第二十話:暗殺者は鎧を剥ぎ取る
コミカライズ版、「世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する」が更新されました!
(https://web-ace.jp/youngaceup/contents/1000117/)
ぜひ、読んで応援ボタンをぽちっと!
水の魔力を込めたファール石の発動によって、地中に沈んだ街が湖になると、水攻めに耐えきれずに地中竜が躍り出た。
「きらいきらいきらい、みず、きらいいいいいいい。みずつくった、おまえきらいいいいいいいい」
山のような巨体が迫ってくるのは恐怖以外で何者でもない。
だが、目を逸らさない。
暗殺者は、どんな些細な情報も見逃さない。生き残るためには、殺すためには情報こそがすべてだと理解している。
俺のトウアハーデの魔眼。その超視力は奴の巨体を正確に観察し続けている。
『やはりか』
【砲撃斉射】を打ち込んだとき、やつは再生していた。
しかし、もとに戻ったわけじゃなかった。
茶褐色の外殻が吹き飛んだあと、内側の肉が盛り上がり傷を塞いだのだ。そして、外郭は砕けたままだった。
そして今も、ピンク色の肉が盛り上がって傷を塞いだまま。
あれだけ時間があったにも関わらず、奴は完璧な状態に戻れてないのだ。
あの巨体は魔族ではないという疑念がより深まる。
「穴の空いた体じゃ、水責めは応えるんだろうな」
「きらいきらいきらいきらい!」
完璧な状態じゃないからこそ、この水責めに苛立っている。
本来なら、口から出ている触手を収納し、丸くなっていれば茶褐色の外殻が水を弾き、水責めなど苦にしなかった。
水で粘液が流されてしまううえ、本能的に粘液を出し続けるため、水が苦手という弱点は、あくまで桃色の肉、奴の内側の話なのだ。
しかし、やつは先程の【砲撃斉射】で多くの外殻を失っている。
その状態で、大量に水を浴びせれば、内側に染み込み、こうして苦しむことになる。
狙ったわけじゃないが、【砲撃斉射】は無駄ではなかったのだ。
怒り狂った地中竜はもう目と鼻の先。
殺意を込めた八つの目は俺だけを見ている。。
だからこそ、都合がいい。
……一度目との邂逅において、こいつには余裕があり、しかも遊んでいた。
こちらを舐めているということだが、それはこちらにとってプラスにはならない。
余裕があるということは、視野がせばまっておらずこちらの狙いに気付くかもしれないし、遊んでいるからこそ次の動きが極めて予想しづらい。
怒り狂い、殺そうとしてくれたほうがよっぽどやりやすい。
なにせ、視野が狭くなって次の手を容易に読めるからだ。
つまり、
地中竜が突進しながら、無数の触手を槍のように尖らせて逃げ場を塞ぐ。
普通の回避方法だと絶対に躱せない。
「遊んでやる」
ファール石を解き放つ。
こちらに込めた魔力は風と水が7:3。
さきほどの濁流ではなく、嵐が巻き起こる。
大雨と暴風。
いくら巨体では考えられない速度で飛び上がっているとはいえ、やつはただ跳んでいるだけに過ぎず、重力に逆らっている。
そこにこの防風だ。目に見えて速度が殺されていた。
それだけでなく、水が内側に敷き込み、触手の粘液を洗い流し、動きを鈍らせる。
「ぬれる、ぬれる、ぬれるうう、にげられる、やだああああああ」
そして俺のほうはというと、風に乗る。
服に加工がしてあるからこそ、存分に風を操れるのだ。
また、過去の実験からどういう嵐が起こるかも知っている。嵐に乗ることで超速度を獲得し、奴の巨体と無数の槍を躱して、そのまま、奴の下に潜り込む。
嵐が止んだ。
そのタイミングで四つ目のファール石を発動。
「ぶっとべ!」
最後のファール石は、炎と風が3:7。
爆発力特化。
指向性爆発が巻き起こり、地中竜の巨体をぶっ飛ばす。
いつもと違い、土を混ぜて質量兵器としての側面を持ち合わせていないが、ただぶっ飛ばすだけならこちらも上。
むろん、空中でこんなものを使えば俺も地面に向かってぶっ飛ばされる。
