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「どうしようもない子いない」 野口弁護士に聞く

2019年8月17日

 法務省の法制審議会が、少年法の適用年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げる議論を行っている。これまで多くの少年の支援に関わり、適用年齢の引き下げに強く反対する野口善国弁護士(73)=神戸市=に反対の理由や引き下げによって懸念される影響を聞いた。

少年法の適用年齢引き下げに反対する野口弁護士=神戸市内

 まず今の少年法は全体的に見て不具合はなく、変える必要はない。次に日本の非行対策はうまくいっており、非行の数も減っている。そして18、19歳の少年はまだ未熟であり、成人と同様に扱うことはできない。

 このうち少年への対策がうまくいっているのは家庭裁判所(以下・家裁)が少年に対する教育機能を持っているからだ。

 家裁による少年審判では非行の内容だけでなく、どんな少年なのかを見て裁判官が処遇を決める。その際は少年の家庭環境などを調査官が調べる社会調査のほか、鑑別所による心理的な分析が行われる。これらを総合して裁判所が審判していて、非常に優れた制度だと言える。

 そこで指導が必要となれば保護観察をして、民間の保護司のおじさんやおばさんが少年の相談に乗ってくれる。またいったん、社会で生活して様子を見てから最終処分を決める試験観察もある。

 しかし適用年齢が引き下げられれば、18、19歳の少年にこうした制度は使えず、ほったらかしになる。成人の刑事裁判では犯罪の内容に応じて刑罰が与えられるだけなので、きめ細かい処遇はできなくなる。

 成人と同じように扱うべきと言う人たちは、非行少年のことをあまり知らないのではないか。私は300人以上の非行少年に接してきた。怖いとか気持ちが全く通じない少年はいなかった。

 私は神戸連続児童殺傷事件の弁護と付き添い活動をしたが一般の人の間にはモンスターのようだという反応があった。私も最初は心にふたをしている少年だと思ったが、煎じ詰めれば親に精神的に虐待された子であろうという結論に達した。事件が起きると普通の人は怖いと感じると思うが、実際は虐待され、親の愛情を感じることがなかった子どもたちだ。

 多くの子どもを見てきたが、皆、立派に成長している。昔、手こずった子がいて、音信不通だったが「あいさつに行っていいですか」と連絡があり、そこで見せてくれたのが司法書士試験の合格証だった。

 さまざまな子と関わってきたが、料理を一緒に作って食べたり、ハローワークに一緒に行くこともある。子どもと接するときに一番大切なことは、一緒に考え、行動することだ。少年は自分を理解しようとしてくれる人には心を開く。どうしようもない子なんていない。良い環境に置けば非行少年は皆すごく頑張り、立ち直っていく。