アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

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満を持して、クレマンティーヌさんの出番!


17:女は度胸、何でも試してみるものさ

 豪奢な玉座の前だった。

 少なくとも今まで置かれた、悪魔の跋扈する荒野より遥かにマシ……だが。

 

「ふ、ふーん……地獄じゃなかっただけで、一安心だねー」

 

 クレマンティーヌの声は震えていた。

 目の前の女淫魔(サキュバス)は、あまりに圧倒的強者だったのだ。

 彼女の知る最強の存在――漆黒聖典、番外席次よりもあるいは。

 

(やばーい……やばいよ……これ……)

 

 華々しい白いドレスをまといながら、傷一つ負わせられると思えない。

 その存在は山……いや、大陸そのものとすら思えてくる。

 己をここに連れて来て退出した山羊頭の悪魔より、さらに上。

 しかも、その目に灯る光は、どう見ても好意的ではない。

 

「そ、そそそそれで、アルベド様は私なんかに、なんの御用かにゃー」

 

 震えすぎて、噛んだ。

 

 

 

 ナザリックのNPCなら誰しも、至高の御方の私室に入るならノックする。

 しかし今、ノックもされず、ドアが開かれた。

 

「あっ♡ あっ♡ アルべドっ、アルベドぉっ!」

 

 ドアから訪れるアルベドを想像し、扉に向かい、己の肢体に指を這わす。

 ノックして訪れるギリギリまで、アルベドのため己を昂ぶらせようと始めた自慰だが……途中から夢中になり、扉の開く音にも気づかなかった。

 

「うっわ、これはさすがに退くわー」

 

 そして見知らぬ女の呆れかえった声に、とびあがる。

 

「……ひぁっ、だ、誰だっ!」

 

 慌てて脚を閉じるが、時すでに遅し。

 下着姿同然の女が、するりと部屋に滑り込んでいた。

 

「クレマンティーヌ様だよー、はい、開いたまま開いたままー♪」

 

 疾風走破の異名を無駄に使い、一瞬で距離を詰め。

 モモンガの脚の間に入り込んで、閉じさせない。

 そして笑みを浮かべ、モモンガの怯える顔を見ている。

 姿勢も表情も、猫を思わせる女だった。

 

「ひっ! や、やめ! アルベドっ、たすけ、たすけてぇっ!」

 

 しかし無情にも扉が、半ば自動的に閉まる。

 部屋の中から、廊下に音はまず漏れない。

 色に溺れるモモンガのため、ノックのみ反応するよう処理が施されたのだ。

 

「騒いだって無駄だよー? そのアルベド様から、この部屋にいるモモンガちゃんを、いーっぱいいじめて来てーって、頼まれたんだからさー♪」

 

 にたぁっと耳まで裂けんばかりの笑みを浮かべ。

 先刻までモモンガ自身がさんざんいじっていた箇所を、乱暴に摘ままれる。

 

「そんな……うそ……ひぎゅっ!!」

 

 自慰で昂ぶったモモンガの体が、それだけで気を遣ってしまう。

 

「へーーーーぇ、アルベド様の言う通り、簡単にイッちゃうんだねー♪」

 

 見知らぬ人間の女が、下卑た笑みと共にアルベドの名を口にするごと、モモンガは胸が締め付けられる。

 だというのに、乱暴にされるだけで、体は反応し。

 

「やっ、ちが……っひぃぃぃぃぃいっ!!」

 

 絶頂に追いやられてしまう。

 不本意な快楽に、声には艶すらないが。

 そんな悲鳴じみた声に、クレマンティーヌは笑みを深める。

 

「ホント、私より年上のクセにさー♪」

 

「いぎっ、いぎゅっ! いぎたぐないいいいい!」

 

 心が拒み、異常な状況に怯えるほどに。

 体は勝手に昂ぶり、より過敏になってしまう。

 

「指だけで感じまくって、恥ずかしくないのー?」

 

「はっ、はぁっ、や、やめ、やめてっ、クレマンティーにゅうううっ!!」

 

 怯えるモモンガに、クレマンティーヌは嗜虐心を刺激される。

 

「んー? モモンガちゃんはアルベド様の奴隷(みたいなもの)なんでしょー? そーのアルベド様からさぁー、アンタを自由にしていいって言われた私を、クレマンティーヌ様って呼んでくれないのー?」

 

「はっ、はっ……えっ……♡ あ、アルベドの奴隷……♡」

 

 びくっ、びくっと、モモンガの体が今までで最も深く痙攣した。

 アルベドに奴隷と思われている……というだけで。

 性的興奮の極みに達したのだ。

 

