豪奢な玉座の前だった。
少なくとも今まで置かれた、悪魔の跋扈する荒野より遥かにマシ……だが。
「ふ、ふーん……地獄じゃなかっただけで、一安心だねー」
クレマンティーヌの声は震えていた。
目の前の
彼女の知る最強の存在――漆黒聖典、番外席次よりもあるいは。
(やばーい……やばいよ……これ……)
華々しい白いドレスをまといながら、傷一つ負わせられると思えない。
その存在は山……いや、大陸そのものとすら思えてくる。
己をここに連れて来て退出した山羊頭の悪魔より、さらに上。
しかも、その目に灯る光は、どう見ても好意的ではない。
「そ、そそそそれで、アルベド様は私なんかに、なんの御用かにゃー」
震えすぎて、噛んだ。
ナザリックのNPCなら誰しも、至高の御方の私室に入るならノックする。
しかし今、ノックもされず、ドアが開かれた。
「あっ♡ あっ♡ アルべドっ、アルベドぉっ!」
ドアから訪れるアルベドを想像し、扉に向かい、己の肢体に指を這わす。
ノックして訪れるギリギリまで、アルベドのため己を昂ぶらせようと始めた自慰だが……途中から夢中になり、扉の開く音にも気づかなかった。
「うっわ、これはさすがに退くわー」
そして見知らぬ女の呆れかえった声に、とびあがる。
「……ひぁっ、だ、誰だっ!」
慌てて脚を閉じるが、時すでに遅し。
下着姿同然の女が、するりと部屋に滑り込んでいた。
「クレマンティーヌ様だよー、はい、開いたまま開いたままー♪」
疾風走破の異名を無駄に使い、一瞬で距離を詰め。
モモンガの脚の間に入り込んで、閉じさせない。
そして笑みを浮かべ、モモンガの怯える顔を見ている。
姿勢も表情も、猫を思わせる女だった。
「ひっ! や、やめ! アルベドっ、たすけ、たすけてぇっ!」
しかし無情にも扉が、半ば自動的に閉まる。
部屋の中から、廊下に音はまず漏れない。
色に溺れるモモンガのため、ノックのみ反応するよう処理が施されたのだ。
「騒いだって無駄だよー? そのアルベド様から、この部屋にいるモモンガちゃんを、いーっぱいいじめて来てーって、頼まれたんだからさー♪」
にたぁっと耳まで裂けんばかりの笑みを浮かべ。
先刻までモモンガ自身がさんざんいじっていた箇所を、乱暴に摘ままれる。
「そんな……うそ……ひぎゅっ!!」
自慰で昂ぶったモモンガの体が、それだけで気を遣ってしまう。
「へーーーーぇ、アルベド様の言う通り、簡単にイッちゃうんだねー♪」
見知らぬ人間の女が、下卑た笑みと共にアルベドの名を口にするごと、モモンガは胸が締め付けられる。
だというのに、乱暴にされるだけで、体は反応し。
「やっ、ちが……っひぃぃぃぃぃいっ!!」
絶頂に追いやられてしまう。
不本意な快楽に、声には艶すらないが。
そんな悲鳴じみた声に、クレマンティーヌは笑みを深める。
「ホント、私より年上のクセにさー♪」
「いぎっ、いぎゅっ! いぎたぐないいいいい!」
心が拒み、異常な状況に怯えるほどに。
体は勝手に昂ぶり、より過敏になってしまう。
「指だけで感じまくって、恥ずかしくないのー?」
「はっ、はぁっ、や、やめ、やめてっ、クレマンティーにゅうううっ!!」
怯えるモモンガに、クレマンティーヌは嗜虐心を刺激される。
「んー? モモンガちゃんはアルベド様の奴隷(みたいなもの)なんでしょー? そーのアルベド様からさぁー、アンタを自由にしていいって言われた私を、クレマンティーヌ様って呼んでくれないのー?」
「はっ、はっ……えっ……♡ あ、アルベドの奴隷……♡」
