら、さっきだってかなりヤバイ白刃取り決めたでしょ。実際かなり焦ったけどね!


 ジャック氏は腹の傷を押さえながらも、トリプルポチを抱えるようにして歩き始めた。

 スティレットは……追わない。俺を警戒しているんだ。周囲の生き残り兵はとっくに戦意喪失していて銃を構えようという奴もいない。


 やがて四人が姿を消すと、スティレットは剣を構え、じりじりとこちらを警戒しつつ距離を詰めはじめた。

 ようやく俺のことをちゃんと観察したようで、なんかすごい妙なものを見たという表情。


「……ガキ?」

「事実だけどその言い方はひでーな」


 せめてジャージは着替えた方が良かったかな。

 あんなアクロバティックなやり方で自慢の剣を止めたのがジャージ姿の高校生では締まらんか。実際。……いやそういう問題じゃないか?


「何者だ、お前は」

神代かじろまさる。……マサル・カジロ」


 さて分かるかなと名前を出してみたところ、反応はかなり劇的なものだった。


「マサル・カジロ……! お前がそうか!

 重武装犯罪組織の首領ボス達やカルトの教祖共すら差し置いて教会史上最高額、生死不問で200億クレジットの賞金をかけられた最重度背教者。カルトの手先!」

「マジ? こないだまで100億だった気がすんだけど」


 どこの海賊王だよ、俺は。


 このアホみたいな賞金額(しかも知らない間に倍になってた)を知った奴の反応は……だいたい同じ。

 もはや出世がどうの背教者がどうのという状況は頭から吹っ飛んだ様子で、オッサンは目がゼニの色に輝いていた。


「必ず殺せ、スティレット。

 こいつを始末すれば私は金の力と戦功で間違いなく枢機卿まで上り詰める。お前はサイバネ強化兵団の団長にしてやろう!

 ……いや、頭数で割っても一生遊んで暮らせるな。私の取り分が50%でどうだ? お前に40%、残りの兵士に10%を山分けさせて……」


 だがそこで突如、オッサンの話を遮って、賞金に目が眩んだらしい兵士がマシンガン発砲!

 俺はそのマシンガンを強制的に詰まらせて暴発させた。どっかーん。


「あぁーっ! 痛い! 痛い! 痛い!」

「痛がってろ。殺す事だってできたんだぜ。趣味じゃねぇからんなかったけどな」


 全身にマシンガンの機関部の破片が突き刺さった兵士がのたうち回った。ま、この程度ならチャフん中でもできるな。

 俺はジャージのあちこちに空いてしまった弾痕を見て舌打ちした。あーみっともねぇ。軽く体を撫でると、皮膚を貫通できなかった銃弾がパラパラと足下に落ちた。


 オッサンは勝手に発砲してやられた兵士をゴミでも見るような目で一瞥して、次の瞬間にはもうそんな事忘れてしまったかのように俺に向き直った。


「行け」

「はっ。祝福的です」


 内心、司教のオッサンを軽蔑してるくさいうんざりした顔をしながらスティレットは向かってくる。

 勤労意欲がゴリゴリ削れてる真っ最中って感じだが……


 トン、と弾むようにステップした次の瞬間、稲妻のように鋭い突きが正確に俺の心臓を狙う! どんなクソな状況でもしっかり仕事はするタイプらしい!

 辛うじてそれを視認した俺は半身になって躱した。刃はジャージの胸部を横断するように切り裂いて反対側へぶち抜ける。


 そのまま次の攻撃へ……移らせはしない。

 我ながら電光石火! 俺は突き出された手を取り、スティレットに組み付いた。


「ぐぬっ!」


 至近から、体を折りたたむような神聖プロテクター膝蹴りを繰り出すスティレット。

 俺もその蹴りを横から弾くような蹴りで相殺する。

 このまま関節キメながら地面に叩き付けて……と思ったその時だ。


「撃てぇ!」


 生き残りの兵士達がレーザーガン射撃!

 おいおいフレンドリーファイア上等かよ! いやそうなるよな、この賞金は。うん……


 判断は瞬時。俺とスティレットは互いに次の攻撃をキャンセルし、蹴り合った反動を使うようにして飛び離れた。

 さっきまでふたりが居た場所をレーザー光線が貫く。

 Zap! Zap! Zap!


