中学生・高校生のみなさん、一生懸命進路に迷ってください。

高校卒業後、進学したいかわからないなら、専門高校も考えてみてください。(写真:アフロ)

前回、高卒就職が実は「狭き門」であること、そして高卒就職ではなく高等教育(専門学校、短大、大学など高校卒業以降に行く教育過程)に進学せざるを得ない状況があるということについてお話ししました。

今回は4月最初の投稿ということもあり、中高生の皆さん、親御さんが読んで役に立つ内容にしたいと思います。

中学2年生、3年生のみなさんは、学校での成績でなんとなく自分が行ける高校が決まりつつあるのではないかと思います。14歳くらいで将来のことを考えるのは難しいと思いますが、高校はただ成績や偏差値で決めるのではなく、将来のことを考えたものにできると良いと思います。中学生の子どもを持つ親御さんにも、ぜひお子さんの高校選びについて一緒に悩んであげてほしいと思います。

中学生のみなさんは高校選び、高校生のみなさんは進路選びで一生懸命迷ってください。

学校に通っていても、進路選びで迷う機会はあまりありません。ほとんどの場合、自分の成績で進路が自動的に決まってしまいます。でも、同じような成績・偏差値の高校にもいろいろなところがあります。普通科、総合科、国際科、理数科、商業科、工業化、農業科など様々な学科がある中で、成績や偏差値だけで高校を選ぶ必要はありません。もしあなたが首都圏の中学生で、高校卒業後の進路がわかっていないならば、単純に普通科高校を選んでしまうと、そこでの選択は進学かフリーターだけになってしまいます。高校卒業後に少しでも就職する、卒業後進学したいかわからないということを考えているなら、専門高校も考えてみてください。

普通科高校生のみなさんが、もし進学か就職かで迷っているならば、まず家族に相談してみましょう。そして学校の先生に相談してみましょう。もしあなたが普通科にいて、進学をしないと決めたなら、学校の先生に就職先があるかどうか相談してみましょう。もし学校で就職先が見つけられないようならば、近くのハローワークに行ってみてください。そこならば高校よりも就職先を見つけやすいと思います。

もし進学することを決めているならば、大学でも専門でも短大でも、なんとなく行けるからとか偏差値だけで選ばないでください。どの専門を選ぶのか、それが将来にどうつながるのか、どんな就職先があるのかということを一生懸命考えてみてください。進学したいなと思っている学校に行って、そこの学生や先生と直接話してみてください。

若い今のうちから「やりたいこと」などわかっている必要もありません。ただ、「この進路を選ぶとどういう将来があるのかな」ということを真剣に考えてみてほしいと思います。

さて、ここから先は私がなぜこういう思いを抱くようになったのかということを書きたいと思います。

日本の教育の問題、働くということの問題の根源の一つが過剰なまでの普通科教育です。今、日本の高校の3/4は普通科(理数科、国際科、総合科などアカデミックコースも含めればもっと)です。これは、他の先進国と比べても異常なまでのアカデミックコース偏重と言えます。これは60年代後半から、政策的に進められてきた方針で、高校進学率上昇にともない、学校数を増やすために商業科・工業科などに比べて安上がりな普通科高校を普及させようとした背景があります。

一方で、いわゆる「教育困難校」「進路多様校」などに分類される偏差値50を切るような高校の生徒にとって、アカデミックな科目というのは自分ごととして捉えようのない、どうでもいい内容であることがほとんどです。微分・積分とかサイン・コサイン・タンジェントとか殷周東周春秋戦国などというのが、自分の人生に関わりのあるものとも思えないし、それを将来のために一生懸命学ぼうという気持ちにもなれません。

それは彼らの能力が低いとか、やる気がないとかいうこととは関わりのないものでもあります。部活やアルバイト、文化祭などに積極的に加わったり、友達付き合いで高いコミュニケーション能力を示している高校生はたくさんいます。ただ、アカデミックな分野が自分たちの興味・関心に沿わないのです。しかし、学業が面白くない状況が続くと学校に通う事自体が面白くなくなるので、中退の危険なども高まります。