びくっ、びくっと、モモンガの体が今までで最も深く痙攣した。
アルベドに奴隷と思われている……というだけで。
性的興奮の極みに達したのだ。
「そーだよー。あのアルベド様に比べたら、モモンガちゃんはダメダメだもんねー?」
モモンガの声に明らかな艶と媚びが混じり始めるが、クレマンティーヌはそこまで色事に精通していない。
「ひゅっ♡ ひきゅっ♡ そうっ、私なんてアルベド様にくらべたらぁっ♡」
「じゃー、私のことも何ていうか、わかるよねー? モ・モ・ン・ガ・ちゃぁん♪」
にんまりと笑うクレマンティーヌに、頬を舐められるモモンガ。
「いぎっ♡ いぎゅっ♡ きゅれまんてぃーぬ様ぁっ♡」
「そうそう♪ ほら、もーいっかいー♪」
「くれまんてぃーにゅっ♡ しゃまっ♡」
「ちゃんと言えるまで続けちゃおっかなー♪」
「ひょ、ひょんなっ♡」
すっかり蕩けて、目にハートマークを浮かべたモモンガは。
クレマンティーヌにさんざん、鳴かされるのだった。
(まー、この英雄の領域に足を踏み入れたこのクレマンティーヌ様がさぁ。こんな縛りだらけの、くっだらねーオママゴトに付き合ってんだからさー……せーぜー、いじめ尽くしたげるよー、モモンガちゃん♪)
突然に拉致され、武装解除され、地獄同然の場所に放置され。
さらには、見知らぬ女を性的に辱めるよう言われたのだ。
拷問や傷が残る行為は禁止とも言われている。
クレマンティーヌは様々な鬱憤を、ひたすらモモンガにぶつけた。
シャルティアとルプスレギナは、この状況を音声ナシで覗き続け。
アルベドとソリュシャンはその横で、たまった報告チェックをしていた。
「はー、やっぱ淫魔はタフだねー。指が痛くなってきちゃったよー」
ごまかすように言って、手を離し。
ごろんとベッドに寝転ぶ、クレマンティーヌ。
あのアルベドには劣る様子とはいえ、
モモンガのよがり狂う顔を見ていると、魅了されていくのがわかる。
「ん……クレマンティーヌ様……寝る?」
完全にローブを脱いで裸になったモモンガが、いそいそと横に寝そべってくる。
敵意や殺気はない。
(くそっ、このクレマンティーヌ様ともあろう者が、なんでちょっとかわいいとか思ってんだよ……)
顔を背ける。
年上の同性相手にそんな関係になるつもりは、毛頭ない。
「チッ、なんか寝食不要疲労無視になる指輪もらっちゃったから、一休みするだけだっつーの」
自身の内心を否定するように舌打ちして。
ぞんざいに答えた。
(コイツ、なーんであんな扱いされて、私に懐いて来てるかなー……やっぱ、淫魔だけに淫乱ビッチってことか……?)
もぞりとモモンガの方を向くと、思いのほか顔が傍にある。
なぜかドキリとさせられてしまう。
「その指輪も、アルベド様から……?」
「そそ、アルベド様からー♪ モモンガちゃんが満足するまで相手できるよーにってさー♪」
(……人間に、リング・オブ・サステナンスを? 薬指には着けていないが……浮気では……)
すぅっと、モモンガの瞳から光が消える。
「アルベド……様は、今何を?」
ぞわんと、少し悪寒を感じたクレマンティーヌだが。
さんざん淫魔を性的に攻めて、自身も少し濡れたせいかなと思った。
「私にいじめられるモモンガちゃんを見ながら、たまったお仕事するって言ってたよー♪ さっきまでのも、みーんな見られちゃってたねー?」
ぽふぽふと、わざと優しく頭を撫でて煽ってみた。
「そ、そうなのか……う……うう……」
嗚咽を漏らし、泣き始めてしまうモモンガ。
(ふっふーん、いい泣き顔見せてくれるねー♪ かわい……いやいや、そうじゃないだろ!)