 ……スティレットは忌々しげに周囲の兵士を一瞥したが、それ以上俺から注意を逸らそうとはしなかった。


「宮仕えは辛そうだね、オニーサン」

「そう言うお前はヒーローごっこか、ガキ」

「俺のことガキなんて呼べる歳かよ」

「抜かせ。お前のような大馬鹿者をガキ以外になんと言えばいい」


 一般兵の格好をしたその全身に、ぐっと力がこもる。

 全身が、たわめられたバネか何かのように力がみなぎっている。

 その背後にはレーザーガンを構える兵士達。対ナノマシンチャフが撒き散らかされている中で、あれに対処するのは少々骨が折れる。

 おまけに制限時間付きだ。とっととこっちを片付けて怪我人を助けなきゃあならん。

 やむを得ん。ちょいと手荒なやり方で行くか。


 ……と、スティレットは軽く手を振って合図を……ああ、そうかレーザーだ!

 別に事前に示し合わせていたわけじゃないらしく、構えたのは半数ほど。だがその閃光と同時にスティレットは突っ込んで来る!


「死ねぇ!」


 レーザーを見てから避けるのは不可能だ。レーザーガンを取る動きを察知し、銃口の向きから軌道を予測。回り込むようにして狙いを逸らしつつ、さらに俺は辛うじて、レーザーを多少ねじ曲げる力場を発生させた。Zap! Zap! Zap!


 レーザーが俺をすり抜けるように飛んでいく。しかし眼前にはスティレットの凶刃が迫る。

 ……いや、これでいい!


 俺はその手を掴みに行く。もちろんその程度で止まりはしない。

 ソードが……深々と俺の腹にめり込んだ! 痛え! 畜生! 腹が焼けるみたいだ! だが放すもんか!


「足を止めたな。お前の負けだ……」

「何?」


 『取った!』と思っていた様子のスティレット。

 その不敵な顔が、何かがおかしいと察した様子で凍り付く。


「俺があいつらを先に逃がしたのはヒーローごっこなんかじゃない。俺が戦う所を見せたくなかったからだ!」


 対ナノマシンチャフの中であろうと、通信規格が異なりナノマシンに向けたものですらない()()は話が別だ。

 俺の意を受け方舟が動き出す。流星群の如く、夜天に無数の輝きが宿った!


「……天・罰・覿・面!」


 紅蓮の閃光が降り注いだ!


 Zap! Zap! Zap!


 それは寸分過たず兵士達を貫き、さらに俺にピン留めされたスティレットの全身各部位にばらけて計93発が集中!

 殺すこともできるけどこいつは制圧モード。麻痺らせるだけのやつだ。普通の体してる奴なら一発で全身ビリビリなんだけど、体がメカメカしてる奴は伝導率が悪い。サイバネ強化兵を止めるにはこうしなきゃなんないのであーる。


 降り注ぐレーザーにぶち抜かれた人工木の葉が舞い散り……そしてみんな倒れた。兵士達も、俺の目の前で穴という穴から煙を噴いていたスティレットも。


「弱ぇなオイ……

 最近人材流出が激しいって噂、マジなんかな。俺が前戦った奴は、もっとヤベェ強さだったぞ」


 俺は腹にブッ刺さった剣を抜きながらそう言った。

 仮にもサイバネ強化兵って、教会の切り札のひとつなんだけどなあ。

 ちなみに腹の傷はしゅうしゅうと煙を立てながら早くも塞がりつつある。


「な、なん……なんだ!? なんだこれは!?」


 あ、ひとり忘れてた。戦闘能力ゼロっぽいから意識の外に置いてた神聖オッサン。

 味方を残らずやられたそいつは無残に狼狽えていた。


「おい待て! 違う! これは何かの間違いだ!」

「何が違うんだよ」

「お前みたいなガキにサイバネ強化兵が負けるはずは……」

「負けるはずがあるんだな、これが」

「えい、くそっ!」


 オッサンはスマホらしきものを取り出しボタンをひとつプッシュ。

 緊急通信回線か何か、か?


「お前達、そっちはもういい! 私を助けに来い! 悪魔のようなガキが……」


 そしてオッサンは、がなり立てた。

 今の俺とスティレットの戦いをちゃんと見てれば、この隙を突いて俺がオッサンを殺すくらい簡単だって分かるだろうに。まあやんないけど。

 にしても往生際悪いなあ。


「来ないぞ、誰も。全員倒したからな」

「……何だと?」

「残りのサイバネ強化兵、だろ? 避難民集団の本隊を狙ってきたやつ」


 そう……実はここに居る兵士が全員じゃあない。

 避難民集団のデカい塊が近くに待機してて、そこからジャック氏をここへ迎えに来るところだったんだ。

 それを教会側も察知していたようで……向こうも戦力の大部分は避難民本隊に割り振ってきていた。

 しかもそこにロシアンルーレット的に、一般兵に偽装したサイバネ強化兵が3人も混じってやがった。

 通信の相手は多分そいつらだろ?


