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 ラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会の開幕が1カ月後に迫った。五輪・パラリンピックサッカーW杯に次ぐ国際的なスポーツイベントだ。

 4年前、ラグビー発祥の地とされるイングランドで開かれた前回大会で、日本代表は強豪南アフリカを倒す「史上最大の番狂わせ」を演じた。あのときの興奮を鮮明に記憶している人も多いのではないか。

 今回、44日間の期間中に180万人の観客が見込まれ、海外からも30万~40万人が訪れる。12ある会場のひとつが岩手県釜石市だ。東日本大震災の津波で全壊した学校の跡地に競技場が建てられた。試合を楽しむのはもちろん、国や地域を超えて、鎮魂と復興への思いを共有する場となることを願う。

 国内外からの選手・観客を、計1万3千人のボランティアが迎える。W杯に続いて東京五輪への参加意欲をもつ人も少なくない。経験を積んで、それを来年に生かす。運営する側も、現場から上がってくる指摘や提案に耳を傾け、東京五輪の組織委員会や都につなげる。そんな連環を期待したい。

 五輪とも共通する課題のひとつが円滑な輸送の実施だ。

 大分の会場を使って昨秋にサッカーの国際試合が催された際は、周辺道路で渋滞が発生し、選手を乗せたバスが大幅に遅れた。スタジアムにたどりつけない観客も多く、切符はほぼ完売だったのに空席が目立った。同様の事態を招かないよう、すべての会場で点検が必要だ。

 気になるのは、キャンプ地に決まった61の自治体に対し、受け入れチームの練習日程などが明らかにされていないことだ。選手と市民の交流計画が十分に立てられないところも多い。

 滞在期間が短い、調整に専念したいなどの事情はあるかもしれない。だが、せっかくの機会だ。ラグビー人気のすそ野を広げ、誘致して良かったと多くの人に思ってもらうために、組織委は各チームへの働きかけを強めるべきではないか。

 02年のサッカーW杯では、一部でトラブルもあったが、選手と市民のほほえましい触れあいが大会の雰囲気を盛り上げた。外国からの観戦客も含めて交流を深める取り組みを、組織委、自治体で工夫してほしい。

 ラグビーW杯は出場選手に国籍要件はなく、日本代表にも外国の出身者は多い。来日した時期も、理由もさまざまだし、国籍を取得した選手もいれば、そうでない選手もいる。

 異なる背景を持つ人々が集まり、尊重しあい、意思をつなぎ目標に向かう。多様化する日本社会を先取りし、貴重なヒントを与えてくれる大会でもある。

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