己の感情を否定する。
淫魔に魅了される……という打算以上に、自分が自分でなくなるようで怖いのだ。
もっとも、モモンガが泣いた理由は、クレマンティーヌの憶測とはまったく違う。
(アルベドが……アルベド様が、仕事をためこんでいたなんて……知らなかった。私がずっと、部屋に縛り付けていたせいで……)
ため込んでいたのは各NPCからモモンガへの報告であり、アルベドの仕事ではない。
(しかも、遠回しにアルベド様と呼ぶことを許して……人間を私の相手に寄こすなんて。きっと、シャルティアたちもアルベド様を手伝っているんだろうな……)
モモンガの涙は、アルベドへの感謝と。
己の不甲斐なさである。
奇しくも、かつてデミウルゴスらが流していたと同質であった。
(私はアルベド……様をろくにわかっていなかったのに。アルベド様は私の望みを、わかってくれているのか……私を……奴隷にしてくれるなんて……)
「泣いちゃったー? かわいそー♪」
涙ぐむモモンガを、横から煽る。
(はぁ……クレマンティーヌはいじめるの上手だな……こういう風に、アルベド様にも……ん? ううん? そ、そうだ、よく考えれば、いつも私ってされる一方のマグロじゃないか! うう、アルベド様に飽きられたくない……この人間で私にもそういう練習をしておかないと……このまま他の子の相手ばっかりで、アルベド様に抱いてもらえないかも……い、いや。この機会を活かすんだ。まずは人間をしっかり感じさせられるようにならないと!)
「あ、ありがとう……、クレマンティーヌ様……っ」
ぎゅっと、彼女を抱きしめて寝転がる。
上からのしかかる体勢になった。
「え……?」
クレマンティーヌとしては、なんで礼を言われるのかわからず、戸惑うしかない。
「わ、私ばっかり気持ちよくなって……く、クレマンティーヌ様にもしっかり、気持ちよくなってもらうから……っ」
真剣な顔で抱きしめ、頬ずりしながら言ってくる。
(え……どーゆー思考回路してんだ? まあ私にするのは別に……っていやいや! いいわけないだろ!)
「ちょ、おま……力つよっ……やめ……ひぅっ!」
抵抗するクレマンティーヌにのしかかってくる。
淫魔の指と舌が、鍛えられた肢体を舐め、愛撫し。
思えば
「はっ♡ はぁっ♡ す、すご……♡」
さんざんモモンガに弄り尽くされ、クレマンティーヌは息荒く横たわる。
「ありがとう……クレマンティーヌ……様。おかげで自信が、ついた」
少し晴れ晴れとした顔で、モモンガが横に寝そべっている。
「モモンガちゃん、
「ん……クレマンティーヌ様、かわいかった」
横から頬にキスをされても、もう抵抗も何もない。
もっとさんざん恥ずかしいところを見られたのだから。
「はー……ねー、モモンガちゃんってアルベド様の妹だったりするのー?」
「え? そ、そういうわけでは……」
思わぬ質問に、口ごもるしかない。
今更、関係としては自分がアルベドの主だなどと、言えるはずもない。
「ふーん……どっちにしても、上の出来が良すぎるって、つらいよねー」
「……うん」
出来がいいのは下なんだけど……と、モモンガは言葉を飲み込み。
曖昧に頷く。
「私はねー…………」
事後の甘い脱力感のせいか。
クレマンティーヌは、自身の内で
この後、クソ兄貴と周辺環境への愚痴をひたすら言います。
そしてモモンガさんに、ちゅっちゅしてもらって慰められます。
クレマンティーヌは、まだまだツン期ですが、ベッドの上では(相互的に)ペットです。
モモンガさんは、例の探知妨害(強者のオーラや魔力も隠す)を装備中。
アルベドさんは「寂しがりの子がいるから、淫魔の流儀でいじめてきなさい」と命令してます。
リョナとハードすぎるプレイは禁止されたので、クレマンティーヌなりにアルベドの縁者なんだなーと推測してます。
まさかモモンガさんの方が支配者とは、思ってません。
あと、指輪を左手薬指につけてて、アルベドとの恋愛方向でモモンガさんを煽ってたら、クレマンティーヌは死んでました。既にモモンガに半ば魅了され、アルベドからは威圧しか受けてない(アルベドから逃げたい)ので、そんな煽りはしませんでしたが!
ちと忙しくなってきましたので、隔日投稿もちょいちょい混じりそうです。