アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

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 原作のアルベドさんに追いつきつつある、モモンガさんの闇。



15:我儘でなにが悪い

 

 しばし声をあげて泣き。

 嗚咽も止み、涙をぬぐい、差し出される紙で鼻をかんで。

 改めて、モモンガはNPCに向き直る。

 その瞳は、涙で潤んだままだ。

 

「……私を愚かな人間に過ぎぬと知ってなお、忠誠を誓うのか」

 

「愛を注いでくれた方に背く恥知らずなど、ここにはおりません」

 

 密着したままのアルベドが、静かに断言した。

 

(愛……愛か。そうだな、アルベドにはこれ以上ない愛を注いでいるのだからな)

 

「……ありがとう。こんな私について来てくれて」

 

 ふさわしい主たるべく……とは言わない。

 モモンガが望むのは、アルベドの奴隷なのだ。

 それも性奴隷である。

 欲望の捌け口以外、役に立たないと思われたいのだ。

 

「今、ようやく執事として自覚できた気がいたします」

「私もメイドとして……」

「防衛指揮官として……」

「御身ノ剣トシテ……」

 

 無論、逆効果である。

 主君が自ら率先し、全てを動かそうとする方がおかしいのだ。

 これまでの彼らは、主の意を伺い、喜んでもらおうとする子供に過ぎなかった。

 だが、今や主は己らによって守られる存在と知った。

 守らねば、身も心も壊れてしまうかもしれないのだ。

 彼らは至高の御方を支え、守るべく、今までと比べ物にならぬ意気で溢れていた。

 

「そうだな。さしあたって……料理長、副料理長、メイドらも。食事の準備を頼む。皆で、食事にしよう。食堂を使わせてもらえるか?」

 

 あのように話を聞いた後に、ふさわしいとか、ふさわしくないとか。

 言ってはそれこそ、不敬に当たるだろう。

 何より、主は語ったのだ。

 リアルにおける、酷い食糧事情を。

 ならば――調理能力を持つ者らが、我先にと食堂に向かう。

 今こそ、その技術を活かす時なのだから。

 プレアデスらも、できるできないに関係なく配膳等のため向かう。

 

「では、私も向かいますね」

 

 アルベドが微笑み、言う。

 彼女もまた、家事全般を完璧にこなせると設定された身なのだ。

 傍から彼女が離れるのはつらい。

 だからと、アルベドの袖を握ってしまうが。

 

「夫婦なのに、手料理もまだでしょう?」

 

 そう言われれば……鈴木悟として、母の顔がちらつく。

 手料理、という言葉自体。

 モモンガの中にはもう長く、なかった。

 

「……ああ。お前の手料理を食べさせてくれ」

 

 儚い、壊れそうな微笑と共に、モモンガは伴侶から手を離した。

 じっと、去り行くアルベドを目で追ってしまう。

 

(今の私はアルベド以外を求めているだろうか。私はどうして泣いたのだろう)

 

 あれは己自身の道化ぶりに、流した涙ではないか?

 あるいは、かつてのつらさに、今になって押しつぶされたか。

 

(あれほど望んだギルメンを……今は望んでいない)

 

 アルベドが遠ざかっていく。

 玉座の間から出ていき……どこかへ行く。

 食堂へ行くのだ、決まっている。

 モモンガのために料理を作りにいったのだ。

 すぐに会える。

 わかっている。

 けれど。

 

(もし、タブラさんが現れて、アルベドを私から奪おうとしたら)

 

 いや。

 

(パンドラズ・アクターが私を慕うように、アルベドがタブラさんを慕う様子を見るくらいなら)

 

 アルベドが玉座の間から消えた。

 

(……アルベドに知られる前に、始末しなければ)

 

 それでも、彼女の去った扉をじっと見る。

 ここは転移不可のフロア。

 扉の向こうでまだ彼女が歩いているはずだから。

 

(あるいは、他の誰かでも……アルベドはタブラさんが来る可能性を信じ始めるのでは……)

 

 姿を消したアルベドを、まだじっと見つめる目は涙で潤み。

 NPCたちは、そんな主に声をかけず待った。

 潤んだ瞳の中で蠢く感情には――当事者たるアルベドの去った今、誰も気づかない。

 

 やがてモモンガは、セバスに差し出されたハンカチで涙をもう一度拭う。

 その瞳は、あの衝撃的な真実を語ったと同じ、真に尊き主のもの。

 闇は奥に潜んだ。

 慈愛と威厳を持ち、彼女は重々しく口を開く。

 

「さて……我々も食堂へ向かう前に、少しだけ今後について話しておこう」

 

 穏やかな声には、剣呑さの影もない。

 

「最初にデミウルゴスとも言っていたが……私は、私の我儘を言う。お前たちも好きに言え。互いに相容れぬ時は話し合おう。大きな指針はそんなところだな」

 

「「それだけで……ございますか」」

 

 デミウルゴスとセバスの声が重なり、互いを横目に見る。

 

「ふふ、皆がお前たち二人のように、我儘ではないぞ」

 

 モモンガが微笑めば、二人も笑った。

 反目の理由も知ったのだ。

 主に微笑んでもらえるならば、道化の立場とて気にすまい。

 

「アウラ、マーレ。シャルティアを見習えとは言わんが……もう少し、我を出してよいのだぞ」

 

「い、いえ、私の年ではモモンガ様のお傍に付くには、早いかな~と……」

 

 口ごもるマーレの前に立ち、アウラが言う。

 

「ん? あ、あーーーー」

 

 思わず声に出してしまう。

 確かに、子供が近づける振舞いではない。

 というか、思いっきり教育に悪い。

 

「そうか。ふふっ、いかんな。種族に引きずられていたらしい」

 

 苦笑とはいえ明るい笑いに、NPCらの顔もほころぶ。

 

「その、なんだ。興味が出て来たら、アルベドの許可を取って、その……な?」

 

 とはいえ、種族として、自重する気にもなれない。

 成長すれば、その辺りも自覚するのだろうし、と思うモモンガだが。

 二人の反応は対象的である。

 

「は、はい……はい? ええ~~っ!?」

 

 きょとんとしてから、真っ赤になってしまうアウラ。

 

「はい……」

 

 じっとりとした目でモモンガの肌を見て来るマーレ。

 

(マーレの方が目覚めやすいのか? シャルティア……いや、ソリュシャンに任せるか?)

