「――って感じで、こんな風に歪んじゃったんだー」
自嘲的に笑って、クレマンティーヌはモモンガの頬をふにふにと軽くつまむ。
「…………」
モモンガとしては、家族にひどい扱いを受けた経験というものがない。
それなりにエリートらしい彼女の境遇と、周囲の扱いは、どうにもよくわからなかった。
どういえばいいかわからない、そんな空気を相手も感じたのだろう。
「モモンガちゃんは、アルベド様に大事にされてていいよねー」
「え……そそそそ、そうかっ?」
少し妬ましげに、そう言われると。
モモンガは飛び上がらんばかりに、喜ぶ。
「そうだよー。私なんて大事にされなかったせいで歪みきちゃったからねー。拷問大好き、殺すの大好きになっちゃったもーん。アルベド様が、モモンガちゃんに痛いことしちゃダメーってさんざん言ってなかったら…………」
ぎろりと、威圧し。
「モモンガちゃんも、ズタズタにしちゃってたかもねーーー?」
上からのしかかって、下劣で邪悪な笑みを見せるが。
「ひゃわっ! クレマンティーヌ様……」
悲鳴をあげはしても。
怯えるというより、期待するような目で見られる。
「こーの淫乱っ! なーに期待してるわけー?」
調子が狂ったまま、合わせてしまう。
なんだかんだと、だらだら甘い時間を過ごしてしまっていた。
この閉ざされた部屋では、時間もわからない。
クレマンティーヌの体は指輪によって、寝食不要疲労無効になっている。汗や汁にまみれれば、風呂に入って。気疲れすれば会話して……また、交わる。
おかげで、二人とも互いの心身をかなり隅々まで知るのだった。
「もう三日でありんすよ? そろそろ、私も混ざっても……」
初日以来、一時間に一度はぼやくシャルティアを、既にアルベドは無視していた。
モモンガが自らアルベドを呼ばない限り、なるべく放置しておくことにしたのだ。
(そうすれば私も仕事ができるし……モモンガ様も、他の相手で満足できるでしょう)
「あんな泥棒猫にペットの座を奪われるなんて屈辱っす!」
もっとも、ルプスレギナもシャルティアと共に不満を募らせている。
「私たちはメイドでしょうに……」
ソリュシャンが毎回、溜息混じりに訂正するが。
「でも、私だってモモンガ様とあんな風にいちゃいちゃしたいっす!」
「それはそうだけど……」
二人としても、側仕えの任に早く戻りたかった。
「それにしても、やっぱモモンガ様の体は魔性っすねー! この人間もどんどん上手くなってるっすよ!」
「あら……本当ね。動きっていうか……いろいろ別人みたい」
その言葉に、アルベドがぴくりと反応した。
机を離れ、鏡に映る室内を見る。
「これは……」
戦士職を極めたアルベドの目にも、クレマンティーヌの動きは明らかに変わっていた。
「はぁ……はぁ……♡ モモンガちゃんの体って、ホーント全然あきないねー♡」
「んっ♡ クレマンティーヌ様も、どんどん上手になってきてる……♡」
ベッドでして、お風呂でして、床でもして、べたついたベッドでまたして。
休息の間も身を寄せ合い、頬ずりし、キスをし、髪を撫で。
二人はずっと、肌を触れ合わせ続けていた。
「フツー、
「え? 何もしてないけど……?」
きょとんと首をかしげるモモンガを、クレマンティーヌは愛らしいと思う。
むっちりとした肢体は明らかに年上の……母性すら感じさせるのに。
眺めていると、いつものような殺意や苛立ちではない、奇妙な愛情を抱いてしまうのだ。
(魅了されちゃってるのかなー。何もされないから、別にいいけど……)
「そっかー……まあ、どっちでもいいんだけど」
「あっ♡」
小休止は終わり。
また抱き寄せて……という時。
ノックをせずに、扉が開いた。
「え?」
「チッ!!」
反応は、クレマンティーヌの方が速い。
モモンガの前に立ちはだかり。
突き立てられるナイフを、枕を盾に受け止める。
襲撃者はナイフを手放し、瞬時に距離を取った。
「へぇ……確かにこれは……」
襲撃者が興味深そうに、反応したクレマンティーヌを見る。
「どういうことだ……?」
モモンガが、シーツで裸身を隠しつつ襲撃者を睨んだ。
クレマンティーヌは即座に、枕に刺さったナイフを手に取り、構えている。
こちらは裸体のままだが、機能美に満ちた肉体は研ぎ澄まされ。
今までの、快楽に溺れた時間を感じさせない。
「お叱りは後でお受けします、モモンガ様。少々、興味深い事例を見つけましたので」
煽情的な衣装のメイド――ソリュシャンが、淡々と答え。
別のナイフを取り出し、構えた。
かつてのクレマンティーヌなら飛び出し、交戦しただろうが。