日本の高校の問題点として指摘されるのが、高校の偏差値による序列とそれによる学校間格差です。進学校には学力の高い子が集まりますが、多くの場合彼らは家庭の資源(経済力、子どもの宿題や進路の相談にのることができる環境、アカデミックなものに興味を持たせるような文化的会話や文化的なものに触れる機会など)に恵まれている一方、教育困難校には学力の低い子が集まります。学力と家庭環境の相関性は多くの教育社会学研究者が指摘していることですが、教育困難校にはアルバイトをしなければ生活できない生徒、学費を払うのも難しい家庭、塾になど通う余裕の無い家庭の子どもたちが多くいます。つまり、各家庭の持つ資源によって生まれている学力格差を学校教育で修正することができていない状況なのです。

こうした教育困難校の生徒たちにとって、進路選択とは何をどう選べばいいのかわからないものとなってしまいます。結果として「なんとなくやりたいこと」「なんとなく興味のあるもの」を選んで、あまり就職と結びつきにくい専門学校に進学したり、とりあえず大学に進学してしまうなども起こりやすくなります。また、普通科の場合にはそもそも正社員として就職先を探すのが難しく、職業や仕事といったものと関わりのある事を学ぶことがなかった彼らにとって、どんな仕事・職場をどう選べばいいのかも難しい問題です。特に、首都圏の普通科高校の場合には、各高校に就職のノウハウや就職先との関係性が蓄積されていないため、先生たちも生徒の就職支援が難しい状況です。結果として、普通科教育困難校の卒業生の多くがいわゆるフリーター、ニートとなってしまったり、あるいはブラック企業のような「使い捨て」される労働条件の正社員になってしまって、3年ももたずにやめていくのです。

一方で、進学校の生徒たちにとって進路とは「どの大学に行くか」ということだけの問題で、その先に何があるのかを考える機会はほとんどありません。最近、東京都ではキャリア教育の導入を総合学習の時間などに組み込む動きが出ていますが、進学校の生徒達にとっては、目の前の入学試験突破こそが重要な問題であるため、なかなか真剣に将来の職業やキャリアについて考える機会となりにくいようです。結果として、大学で無気力になってしまったり、やりたいこと探しで就職や将来といったものから逃避してしまったり、学部・専門との不適応で学業にやる気が持てず留年、中退などの危機に直面したりといった状況に陥る学生が少なくありません。

こうした状況で、私が少なからず希望を持っているのが専門高校です。専門高校というのは、もともと職業高校と呼ばれていました。日本の高校の1/4しかない専門高校の位置付けは社会的にも決して高いものではありません。特に首都圏では普通科に行けなかった子、卒業後就職しなければならない子たちの行く高校というイメージでみられています。

しかし、専門高校の可能性は東京大学の本田由紀先生を筆頭に近年注目が集まっています。まず、専門高校の生徒は普通科の生徒に比べて、進路について「この科目が学びたいのでこの高校に来ました」など、自発的に高校を選んでいます。また、中学の時に同じ程度の学力であれば普通科より専門高校の生徒の方が学校生活、学業への取り組み、先生との信頼関係、将来への希望などの面で高いやる気や積極的な姿勢を見せていることが様々な調査・研究で明らかになっています。また、専門高校出身者の就職状況は当然ながら普通科出身者よりも良好です。正社員につく比率の高さや勤続年数、労働条件などが普通科卒の人に比べて高いのです。これは、本人達のやる気や職業スキルなどもあるでしょうし、就職支援のノウハウを持っている学校の能力でもあります。

と、言われても、進路で迷っている生徒さんや親御さんには「学者が言ってることなんてあてにならない」かもしれません。

そこで、私自身の話をしたいと思います。

私は中学生のとき、周りがみな進学するからという理由だけで高校に行くことに疑問を感じていました。学校の成績はそこそこだったので、そのままいけば公立進学校に行ったのだろうと思います。でも、勉強がすごく好きだったわけでもなかったので、大学進学するほど勉強を続けたいような気持ちはありませんでした。そこで「高校どうしようかな」と家族に相談したら「高校なんか行かなくていいけど、働かざるもの食うべからず。高校行かないなら就職先を見つけてきなさい。」と言われました。

