オーバーロード 骨の親子の旅路 作:エクレア・エクレール・エイクレアー
「で、この男はなんなのだ?」
モモンガ改めナインズはそう問う。そんなナインズの足元には永遠と漠陀の涙を流すクアイエッセ。先ほどから作業を手伝ってくれたのはいいのだが、嬉しそうに涙を流しながら手伝われても怖いだけだ。精神はすぐに鎮静化したが、今でもずっと土下座をしているのは怖い。
さらにはずっと「神よ……」とブツブツ呟いているのも怖い。ナインズはリアルで宗教なんて信じてなかったし、そういう概念があるんだなとは思っていただけで、実際に狂信者に会うのは初めてだった。
このことも含めてやっぱり宗教に関わる人間はまともじゃないと結論付ける。
法国の部隊員の一人だろうと思って他の人間がいる所まで交渉ついでに連れて来たが、まともに話が通じないのは困った。見た覚えのある人間もいるので、こちらなら話が通じるだろうと思って来てみたのだが。
「彼は我が隊の一員です。……確認を取りたいのですが、スルシャーナ様でしょうか?」
「違う。我が名はナインズ。ナインズ・オウン・ゴールだ」
そう名乗ると、周りの人間たちはヒソヒソと話し始める。スルシャーナという自分たちの崇める神が復活したわけではないとわかったからだ。
クアイエッセは気にせず、まだ土下座をしているが。
「……では、もうひとつ。あなた方は“ぷれいやー”様でしょうか?」
「ああ、そうだ。気付いたらこの世界にいた」
「お待ちしておりました、ナインズ様。我々スレイン法国はあなた方をお待ちしておりました」
その言葉と共に、訓練された動作のようで一味は全員片膝をついて頭を下げていた。恭しくこちらを敬っているらしい。
(うわー。マジで宗教国家じゃないか。というか、プレイヤーの保護とか本当にやろうとしてるんだな。最初に転移した場所が法国じゃなくて良かった……。神に祀り上げられるとか、死んでも御免だ)
「ほう?我々は貴様らの知るスルシャーナなる者ではないというのに、恭順を示すのか。どういった要件だ?」
「我々は六百年前に“ぷれいやー”様の恩恵で繁栄してきた国家です。敵対する“ぷれいやー”様ではなければ、寛大な処置を行うように言われています」
随分と傲慢なことだとモモンガは思っていた。結局その敵対するかどうかというのも自分たちの判断でしかないのに。
「貴様らの言いたいことはわかった。だが、我々は貴様らの国に招かれるということはしない。他人のギルドを襲うようなつもりもない。先ほどの発言から、貴様らが信仰するプレイヤーは既にいないのだろう?そんなもぬけの殻に用はない」
「そんな!それでは何をされるというのですか!?」
「我々は気付いたらここにいた。ギルドもなく、我々だけで。ならば他の仲間とギルドも他の場所にいるかもしれん。それを探す旅をしている最中だ。そうしたらあの木の化け物が見えたから倒した。素材も中々良いものが手に入ったからな」
こんな頭のおかしい連中と絡みたくなかったので、それとモモンとパンドラと一致させないために世界中を巡っているような設定にした。
「貴様らの国にプレイヤーもギルドもないのだろう?では行く価値がない」
「お待ちくだされ!百年の揺り返しという言葉があります!同じ時に来られているという保証もありません!」
「だから?可能性はあるのだろう?0ではないなら探すまでだ。いくぞ、ペロロンチーノ」
「はい」
「お待ちください神よぉ!どうかそのお姿を本国の同士の前にお見せください!皆が喜びます!」
(こいつ何言ってるの?)
モモンガは思わず心の中でそう呟いてしまう。スルシャーナという、おそらく同じオーバーロードではないと宣言したというのに国へ来いという。しかも確実に、そのスルシャーナとしてモモンガのことを見ている。
その様子を法国の人間も呆れていたり危機感を覚えていた。モモンガは六大神ではないし、あくまで転移してきたばかりのプレイヤーだ。そんな相手を法国に連れていって六大神だと偽ることに意味はあるのか。
そして偽者になれと言われた本人とその息子は。
「では何か?我々は貴様らが崇める別の何かを名乗れと?そこに私という存在がどこにある?」
「ナインズ様に向かってどこぞの誰とも知らない塵芥になれと?極刑に値します」
モモンガはクアイエッセに向かって魔法を発動すべく手を向けて、パンドラは弓に手をかけていた。許可さえあれば矢を放つ寸前だし、モモンガですら魔法を放つ寸前だった。
そこに漆黒聖典の隊長が割って入ったが。
「申し訳ありません、ナインズ様、ペロロンチーノ様!我々法国はあなた方の行動を一切邪魔いたしません!ですのでこの者の処罰もこちらに任せていただけませんでしょうか?必ず、今回の罪に相応しい罰を与えますので!」
「ほう?死に相応しい罰を与えると?さっきの戦闘を見ていたからわかるだろう?我々は貴様ら如き、束でかかってきても容赦なく消し飛ばせるぞ。もし今の言葉、実行されなかったらわかっているな?」
「はいぃ!必ずや、御身を侮辱した罪を、死に相応しい罰を与えます!」
漆黒聖典隊長はクアイエッセの頭を掴んで地面にめり込ませて、これ以上何も発言させないように物理的に抑え込んでいた。
その行動に法国のメンバーは隊長に対してナイスと心の中で思っていた。
「ではゆくか、ペロロンチーノ。もうここには用がない。次はあの山にでも行ってみるか?」
「たしかに。あの山であればギルドは丸々隠せるでしょう。我々のギルドは巨大ですから」
「《集団上位転移》!」
その言葉と共にモモンガとパンドラの姿は消えていた。実は絶望のオーラも用いていたために、腰を抜かすような者も多かった。
「ああ……。まさしくあれは神の力だ……。破滅の竜王を一方的に倒し、その上反感を買った……。唯一の救いは、すぐに国を亡ぼすような即物的な方々ではなかったことか……」
「とはいえ、かなりマズイのう……。お主ら兄妹は本当にロクなことせんな。クアイエッセ」
死地を脱しても、この先にも待ち受けている死地。それを感じて、残された者たちは誰ともなくため息をついていた。
「マジで頭おかしいな。あいつら」
「はい。全く、父上ぇを別人の変わり身にしようとは!不敬すぎて即刻首を落としたかったのですが……」
「ナザリックごと来ていたら、国に戦争を仕掛けていたかもな。あの発言を聞いたら、
「もちろんです!総力を上げて、国という痕跡も残さず滅ぼしていたでしょう!」
「ホント、ナザリックごとじゃなくて良かったな……。それでもって、あの国にはもう一生関わらないぞ。相手するのも嫌だ」
「仰せのままに」