ゲーマー日日新聞

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今更オタクがシュタインズゲートを遊んで心が壊れた話

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去年、たくさんの面白いゲームを遊びました。

 

『Horizon: Zero Dawn』

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『スーパーマリオ オデッセイ』

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『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』

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全部面白かったです。

けど、一番衝撃を受けたゲームはこれでした。

 

『Steins;Gate』

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9年前のゲームです。けど面白かった。どれぐらい面白かったかというと、多分5年に1本遊べるか遊べないか、人生観を変えたってぐらい面白かった。面白すぎてクリアした後、まる一ヶ月はメンタルがやられて私生活に支障をきたした。

けど、作品そのものを客観的に評するなら、『Steins;Gate』は恐らく上記の3作には敵わないかもしれない。それでも、ここまでハマったゲームはなかった。

 

 

実は買ったのは多分1年前です。確かSteamのストアであの有名な『シュタゲ』があったので、何も考えず買って放置していた。

それが昨年12月に、アニメが始まったとかで『シュタゲ』の話題がdiscordで少し出てたので、じゃやってみるかと思いプレイしたが最後、まるで初めて『Diablo』に触ったティーネイジャーのように土日の朝から晩まで16時間ぐらいぶっ通しでプレイし、多大な達成感と共に喪失感でメンタルが壊れ、周囲から何かあったのではと心配されるほどにやさぐれる始末だった。

 

で、『シュタゲ』の良さは既に散々語られていると思う。私も拙稿ながらレビューも(【評価】『シュタインズゲート』の感想やレビュー ADVに本当に必要だったもの - ゲーマー日日新聞)も書かせて頂いたし。ただそれはあくまで、「誰でもわかる」魅力に絞られている。

けど、このゲームは「客観的に優れている」というより、私個人が本当に好きになれたゲームでもある。何故、私が「心が壊れる」に至るまでこのゲームにハマったのか。

 

ありえそうでありえない夢

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結論から言うと、要するに羨ましかったのだと思う。

『シュタゲ』を要約すると、秋葉原に「未来ガジェット研究所」という小さなラボを作る厨二病の大学生である岡部倫太郎が、学者の紅莉栖、幼馴染のまゆり、友達のダルらと共に偶然タイムマシンもどきを作ってしまい、それによって生じる悲劇を回避するために奮闘するという話だ。

で、自分でも全然想像してなかったけど、多分心の奥底で「こんな生活もいいよな」って見ていた夢が、あり得ない精度でゲームという「体験型メディア」になった結果、こんなにハマっちゃったのかなと。

 

まず大学生で、しかも秋葉原にたむろしてるってのがまず羨ましい。

秋葉原で、未来ガジェット研究所で、ガラクタ作り。めちゃくちゃ楽しそうじゃないですか。いいなぁ。フツーの文系学生の生活も良いが、こんな理系学生の生活も憧れる。

何より、『シュタゲ』はこの生活に関して本当に描写が細かいんです。

牛丼といえばサンボ、イベントはUDX、そして特異点としてラジ館。しかも単にスポットだけじゃなく、ルートまで細かく考察して描写してる。ラボからちょっと歩けば大通りに出て、そこから駅に向かうとか、本当に自分がそこで生活している気になれる。

 

しかもそこに、色々な仲間が集まってくる。

岡部が適当に勧誘した人間、彼は「ラボメン」って呼びますが、色々いる。典型的なオタクのダル、幼馴染のまゆり、天才と称される学者の紅莉栖、訳ありバイト戦士の鈴羽を中心に、フェイリス、るか、萌郁。

外見だけ見ると、まぁ普通のギャルゲーかなと思うけど、実は本命の一人と、予想外の一人を除いて、殆ど恋愛要素が無い。ただのラボメンだし。別に「仲間だッ!!ドン!!」って言ってベタベタするわけじゃない。人間的に出来すぎてるわけでも、情緒不安定なわけでもない。

すげぇ絶妙な距離感と人間性。リアルだ。無駄に干渉しない、一々キレたり喜ぶわけでもない。けど人間的に温かい。大学生という大人でも学生でもない絶妙な人々。

 

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で、やはり本命は牧瀬紅莉栖というメインヒロイン。 めっちゃかわいい。普通に付き合いたい。

粗筋としては、飛び級で大学を卒業した帰国子女が夏休みで秋葉原に講演に来た紅莉栖が、紆余曲折の末にラボに転がり込んでタイムマシン開発に参加する、という話なんだけど。のっけから「賢いけど年相応にポンコツ」という方向でこっちのハートにジャブを決め、タイムマシンのトラブルが始まっては、凛々しくも岡部を支えつつ、窮地に追い込まれて弱い所も見せる、という完璧ぶり。

脚本も、紅莉栖というキャラを男に媚びさせるのでなく、まず彼女自身の人格を形成することに集中した点は見事だと思う。事実、彼女の出生から生き方まで、明確に物語に噛み合ってくる。

うおお、羨ましいよ!俺も紅莉栖みたいな女の子と一緒に実験してえ!尊敬する程に賢くて、割と常識的で、たまにポンコツで、微妙にオタクで、深い思いやりの心を持ってて…。そんな女、現実にいねぇよ…。

 

最後に、岡部倫太郎。この作品の主人公にして、私が最も好意を抱いた男だ。

まずこのゲームは、岡部倫太郎という主人公を極めて精緻に描いている。個性的なようで無個性、至って普通のオタク大学生が、タイムマシンの発明と陰謀に巻き込まれ、最終的に無限の時間漂流するハメになる恐怖や勇気を余すことなく文字化している。

