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【国際】

<最貧国に生きる ニジェールの現場から>(中) 15歳の花嫁「高校って何?」

ニジェール南部カンシェ郊外で、半年ほど前に結婚した15歳のファチマ(左)。結婚生活が幸せかは「言いたくない」と答えた

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◆「高く売る」ため 減らぬ児童婚

 「嫁入り前の娘が妊娠したら、娘と母親は家を追い出され、父親は世間から白い目で見られる」。西アフリカの最貧国ニジェール南部の農村で、年端もいかない娘を嫁がせる理由を尋ねると、多くの親がこう答える。貧困を加速させる人口爆発は、世界一高い児童婚率が関係している。

 花嫁の処女信仰は根強く婚前妊娠はタブーだ。しかし、現地で活動する国連児童基金(ユニセフ)のムリエル・パラレは「少女たちは実際は婚前交渉などしていない。児童婚の本当の理由は経済的動機だろう」とみる。

 娘の結婚は扶養家族の削減につながる。また、花嫁は若いほど価値があり、牛やラクダなどの結納品が豪華になるという。

 児童婚がもたらす問題は人口増だけではない。医師や助産師が立ち合わない出産は約六割に上る。未熟な体でお産が長引くと、胎児の頭の圧迫で体内組織が壊死(えし)し、膣(ちつ)とぼうこう、腸の間に穴が開く「フィスチュラ(瘻孔(ろうこう))」を招く。失禁の症状があり、嫁ぎ先に見放される少女もいる。

ニジェール南部カンシェの族長アブドゥルカデル。800年続く世襲制の絶対的リーダーで人々の意識改革に重要な役割を果たす

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 「女は結婚しなければ無価値」「女は年を取ると男を誘うようになる」。家事、育児をしない農村の男性たちは口々に言う。少女の貞操を守る建前で、実際は口減らしと「高く売る」ために若く嫁がせ、家事労働に従事させる。この「因習」を変えない限り、児童婚は減らない。

 法より慣習を重んじるニジェールには、人々の精神に大きな影響力を持つ「族長」という人物がいる。

 南部ザンデール州カンシェのティントゥマ・アブドゥルカデル(40)は八百年続く世襲の族長だ。貧しいはずの地域で、取材に来た記者に盛大な歓迎の儀式を挙行。流ちょうなフランス語で「児童婚の問題は深刻に捉えている。できることをしたい」と話した。だが、その声は、奥地の村には届いていない。

 「結婚しないままでいると、処女じゃないとか、娼婦(しょうふ)みたいって思われてしまうから」。十四歳のナディア・サギルは無邪気にほほ笑む。収穫が終わる九月ごろ結婚する予定だ。

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 相手は「かっこいいし、優しい人」と銀色の婚約指輪を見せてポーズをとる。「結婚以外にしたいことなんてない。妊娠や出産? 怖くない。子供の数はアラー(神)のおぼしめすまま」

 ナディアが軽やかに立ち去った後、友達のファチマ・バハラズ(15)がやって来た。結婚して半年。随分大人びて見える。

 「食べ物に困っている。食べ物を買う金が欲しい」。正確な年も知らない夫は、年間三、四カ月の農作業以外、何もしない。体調が悪い時、性行為を断ると、背中を殴られた。親にも友達にも話せない。

 結婚生活は幸せか。ファチマは「言いたくない」とうつむいた。村の中で高等教育を受けた女性を見たことがないファチマ。「高校、大学って何?」と、不思議そうな顔をした。 =敬称略

 (カンシェで、沢田千秋、写真も)

<ザンデール州の児童婚> 州の2012年の統計によると、女性の結婚平均年齢は15・4歳で、8・5人という高い合計特殊出生率が人口爆発を生んでいる。国連児童基金(ユニセフ)によると、18歳で結婚している割合は、教育を受けてない女性が81%に対し、中学以上を出た女性は17%。州統計局は「多くの少女は結婚以外の人生の選択肢を知らない。児童婚の減少には女子の教育が欠かせない」と指摘している。

 

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