アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

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 みんな、いっしょうけんめい活動している!
 その間にモモンガさんはアルベドその他と爛れた日々を過ごしてます。

 シャルティア主眼のお風呂シーンを、R-18で投稿しました。



16:えっ、ひ、一人で……?

 

 その後しばらく、NPCたちは随分と忙しくしていた。

 モモンガはアルベドを手放さず。

 シャルティア、ソリュシャンに加え、ルプスレギナを側仕えにした。

 対外工作は主に、デミウルゴスとパンドラズ・アクターが仕切っている。

 相当数の王国貴族や犯罪組織員が捕らえられ。

 戦闘力や特殊技術のある者は確保、ない者は……地獄に落ちている(現代進行形)。

 

 アウラは、近隣の森林探索を行い。

 ユリは、モモンガの名代としてゴーレムやアンデッドを使ってカルネ村復興を手伝い。

 マーレは、地上部近隣にニグン他、確保した人材を住まわせる集落を築き始めていた。

 セバスは英雄として振舞うこととし、近隣都市から王都へと、活躍しつつ進んでいる。

 

 そんな中。

 近隣都市エ・ランテルの徹底調査を終えた恐怖公とパンドラズ・アクターは。

 幾人かの人間を捕らえ、ナザリックに一時帰還していた。

 

 

 

「……なるほど。それが、お前の目的か」

 

 モモンガは、平伏する男を見る。

 数日ぶりの玉座と……着衣だ。

 なんとも体が重く、気怠(けだる)く感じてしまう。

 

「ハハッ、左様でございます、偉大なる御方!」

 

 痩せこけた男と……その弟子たちは、平伏して地に顔を擦り付ける。

 己らに抵抗すら許さず連れ去った戦闘力。

 この玉座の間に至るまでに見た権勢と力を知れば。

 ズーラーノーンを、あるいは法国すら上回る存在であること、間違いない。

 どうして、逆らう気が起きようか。

 

「よかろう。研究が実を結べば、私にとっても有益だ。よき副産物も得られるだろう」

 

 男の目的は、モモンガにとって大いに同情に値する。

 モモンガ――鈴木悟も、“リアル”に魔法があれば……と、考えずにいられないのだ。

 寝食すら削ったカジットの不健康な容姿も、かつてのリアルと重なった。

 

「おお、まことにございますか!」

 

 歓喜と共に、男が答える。

 

「お前に不死を与えるもやぶさかではない。その弟子どもも、相応の働きを見せれば然るべき褒賞をやろう」

 

「よろしいのですか! ありがたき御言葉……! このカジット・デイル・バタンデール、微力ながら御身に永遠の忠誠を誓います!」

 

(簡単に忠誠を誓うなぁ……疑ったりしないのか)

 

 どこかぼんやりと、男らを眺める。

 およそ、見て楽しい顔ではないが、苦労と苦悩が刻まれているとわかる。

 深々と溜息をつき、一つ改善させるべき重要な点があるなと頷いた。

 

「しかし、条件がある」

 

「何なりとお申し付けください!」

 

 即答に、モモンガが(ひる)まされる。

 

(NPCたちもニグンもそうだが、即答する奴ばかりだな……迷ったりしないのか?)

 

「こほん。弟子はともかく、カジット……お前は生活を改善せよ。その体調で効率的な研究ができると思っているのか? お前の母は、そんな姿のお前に蘇らされて喜ぶのか?」

 

「え……し、しかし、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)となるのであれば……」

 

 容色など、より酷くなるに決まっている。

 

「誰がお前を死者の大魔法使い(エルダーリッチ)にすると言った」

 

「な……ッ!」

 

 カジットが凍り付く。

 まさか、ゾンビやスケルトンに変えて嘲笑(あざわら)うつもりかと。

 

「目的を聞いた以上、吸血鬼(ヴァンパイア)天使(エンジェル)に変えるつもりだ。小悪魔(インプ)にもできるが……お前の母は、普通の民なのだろう。顔を合わせ、共に過ごすならば、これらの方がよかろう」

 

 モモンガは微笑と共に言った。 

 

「な……なんと……! ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 カジットは頭を床に何度も打ち付け、感謝する。