まとっていた風の鎧をすべて解除して逆噴射で可能な限り速度を殺しているが気やすめに過ぎず、硬い地面にぶつけられれば即死するだろう。
こうなることはわかっている。
だから、対策は打っていたのだ。
目や耳、口を保護するマスクをつけ、空中で体勢を整え、さらには魔力で体を覆う。着水して、巨大な水しぶき。
そう、街を水没させたのは嫌がらせではあるが、クッションにするためでもあったのだ。
それでも着水の衝撃は凄まじく、魔力防御をしている上、魔物の皮膜で作った耐衝撃性能が高い暗殺服を着ているにも関わらず、ひどい打ち身をし、いくつか骨が砕けた。
さらに水底まで到達して体がのめり込むが、致命的な怪我は追っていない。
水底を蹴って浮かび上がる。
「……なんとか死なずには済んだか」
水面に浮かび空を見上げて、マスクを外す。
肌がちりちりとする。水に溶けた奴の粘液のせいだ。巨大な湖ほどに水を張ってもなお有害らしい。
空高くぶっとばした地中竜の周辺に、十五ものファール石が光り輝きながら飛来する。
タルトの風によって、不可思議な起動を描きながら、爆発の衝撃をすべて中心部に集める配置がなされているのだ。
すでに臨界寸前。
すべてのファール石が目標ポイントにたどり着いたと同時に、爆発。
『さすがディア。完璧な配置とタイミングだ。俺でもそうした』
俺は再び魔力で防御をしながら、水中に潜る。
十五ものファール石を使った、超火力爆発。
これだけ深い穴でも危険だ。
しかも、爆撃用ファール石は土の魔力を込めて、無数の鉄片を巻き散らかす凶悪仕様。
水底まで轟音と衝撃が来て、水面が一気に蒸発し、水が湯に変わる。さらに鉄片の雨が降り注ぎ、水柱がいくつもあがった。
……さすがに、三百人分の魔力?15の爆撃。えげつない。
「ぷはっ」
俺は水面から顔を出す。
地中竜の末路を見るため目を凝らす。
あの超火力の爆発によって跡形もなく巨体は吹き飛んだらしい。
もし、あの巨体が魔族ではないという推測が当たっていれば、奴の巨体は再生できず、魔族である本体だけが復活してその姿を晒す。
……ただの超再生能力であれば、ここから復元できる道理はない。
ここから復活できるのは魔族のような、回帰型の再生のみ。
さあ、どうだ?
もし、あの巨体が再生するのであれば、もはやあれを殺すことは不可能。
逃げるしかなくなる。
トウアハーデの魔眼に魔力を込めて、何一つ見逃さないようにしながら、探索型の風の魔術を併用する。
空中で変化が現れた。
できの悪い逆再生動画のようにばらばらの焼け焦げた肉片が宙に現れ、それが中心に集まり、焦げが消えて、人の形を作っていく。
そして、傷一つがない、白光りしてつるつるとした肌の少年が現れる。
異様な姿だ。まるでマネキンで、ありとあらゆる凹凸も穴もない。
「きえた? きえたたあああああああ、よろい、ぼくのよろい、うわわああああああああああああ」
叫び、それは怒りというより、泣き声のようだ。
少年という印象は間違っていなかったようだ。
あまりにも精神的に未熟。白い肌から鞭のようなものが伸びて、壁に取り付くと、そのまま地上に行く。
逃げるつもりかもしれない。
……これでもうやつを守る鎧はないのだ。
今の奴なら殺せる。
奴の体から感じる魔力や瘴気は、先日の獅子魔族より圧倒的に小さい。
あれなら、タルトとディアでもうまくやれる。
なら、俺がすることは一つ。
「
一瞬の隙を見逃さず、命を刈り取るために動く。
同時に、タルトとディアに危機が迫ればいつでもフォローできる準備も怠らない。
無敵の鎧に守られて、自分だけは安全圏に居続け、人々を殺し続けた悪魔は、初めて俺たちと同じ土俵に立った。
やつに教えてやろう。これは虐殺ゲームではなく、殺し合いであることを。
いつも応援ありがとうございます! 「面白い」「続きが読みたい」などと思っていただければ、画面下部から評価していただけるとすごく嬉しいです。
角川スニーカー文庫様から、第二巻が7/1に発売されました!