「そーだよー。あのアルベド様に比べたら、モモンガちゃんはダメダメだもんねー?」

 

 モモンガの声に明らかな艶と媚びが混じり始めるが、クレマンティーヌはそこまで色事に精通していない。

 

「ひゅっ♡ ひきゅっ♡ そうっ、私なんてアルベド様にくらべたらぁっ♡」

 

「じゃー、私のことも何ていうか、わかるよねー? モ・モ・ン・ガ・ちゃぁん♪」

 

 にんまりと笑うクレマンティーヌに、頬を舐められるモモンガ。

 

「いぎっ♡ いぎゅっ♡ きゅれまんてぃーぬ様ぁっ♡」

 

「そうそう♪ ほら、もーいっかいー♪」

 

「くれまんてぃーにゅっ♡ しゃまっ♡」

 

「ちゃんと言えるまで続けちゃおっかなー♪」

 

「ひょ、ひょんなっ♡」

 

 すっかり蕩けて、目にハートマークを浮かべたモモンガは。

 クレマンティーヌにさんざん、鳴かされるのだった。

 

(まー、この英雄の領域に足を踏み入れたこのクレマンティーヌ様がさぁ。こんな縛りだらけの、くっだらねーオママゴトに付き合ってんだからさー……せーぜー、いじめ尽くしたげるよー、モモンガちゃん♪)

 

 突然に拉致され、武装解除され、地獄同然の場所に放置され。

 さらには、見知らぬ女を性的に辱めるよう言われたのだ。

 拷問や傷が残る行為は禁止とも言われている。

 クレマンティーヌは様々な鬱憤を、ひたすらモモンガにぶつけた。

 

 

 

 シャルティアとルプスレギナは、この状況を音声ナシで覗き続け。

 アルベドとソリュシャンはその横で、たまった報告チェックをしていた。

 

 

 

「はー、やっぱ淫魔はタフだねー。指が痛くなってきちゃったよー」

 

 ごまかすように言って、手を離し。

 ごろんとベッドに寝転ぶ、クレマンティーヌ。

 あのアルベドには劣る様子とはいえ、女淫魔(サキュバス)相手の色事は無理があったか。

 モモンガのよがり狂う顔を見ていると、魅了されていくのがわかる。

 

「ん……クレマンティーヌ様……寝る?」

 

 完全にローブを脱いで裸になったモモンガが、いそいそと横に寝そべってくる。

 敵意や殺気はない。

 

(くそっ、このクレマンティーヌ様ともあろう者が、なんでちょっとかわいいとか思ってんだよ……)

 

 顔を背ける。

 年上の同性相手にそんな関係になるつもりは、毛頭ない。

 

「チッ、なんか寝食不要疲労無視になる指輪もらっちゃったから、一休みするだけだっつーの」

 

 自身の内心を否定するように舌打ちして。

 ぞんざいに答えた。

 

(コイツ、なーんであんな扱いされて、私に懐いて来てるかなー……やっぱ、淫魔だけに淫乱ビッチってことか……?)

 

 もぞりとモモンガの方を向くと、思いのほか顔が傍にある。

 なぜかドキリとさせられてしまう。

 

「その指輪も、アルベド様から……?」

 

「そそ、アルベド様からー♪ モモンガちゃんが満足するまで相手できるよーにってさー♪」

 

(……人間に、リング・オブ・サステナンスを? 薬指には着けていないが……浮気では……)

 

 すぅっと、モモンガの瞳から光が消える。

 

「アルベド……様は、今何を?」

 

 ぞわんと、少し悪寒を感じたクレマンティーヌだが。

 さんざん淫魔を性的に攻めて、自身も少し濡れたせいかなと思った。

 

「私にいじめられるモモンガちゃんを見ながら、たまったお仕事するって言ってたよー♪ さっきまでのも、みーんな見られちゃってたねー?」

 

 ぽふぽふと、わざと優しく頭を撫でて煽ってみた。

 

「そ、そうなのか……う……うう……」

 

 嗚咽を漏らし、泣き始めてしまうモモンガ。

 

(ふっふーん、いい泣き顔見せてくれるねー♪ かわい……いやいや、そうじゃないだろ!)