 真に慈悲深き超越者を疑った不覚と。

 心の底からの感謝を込めて、何度も。

 目からは、とめどなく涙がこぼれた。

 嬉しさ、感激、感謝……信仰を捨てた己が、流さなかった涙。

 

 法国の神官らはカジットの望みを聞いて同情して見せつつ……内心で嘲笑っていた。

 ズーラーノーンはカジットを迎えつつ、狂人の戯言として……明確に嘲笑っていた。

 誰も、カジットの望みに耳を傾けず。

 誰もが適当な、心にない言葉をかけて慰めたり、利用しようとした。

 だが今、目の前の美しい超越者はなんと言ったろう。

 

 すべて母が蘇生できる前提の話だった。

 母と共に過ごす時のための、話だった。

 カジット自身の体調など……それこそ死んだ母くらいしか心配してくれなかったのに。

 この超越者に恭順したとして、目的から遠ざかると覚悟していたのだ。

 己の忠誠を買うため? 容易に拉致できるほどの人物が? 傍に控える者一人ですら、己を……可能なアンデッドの軍勢すべてを率いても、一蹴するであろうに。

 打算ではない。

 真の慈愛が、己に与えられているのだ。

 カジットはこれまでの利用し利用されるための関係でない、真の忠誠を誓う。

 

「で、では……御身の慈悲の対価たりえませぬが、我が最大の宝をどうか、お納めください」

 

 それがアイテムによる支配か。

 あるいは自身の意志なのか。

 もはや、カジットにはそれすら、どうでもよかった。

 

 

 

 カジットの退出後、モモンガはそれを手にした。

 一見すればただの石にしか見えない。

 

(――あなた様のその絶対なる“死”の気配に、敬意と崇拝を)

 

 だが、触れると同時に、頭に声が流れ込んでくる。

 

「知性を持っているようだ。ユグドラシルにはなかった品だが……〈道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)〉」

 

(貴様は何者か)

 

(私は“死の宝珠”……この世界に死をもたらすべく活動しておりました。しかし今、あなた様にお仕えするこそ、我が使命と悟りました)

 

 敬服し、跪くイメージが送り込まれる。

 決して欺いておらず、心底仕えたいと思っている……と示しているのだろうか。

 

(死をもたらす? カジットに、“死の螺旋”を行わせんとしたのはお前か?)

 

(ある程度は。あの狂人とは一応の同盟関係でした。無理に支配するより、断片的な情報を与える方が便利でしたので)

 

 そうして送り込まれる感情は、明らかな嘲笑を伴っている。

 カジットに好感度の高かったモモンガとしては、あまり気分はよくない。

 何より、今回の件は近隣都市でアンデッドによるテロが起きれば、今後に差し障ると見ての行動だ。それなりの能力を持つだろうと、テロリスト確保を命じたのだが……。

 

知性あるアイテム(インテリジェンス・アイテム)としては面白いが……効果はアンデッド使役の支援。死霊系エネルギーによる一定強化か……私が直接用いる意味は薄いな」

 

(そんなっ! どうか、再考を――)

 

 カジットに好感を抱いたモモンガの主観では、これこそ主犯だ。

 

我が子(パンドラズ・アクター)よ」

 

「ハッ」

 

 カジットを拉致し、連れて来たパンドラズ・アクターが敬礼する。

 カツーン、と踵を打ち合わせる音が響いた。

 

「これはお前に持たせる。人間種は支配する能力があるらしい。好きに使うがよいが……まずは、情報を聞き出しておけ」

 

 支配の危険性もある以上、わざわざ作成したアンデッドに持たせる意義は薄い。パンドラズ・アクターこそ死霊系魔法を最も用いる可能性が高いNPCと判断したのだった。

 

「ありがとうございますッ! 母上!」

 

「よい。もう一人いるのだったな」

 

 母からの贈り物に歓喜するパンドラズ・アクターに、微笑み問う。

 

「ハイッ! すぐに連れてまいりましょうかッ!」

 

「……そのことで、少し私に一案が」

 

 アルベドが横から口を挟む。

 

「ん? 珍しいな。よいぞ。アルベドの我儘はいつだって大歓迎だ」

 

 彼女が自主的に何か言ってくれるだけで、モモンガはとても嬉しい。

 求められていると実感できるのだ。

 