今は状況を知るべく警戒し、留まる。
「……模擬戦ということで、軽くいかがです?」
ソリュシャンが冷たく笑い、挑発するが。
クレマンティーヌは無視。
「聞いていたより慎重ですね。最初の防御が、まぐれか否か、しっかり吟味させていただきたかったのですが――」
言いつつ、床をすべるようにメイドが迫る。
しかし、対するクレマンティーヌに動揺は見られない。
「――〈超回避〉〈即応反射〉」
体をひねり、切っ先をかわしつつ。
体勢を戻す武技によって、己のナイフをメイドの喉に付きつける。
「お見事」
追い詰められても、ソリュシャンは余裕ある笑みのまま。
「……満足したー? メイドちゃん」
クレマンティーヌはつまらなさそうに言い、突き付けたナイフを離す。
開かれた扉の向こう。
廊下から、軽く拍手の音がした。
「アルベド!」
現れた女性に、モモンガが嬉しそうな声をあげる。
(……なんだよ。守ってやったのに。先に私に礼くらい言えってーの)
一方、クレマンティーヌは。
アルベドへの恐怖より先に、なぜかモモンガへの苛立ちを感じていた。
ソリュシャン、ルプスレギナにより、クレマンティーヌは連れて行かれた。
モモンガは、丁重に扱うよう言ったが。
二人は苦々しい顔をして見せ、クレマンティーヌは心細そうな顔を見せた。
(無理を言ってでも、部屋にいさせるべきだったかな……)
少しだけ心配するが。
目の前にアルベドがいる以上、モモンガの頭の中はすぐに情念で塗りつぶされる。
「やっと仕事が終わったのか、アルベド……様。こ、今度から仕事が溜まったらきちんと言ってくれ。伴侶として、お前が仕事の間を待つくらいはするし……少しは手伝うからっ」
「ありがとう……モモンガ」
“様”と呼ばれて、目を見開くアルベドだが。
下を向いて、その驚愕を主に見せまいとする。
そして、シャルティアを連れて来なくてよかったと、安堵した。
「それで……その、私も汚れたままだし、よかったらいっしょにお風呂……」
おずおずと、艶めいた顔で誘ってくる主に、アルベドとて応じたいが。
「その前に。モモンガ様、守護者統括として報告があります」
「あ、ああ……仕事のことか。地上で何かあったのか?」
“モモンガ様”と呼ばれ、露骨に気を落とす。
できれば、おおっぴらにアルベドの奴隷になりたいのだ(アルベドにそんな気はないが)、
「いえ、現状ではおよそ問題なく。いくつか気になる情報はありますが、詳細を調べて吟味の上で、モモンガ様に報告させていただきます」
「では、内部か? 維持コストに問題でも出ているのか?」
「いえ。まだユグドラシル金貨への換金率に優れた品は見当たりませんが……幾百年の余裕がある以上、慌てる状況ではないと考えております」
アルベドは冷静に、すらすらと答える。
「では、他に何の問題があるのだ?」
少し拗ねたような顔になる。
モモンガとしては、早くアルベドにかわいがって欲しいのだ。
「モモンガ様と、あの人間の女です。今しがた、ソリュシャンに行わせたテストで、重要な問題が判明しました」
沈痛な面持ちであった。
「どういうことだ」
その真剣な様子に、モモンガも真面目な顔になる。
(クレマンティーヌ様に、変なバッドステータスでも与えていたのか? それで私とするのは問題あるからしばらく……エッチなのナシとかそういう!?)
頭の中はまったく真面目ではなかったが。
「……モモンガ様と交わって、あの女は相当のレベルアップをしております。来た折は、30レベル前後でしたが……今の彼女は最低でも40レベル以上はあるかと」
種族特性を使わぬソリュシャンと十分に渡り合ったなら、そういうことなのだ。
かつてのクレマンティーヌなら、反応すらできなかったはずなのだから。
「え? なんで?」
予想外の言葉に、モモンガは呆然と問い返す。
「申し上げにくいのですが……御身を性的に屈させるごと、一定の経験値が得られるのではないかと……」
「はぁぁぁぁ!?」
モモンガの頭の中で、いつか見たバードマンが飛び回った。
トラップカード発動! 『エロゲーの法則』!
多くのファンタジーエロ主人公が経験値稼ぎする方法で経験値稼がれてしまう系ボス(長い)だったモモンガさん。そう、モモンガさんの転移後人生こそ実はエロゲーだったのだ……(主人公側とは言ってない)。
さすがに倒した扱いにはならず、一部経験点のみ。
クレマンティーヌは100レベルに至ってませんが、かなり強化。
ただ、方法が方法なのでエロ系クラスを獲得し、レベルアップさせてるだけです。
戦士としては、ほぼ基本能力値底上げのみ。