私が、人生ではじめて就職するということを真剣に考えたできごとです。そして「そもそも就職先ってどうやって見つけるんだろうか。中学生を雇ってくれる会社なんてあるんだろうか」と考えました。

そこで親に「やっぱり働くのは無理だから高校に行く。でも普通に高校に行くのは面白くない」と相談したら、「それだったら商業とか工業とか行ったらいいんじゃない?知り合いの商業高校の校長先生から聞いたんだけど、商業高校からでも大学進学はできるし、高校出た後に働きたいなら就職もできるからいいんじゃない?」とアドバイスしてくれました。中学校の先生には「商業科なんてもったいないからもっと上の方の高校に行きなさい」と言われましたが、大学進学しか選択肢が無い高校に行くことに興味はなかったので、近くの公立の商業高校に進みました。

最初の1年間は簿記、情報処理、英文文書処理、経済やマーケティングといったそれまであまり考えてもみなかった分野について初めて学ぶことが楽しかったのを覚えています。中学校では学校の勉強をそんなに面白いとも思っていなかった私ですが、高校で学ぶものはどれも目新しく、新しもの好きの私には合っていました。各種検定の取得が奨励されており(合格が期末試験のようなものでした)情報処理、マーケティング、流通経済、文書処理、英検、商法などいろいろな検定を取得しました。また、いかに早くタイピングできるかという事を競い合う「ワープロ競技」にのめりこんだり、商業系の科目はとても面白く感じました。

私の高校は1年目で一通り商業系の科目の基礎を学んだあと、2年生から「進学クラス」「商業クラス」を選ぶシステムになっていました。進学クラスを選んでもそこから就職もできるし、商業クラスを選んでもそこから進学もできるけれど、進学クラスの場合は商業クラスよりも普通科科目が多いので、大学進学してからそこでの授業についていくのが楽だという説明がされていました。

1年生の終わり頃には、新しいことを学ぶことの楽しさがわかってきたこともあり、大学進学したいと考えるようになっていたので、進学クラスに進みました。また、進学クラスにも商業クラスにも「国際コース」「情報コース」「会計コース」と選択科目による専攻の違いがありました。情報か国際か迷ったのですが、英語が好きだったので、国際コースを選択しました。私はいまアメリカの大学院にいますが、人生で最初の英語プレゼンは高校のビジネス英会話の授業でした。

3年生になって、具体的に大学選びを考え始める頃には英語、政治、経済系の科目が好きだったこと、国際機関での仕事に関心を持ちはじめていたこともあり、国際系の学部か経済学部に進学したいと考えていました。

ところが、その当時、家庭内で色々なごたごたがあり「進学じゃなくて就職して家族を支えないといけないんじゃないか?」などと考え、あわてて就職について調べ、進路希望も変更しました。親に心配をかけさせたくないと思ったので、そのことは親には相談しませんでしたが、進路希望を変更した私の変化に気づいた先生が、親に連絡を取ってくれました。親には「そんな心配しなくていいから、好きな進路を選びなさい」と言われました。東京の大学に行こうと思っていたのに、オープンキャンパスの日に電車を間違えるということを2回ぐらいして、「東京の大学は無理だ」と思い、家の近くの大学に行くことにしたという根性無しなところもありましたが、無事に大学に進学できました。

私は、大学進学後は韓国に交換留学をしたことがきっかけで、卒業後は日本の大学院に進み、修士を取ったあと一般企業に就職しました。その後、仕事をやめてアメリカの大学院に留学をして今にいたります。どこに行っても、商業高校で身につけたスキルが私の基礎であると感じました。何度も何度もそのスキルに助けられたからです。私のストーリーが中学生、高校生、そして親御さんが「進路で悩む」ことの一助になれば幸いです。