 

 己の感情を否定する。

 淫魔に魅了される……という打算以上に、自分が自分でなくなるようで怖いのだ。

 

 もっとも、モモンガが泣いた理由は、クレマンティーヌの憶測とはまったく違う。

 

(アルベドが……アルベド様が、仕事をためこんでいたなんて……知らなかった。私がずっと、部屋に縛り付けていたせいで……)

 

 ため込んでいたのは各NPCからモモンガへの報告であり、アルベドの仕事ではない。

 

(しかも、遠回しにアルベド様と呼ぶことを許して……人間を私の相手に寄こすなんて。きっと、シャルティアたちもアルベド様を手伝っているんだろうな……)

 

 モモンガの涙は、アルベドへの感謝と。

 己の不甲斐なさである。

 奇しくも、かつてデミウルゴスらが流していたと同質であった。

 

(私はアルベド……様をろくにわかっていなかったのに。アルベド様は私の望みを、わかってくれているのか……私を……奴隷にしてくれるなんて……)

 

「泣いちゃったー? かわいそー♪」

 

 涙ぐむモモンガを、横から煽る。

 

(はぁ……クレマンティーヌはいじめるの上手だな……こういう風に、アルベド様にも……ん? ううん? そ、そうだ、よく考えれば、いつも私ってされる一方のマグロじゃないか! うう、アルベド様に飽きられたくない……この人間で私にもそういう練習をしておかないと……このまま他の子の相手ばっかりで、アルベド様に抱いてもらえないかも……い、いや。この機会を活かすんだ。まずは人間をしっかり感じさせられるようにならないと!)

 

「あ、ありがとう……、クレマンティーヌ様……っ」

 

 ぎゅっと、彼女を抱きしめて寝転がる。

 上からのしかかる体勢になった。

 

「え……?」

 

 クレマンティーヌとしては、なんで礼を言われるのかわからず、戸惑うしかない。

 

「わ、私ばっかり気持ちよくなって……く、クレマンティーヌ様にもしっかり、気持ちよくなってもらうから……っ」

 

 真剣な顔で抱きしめ、頬ずりしながら言ってくる。

 

(え……どーゆー思考回路してんだ? まあ私にするのは別に……っていやいや! いいわけないだろ!)

 

「ちょ、おま……力つよっ……やめ……ひぅっ!」

 

 抵抗するクレマンティーヌにのしかかってくる。

 淫魔の指と舌が、鍛えられた肢体を舐め、愛撫し。

 思えば女淫魔(サキュバス)となって初めての攻めを、その体で繰り返し試すのだった。

 

 

 

「はっ♡ はぁっ♡ す、すご……♡」

 

 さんざんモモンガに弄り尽くされ、クレマンティーヌは息荒く横たわる。

 

「ありがとう……クレマンティーヌ……様。おかげで自信が、ついた」

 

 少し晴れ晴れとした顔で、モモンガが横に寝そべっている。

 

「モモンガちゃん、上手(うま)すぎ……やっぱ淫魔ってすごいねー……」

 

「ん……クレマンティーヌ様、かわいかった」

 

 横から頬にキスをされても、もう抵抗も何もない。

 もっとさんざん恥ずかしいところを見られたのだから。

 

「はー……ねー、モモンガちゃんってアルベド様の妹だったりするのー?」

 

「え? そ、そういうわけでは……」

 

 思わぬ質問に、口ごもるしかない。

 今更、関係としては自分がアルベドの主だなどと、言えるはずもない。

 

「ふーん……どっちにしても、上の出来が良すぎるって、つらいよねー」

 

「……うん」

 

 出来がいいのは下なんだけど……と、モモンガは言葉を飲み込み。

 曖昧に頷く。

 

「私はねー…………」

 

 事後の甘い脱力感のせいか。

 クレマンティーヌは、自身の内で(くすぶ)るものを、吐き出し始めた。

 




 この後、クソ兄貴と周辺環境への愚痴をひたすら言います。
 そしてモモンガさんに、ちゅっちゅしてもらって慰められます。
 クレマンティーヌは、まだまだツン期ですが、ベッドの上では(相互的に)ペットです。

 モモンガさんは、例の探知妨害(強者のオーラや魔力も隠す)を装備中。
 アルベドさんは「寂しがりの子がいるから、淫魔の流儀でいじめてきなさい」と命令してます。
 リョナとハードすぎるプレイは禁止されたので、クレマンティーヌなりにアルベドの縁者なんだなーと推測してます。
 まさかモモンガさんの方が支配者とは、思ってません。
 あと、指輪を左手薬指につけてて、アルベドとの恋愛方向でモモンガさんを煽ってたら、クレマンティーヌは死んでました。既にモモンガに半ば魅了され、アルベドからは威圧しか受けてない(アルベドから逃げたい)ので、そんな煽りはしませんでしたが!

 ちと忙しくなってきましたので、隔日投稿もちょいちょい混じりそうです。

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