「全員、倒した。3人とも伸びてる。サイバネもなるべくぶっ壊しといたから目ぇ覚ましても使い物になんないな。

 あいつらの相手をしてたお陰で、こっちを助けに来るのが遅れちまった。『天罰』は逃げるギリギリまで使えないしよー、これでも苦労したんだぜ」

「ば、ばか、ばばば、ばばばばば……」


 司教のオッサンは震えるのを通り越して振動し始める。お前はマナーモードか。

 俺が3人もサイバネ強化兵を片付けたなんて、まあ普通なら信じられないだろうけど……目の前でひとりやっつけて通信も途絶してるんだから、まあ説得力は十分だよな。


「……あのさぁオッサン。

 俺がもし、ただ市民を誘って回ってるだけの勧誘員のガキだとしたら、なんでこんな国家予算の何%ってレベルの賞金掛けられてるのか、おかしいと思わなかったの?」

「へ……はぁ?」

「信じやしないだろうが、折角だ。この世界の本当のことを教えてやるよ」


 俺は隠し持っていたホログラム迷彩変装装置の電源を切った。


 俺が某所で手に入れた『ホログラム迷彩変装装置』とかいうケッタイな代物は、光学迷彩的ななんかのテクノロジーで所有者の体に偽の映像を投影、立体的な幻影を作り出すことで姿を変えるベリーベリーSFなアイテムだ。

 俺は普段からこの変装機で、監視カメラの背教者データベース自動照会AIを絶妙に誤魔化せて、しかも人間の目からはほぼ変わらない感じに容姿を変えている。ま、特に用心するときは全く顔を変えてるんだけど……こいつの一番重要な用途はそこじゃない。

 デコっぱちに付いたモノを隠すためだ。


「額に……魔晶石コンソールだと!?」


 オッサンの顔が驚愕に固定される。

 首から上に付けることすらはばかられる魔晶石コンソールを俺は堂々と額に付けているのだ。


 でもしょうがないよね。なにしろ……本当の神様ってのは俺なんだから。


 実を言うとこの方舟には、西暦時代の冷凍睡眠者が多く存在()()。……過去形だ。なにしろほとんど教会に殺されちまったんだから。

 かく言うこの俺、21世紀初頭の日本でのんきに高校生していたはずの神代賢もそのひとり。ある日病気で倒れ、そのまま帰らぬ人になるかと思いきや、開発途中だった冷凍睡眠技術のモルモットにされ、この世界で目覚めた時は『神』にされていたのだ。


 神様というのは本来、この方舟の管理者権限を持つ者。祈ったところで御利益は無いが、この方舟のシステムを動かして世界をメンテナンスしたり、やろうと思えば天井に設置されたレーザーガンから裁きの光を降らせることだってできる。

 何を考えて俺ごときをそんなもんに選んだのかは知らない。だが、この方舟に放り込まれた冷凍睡眠者たちは、神としての権限を与えられている。ひとりが死ねば次のひとりが冷凍睡眠から目覚めるというシステムで、順番に管理者をやらされることになっているのだ。


 問題は、本来は神を助ける機関だったはずの教会が神というシステムを裏切り、神候補を目覚める前に殺しまくっていると言う事だ。最初はうまくやってたみたいなんだけど、ある時、教会は暴発した。神を殺し、全ての権力をほしいままにしたのだ。

 もちろん今現在教会のトップに立っている神は方舟の管理者権限を持たない偽物。教会が権力を握るためのお飾りだ。この世界をメンテする能力は無く、方舟は破滅へ真っ逆さま。悲しいねえ。


 だがそのままで良いわけは無い。

 何の因果か神になっちまったこの俺、神代賢は、壊れ行く方舟を修理しつつ、教会が支配するディストピアで虐げられる人々を救い出している。

 もちろん一般市民どころか、トップを除けばこういう教会の人らさえも俺が本物だって事は知らないわけで、俺を背教者のカルトと見なして攻撃してくるんだが……


 ……という事を長々と説明している余裕は無い!

 なので額の魔晶石コンソールと、俺の尋常ならざる力を見せるだけだ。できればそこから何か考えてくれ!


「神に楯突く者の末路を思い知るといい!」


 Zap!


 俺が司教のオッサンを指差すと同時、シメの天罰レーザー一発が天より飛来!

 オッサンは余波のスパークを散らして痙攣しながらバッタリ倒れた。


「咎人よ、そなたの罪はそなたにあらず。

 悔い改めよ。さすれば約束の地、地球はそなたを迎え入れよう」


 俺はせいぜい荘厳ぶって、カンペありのセリフを読み上げた。演出も大事なんですよ、神様役って。

 ……そう考えるとやっぱりジャージはダメだな。

次回でティザーストーリーは終わります。

更新予定:3/21

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