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【社説】

農業と温暖化 “基礎体力”の回復を

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の新たな特別報告書は、温暖化で農地が荒れて、遠からず、穀物の価格が高騰する恐れがあると、警告を発している。日本の農業は、大丈夫?

 特別報告書によると、世界の平均気温は産業革命前に比べて〇・八七度上昇した。

 このうち陸地だけを見た場合、上昇幅は一・五三度と、地球全体の約二倍。すでに頻発している洪水や干ばつの影響に、人口増加が相まって、二〇五〇年には、穀物価格が最大23%値上がりし、食料不足や飢餓のリスクが高まる恐れがあるという。

 温暖化による農業危機は、遠く貧しい国々の、遠い未来のことではない。

 例えば、日本の稲作農家にとっても、この猛暑は深刻だ。

 出穂(しゅっすい)期に夜温が下がってくれないと、白く濁った「白未熟粒」が発生し、品質が低下する。

 農作業中に熱中症で倒れる人も増えている。この日本でも今現に、進行形の問題なのだ。

 この国の昨年度の食料自給率(カロリーベース)は前年度より1ポイント下がり、37%に落ち込んだ。記録的な冷夏の影響で稲が実らず、「平成大凶作」といわれた一九九三年度と並ぶ、過去最低の水準だ。

 天候不順による北海道の小麦や大豆の不作も、その要因として挙げられる。しかし、本はといえば、農業人口の減少や高齢化に伴う生産基盤の弱体化が進んでいるからだ。

 温暖化の進行が、それに拍車をかけている。日本農業そのものが、ダメージを受けている。

 成長戦略一辺倒の現政権は「競争力強化」の旗を大きく掲げ、高級産品の輸出拡大を念頭に、大規模集約化へと突き進む。

 自給率の低迷は「国内需要は、いつでも輸入で賄える」という考え方の表れでもあるのだろう。

 ところが報告書が言うように、地球規模で食料不足が進むとすれば、思い通りに輸入もできなくなってくるだろう。

 日本の農政も、IPCCの警鐘と日本農業の現状を直視して、自給率向上に、もっと力を注ぐべきではないのだろうか。

 折しも今年は国連「家族農業の10年」の初年次だ。世界の食料生産の八割を担う、「小農」の再評価を呼び掛けている。

 農業の持続可能性を保つには、“基礎体力”の回復、すなわち小規模農家の振興も欠かせない。

 

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