◆◇ノベルス5巻 5月15日 & コミック2巻 5月31日より発売予定です◇◆ 通り魔から幼馴染の妹をかばうために刺され死んでしまった主人公、椎名和也はカイン//
●書籍1~6巻、ホビージャパン様のHJノベルスより発売中です。 ●コミカライズ、スクウェア・エニックス様のマンガUP!、ガンガンONLINEにて連載中。コミック//
勇者の加護を持つ少女と魔王が戦うファンタジー世界。その世界で、初期レベルだけが高い『導き手』の加護を持つレッドは、妹である勇者の初期パーティーとして戦ってきた//
とある世界に魔法戦闘を極め、『賢者』とまで呼ばれた者がいた。 彼は最強の戦術を求め、世界に存在するあらゆる魔法、戦術を研究し尽くした。 そうして導き出された//
地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。 運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。 その凡庸な魂//
勇者と魔王が争い続ける世界。勇者と魔王の壮絶な魔法は、世界を超えてとある高校の教室で爆発してしまう。その爆発で死んでしまった生徒たちは、異世界で転生することにな//
放課後の学校に残っていた人がまとめて異世界に転移することになった。 呼び出されたのは王宮で、魔王を倒してほしいと言われる。転移の際に1人1つギフトを貰い勇者//
VRRPG『ソード・アンド・ソーサリス』をプレイしていた大迫聡は、そのゲーム内に封印されていた邪神を倒してしまい、呪詛を受けて死亡する。 そんな彼が目覚めた//
【コミカライズ連載開始】 第3巻が8月13日ごろから発売開始です! 勇者パーティーは強力な魔神の大群におそわれた。このままでは全滅必至。 パーティーの一人、//
人も、精霊も、神々すら滅ぼして、魔王と恐れられた男がいた。 不可能を知らぬ魔王アノスは荒んだ世界に飽き、転生の魔法を使った。 二千年後。目覚めた彼を待っていた//
■7月25日に書籍7巻、本編コミック4巻、外伝コミック2巻が同時発売です!■ 《オーバーラップノベルス様より書籍6巻まで発売中です。本編コミックは3巻まで、外伝//
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//
書籍化決定しました。GAノベル様から三巻まで発売中! 魔王は自らが生み出した迷宮に人を誘い込みその絶望を食らい糧とする だが、創造の魔王プロケルは絶望では//
平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//
※ヤングエースアップ様にてコミカライズがスタート。無料で掲載されています ――世界そのものを回復《ヒール》してやり直す。 回復術士は一人では戦えない。そんな常識//
4/28 Mノベルス様から書籍化されました。コミカライズも決定! 中年冒険者ユーヤは努力家だが才能がなく、報われない日々を送っていた。 ある日、彼は社畜だった前//
【web版と書籍版は途中から内容が異なります】 ※書籍3巻とコミック1巻好評発売中です! どこにでもいる平凡な少年は、異世界で最高峰の魔剣士だった。 //
唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。 「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」 これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//
《アニメ公式サイト》http://shieldhero-anime.jp/ ※WEB版と書籍版、アニメ版では内容に差異があります。 盾の勇者として異世界に召還さ//
●KADOKAWA/エンターブレイン様より書籍化されました。 【書籍六巻 2019/09/30 発売予定!】 ●コミックウォーカー様、ドラゴンエイジ様でコミカ//
アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。 自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた! え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
辺境で万年銅級冒険者をしていた主人公、レント。彼は運悪く、迷宮の奥で強大な魔物に出会い、敗北し、そして気づくと骨人《スケルトン》になっていた。このままで街にすら//
34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//
東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//
◆カドカワBOOKSより、書籍版16巻+EX巻、コミカライズ版8+EX巻発売中! アニメBDは6巻まで発売中。 【【【書籍版およびアニメ版の感想は活動報告の方に//
あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。 世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//
ブラック企業に酷使された男が転生したのは、ステータスやスキルのある世界。 その世界で彼は、冒険者になることさえ難しい不遇職『テイマー』になってしまう。 //