周燕飛『貧困専業主婦』
JILPT研究員の周燕飛さんが『貧困専業主婦』(新潮選書)を出版しました。本書は周さんがここ数年来やってきた貧困専業主婦に関する研究の、一般向けの集大成になっています。
https://www.shinchosha.co.jp/book/603844/
「100グラム58円の豚肉をまとめ買いするために自転車で30分をかける」「月100円の幼稚園のPTA会費を渋る」――勝ち組の象徴とも思われていた専業主婦の8人に1人が貧困に直面している。なぜ彼女らは、自ら働かない道を選択しているのか? 克明な調査をもとに研究者が分析した衝撃のレポート。
この研究の出発点は、本ブログでも紹介したこのディスカッションペーパーですが、
https://www.jil.go.jp/institute/discussion/2012/12-08.html (ディスカッションペーパー 12-08 専業主婦世帯の収入二極化と貧困問題)
その後、子育て世帯全国調査を繰り返す中で、さらに研究を深めていって、昨年はJILPTから出版した『非典型化する家族と女性のキャリア』の中の第4章「貧困専業主婦がなぜ生まれたのか」を書いていますし、今年は英文誌Japan Labor Issuesの6月号と7月号に、「Poverty and Income Polarization of Married Stay-at-home Mothers in Japan」を書いています。これが本書の英文要約版になっているので、関心のある方はどうぞ。
https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2019/015-02.pdf (Part I: Historical Perspectives of Japanese Full-time Housewives)
https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2019/016-02.pdf (Part II: What Drives Japanese Women to Be Full-time Housewives despite Poverty?)
さて、周さんの研究が世間の注目を集めたのは、世の常識、というか、経済学でもダグラス・有沢の法則(本当は中村隆英さんが発見したそうですが)として知られていた金持ち世帯ほど専業主婦が多いという常識に反する実態を見いだしたためです。
英文誌から切り取ってそのデータの図を示すと、
若干くねくねしていますが、豊かな世帯の方が専業主婦率が低く(リッチなダブルインカム)、貧しい世帯の方が専業主婦率が高いのですね。
で、本書には個々のケースの聞き取りが載っていて、これがいろんな意味で興味深いのです。詳しくは是非本書を買い求めの上じっくり読んでいただきたいのですが、「家庭内の問題を抱えるため今は働けない」とか「心身共に健康を害してこぼれ落ちる」とかの例が上がっています。
実際にどんな格差が生じているかというと、
「食」格差-2割は食糧不足が常態化
「健康」格差-子供は6人に1人が病気か障害
「ケア」の格差-貧困・低収入と育児放棄
「教育」格差-人並みの教育をさせてあげられない
この中でいちばんショッキングなのは児童虐待や育児放棄の割合でしょう。
本書はもちろん、研究者としての周燕飛さんの顔で書かれていますが、最後のあとがきでちらりと1人の働く母親としての顔を垣間見せています。
アメリカ滞在から帰国後、3歳の子供が待機児童となり、認可保育所にも認証保育所にも入れず、ベビーホテルを見に行ってその余りの惨状に、仕事を辞める覚悟もしたときに、土壇場で認証保育所に入れたというエピソードを示しながら、
・・・今もその時に救ってくれた東京都認証保育所には感謝の気持ちでいっぱいです。しかし、世の中には、私と似たような状況に陥り、専業主婦を選んだ、あるいは選ぶことを余儀なくされた女性は数知れません。・・・
と綴っています。
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