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連載! 第58回日本SF大会・私的レポート

第58回日本SF大会・私的レポート(3)

星雲賞贈賞式

今年度の第50回星雲賞受賞作は以下の通り。

日本長編部門:『零號琴』飛浩隆
日本短編部門:「暗黒声優」草野原々(『最後にして最初のアイドル』所収)
海外長編部門:『メカ・サムライ・エンパイア』ピーター・トライアス/中原尚哉訳
海外短編部門:「円」劉慈欣/ケン・リュウ、中原尚哉訳(『折りたたみ北京』所収)
メディア部門:『SSSS.GRIDMAN』雨宮哲監督
コミック部門:『少女終末紀行』つくみず
アート部門:加藤直之
ノンフィクション部門:『筒井康隆、自作を語る』筒井康隆/日下三蔵編
自由部門:MINERVA-Ⅱ1のリュウグウ着地及び小惑星移動探査

以下点描風に贈賞式のエピソードをいくつか。

・筒井が受賞するのは1977年の「メタモルフォセス群島」以来なんと42年ぶり8回目。贈賞式へ宛てたメッセージには「毎年受賞していたころを思い出します」とあり会場の笑いを誘っていた(74年から77年までの4年連続受賞は、アート部門の天野喜孝、加藤直之に並ぶタイ記録。小説家としてはトップである)。84歳10か月での受賞もたぶん最高齢記録。

・今回の副賞は木枠にコンクリートを流し込み、そこへ川口市名産の鋳物で造ったミニマンホールを埋め込んだ盾。材質上かなり重かったらしく、プレゼンターの熊倉晃生連合会議議長は受賞者に渡すたびに「重いですよ」と注意していた。

・同一訳者の作品が海外長短編部門を同時受賞するのは、小隅黎、浅倉久志に次いで3人目。星雲賞の海外部門では原著者だけでなく翻訳者も表彰されるため、壇上に立った中原はその重い副賞を本人分2枚、原著者分2枚、さらにケン・リュウの分合計5枚も受け取る羽目になった。

・もっとも1枚ずつ受け取った中原はまだ楽な方で、熊倉議長の後ろに立っていたアシスタントは副賞を3枚まとめて持たされていた。下は本人のツイートで苦労のほどが偲ばれる。

・中原のスピーチによれば『メカ・サムライ・エンパイア』は刊行済の書籍、あるいは完成原稿を読んで翻訳するのではなく、トライアスが稿を起こした段階から並走するように翻訳するという珍しい経験だったという。トライアスは一字一句もゆるがせにしない作家で、初稿を書き上げてから完成稿に至るまで1年間を推敲に費やした。

・このあと登壇した飛は「トライアスは書き直しに1年かけたそうですが、私は7年かけました」とスピーチして拍手喝采を浴びた。

昔話3「揺籃期の星雲賞」

今回の星雲賞は50回目という節目の回だった。本企画は同賞のはじまった1970年ごろのファンダムを回顧するものである。登壇者は元連合会議議長の加藤義行、門倉純一、現議長の熊倉晃生、そして長年連合会議に携わってきたあべりょうぞう、小浜徹也の5名。

星雲賞のはじまりを整理しておくと、70年のTOKON5において、従来の日本SFファンダム賞に代わるものとして伊藤典夫が提案したのが始まり。しかしこのときは連合会議の運営ではなく大会企画の一環という存在だった。連合会議の運営となるのは第3回から。ただし当初は多少の混乱もあり、本来第3回を発表するはずだった72年のMEICON2では星雲賞の企画はなく、翌73年のEZOCONで2年分まとめて投開票するようなこともあった。

と、ここまでは筆者もどこかで読んだか聞いたかした記憶があるのだが、初耳だったのは命名の経緯。コンセプトだけでなく名称もヒューゴー賞に倣って海野十三賞で決まりかけていたところを、今年1月に急逝した横田順彌が現在の名称を提案しひっくり返してしまったのだという。まさかこんなところでも日本のSF史に多大な影響を与えていたとは。

単発で終わるはずだった星雲賞の継続を関係者に決意させたのは、筒井康隆の「いままでにもらった賞の中でいちばんうれしい」という一言だった。続けるうちに出てきたのが副賞をどうするかという問題で、最初はデパートで出来合いのものを買っていたもののそれではマンネリ化が避けられない。また連合会議では豪華な副賞を調達するだけの資金的余裕もない。そこで連合会議よりは大きなお金を扱っている大会実行委員会で毎回独自に副賞を選定するという制度が始まったそうだ。しかし瓦せんべいが副賞だった回など、もらった側はどんな顔をしたんだろう。

なお彩こんのプログラムブックには、50回を記念して「星雲賞五十年史」という企画が掲載されている。これは毎回の受賞作だけでなく、ノミネート作までもを可能なかぎり一次資料に基づいて掘り起こしリスト化したものすごい労作である(※)。公文書などと違いSF大会に関する文献は毎回異なる団体が作成していて、特に古いものは引継ぎされていない場合も多いから、入手するだけでも大変なのだ。仮に入手できても当時は重要なことと思われていなかったのか、肝心かなめの部分が書いてなかったりして……。こうしたハンデを乗り越えてリストを作成した関係者の努力は特筆されるべきだろう。

(※)「五十年史」では連合会議が星雲賞を発行するようになったのは第2回からとなっており、企画の証言とは食い違っているのだが、本当はどちらなんだろう。

零號琴

零號琴 著者: 飛 浩隆

出版社:早川書房

発行年:2018

最後にして最初のアイドル

最後にして最初のアイドル 著者: 草野 原々

出版社:早川書房

発行年:2018

少女終末旅行   1

少女終末旅行   1 著者: つくみず

出版社:新潮社

発行年:2014

筒井康隆、自作を語る

筒井康隆、自作を語る 著者: 筒井 康隆/日下 三蔵

出版社:早川書房

発行年:2018


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