ただ凄いと思うのが、まずADVである以上主人公が喋りまくる割に、私は嫌悪感どころか感情移入しまくったこと。無個性な人間が明確な意志を持って戦うという難しい落とし所をちゃんと見出していて、ゲーム全体で一番オカリンというキャラが好きになった。

そういう感情移入できる状態で、もの凄く理不尽な苦境に陥って弱音を吐いているのにも関わらず、「困っているラボメンがいたら絶対に助ける」とかカッコイイこと言っちゃうのが、かなり自分の心に「くる」。

果たして、岡部と同じことが自分にできるだろうか…と。

 

 

最近だと「異世界系」という、無個性な主人公が異世界に巻き込まれるという話が多いらしいが、割りとシュタゲの展開に似ている。とは言え、シュタゲの場合、半分巻き込まれ半分自業自得であり、また半分異世界で半分同じ世界という違いがあるおかげで、幾分か感情移入し易い。

この塩梅が絶妙で、「うっかりタイムマシンを作り陰謀に巻き込まれる」という冷静に考えたら滑稽な字面が、ゲームという媒体を通して「実際にそんな夢を見るかもしれない」辺りまでリアルな形に持っていっている。

 

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感情移入できるゲームは無数にある。だが羨ましいとは限らない。

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私がゲームを遊ぶ理由は色々あるのだが、一つは、先程述べた『シュタゲ』の事例のように、プレイヤーによる入力を前提として、物語に強烈にインボルブしてくれる点だ。

つまり、『シュタゲ』同様にガッツリと感情移入できたゲームは他にも存在する。いくつかあるが、ここ最近で注目しているのが『LISA: the painful』というゲームだ。

 

『LISA: the painful』は何度かブログで宣伝しているのでご存知の方も多いと思うが、女が絶滅して無政府状態になったカンザス州で、ハゲオヤジの主人公が奇跡的に生きていた一人の娘を救出しようとするRPGだ。

で、タイトルに「painful」とあるように、このゲームはヒジョーに「痛い」。ゲームバランスはマゾい、NPCは尽く主人公を騙そうとする、当たり前のように仲間が死ぬ、主人公はヤクザ集団に拷問される。

もう散々なゲームなわけですが、同時に驚くほど人間性の在り方を丁寧に描いているゲームでもあって。主人公・敵・NPC問わず、誰も彼もが世界に絶望し、各々が狂気に陥っている様を丹念に感じ取れるわけで、感情移入しすぎるとメンタルがやられる危険なゲームでもある。

 

ところが、私は特段、「心が壊れる」ことはなかったんです。無論、全身全霊で物語にフルダイブし、主人公諸共、心身ともにズタボロにされたわけですが。

何故か。それは、これを書くのはかなり憚られるけれど、「他人の不幸は蜜の味」だから。正直言って、主人公の苦痛なんて愉悦でしかない。だって俺、画面の前に座ってるだけで、痛くも痒くもないし。

無論、感情移入しまくって遊んでるわけだから、不快感、絶望感は十分味わってる。だけどそれは、安全バーにしがみついてジェットコースターに乗るようなもので。「100%死なない保証がありながら、死にそうな思いをする」という、スリルを楽しんでるようなものです。

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愉☆悦

 

だけど、『シュタゲ』は予想外だった。ってか反則だ。

だって、まさかゲームを通して「羨ましい」と思う事なんて一度もなかったから。

『Half-Life』? エイリアン退治大変ですね、俺の代わりに頑張ってください。

『The Last of Us』? 娘を失った哀しみと後悔から徐々にエリーに依存してますね。大変興味深いです。

『ゼルダ』?『マリオ』?『ホライゾン』? いやどれも楽しかったけど、ゲームだから楽しいわけで、自分があの世界に行きたいとまでは思わないですね。

いやもちろん、どれも全力で楽しんでるし、記憶に残る傑作です。けど、正直大半は別に羨ましくないというか、しっかり感情移入して悲壮かつ壮絶な人生を体験する一方で、「日本が平和でよかった」って戻ってこれるし。

けど『シュタゲ』はマジでダメだった。宝くじで3億当てたいとか、そういう次元でなく、自分が気付かぬうちに心の底で憧憬の念を抱いていた世界が、何故かゲームになっていて、偶然体験してしまったというか。

で、「いいなぁ、こういうの」って思える生き方を、ゲームを通して凄くリアルな夢を見てる感じで体験できて、当然クリアしたら夢から覚めてしまって。そりゃショックでしょ。

 

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オタクの夢を体験するゲーム

というわけで、『シュタインズ・ゲート』は純粋に出来が良いビジュアルノベルというだけでなく、多分僕を含めた、数多くのナードが心の底で憧れていた夢を、驚くほどクリティカルにゲームという媒体で再現したのが、凄いなと思う点です。

特に、ゲームでこういう体験は意外なほど少ない。時に、時空の英雄になったり、戦場の兵士になったり、色々過酷な体験をすることはあるけど、「自分の潜在的な夢を叶える」ようなゲームって、殆ど無いと思う。

確かにゼルダもマリオもホライゾンも楽しいが、あんな生活に憧れはしない。

そして間違いなく、これはゲームの一つの可能性だなと思う。以前、批評で述べたように『シュタゲ』はビジュアルノベルでありながら、プレイヤーと岡部の目線をリンクさせることで、驚くほど「ゲームらしく」作られている。だから容赦なくプレイヤーの心を2010年の秋葉原に拉致してしまう。

勿論、誰もが自分みたいな夢を持ってるわけじゃないし、だから自分みたいに刺さるとも限らない。だけど、いざ刺さった時の破壊力は抜群で、本当に唯一無二の体験が出来たと思う。

何にせよ、このゲームを遊べてラッキーでした。