 

 自身がマーレの相手をするのは……と思い、考えかけるが。

 首を振り、性的な考えを払う。

 アルベドのいない時に、そうした考えを抱くのは……不義に思えたのだ。

 

「と……そろそろ我々も食堂に向かおうか。主従ではなく、家族として、な」

 

 シャルティアの頭を撫でつつ玉座を立つ。

 

 

 

 皆での食事は賑やかで、楽しい時間だった。

 プルチネッラは道化として、チャックモールは楽師として、本懐を遂げた。

 何より料理長、副料理長、一般メイドらにとっても。

 副料理長のバーについて、モモンガは知っておらず、教えられれば必ず行こうと約束した。

 NPCらは忌憚なく己の要望を口にしたし、モモンガもそれを望んだのだ。

 

 モモンガが箸を休め、皆の話に聞き入りつつ、傍らのアルベドに身を預けると。

 エスコート役に専念していたデミウルゴスが、立ち上がり手を叩いた。

 

「皆、すまないが、少し私に時間をくれないか」

 

 モモンガも目を向け、皆に静まるよう軽く両手で示す。

 ざわついた談笑も、即興の器楽も、止まる。

 全員がデミウルゴスに目を向けた。

 彼の横には既に、セバスと恐怖公とパンドラズ・アクターもいる。

 

「……モモンガ様。地上での情報収集は未だ続けられるかと思います」

 

「その通りだ。情報収集こそ、全ての要と考えている」

 

 ぷにっと萌えが提示した戦略と戦術は、ナザリックの根幹であり。

 多くのNPCにも適用すべき在り方と考えている。

 

「現時点の情報によるものですが。私の――私たちの我儘を許していただきたいのです」

 

 セバスがいる点に、モモンガは内心で首をかしげた。

 

「言ってみよ。たいていは聞き届けるつもりだ」

 

 アルベドと互いに何度も料理を食べさせ合ったモモンガは、上機嫌である。

 身を寄せて、手料理を食べさせてもらうのは嬉しかった。

 

「モモンガ様によるリアルの話、我らの創造主を苛む呪わしい社会構造を聞く限り。この世界の――この国の社会構造が酷似しております。現情報より間違いありません」

 

「ふむ。どのように、か?」

 

「民は兵として使われ、死んでも補償はなく。識字率も低く、ろくに教育が施されておりません。今回、騎士らに襲撃されたカルネ村とて、年貢の免除は難しいとのこと」

 

 セバスが言う。

 

「それとて、まだマシな扱いでございます。近隣都市からの調査では、貴族が民をさらい、奴隷として売りさばくような例も少なくないと」

 

 恐怖公が続けた。

 

「また、犯罪組織が横行し、人身売買や麻薬も蔓延しておりますッ! 事実、この近隣でも麻薬栽培を行っている村がありましたッ!」

 

 パンドラズ・アクターが連ねる。

 

「ゆえに、八つ当たりは重々承知ですが。王国貴族を清めさせていただきたく」

 

 デミウルゴスが深々と礼をして言う。

 

「……なるほど。ニグンの話は、大げさでもなんでもないということか」

 

「ハッ。あの男を認めるつもりはありませんが、嘘は言っておりませんでした」

 

「ふふ、正直だな。いいだろう、存分に八つ当たりしろ。危なくない範囲でな。それと、貴族というレッテルで判断しすぎるな。それでは、かつて異形種だからと私を嬲り者にした連中と変わらん」

 

 デミウルゴスとセバス、また他の者らの顔を眺める。

 

(ウルベルトさんも、たっちさんも……いや、プレイヤーなら皆、現実をどうにかしたかったろう。王国とやらが、その捌け口になるなら悪くない。私はアルベドで満たされたが、彼らはそうもいくまいからな)

 

「…………無論でございます」

 

 モモンガの言葉だけで、会話に参加せぬNPCも怒気をみなぎらせた。

 主のかつて受けた屈辱。

 想像すらしなかった冒涜。

 斯様な下種どもに、地獄の責め苦を味わわせられぬ己が、許せないのだ。

 

 だから。

 

 せめて、同種の屑どもを、地獄に落とさねばならない。

 これはモモンガのためですらない、彼らのエゴを満たす“我儘”なのだから。

 

「それと。お前たち各自のやり方で、楽しめ。これは私から与えた仕事ではない。お前たち自身の、望みだからな」

 

「「ありがとうございます」」

 

 デミウルゴス達……いや、NPC全員が礼をした。

 このナザリックに、死すらなまぬるい連中が送られてくること間違いなく。

 また地上ではこれから活躍の機会も増えるだろうから。

 





特に理由のない自覚ある八つ当たりが、王国貴族を襲う!

保護された上に、気に入ってもらえたニグンさんは、マジラッキー。

そして、このモモンガさんはギルドの呪縛から完全解放されています。
ギルメンも転移してきてるかもとか、考えてません。
頭ピンクなんで他プレイヤーについても、原作より警戒ゆるいです。
ただ、アルベドとの愛の巣として、ナザリックから出る気ありません。

明日は投稿できるか不明。
次はR-18の方になる可能性が高いです(一段落したのでお風呂編へ)。

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