「実験的に、人間の側仕えを置いてみてはいかがでしょう? モモンガ様が世界の細かな情報を知るにもよいかと」

 

「なるほど。確かに一理あるが……」

 

 今の側仕えたる三人の顔を見まわす。

 アルベドは淡々とした冷たい声色、シャルティアは苛立ちを隠さず。

 ソリュシャンとルプスレギナは、じっとりと暗い笑みを浮かべている。

 

「私は、人間を虐待する趣味はないぞ」

 

「いえ、虐待せずとも、相応にモモンガ様を楽しませようはあるかと……」

 

 アルベドが耳元に囁き、頬を撫でる。

 それだけで、モモンガは期待にぞくぞくと身を震わせ。

 雌として濡らしてしまうのだ。

 

「……んっ♡ では愛しい妻の言葉だ。信じて任せるとしよう」

 

 艶を帯びた笑顔で、アルベドに頷く。

 

「では少し下準備をしますので……私室にてお待ちください。ああ、相手を怯えさせぬよう、探知疎外の指輪を装備しておかれますよう」

 

「む……私一人でか? 確かに多人数で囲むと、いつも威圧している形だったからな……」

 

 首を傾げつつも、アルベドも言うまま指輪をつけ。

 どこか心細げに、一人で私室に向かう。

 何度もアルベドを見る目は、ついて来て欲しそうだが。

 アルベドは敢えて無視した。

 付き従おうとするシャルティアらも、アルベドに抑えられる。

 

「むぅ……私もダメでありんすか」

 

「モモンガ様も言っていたでしょう。多人数で囲んでは緊張させるって」

 

 不満げなシャルティアを、アルベドがたしなめる。

 

「やー、モモンガ様めっちゃ期待してたっすからねー」

 

 濡らしたモモンガの匂いを嗅ぎ、けらけらと笑うルプスレギナ。

 護衛を兼ねたペットとして、モモンガの体中を毎日好きに舐めまわし、目下充実しきった日々を送っている。アルベドの推挙のおかげなのだから、基本的に彼女には賛成の姿勢だ。

 

「とはいえ、護衛として不満もあります。モモンガ様お一人にして大丈夫でしょうか……」

 

 ソリュシャンが不安げに言った。

 

「じゃあ、例の鏡で三人で見張っておいて。人間の応対は私がするから」

 

「承知いたしました」

 

 少し不満そうなソリュシャンだが、歯向かえる立場でもない。

 体内から遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を取り出し、三人で玉座の間を離れた。

 

「さて……では、お願い。パンドラズ・アクター」

 

「はいッ。彼女ならば失踪しても問題なく、彼の世界では一応の強者でもあり……性格面も我々の元で暮らすに問題ありませんッ! 母上のペットには、まさに適任かとッ!」

 

「では、連れて来てちょうだい」

 

Wenn es für meinen Gott ist(我が神の御ためとあらば)!」

 

 身の程を教えんと、敢えて第七階層の悪魔たちに監視させた彼女を運ぶべく。

 パンドラズ・アクターも退出した。

 

「はぁ……そのクレマンティーヌとやらが、モモンガ様の意識を少しでも変えてくれると……いえ、せめて刺激になればいいのだけど」

 

 不可視化モンスターすらいない玉座の間で、アルベドは一人、深々と溜息をついた。

 





 さらっとクレマンティーヌ登場まで行くつもりが……。
 カジットさん、ちょっと書き始めるとやたら膨らんでしまいました。
 ニグンさんといい、原作でさらっと消えた男キャラに、思わぬ愛着がががが。

 性的な目ではまるで見てませんが、このモモンガさんはニグン&カジットに対する好感度がかなり高いです。問答無用で攫って来て、本人の釈明だけ聞いてますからね。明確に裏切らない限りはしっかりフォローしてくれるでしょう。原作カルネ村に近い扱いです。
 ぎゃくに、カルネ村の扱いは原作より軽いです。
 本人、ろくに見てませんし……。

 シャルティアたちはその後、部屋でこっそり一人で始めてしまったモモンガ様を、鼻息荒く覗いてます。フレンドリーファイアが怖いので、このモモンガさんは攻性防壁を発動してません。
 アルベドたちとの爛れた様子も、警護と称してプレアデスの面々その他によく覗かれてます。

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