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【社説】

中国の国防白書 衣の下に鎧が見える

 中国が七月下旬、国防白書を公表した。白書は米国への対抗心をあらわにし、台湾独立の動きへの武力行使にも言及するなど中国の「強軍路線」は明らかで、周辺国の脅威になることが懸念される。

 中国は二〇一五年以来、四年ぶりに国防白書を公表し「世界一流の軍隊の建設をめざす」とうたった。

 習近平政権は一七年の共産党大会で、中国は二十一世紀中ごろまでに「総合的な国力と国際影響力で世界をリードする国家になる」との目標を掲げている。

 その目標達成のため、軍事面でも米国に対抗できるよう「強軍路線」を突き進む決意を示した内容の白書といえる。

 貿易や通貨で対立を深める米国への対抗心をむき出しにしているのが気がかりだ。白書は「米国が大国間の競争を引き起こし、大幅に軍事費を増やしている。世界の戦略的安定を害している」と、米国を名指しで批判した。

 だが、中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国と領有権を争う南シナ海で軍事演習による挑発を続け、空母による台湾海峡周回を強行した。地域の安定を損なうような強引なふるまいが目立つのは、むしろ中国だといえる。

 台湾への高圧的な姿勢も東アジアの大きな不安定要因だ。白書公表の会見で国防省報道官は「もし誰かが台湾を中国から分裂させようともくろむのなら、中国軍は一戦を惜しまない」と強調した。

 来年一月の台湾総統選をにらみ、独立を党綱領に掲げる与党民進党をけん制する意図があろう。だが、胡錦濤政権時代は武力行使への言及は抑制してきた。「一戦」という挑発的な発言は、中台関係を緊張させ、むしろ台湾で反中感情を高めるだけである。

 白書は「中国は決して覇権や勢力拡大を求めない」と強調するが、露骨な「強軍路線」の推進は「衣の下の鎧(よろい)が見える」と批判されても仕方がない。

 各国の国防費を比べ、白書は「人口一人当たりの国防支出は米国の5%」と説明する。中国の軍事力は脅威でないと主張したいのだろうが、一九年の国防予算は前年比7・5%増の約十九兆八千億円。日本の防衛予算の四倍弱で、東アジアでは突出している。

 さらに、国防費の内訳が明らかでなく、サイバー空間や宇宙など新たな領域での軍事力強化について透明性を欠く。これでは国際社会の疑念は払拭(ふっしょく)できない。

 

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