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【社説】

羽田新ルート 丁寧に合意形成図れ

 羽田空港の国際線増便のため、新たな着陸ルートの来春運用開始が決まった。東京都心を旅客機が低空で飛ぶことに地元の合意が整ったとは言い難い。国は今後も最大限、不安解消に努めるべきだ。

 多くの関係住民にとっては唐突な印象だったのではないか。

 石井啓一国土交通相が八日、来年三月二十九日から新ルートを導入すると発表した。発表前日の国交省の協議会では、東京都の副知事や二十三区の区長会長が事実上容認する考えを表明した。

 しかし、影響が大きい品川、渋谷区の区議会は、全会一致で計画の再考を求める決議や意見書を可決済みだ。市民団体の反発も根強い。いまだ石井氏が言う「地元の理解が得られた」状況ではない。

 新ルートは、南風が吹く夕刻に運用。一時間当たり最大四十四便が埼玉県南部から都心を南下し、渋谷付近で約七百メートル、品川区大井町付近で約三百四十メートルの上空を飛行する。大井町では地下鉄車内並みの騒音が懸念される。氷塊や部品落下の危険も指摘されている。

 羽田への着陸は現状、関東・中部に広がる米軍管制の横田空域を避けるなどの理由で東京湾から進入するしかない。来夏の東京五輪・パラリンピックに合わせて増便するため国が経路を見直し、一部横田空域を通過するルートの設定で米側と合意した。羽田の発着回数は年間で約三万九千回増える。

 国交省は、ショッピングモールなどでパネル展示や見込まれる騒音を聞いてもらうといった住民説明会を重ねた。騒音抑制のため、旅客機の降下角度を通常の三度から三・五度にして都心の飛行高度を数十メートル上げたり、低騒音機の着陸料を優遇したりの措置もとる。

 努力は認めるものの、万全ではない。国交省は来春にかけ新ルートに試験機を飛ばすが、決定前に行い住民の声を聞くべきではなかったか。降下角度変更は、騒音低減効果が低い割に操縦を難しくして事故を誘発するのではと新たな不安が出ている。増便は、管制方法の工夫で可能との見方もある。

 現在の着陸ルートでは、東京湾の対岸の千葉県に騒音などの被害が偏っている。首都の玄関の機能強化には、地域間の負担の分かち合いも必要だろう。

 ただ、全体の利益のためと国が決めたら、関係住民の意向は二の次-。そんな事業の進め方が安倍政権下では目立っていないか。国には引き続き住民の疑問や意見に真摯(しんし)に答え、丁寧に合意形成を図っていく努力が重要だ。

 

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