2019年3月22日金曜日

慶大による学位調査について

https://gumroad.com/l/childporn慶應義塾大学は今月20日、
当方がSFC(湘南藤沢キャンパス)から
学位を授与された博士論文
『児童ポルノ規制の新たな展開~創作物をめぐる国内制度の現状及び国際比較による課題~』について、
「先行研究の成果に関する適切な表示を欠く流用が含まれていた」として、
博士の学位を取り消すと発表した。

本件は、
引用・転載のあり方に関する
当方の認識不足によるものであり、
ご迷惑をおかけした
著作権者様をはじめ関係各位の皆様には、
この場を借りて
改めてお詫び申し上げます。

もちろん大学側に対しても、
ご迷惑をおかけしたことを大変心苦しく思う。
だが、それとは別の問題として、
大学側に対しては、
不服申し立てによる再調査を求める予定である。
その主な理由は以下の3点である:

第一に、本件は故意によるものではない。
編集過程における齟齬が発生した書籍版とは異なり、
本論文では、問題とされる章の引用部分について、注に出典を明記している。
そもそも引用元の論文はネット上に公開されているため、
不適切に引用すればすぐに暴露することは自明である。
そのような危ない橋をわざわざ渡るつもりはない。

実際、大学関係者によれば、
「SFC側は本件を、学位取り消しに相当するとまでは考えていなかったようです」
という。
ではなぜ、最終的に取り消しと判定されたのか。
「三田(キャンパス)側はもともと、新設ながら目立っているSFCの存在が面白くなかったのです。さらに三田側の上層部の一人が、感情的に取り消しを主張したと聞いています」(同関係者)。

この「上層部の一人」というのは、
過去に当方と研究内容をめぐって対立した人物である。
学内派閥や私情によって学位が左右されたのであれば、たまらない。

第二に、大学側の調査委員会のあり方についても、疑念が拭えない。
研究上の問題を調査するにあたっては、
文科省がガイドラインを示しており、
慶大もこれに近い形の学内ガイドラインを設けている。
しかしながら本件の調査過程には、
これらのガイドラインに準拠していない点が複数あると見受けられる。

慶大のガイドラインは、
委員会が調査を行うことを決定した場合、
調査対象者に「調査を行うことを通知」することを定める。
だが今回、大学側が調査委員会を立ち上げた際に
当方への通知は一切なく、
立ち上げから1ヵ月半以上が経過してから
唐突に連絡を受けた。

また、文科省のガイドラインは大学側に対し、
調査対象者名や調査内容については
結果の公表まで調査関係者以外に漏えいしないよう、
「関係者の秘密保持を徹底する」ことを求めている。
しかし三田広報室は、当方に調査委員会の立ち上げすら通知していない段階で、
マスコミに調査に関する情報を漏らした。

ちなみに広報室は報道対応の指針として、
在学生・卒業生などにつき
「個人情報に関するお問い合わせには応じられません。」としている。
それなのになぜ、当方に関する個人情報はあっさりと漏えいしたのだろうか。

さらに慶大のガイドラインは、調査委員会のメンバー構成について、
「義塾に属さない外部有識者を半数以上含めなくてはならない。」と定め、
委員の氏名・所属については、調査対象者に示すものとしている。
また、メンバー構成に対し調査対象者は、「通知着後10日以内に異議申し立てをすることができる。異議申し立てについては、委員会はその内容を審査し、その内容が妥当であると判断したときは、部門長に依頼して委員の交代を行」う、と定める。

上記の規定に反し、
今回の調査委員会のメンバー構成は、
大学側の教員3名及び大学側が手配した弁護士1名であった。
なお、当方の博士論文の指導教授も調査対象者とされるが、
調査委員の中には、同教授の教え子も含まれていた。
この教え子委員は、調査期間中も同教授に近い立場におり、
飲食を共にするなど懇意にしていたことが明らかになっている。
そのように公正中立性が疑われるメンバー構成であることは、
大学側から当方に事前に示されず、
異議申し立てが出来ることへの説明もなかった。

第三に、救済措置が全く講じられていない。
大学側は当方に対し6年にわたり研究指導を行い、
正式な審査過程を経て学位を授与した。
この事実を大学側が重く受け止めるのであれば、
博士論文の修正や再指導等、何らかの救済措置を講じて然るべきと考える。

余談だが、かつて慶応大学に関する不祥事が発生したとき、
当時博士論文の執筆中だった当方が表立って批判したところ、
大学側から論文審査への影響をちらつかされ、口止めされたことがあった。
ジャーナリストである当方の存在は
大学側にとって目の上のたんこぶだったかもしれないが、
今回の処置が、その意趣返しのための
アカデミック・ハラスメントであるとは思いたくない。

以上、
この種のケースで後に続く学生のためにも(まあ誰も続きたくないだろうが)、
大学側には適正な再調査を求めるものである。

>>続報

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【博士論文『児童ポルノ規制の新たな展開~創作物をめぐる国内制度の現状及び国際比較による課題~』の概要】

本研究では、「実在しない子どもを性的に描くマンガやアニメ、ゲーム等の表現物」(以下、「創作子どもポルノ」)の規制に関し、国際社会の枠組みとは日本の規制状況が取り組みを異にするという課題において、それらが一致していない要因に着目する。その上で、子どもの性に関する人権保護へ向け、国際規範との整合性を確保するために必要な方向性を提示している。

児童ポルノ規制をめぐる従来の主な研究が「表現の自由」の観点から議論されてきた中、本研究は「人権」の観点から、新たな児童ポルノ規制のあり方を考えることを目指したものである。

本研究の提言は、我が国における創作子どもポルノ規制の法整備のあり方にまで踏み込んでいる。

折しも2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控え、日本のマンガやアニメを海外に発信する「クール・ジャパン戦略」が政府を筆頭に推進される中、我が国には今こそ、創作子どもポルノ規制において、国際規範に沿った人権感覚を適用することが望まれる。

*本論文の要約版はこちら

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